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134.憎悪と殺意

2話分ぐらいありそう。

 幸せは、儚いからこそ尊い。一生の間、常に幸せであることなどあり得ない。

 ひとりでに流れ行く時間の中で、幸せな時は短いものだ。幸せは簡単に崩れ去り、時に憎しみを生む。

 それは、愛が深ければ深いほど強く、理不尽であればあるほど、簡単に消せはしない。


 ーー20年前。


 それは一人の女性に起こった。

 彼女は何も知らず、また今も知らない。


「ーーガイアス、今日もお仕事?」

「ああ、そうだよ」

「そう……早く帰って来てね? 今日はお兄様の誕生日でしょう?」

「ああ、わかってるよ。じゃ、行ってくる」


 何気ない日常での会話。それが、永遠の別れとなるとは、思いもしなかった。もしもそれがわかっていたら、彼を引き止め、きっと二人で逃げたであろう。

 たとえ、国の人々が誰も許さなくても、どこまでも一緒に。


 しかし、それはもう叶わない過去。彼はそれを望まなかった。

 全てを1人で背負い、そして成し遂げると、彼女に何一つとして告げず、その時が訪れる。


 彼女がそれを知るのは、全てが終わった後であった。


 勇者ガイアスは、根っからの善人で、誰にでも等しく優しい、周囲からはとても慕われていた。

 兄は、帝国の皇帝で、その兄と同等の実力を持っていた彼だが、当時彼の人となりを知らない国民から、激しいバッシングを受け、終いにはそれが原因で暴動が起きるまでになっていた。


 それは、暴動が起きる少し前、ガイアスがある任務に失敗した事が原因だ。気紛れな古竜に敗れ、その結果街が一つ滅んだ。その後、古竜はこの国に興味を無くしたのか、何処かへ飛び去っていったが、その敗北の代償は大きかった。

 彼は片腕を失い、更には仲間も数名無くした。


 それでも、彼は勇者としての責務を果たそうとしていた。


 だがそれも、限界に近い事はわかっていた。暴動が抑えきれなくなってきていることも、非難が日々強くなっていることも、彼は知った上で勇者を続けていた。


 それは、彼なりの責任があったからだ。


 そして、勇者は、選ぶことになる。一人でその責任を背負う事を。


 その日、勇者は最後の責任を取るため、兄の元を訪れた。


「兄さん」

「ガイアスか、どうした?」

「……俺、魔王退治に行ってくる」


 それが彼なりの責任の取り方であった。


「知ってるんだ。兄さんが、俺を守るために他の貴族と対立しているのは」

「……だからなんだ? 犬死する気か? 俺に死ねと言わせる気か? ふざけるな。そんな話をしに来たと言うのなら、帰れ」


 有力貴族が魔王退治に行かせ、国から追い出すべきだと、国を思い進言する中、皇帝ゼフラトは弟を思い、頑なに首を縦には降らなかった。

 それを勇者である弟は聞き付け、同じく国を思い、兄に進言したのだ。


「兄さんは、もう昔とは違う。この国の頂点に立つ皇帝だ。この国の事を一番に考えなくてはならない立場だ」


 強い口調で彼は兄を叱責した。


「俺が勇者としての責務を果たすように、兄さんは皇帝としての責務を果たさないといけない。……もう一度言う。俺に魔王退治を命じてくれ」


 皇帝ゼフラトは、血の涙を流す思いで、その言葉を受け止めた。


 そしてーー


「勇者ガイアス。其方には、魔王討伐の任を与える。その首を持ち帰るまで、この国の地を踏む事は許さん」


 ゼフラトの皇帝としての苦しみが始まった。


 それは同時に、勇者を愛した女性も苦しめた。


 それが、魔人騒動へと繋がる全ての始まり。


 勇者が一言彼女に言葉を残せば。

 皇帝が真実を彼女に話していれば。

 国民が勇者にもう少しだけ寛容であれば。

 彼女は憎しみを抱く事はなかったかもしれない。


 だが、結果として彼女の人生はこの時大きく狂った。


 この国が……憎い……っ。

 彼を追い出したこの国がっ。


 掛け違えたボタンが、憎悪に変わり、復讐へと形を変えるまで、そう時間はかからなかった。



 〜〜〜〜



 太陽が沈みかけ、夜の暗闇が迫る。

 セシルの話を聞いて、その場には如何ともし難い雰囲気が流れていた。


 セシルは、まず情報の精査から始めたそうだ。そして、二つの事に気が付いた。殺人鬼を逃した夜、魔人となった人の共通点と、魔人を生み出したのではないかという者の目的を、集めた情報から得たのだ。


 共通点は二つあったらしい。一つ目は、彼らが皆兵士であった事。二つ目は、アークティアの街から戻ってきたばかりであったという事。


 魔人を生み出した目的も同じく二つ。一つは前勇者への葬いと、帝国への復讐。これは、事件後起こった勇者に対する批判が根拠となった。


 これらの情報と推測から、セシルは一人の女性に狙いを付けた。アイリス・ハイディルという前勇者の婚約者だった女性だ。

 事実、彼女はほぼ黒であった。前勇者との繋がり、アークティアに家を持ち、さらに勇者召喚という方法を国に与えたのも彼女らしい。


 だが、魔人化させる方法だけが、わからなかった。そのため、セシルは今日まで彼女の周りを調べていたそうだ。


 纏めるとこれだけだが、それに至るまでの思考は少し難解だ。


 魔人の出現は人々に恐怖を募らせる。そんな時、この国では勇者の存在が人々の希望となる。しかし、初めて魔人が出現した時、この国に勇者はいなかった。つまり、国民が思い出すのは、彼らが追い詰めた前勇者の事。

 それを思い出させる事が一つ目の目的だったのだ。


 次に、勇者召喚により新たな勇者が誕生した後、国民に希望を抱かせた。そして、魔人を生む事で、その勇者を追い詰め、20年前と同じように、国民の非難を煽る。そこには、少しでも国民に前勇者に対しての行いを悔やませようという狙いもあったのだろう。

 そして、結果として再びこの国は不安定になった。


 それが現状だ。


 ここまでくれば後は、簡単だ。帝国を瓦解させ、最後には魔人をもって完全に滅ぼす気なのだろう。


 そう考えたセシルはまだ確証を得なかった為、自らアークティアを目指したそうだ。そして、その合間に情報を操作し、アークティアの街だけが勇者に対し寛容であるように、勇者が別の世界から無理矢理連れてこられた事、ただの市民であった事を広め、戦う力はない事を広めた。


 それにより、今回の事件の主謀者が最終段階に移行出来ぬようにしたのだ。


 この世界では、情報は酷く伝わり難い。それこそ、セシルやギルクが異常な情報操作能力を持っているだけで、大国でさえ情報を広めるのは苦労するのだ。テレビやインターネットといった物がない、辛うじで通信手段が街に一つあるかないかの世界だ。トップニュースでもない限り、そうそう世界に伝わらない。


 その未発達の情報網をセシルは上手く利用したのだ。


 主謀者が貴族であるのなら、他の街の様子を調べる事は難しくはないだろう。だが、詳細にとはいかない。所詮伝え聞く話か、時間が経ち劣化した情報だけ。周囲の環境がそれと異なれば、自分の計画が上手くいっていないと錯覚するだろう。


 彼女の目的は復讐。それを為すためには、この国が今の勇者に寛容であってはいけないのだ。前の勇者と同じく、いやそれ以上に非難を高め、彼女の婚約者を追い出した彼らに後悔と自責の念を抱かせ、殺す。


 それが彼女の復讐なのだから。


 因みに、アークティアへ勇者達が逃げてきた事に関しては、セシルは手(・)を加えていないらしい。これまでの前科を考えると、元々、それを考慮して情報を操作した気がしてならないが……


 とにかく、そんな風に時間稼ぎをしながら、セシルは彼女の動きを見張っていた。といっても、移動に時間が取られ、ほんの数日ほどしか見れなかったそうだがーー最終的には彼女の屋敷の地下で、怪しい小瓶を発見したそうだ。


 さて、ここまではいい。ここに至るまでのセシルの思考は理解できる。

 だが、そこからが俺は理解出来ない。


 こいつは、それをその場で知らしめず、それを持って俺の下にやって来た。やはりこいつは頭がおかしい。

 ここまで完璧に相手を翻弄し自分の掌で動かしていた癖に、その掌の上に俺がいない事を悟ると、手をひくっり返して、俺を取りに来た。

 今頃、こいつの手から落ちた奴らが危険に晒されていてもおかしくない。


 セシルが手を加えたお陰で、彼女の予定はかなり狂ったはずだ。今頃、この国が瓦解していてもおかしくなかった。

 焦りや、苛立ちを覚えているはずだ。暴挙に出てもおかしくない。


 さらにタチが悪いのは、彼女の屋敷に皇帝と勇者達がいる事だ。セシルが今日動いてもおかしくないと言ったのは、そういう事だろう。

 アークティアの街で勇者への非難を高めるのに、またとない機会。更には、勇者ガイアスを死地へ追いやった張本人もいる。


 俺が彼女なら、このチャンスは逃さない。


 時間はない。最速でアークティアへ向かわなければ……


「ハク、もっとスピード上げれるか?」

『ヘイ、親分!』


 どんな時でもこいつは変わらないらしい。余り危機感も覚えていないのかもしれない。

 まぁ、突然巻き込まれたようなものだから、仕方ないのかもだけど。

 と、呑気な思考を巡らす俺だったが、そこへ突然吹いた強風に煽られ、ハクの背から落ちそうになった。


「あっぶね……」


 思わず、そう口にした時、強風に負けた奴が飛んできた。


「うぉっ⁉︎ まじか!」

「きゃっ!」


 背中から俺に向かって飛ばされて来たルーシィを咄嗟に片手でキャッチ。そのままハクの背中に引き戻す。

 他は大丈夫かと見れば、ルクセリアが大変な事になっていた。

 風に体を預ける脱力姿勢のセシルを足で捕まえ、方や右手にシルビアを抱き、鱗と鱗の間に指をねじ込み、左手一本で3人の生命線を握っていた。頑張れ、ルクセリア。


 風を切る翼がより強くなる。背中に乗る俺たちにまで強風が吹き、落とされないように、ハクの体にしがみ付いた。

 グンとスピードを上げたハク。強風がハクの頭から背中にかけて吹き抜ける。


「全員死んでも離すなよ!」


 今日はハクの成長に驚かされてばかりだ。もう空ではこいつには敵わないかもしれない。俺が全力で走るより遥かに速い。これは、このままアークティアを目指す方が最善か。


「ウヘヘ、いい匂い」

「お前、さっきまで元気なかった癖に!」


 おっさん化したルーシィに匂いを嗅がれるが、片腕は鱗にもう片方はルーシィを捕まえるのに使っているため何をする事も出来ない。

 精々文句を言う程度だが、ルーシィにとっては絶好のチャンス。何かしてくる気だと、冷や汗を流していると……


「ごめんなさい……」


 いきなりそう謝られた。普段は、『酷いですっ!』とか言ってくる場面で、予想外の返しであったため、少し固まった。


「お、おう。まぁ、大人しくしとけよ」


 そんな風にこの状況に関して謝られたと思い、返事をしたのだが、そうではなかったらしい。


「違います。そうじゃないんです」


 そう言って、俺の顔を上目遣いに覗き込むルーシィ。


「私……酷い事を言いました。本当にキッチックさんを救ってくれると思わなかったから、話も聞かず、勝手に悪者だと決めつけて、追い詰めました。私は最低な人間です。好きな人のために、他を犠牲にするような女です。魔人を使って復讐しようとしているあの人と変わりません。……お姉様から聞きました。あの人は、もう一人のキッチックさんだったんですよね?」


 告白も混じえた、懺悔のような言葉。彼女の瞳が、それを悔いている事を伝えてくる。

 酷いことをした。自分が殺してしまった、と悔いているように感じられた。


「……まぁ、そうだな。けど、ルーシィが気に病む事はないよ。あいつは満足して消えた。それに、あいつの想いは俺の中に残ってる。……どちらかが消えなきゃいけなかった。だから、ルーシィがあいつを消したとか、そんな事は絶対ない」

「けど……」


 俺だ。あいつを消したのは。

 だけど、ルーシィにとっては違う。引き金を自分が引いたと思ってる。その引き金を引いた重さに、涙を流している。

 俯いて、自分を責める言葉を探している。そんな感じがした。


 俺はシャルステナの寛容さを願いながら、彼女を抱く手を強めた。すると、それに気付きルーシィは俯いた顔を上げる。


「ルーシィが言わなきゃ、俺が消えてたかもしれない。それでも、お前は俺に謝るのか? 俺は、感謝してる。ルーシィに謝ってもらう事なんてない。けどもしも、それでもルーシィの気が済まないって言うなら、あいつの事を忘れないでいてやってくれ。いつまでも覚えていてやってくれ。だから、もう泣くな。いつもみたいに元気に笑ってろ」


 女の涙に弱いのは、全男子共通なんです。

 と祈りを捧げながら、俺は彼女を励ました。


 それに対し、ルーシィは小さく手を動かし、涙を払うといつもの笑顔を取り戻した。


「……キッチックさん、知ってます? 女の子は、抱き締められながら、優しい言葉かけられるとコロッといっちゃうんですよ?」

「おっと、それはいい事を聞いた。帰ったらシャルにしないといけないな」


 そんな風に戯けて返す俺と、不満げなルーシィ。いつもの彼女とのやり取りが戻った。しかし、今回ばかりは俺が不利なようだ。


「こーんなに可愛い子を抱いてるのに、他の女の人の話をするんですか? 女心がわからない酷いキッチックさんには、お仕置きです」

「えっ、うわっ、ちょ、や、やめろーーッ‼︎」


 空に悲鳴が響き渡った。後でシルビアから冷たい視線を頂戴したとだけ言っておこう。俺がやったんじゃないのに……



 〜〜〜〜



 絢爛とした食器の上から漂う香りが食欲を刺激する。カリッと焼かれた皮。肉汁が垂れ落ち、香ばしい香りを放つ茶色いソースと混ざり、溶け合っている。

 その周りには、色合いを保つ為か青々とした新鮮な野菜が置かれ、見た目も鮮やかな盛り付けとなっている。


「さぁ、皆様。お口に合うかわかりませんが、どうぞお召し上がり下さいませ」


 この館の主であるアイリスが、手を合わせにこやかに笑いながらそう言うと、食べ盛りの勇者達は、最近の心労も相まって、食事の時ぐらいはと、一心不乱にそれにかぶり付いた。


 一方で、皇帝、並びにアルク、カノンの三名は、落ち着いた面持ちで食事を口に運ぶ。アルクとカノンは普段通りで、時折二人で会話しながら、食べ進めていく。しかし、皇帝はどこか浮かない顔で、機械的に食事を進めていた。


「あら、お口に合いませんでしたか?」

「……いや、そうではない」

「では、ご気分でも優れないのですか?」


 一見、皇帝を心配しているかのように見える彼女は、ニコニコと変わらぬ笑顔で、まるで人形のようだ。感情の変化がそこには見られない。


「そちらのお二方も、別の物を用意させましょうか?」

「あっ、すいません。ちょっと考え事をしていて……決してご飯が口に合わないとかではないです」


 そう、早口に言い訳を捲したてるのは、結衣だ。彼女は、近くの村に行くと出て行った4人……いや、レイの事が気掛かりであったのだ。

 それは、隣に座る春樹も同じで、皇帝とは別の理由で浮かない顔をしていた。


「そうでしたか。けれど、食事はしっかりとお食べなさらないと、考え事も続けられませんわ」


 そう言って、結衣と春樹を促す彼女は相変わらず変わり映えしない笑顔であった。それを見て、不気味と感じるかは、人それぞれ。結衣と春樹は、うわのそらでその場にいた事もあり、不気味とは感じなかった。

 しかし、年長者であり、鋭い洞察眼を合わせ持つ皇帝は、恐ろしく不気味に感じていた。


 皇帝は、何度目かの自責を胸に積み重ねる。

 穏やかに笑っていた彼女を、こんな人形のような女性へと変えてしまった事から、あの日己の口から出した命令へと、後悔が繋がる。

 もはや数え切れないほど重ねた後悔に、ナイフを握る手が震える。


 ーーカラン


 ナイフが地に落ちた音がした。皇帝は、誰かが手を滑らせて落としたのだろうと、特に気にも止めず食事を再開しようとしてーーナイフが手にない事に気が付いた。

 その時だ。全身に広がる痺れに襲われたのは。


「あぅ……」

「ぐっ……」


 バタンバタンと、テーブルあるいは地面に人が倒れる音が聞こえた。誰もが呻き声を漏らし、手を、足を、果ては体を震えさしていた。


「あ、アイリス……?」


 震える声で、言う事を聞かぬ体を無理に動かして、彼はアリシアを見た。

 ニコニコと未だに変わらない彼女の顔。それは、悪寒となって彼の背筋を撫でた。


「まだ、口がきけるのですか? 貴方の食事には、通常の10倍以上痺れ薬を混入したというのに」


 そう隠す事なく、白状した彼女の口が三日月に裂ける。それに合わせ、彼女の後ろに控えていた兵が、身動きが取れない皇帝を椅子から乱暴に引きずり下ろし、彼女の前に跪かせる。後ろ髪を掴まれ、彼女の前で顔を上げさせられた皇帝の眼に、深い悲しみが浮かぶ。


「アイリス、俺が憎いのか……?」

「憎い? ふふふ」


 彼女は上品にそれでいて、歪んだ笑いを皇帝に浴びせた。


「ええ、憎いですよ。とっても。貴方の大事なもの全て壊して、無茶苦茶にして、グチャグチャにしても足りないぐらい」

「…………」


 彼女の憎しみを、皇帝は無言で受け止めた。言い訳も、抵抗もせずただ彼女の激情を受け止める。

 彼は長らくこうして責められる事を望んでいたのかもしれない。


 自分の弟を死地へ送り出し、後悔と自責に苛まれる中、彼の周りは正しい事をしたと彼の選択を擁護しかしない。間違っていたと誰も、自分を責めはしない。

 それが苦しかった。


 彼は、責めて欲しかった。自らの選択が間違いであったと。弟に死ねと命じる事が正しいと言って欲しくはなかった。


 だから、彼はアイリスの憎しみに、抵抗する気などありはしなかった。

 されど、彼女の積もり積もった憎悪は、彼1人の命で止められるほど、小さくはない。


「ご安心ください、皇帝陛下。私が憎いのは、貴方だけじゃありません。この国、この国の全てが憎い。勇者が、彼が必死に守ってくれいた事も忘れ、彼を追い詰めた国民が憎い。ガイアスを追い出した貴族が憎いっ。血を分けた弟を死地に追いやった貴方が憎い! 彼を殺したこの国の全てが憎い‼︎」


 憎しみを叫ぶ彼女の口から、唾が飛び皇帝の顔にかかる。


「……だから、この国を滅ぼす事にしたの」


 激情を叫び、満足したかのように彼女は静かにそう告げた。


「アイリス、悪いのは俺だけだ。憎しみは全て俺に向けろ」


 彼は、真っ直ぐに彼女を見詰め、不気味に笑う彼女へ懇願した。しかし、彼女はそれに取り合う事なく、実に楽しそうに笑うのだ。


 もう、彼女は壊れていた。


「ふふふ、それじゃあ足りないわ。ただ殺すだけなんて、私が満足出来ない。貴方に相応しい絶望をあげる。ガイアスを殺してまで守ろうとした国を貴方の眼の前で壊してあげる。どう? 嬉しい?」


 そう首を傾げて、皇帝に聞いた彼女は、パンパンと手を二度鳴らした。


「さぁ、復讐の宴を始めましょう」


 三日月に避けた口から発せられた声に、その屋敷にいた彼女に忠誠を誓う使用人、兵が一斉に動き出した。街へ出て、人混みに紛れる者。屋敷の中に残り、庭で警備をしていた兵を殺害する者、彼らに与えられた役目は様々だが、誰も彼もがその眼に憎しみの炎を宿していた。


「沢山の人が私に賛同してくれた。全の為に個を切り捨てる貴方が、この国が憎いって」


 皇帝を見下ろすアイリスは、元のニッコリとした顔付きに戻っていた。


 悲鳴が街に轟く。それは、屋敷にも聞こえてきた。アイリスはそれを恍惚の表情で耳にし、ゼブラトは全てを悟り、蒼白した。


「手始めにこの偽者達を魔人に変えなさい」


 屋敷に残った彼女に賛同する兵や使用人達が、小瓶を手に取る。それは、まるでポーションのような色合いをしていたが、彼女が口走った魔人という言葉から、それが碌でもないものであることは、すぐにわかる。


「やめるんだ、アイリス。そんな事をしても……」

「何も残らない?」


 痺れた口では叫ぶ事も出来ず、弱々しい声で皇帝は彼女を止めようとするが、それは彼女の言葉で打ち消された。


「残す必要があるの? いいえ、ないわ。この国の全て消し去って、私も死ぬ。それで、終わりよ」


 もう彼女は止められない。

 復讐の鬼となった彼女は、殺されなければ止まらない。

 それが、ゼブラトの中に深い闇をもたらす。


 彼の眼に映るのは、憎しみに囚われた弟が愛し愛された女性と、彼女の復讐に手を貸す者達によって、魔人に変えられようとしている自分が呼びつけた弟の後釜達。

 身動きが取れぬ状況で涙を流す巻き込まれただけの彼らの口に、小瓶に入れられた水が流し込まれようとしていた。


「ーー残念だ」


 それは、己を裁けない事に対してか。

 彼女の憎しみを背負ってあげられない事に対してか。弟が守りたかった彼女をこの手で斬らねばならない事に対してか。


 ゼブラトは、皇帝として、また己の心を削る選択をした。


 勇者へ水を流し込もうとしていた兵が、風に切り刻まれた。皇帝を抑えていた兵が、爆破と共に吹き飛んだ。

 血飛沫と粉塵が舞う。

 激しい鋭利な風が、部屋の壁を突き抜け、爆破が噴煙と共に燃え上がる。悲鳴さえあげる事なく、彼らはゼブラトによって葬られた。


「なっ……⁉︎」


 突如、10数人いた兵を一瞬にして消し去られたアイリスは驚愕し、皇帝へと目を向けた。


「ば、化け物め……!」

「…………アイリス、私を恨め」


 彼は痺れる体を、力でねじ伏せ、ヨロヨロと立ち上がる。そして、剣をゆっくりと抜くと、彼女へと向けた。


「皇帝として、其方の復讐は見過ごせぬ。……さらばだ、アイリス」

「こんな……こんなところで終われるわけがないでしょう、ゼブラドぉぉぉお!!!!」


 アイリスは死を前にしてなお、憎しみを叫ぶ。しかし、その叫びは剣を止めるには至らない。

 ゼブラトは心を殺し、かつて弟へ命令を与えた時のように、心を極限まで凍りつかせていた。


 その凍て付く心は、冷たい刃に通い、彼女の命を断ち切ろうとしたその時、刃が独りでに止まり、慣性に従い、ゼブラトの手から抜け落ちた。


「何が……」


 冷徹な瞳で慌てる事なく現状の把握をしようとゼブラトが、空中で固定された剣に目を向けた時ーー


「ヒッヒッヒ、チェックメイトです」


 そう、終わりを告げる言葉が響く。見れば、倒れ伏す勇者の一人、白髪の少女の首筋にナイフを突き付けている男が、狂気に歪んだ瞳で笑っていた。


「あぁ、よく来てくれました。危うくこの男に殺されるところでしたわ」

「まだ貴方に死なれるわけにはいきませんから」


 アイリスと男は顔見知り以上の関係であるようだ。皇帝は、人質となった結衣にチラッと視線を投げかける。彼女の目は首元に当てられたナイフに固定され、酷く怯えていた。しかし、体が麻痺し口を動かす事も出来ない彼女は、ただ恐怖を心に募らせるだけであった。

 一方、その横で何とか体を動かそうともがく春樹の眼は怒りの感情で支配されていた。殺人鬼は、その怒りの視線を、心地良さげに見やると、ニヤリと口元を歪めた。


「貴様が刻印の殺人鬼か」

「ええ。皇帝陛下にまで私の二つ名が知られているとは、光栄ですね」


 アッサリと認めた殺人鬼。しかし、余り皇帝に取り合う気がなさそうな彼は、仕切りに目を動かし周囲を見やる。まるで、品定めでもするような視線は、倒れ込む勇者達一人一人を撫で回していた。


「それで、貴様の要求は何だ?」

「そうですねぇ、とりあえず私のパートナーの彼女から離れてもらいましょうか」


 殺人鬼は皇帝に要求を突き付けながらも、目は向けない。それよりも、どうやってこの場にいる者達を殺そうかと、楽しんでいるようであった。


 皇帝はそんな殺人鬼の要求に従い、アイリスから距離を取る。


「他には?」

「では、そこの少年の首を絞めて頂けますか?」


 嬉々として、そう口にした殺人鬼に皇帝は強い態度で答えた。


「ーー断る」


 その瞬間、風の刃が乱舞した。それは、殺人鬼を切り刻もうと皇帝が放った魔法であった。しかしーー


「隔離空間」


 ケタケタと笑みを浮かべ、見えぬ壁を作り出した殺人鬼は、苦もなくその魔法をチリにした。皇帝は、その奇怪な防御方法に目を剥いたが、冷静さは失わない。

 既に得た情報から、空間系スキルによる防御だと推測を立てた。彼の頭の中で、着々と殺人鬼を殺す算段が整っていく。


「怖い怖い。これだから、強者は。しかし、だからこそのこの高揚感。どうやって、貴方を殺して差し上げましょうか」


 隔離空間を解除した殺人鬼。歪んだ感情が表情に浮き出ている。歓喜に震える手が小刻みに震え、結衣の首筋に小さく傷をつける。ツーと流れ落ちる血。

 死の恐怖に痛みが加わった結衣は、痙攣するように体を震わせる。


「そうですねぇ、自分が殺した相手に殺されのは、如何ですか?」


 カチャ……


 小さな金属音。何かが動いた時に鳴るような小さな音。

 その正体は、ゼフラトが殺した男の体が、ほんの一瞬震えた事で鎧が奏でた小さな衝突音だった。


「まさか……」


 さしもの皇帝も、それには唖然とするしかなかった。死した者が、悠然と立ち上がったのだ。その体は、血が滲み、爆破による肉と骨の欠損が目立つ。もはや生きていられる状態でも、動ける体でもない。

 しかし、まるで怨念に取り憑かれたかのように、男の体はしっかりと床を踏みしめていた。


「死者の怨念は、とても美しく強いのですよ」


 死体が言葉にならない怨念をゼフラトに叩き付ける。


「ヴォォオア!」


 唾と血が飛ぶ。それが、死体から飛び散ったものであると考えると、気持ち悪さで背筋が伸びそうだ。

 しかし、まだ死後数分しか経過していないため、血も唾も生温かく、体の腐食もない。精神衛生的には助かる事かもしれないが、だからこそ余計に異様であった。


「…………」


 叫びを浴びて、冷静さを取り戻したゼフラト。その彼に怨念で動く死体が2体襲いかかった。彼は死者を弄ぶ所業に不快さを感じながらも、体に魔力を通わせる。いつ何時でも、あらゆる攻撃に対し反撃出来る形を整えた。

 と同時に、彼の頭の中では、魔法のイメージが組み立てられつつあった。


 一方。


「いけませんわ。その男だけは私の手で殺します」


 そう口にしながら、アイリスは殺人鬼へと近づくが、


「私の獲物を奪うなら、貴方も殺しますよ?」


 と、殺人鬼はまるで相手にしない。

 色の違う狂気がぶつかり合う。ゼフラトはその様子を横目で眺めながら、結託しているというよりは、利害の一致かと断定した。

 帝国を恐怖に陥し入れたいアイリスと、ただ殺人だけを求める殺人鬼。その利害の一致が、この二人を結びつけるに至ったのだと考えた。


 憎悪と殺意のぶつかり合い。そして、生者と死者の戦闘が今にも始まらんとしたその時ーー


「結衣さんから離れろ、殺人鬼!」


 殺人鬼へ一矢報いた者がいた。背中から斬りかかり、油断していた殺人鬼は、背に薄皮以上の傷を負い、結衣から離れざるを得なくなった。


 勇敢にも、彼へと立ち向かったのは、小さな少年、グール。

 勇者と同じく麻痺毒を盛られ、床に倒れていた彼だったが、痺れる体をゆっくりと動かして、万が一の備えとして渡されていた薬を飲み、動けるまでに回復したのだ。


「まぁまぁ、勇敢なことですこと」


 転げるようにして、逃げた殺人鬼。その横に立ち、グールを冷めた目付きで、褒めるアイリス。彼女は、自分の計画が次第に崩れてく事へ、怒りと焦燥を覚えたが、表情には出さず、ただ冷たい視線を送るだけに止めた。


「正面からでは勝てないと踏んでの奇襲見事でしたよ」


 背中に血が滲む。服が裂け、斬られた傷口が露わになっている。だがしかし、痛覚を感じていないが如く、悠然と殺人鬼は立ち上がると……


「ヒヒッ、では貴方から殺しましょうか」


 深海よりも深い殺意をグールへと向けた。グールの額に冷や汗がドバッと溢れる。以前、この男の前に立ち、何も出来ずに立ち尽くしたのは記憶に新しい。


 グールは強くなった。濃密で、厳しい修行をこなし、精神的にも、肉体的にも。けれど、まだ毛が生え出した程度。殺人鬼に相対できるほど強くなったかと問われれば、首を傾げざるを得ない。完全に不意を突いても、深い傷を負わす事さえ出来ていなかった。


 つまり、以前と何ら状況は変わっていない。


 けれど、一つだけ変わったとすれば、それはあの日彼が誓った事だろう。母に。自分の師に。そして何より自分自身に。

 母が誇れる男になると心に強く抱いた彼は、引かなかった。


「ここが一歩目だ」


 己に言い聞かすように、彼は殺人鬼を強い光を目に宿し、その前に立ち塞がる。


 その姿に、恐怖するだけであった結衣もまた、励まされ、強く思った。

 今踏み出さないと、私は何も変われないと。


「が……って……」


 震える声で、動かない体の代わりに思いだけを彼に預ける。

 刹那、グールの体をオレンジの光が包む。その光は、太陽のように暖かく、また優しさと強さを含む光であった。

 暖かな光に包まれ、グールを驚き、目を見開く。そして、体に漲る力を確かめるように、体に取り付く光を見やる。


「すごい……」


 これなら……と一瞬、湧き上がる心。しかし、それはさらに冷たくなった殺意に打ち消された。


「貴方達の絶望は美味そうだ」


 じゅるりと口を鳴らす殺人鬼。捕食者のように血走る目。グールに何らかの変化をもたらした光も、殺人鬼の狂気を高める要素にしかなりえなかった。


 グールは悟る。

 まだ届かないと。


 ーー瞬間、殺意が絞られる。


 グールは本能的に首に悪寒を感じ、咄嗟に体を傾け腕を上げた。

 ブシュッと腕が裂ける。そこは一瞬前まで己の首があった場所。何が起きたか、彼の目には止まらなかったが、ドスッと彼の後方でナイフがテーブルに突き刺さったのを見て、相手の攻撃手段を悟った。


「ヒヒッ」


 短く笑い声を漏らした狂人の殺意は止まらない。

 目、腹、肩、手首、胸。

 悪寒が全身を駆け巡る。肉を斬られた痛みが熱となって神経を伝い脳へと流れ込む。

 一体どこから取り出しているのか、殺人鬼の手からナイフが消える事はない。グールが悪寒を感じ、傷を負うまでの僅かな時間にナイフは、殺人鬼の手元に戻っていた。いや、戻っているというよりは、新しく取り出しているかのように見えた。


 グールの傷は時間を負う事に増えていく。既に投げられたナイフは100を超え、グールの後ろのテーブルは蜂の巣状態。一瞬でも動きを止めれば、グールもそうなるであろう事は目に見えていた。

 そして、更にグールを襲う悪寒は強くなる。一つが二つへ。悪寒を同時に二つ感じたグールは、頬と腹部に新たな斬り傷を増やす。


「ヒヒッ、いつまでも持ちますかね」


 歯を見せて、まるでサーカスでも見る子供のような目をして笑う殺人鬼。グールは、全身に広がった痛みに顔を歪ませながら、必死に避ける。側から見ればその動きは小さく、余裕を持って躱しているようにも見えなくはない。

 だが、実際のところ、グールは動けなかったのだ。グールが前に出て進み出そうとすると、それを予期したかのように悪寒が襲う。それが、グールの動きを制限し、何もさせてはくれない。


 殺人鬼に主導権を握られ、グールは殆ど最初の位置から動けない。焦燥と恐怖に苛まれる。加えてまだ幼く、経験は浅い。彼は、耐えるという事をまだ知らなかった。


 焦りが彼に無謀な攻めへと駆り立てた。


 悪寒を無視し、一歩踏み出した彼の両太ももに血で赤く染まったナイフが深々と突き刺さる。魔力の残滓が残る刃は、彼の肉を断ちそれでも無理に動こうとするグールの筋肉をブチブチと断ち切った。


「うぁぁあ‼︎」


 もはやグールの足に力はない。絶対に一矢報いるという強固な意志とは裏腹に体は床へと傾く。それでも意志に従い手は前に、剣を殺人鬼に向けて振り下ろす。たとえ、それが届かないと目に見えて分かっていたとしても、足掻かずにはいられなかった。


 だが、彼らには一つ誤算があった。


「………ッ!」


 刹那、それは伸びた。剣の切っ先が殺人鬼を捉えた。


 ーーザマァみろ。


 そう心の中で思ったのは、戦況を見守る事しか出来なかった春樹だ。春樹は動けない体で、冷静にタイミングを見計らっていたのだ。殺人鬼の虚を突ける瞬間を。

 彼のユニークスキル『巨大化』がグールの持つ剣を瞬間的に伸ばしたのだ。完全に勝負が決したと油断を見せた殺人鬼は、春樹の知略により胸を大きく斬り開かれた。


 鮮血が舞う。バシャッと飛び散る血は、床を真っ赤に染め上げる。殺人鬼の手からナイフが血溜まりに落ちる。

 だが、倒れない。口からも血を流し、重傷である事は一目瞭然。しかし、膝が折れ、床に倒れ込むような事にはならない。

 むしろ、殺意がより濃く、より冷たくなり、瞳の中で狂喜が躍り狂う。


「あはっ……」


 気持ちの悪い笑み。ゾッと全身の血が引いていく。

 それは濃厚な死のイメージを与える笑みであった。

 勇気を出し立ち向かったグールも、その彼をサポートした二人も、そして、一向に良くならない状況に恐怖を募らせた残りの勇者達も、全身に寒気を感じた。


 ーーと、その時、新たな鮮血が舞った。


「良くやった」


 見ればゼブラトが殺人鬼の胸を一突きにしている。彼を襲っていた死体は、既に切り捨てられ、魔法で燃やされていた。その火の中でももがき続ける死体からは、魔人と似たものが感じられる。

 腕を失い、足を失い、更には首までないのに動く死体。ゼブラトに残された手段は焼却しかなかったのだ。


 火が屋敷へと燃え移る。このままでは屋敷が火で覆われてしまうであろう。だが、それを消火する前に、やるべき事があった。


「さて、刻印の殺人鬼よ。無実の民を数多く殺した貴様の罪は重い。本来ならばここで切り捨てるが、貴様の記憶が勇者の帰還には必要なのでな。今しばし、生かしておいてやろう」


 ゼブラトは勇者の返還を考え、殺人鬼にトドメはささなかった。だが、胸を貫かれた殺人鬼は、放置していれば死は免れない重傷。殺人鬼の胸からバッと剣が抜かれると、彼は前のめりに倒れ込んだ。

 だが、意識は喪失しておらず、血反吐を吐いて仰向けになると……


「ひっひっひ」


 皇帝を見て笑い出した。

 もはや理解不能。自身の胸を貫かれ、大量の血を失い意識が朦朧としているであろうに、未だ殺意も狂気も消えはしない。何が殺人鬼を笑わせているのか、誰も理解出来なかった。


 本能に近い部分が警鐘を鳴らす。

 ゼブラトは一瞬トドメを刺すべきか迷った。この男は1秒でも早く消すべきなのではと。

 だが、その決断を下す前に、轟音と地鳴りが屋敷を揺らしたため、思考を途絶えさせてしまう。


 まるで地震が起きたかのように、建物が揺れ、何かが倒れる音がする。それだけでなく、花瓶や皿の割れる音が聞こえ、床に破片が散乱している事は容易に想像できた。

 しかし、幸いにも地震はそれほど大きくはなかった。建物が崩壊するレベルではなく、備え付けの悪い家具が倒れたり、物が落ちる程度の地震だった。


 ゼブラトは、余計な心配であったかと警戒を打ち切り、アイリスへと向き直る。アイリスは依然変わる事のない憎しみを目に宿していた。

 そして、再び彼女の命を断ち切ろうとしたその時ーー


「ーーーーぁぁ‼︎」


 またも響く轟音。それは、部屋の壁が吹き飛んだ音だった。壁を吹き飛ばし、粉塵を巻き上げ乱暴な入室を果たしたのは二人。

 一人は、壁と共に吹き飛び、ひっくり返ったテーブルの上に落ちた男。体は既にぼろぼろ。意識があるようにも見えない。


 そして、もう一人の乱入者は瓦礫の山を踏み越え、堂々とその姿を現した。


「さぁて、魔人騒動の主謀者さん。お前を逮捕しに……って、あれ?」


 と、主謀者とそれに剣を向ける皇帝を見て、首を傾げる乱入者。さらに、チラリと辺りの惨状に目を向け、状況を正しく把握すると……


「……もう終わってんじゃん」


 出遅れた事を悟ったのだった。

 屋敷の庭へと続く穴から吹き抜けた風が虚しかった。



異夢世界を読んでいただきありがとうございます。


何とか毎日投稿することが出来ました。ですが、しばらくまた週一に戻します。おそらく4月に入るまでには、週ニ回更新に戻せると思いますが、まだいつ頃かはわかりません。

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