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13.学院での1日

 シュッ、シュッ、ガキッ


 演習場の一角、丸太が縦に置かれ、剣のサンドバッグとして置かれた丸太群の中で剣を振るう。

 早朝のため、周りにはハク以外には誰もいない。


 日付は4月10日。

 今日からやっと授業が始まる。

 だから、この一週間ほど休んでいた早朝の訓練を今日から再開することにした。再開するには丁度いい日だ。


 まだ他の生徒達は寝ている時間から、俺は寮を出てここで剣を振っていた。

 初めて訓練のために利用する演習場だが、やはりかなりの大きさがある。これならば、人がたくさん集まっていた時でも、問題なく修練を積むことができそうだ。


 身体が温まり汗が薄っすらと滲んできたところで、素振りをやめ今度は魔法の訓練をする。


 今までは、早朝に剣の、昼に魔法の訓練を行ってきた。しかし、授業が始まると、昼に魔法の訓練をできなくなってしまう。そのため、早朝の訓練で同時に行うことにした。これなら、どちらかに偏る事はない。

 俺が目指すのは、何でも出来る冒険者だ。その為に今から頑張っていこう。


 魔法の訓練は主に発動速度と魔法の精密な操作、複数発動を練習している。

 一度にできるだけ多くの魔法を、なるべく早く発動し、発動した魔法を同時に操作するという方法をとっている。


 これは、一対一の実践を想定したための訓練方法だ。

 一つの魔法を早く発動したところで、強者には何の意味もない。パーティ戦闘でなら、意味はあるかもしれないが、一対一ならばほぼ無意味だと思う。


 他も同じことで、組み合わせてこそ意味があると、俺は思っている。今の所、パーティを組む相手がいない俺は、1人での戦闘技術を磨かなければならないのだ。何故なら、俺はボッチだから。


 未だ実践導入可能な数は、2思考で6か7と言ったところだが、少しずつ成果は出てきている。

 一思考で20個ぐらい同時に発動することが、今の目標だ。一思考というのは、分割された思考数の最小単位だ。並列思考のスキルで、別々の思考を二つ持つ事が出来るようになってから、そう呼んでいる。

 行く行くは、50個の魔法同時発動とか、出来る様になってみたいものだ。


 その日の魔法の修行は、自分の魔力の半分ほどを消費したあたりで、切り上げだ。

 授業で魔法を使う時に、魔力がないのはまずいからな。ある程度は残しておかないと。


 次は、剣を持ちながら縦横無尽に動きまわる訓練だ。

 これをやるかやらないかで、実践の時の動きが変わってくる。


 例えば、攻撃を回避する際、自分が今どれくらいの動きができるのかわかっていなければ、避けるタイミングを見逃したり、無理な動きをして隙を作りかねない。しかし、この訓練を取り入れる事により、そういったミスが減る。


 この訓練法はディクの親父さんから教わった。騎士の訓練にも取り入れられているらしい。

 地球と違い、この世界での身体能力は変化が激しい。過去、1日で身体能力が1.5倍程に増えた者もいたらしい。そういった変化に慣れるには、実際に動いてみるのが一番なのだ。


 だから、俺もこの訓練を取り入れた。ついでに、スキルのレベル上げにもなるし、効率的だ。何より、俺のような軽装備の者にとって、この訓練は欠かす事が出来ないものなのだ。自身の回避性能が高い事が必須だからだ。


 15分程動き回り、その日の訓練を終えた。

 そして、朝食を取りに食堂へと向かう。

 そろそろみんな起き始める頃だろう。


 行く前に注文は済ませておいたので、朝食をすぐに受け取り、席について食べ始めた。

 みんな朝は余り強くないのか、人はそれほど多くはない。自分の部屋で、買っておいたパンでも食べているのかもしれないな。


 俺は朝から結構な運動をするためか、朝も昼と夜と変わらない量の食事をとる。

 だから、食堂でしっかりと食べたい。パンではもの足りない。


 食事を終えると部屋に戻り、制服に着替えて部屋を出る。


 荷物は先日買った鞄と、その中に筆記用具とノートに愛読書二冊、それと腰に付けた剣だけだ。

 教科書の類はまだない。ひょっとしたら、ないのかもしれない。本が貴重な世界だ。そういったことも考えられる。


 寮を出ると、先程までとは異なり、制服に身を包んだ生徒達が登校して行く光景が広がり、実に学校らしい様子に様変わりしていた。

 俺もその生徒の一人として、その中に混じって登校する。


 実に7年ぶりとなる学校への登校となる。懐かしい気持ちにでもなるかと思ったが、そう言った感情は感じなかった。

 恐らく、日本で通っていた学校と違い過ぎるからだろう。まったく別の物に感じてしまった。風景であったり、生徒であったり、違いが多すぎた。


 アスファルトで舗装されていない石の道。生徒の中に混じる獣人やエルフ。何より、黒髪がいなかった。全員、色鮮やかな髪の色をしている。

 そんな光景が懐かしさを感じさせてくれなかったのだ。むしろ、物珍しく感じる。


 軽く留学生の気分に陥りながら教室に入ると、人はまだ疎らで、シャルステナもまだ来てないようだ。

 俺は自分の席に着くと、ハクと遊んで時間を潰す

 しばらくして、シャルステナが来た。軽く挨拶をかわして、ハクを交え雑談した。


「今日の授業って何?」

「ピィ?」

「え、この前先生が言ってたよ?」

「うん、それは知ってるけど、忘れたから聞いてる」


 実は聞いていなかっただけだが。

 誰とは言わないが、ある人のお陰で、その時は余り話を聞く余裕がなかったのだ。


 どこか呆れた視線を向けてきたシャルステナ。

 何故、時間割を忘れただけでそんな目で見られるのだろうか?

 時間割なんて、一発で覚えれる方がどうかしてると思うのは、俺だけだろうか?


「授業は朝が剣術、昼からは座学と魔法の授業よ」

「へぇ〜、明日は?」

「今日と同じよ」

「え、じゃあ明後日は?」

「明後日も明々後日もその次もずっと同じよ」


 この前とは逆の立場になった俺とシャルステナ。

 なるほど、だから馬鹿を見るような目をしていたのか。失敬な。

 俺は話を聞いてなかっただけだ。いや、聞く余裕がなかっただけだ。


「ピィピィ!」

「うん?なんだ?」

「ピッ」


 この野郎。

 わざわざ呼んでおいて鼻で笑うとはどういう了見だ。

 どうせテメェも知らなかったくせに。

 俺はお前がシャルステナに聞いていたのを知ってるぞ。


「この子、ハクちゃん?は言葉がわかるの?」

「そりゃあ、竜だからな」

「はい?普通、魔獣って特別な道具を使わないと意思疎通ができないんじゃなかった?」

「ああ、そうだ。特別な首輪やブレステッドをつけないとできない。それにテイマーと呼ばれるような者たちしか、まともに意思疎通をすることはできないな。だけど、ハクは竜だからな」


 最強種にできないことはないはずだ。

 言葉を覚えるくらい朝飯前さ。


「いや、だからな、じゃなくて、それがおかしくないって言ってるんだけど…」

「問題ない。竜だから」

「いや、竜も魔獣なんだよ」

「知ってるさ。だけど、竜なんだから問題ない」


 それからもシャルステナのおかしいと俺の竜だからの問答は続きリナリー先生が来るまで行われた。


 起立、着席、礼、お願いします、はない。そのまま座ったまま挨拶して話が始まった。


「それでは各自着替えてから演習場に集合しろ」


 リナリー先生は手短に連絡事項などを済ませると、そう言って先に演習場に向かっていった。


 着替えは下に着てきたので、俺はすぐに準備を終えた。一応更衣室はあるのだが、面倒だったのでその場で着替えた。

 そんな俺を男子たちは勇者のような目を向け、女子たちは後ずさりした。


 この時、俺は見逃さなかった。

 シャルステナだけは手で顔を覆うようにして、私見てませんを演じながら、しっかり指の間から俺を凝視していたのを。

 そして、俺が下に着替えを着ていたのを見て、残念そうな顔をしたことを。


 間違いない。

 あいつはエロくなる。将来、絶対エロくなる。エロステナだ。

 シャルステナに好きな人がいなければ、俺はアタックしていたに違いない。


 シャルステナの将来性がわかったところで、俺は一足先にハクと演習場へと移動した。


 演習場には、俺たちと同じ一年生から二つ上の3年生の生徒が集まっていた。それぞれ担当の先生の元に集合し、バラバラに演習を行うようだ。

 4年生以上が見当たらないのは、時間をずらしているからだろうか?


 人数はおよそ700人ほど。

 それでも演習場にはまだ余裕がある。これならば問題なく授業を行えるだろう。このために広く作ったのかもしれないな。


 初めは俺とリナリー先生の2人しかいなかったが、特に話をすることもなく、徐々に人が集まり、全員が揃った。


「では、剣術の授業を始める。まず初めに2人一組のペアをつくれ」


 そう言われたので、俺はシャルステナを捕まえペアになった。俺が他に知り合いがいなかったからという理由ではない。ボッチだからでもない。

 人見知りの彼女のためだ。人見知りにペア作りは地獄だろう。彼女までボッチになってしまう。


「では、各自ここに置いてある木剣を持って、ペア同士で模擬戦をやれ」


 俺たちは先生の言った通りに、木剣をとり模擬戦を開始した。ある程度バラバラに散らばり、ぶつからないようにしてから始めた。


 俺たちが模擬戦を開始すると、先生は俺たちの間を通って周り、どこが悪いかなどを指導してくれる。


 シャルステナと俺の模擬戦は他の子たちがやっているものと大して変わらない。

 俺は本気ではやらないと決めていたので、流す程度にやっているが、シャルステナは何故か手を抜いている。


 俺に合わせてくれているのかもしれない。

 試験の時の動きをされれば、手抜きの俺は今頃ボコボコにされるているだろう。

 しかし、リナリー先生もシャルステナの手抜きには気づいたようで、彼女は怒られた。


 なんだか悪いことをした。

 少し本気を見せてもいいか。やり過ぎない程度でなら…

 俺は2割5分程度まで出すことにした。

 これくらいならば問題ないだろう。たぶん…


 急に動きが良くなった俺に、シャルステナは驚いていたが、すぐに自分もレベルを引き上げて対応してきた。

 これで少しは怒られずに済むといいが…


 そんな俺の思いが通じたのか、その後は怒られることもなく、無事に授業は終わった。

 めでたしめでたし。


 授業が終わると今度は昼休みだ。学校の食堂が戦場となる時間だ。

 俺は再び上に制服を着ると、他の誰よりも早く食堂に向かってダッシュした。

 ここでは本気の本気、100パーセントを出す。


 廊下を猛スピードで走り抜け、空間探索により動く障害物を事前に調べ、アクロバティックな動きで障害物を乗り越えていく。

 結果、俺は障害物競争で好成績を残すことができた。


 自分の席と昼食を確保し、一応シャルステナの分の席も確保した。

 これでゆっくりと食事を楽しめる。


 しばらくして、シャルステナがやってきた。

 しっかり席は確保しておいたので、彼女は順番待ちをすることなく、食事をとることができる。


「ありがとう、助かったわ」

「気にするな、ついでだ」

「ピィ」


 ハクが俺のカツを食べた。最後に食べようと残していたのに!


「それは俺のだ!勝手に食べるな」

「ピィピィ」

「それなら先に言えよ。後で少ないって言われても俺のせいじゃない」


 何が足りないだ。これが良いって言ったのは、お前じゃないか。


「ピィ…」


 俺が取り上げたカツを名残惜しそうに見つめるハク。

 ちょっと可哀想になった俺は、カツをハクにあげることにする。


「わかったわかった。今日は俺のカツをやるから、明日からは先に言えよ」

「ピィイ!」


 まったく仕方ない奴だと、喜んでカツを頬張るハクを見て思う。そこにシャルステナがツッコミを入れてきた。


「どうして会話が成り立っているのよ…」

「竜だからだ」


 しつこい奴だ。朝、あれだけ丁寧に竜だからだと、説明してやったのに。


「それはもうわかったわ。いや、わかってないけどもういいわ。私はなんであなたとハクが言葉を交わしあえるのか聞いてるの」

「そりゃあ竜だからな」

「あなたは竜じゃないじゃない」

「あ!…え、じゃあ……なんでだ?」

「いや、私に聞かないでよ」

「ピィイ!」

「いや、それは違うからな。俺人間だからな」


 いつの間に俺は最強種になったんだ。俺は正真正銘人間だ。


「ピィイ!」

「いや、そうだけどそれとこれとは話が別で、たまたまお前が生まれた時に俺がいただけでな、俺がお前を産んだわけじゃないぞ」

「ピィイ⁉︎」


 衝撃の事実が判明といった声をだしたハク。

 しかし、俺は男なので卵どころか、子供も産めない身体なのだ。


「いやまぁ、俺がお前の親代わりなのは間違いないけどな。けど、それを言ったら父さんや母さんも親じゃないか」

「ピィイ」

「え?まじで?お前も忠犬なの?」


 どうりで母さんの言うことは素直に聞くわけだ。俺のことはすぐ見捨てて逃げるような奴のくせに。


「ピィイピィイ」

「そりゃしゃあない。お前が悪い。寝ぼけて母さんの髪焼くなんて、よく磔にされなかったな」


 俺はそんな恐ろしいことはようやらん。


「ピィピィイ」

「なるほど、その手があったか。確かに母さんなら泣いて謝れば許してくれそうだ」

「ピィ」

「ああ、今度使わせてもらうよ」

「あの〜、通訳を…」


 俺とハクの話がひと段落したところで、シャルステナが入ってきた。


「ああ、悪い。えっとだな、ハクが俺は親だから竜だって言い出して、それは違うと言ったら、初めて知ったとか言って驚いてたな。それから、親父たちも親か聞いたら、親父はそうだけど母さんは主君だって、なんでも寝ぼけて火を吐いた時に母さんの髪を燃やしちゃったらしくてな、めっちゃ叱られたらしいんだ。ハクは親父が母さんを怒らせて磔にされて焼かれたところを何度も見てるから、泣いて謝って許してもらったんだってさ」


 俺は先程のハクとの会話を思い出しながら、シャルステナに通訳した。


「えっと、どこから突っ込んだらいいのかな?まず、忠犬って何?」

「え?自己紹介の時に言っただろ?称号があるって。それだよ」


 ちゃんと言ったぞ俺は。母さんを恐れた称号持ってるって。


「へ、ヘェ〜、じゃ、じゃあ、磔ってなに?」


 どこか歯切れの悪いシャルステナ。


「……それはな…俺とハクの恐怖の象徴だ」


 急にシリアスな雰囲気をまとい出した俺とハク。

 その雰囲気に呑まれたシャルステナ、はゴクッと音をたてながら唾を飲み込む。


「…あれは…そう、ハクが生まれた日の夜のことだった。その日、俺は冒険者の親父に連れられて、山奥に住む魔物退治に出かけたんだ。そこで、ハクと出会った。それから、ハクを連れて家に帰り、母さんにその日あった出来事を話した。そこまではいつもと変わらない日常だったんだ」

「ピィ……」


 ハクはブルブルと震えている。

 ハクが生まれて1日もたってない時の出来事だったんだ。

 無理もない。


「話を聞き終えた母さんはニッコリと笑うと外に出て親父を手招きした。親父はバカだから、何も考えずにそれに従った。その時、俺とハクは興味本意で2人の後をつけたんだ。母さんは村の広場まで行くと、親父に抱きついた。親父はにやけ顏だ。しかし、遠くから見ていた俺たちは、母さんがただ抱きついたわけではないのが見ていてよくわかった。母さんは手にロープを持っていたんだ。しかも、鋼鉄の。母さんは魔法で親父の後ろに十字架を作ると、隠し持っていた鋼鉄のロープでそれに縛りつけたんだ。さすがに親父も、この時にはやばいと感じたみたいで冷や汗を顔から滝のように流していたな。そして、微笑みながら火の玉の魔法を何10発も親父に向けて発射したんだ。母さんは魔法のスペシャリストで、タダの火の玉でも俺たちのとは全然違う。一瞬でオークがチリになるレベルだ。避ける術のない親父はそれを全弾まともに浴びて燃えていた。謎なのは、それでも親父は懲りずに年に一度のペースで磔にされていたことだ。俺たちの村ではそれを『燃える十字架事件』と呼ぶ。その日、俺は母さんには逆らわないと誓った」


 改めて思い出し、母さんに再度忠誠を誓う。

 ハクも再度忠誠を誓ったようだ。


「ええっと、こ、怖い人なんだね」

「ああ、あの人は怒らしてはいけない。親父がおかしいだけで、あの刑は普通死ぬ」

「ピィ…」

「よ、よく何度もやられて生きてるね」

「それは俺も同感だ。初めて見たときは親父の公開処刑にしか見えなかった」


 初めて見たのは確か隠密作戦の時だったな。

 あの時はまだ忠誠を誓わなかったが、よく無事だったものだ。


「処刑って…」

「シャルステナ。それはまだあれを見たことがないからだ。見れば俺の言ってることがよくわかる。もう一人、同じ目ような目にあった人がいるんだが、その人と親父が異常なだけで、まず間違いなくあれは死ぬ」

「そ、そんなに…なんか怖くなってきた」

「その恐怖を忘れるな。もし、母さんにあった時は忠誠を誓え。そうすれば生きていられる」


 俺とハクのように…



 〜〜


 実録恐怖体験を話し終えたら今度は座学のお時間だ。

 一年生の座学は国語である。この国の言葉はラスペル言語と言って、多くの国で公用語として扱われているらしい。


 本日の授業は文章を書いて読む授業だ。

 お題は夢だ。


 一通りみなが書き終えたところで朗読会が始まった。

 初めは席順でシャルステナだ。俺はあいも変わらずトリである。席が入学式の並びのままだからだ。あの時、最後に並んでよかった。お陰で俺は窓辺の一番奥という最高の席を手に入れることができた。席替えがないことを祈るばかりだ。


 一方、一番前の席となってしまったシャルステナ。彼女はいつも初めにやらされる。可哀想に。

 人見知りの彼女にとってはかなりのストレスだろう。変わる気はこれっぽっちもないけど…


「私の夢はもう叶いました。つい先日のことです。長年の目標を果たすことができ、今は嬉しい気持ちでいっぱいです。一つ夢を叶えた私ですが、もうすでに新たな夢ができました。それを叶えるため、この学院でいろいろなことに挑戦していきたいと思います」


 つい先日と言うことは、ひょっとして人と普通に話すことが夢だったのか?

 そんな事を話を聞きながら考えていた。そしてそれは、彼女が着席する前にこちらをチラッと見てきたことで確信に変わる。

 そうか。俺が彼女の夢を叶えたのか。

 きっと、次の夢は友達100人できるかな、だな。


 発表が進み、みな自分の夢についてあれこれ語っていく。その中で俺がちょっと興味を惹かれたのは、ゴルドと言う子の夢だ。


「僕の夢は冒険者になることです。昔、魔物に襲われた時に助けてくれた冒険者の人みたいに強くてかっこいい冒険者になりたいです」


 俺とは少し違う夢だが、冒険者というだけで俺は彼に興味を抱いた。

 後で話しかけてみよう。


 その後は一部危ない夢を語る子もいたが、一通り発表が終わり、俺の番となった。

 さて、トリを飾ろうか。


「俺の夢は世界で一番自由な冒険者になって、世界を回ることです。とりあえず7大秘境制覇を目標にしています。そして、いろんなものを見て自由に世界を旅したいと思っています。そのうちハクが大きくなったら、背中に乗って空を旅したりもしてみたいです。ハクは4年間大きさが変わらないので、このままでは逆に俺がハクを乗せて飛ぶことになるかもしれませんが…」


 俺が発表をしているとなぜかシャルステナが目をウルウルさせて感動していた。

 感動するようなことは言ってないはずだが…

 彼女は人見知り以外にも、病気のようなものを抱えているのだろうか?


 ゴルド君は先ほどの俺と同じく、興味を持ってくれたようなので、次の休み時間に話しかけてみよう。



 〜〜〜〜〜〜


 休み時間になったので、俺はゴルド君に話しかけてみた。


「なあ、さっきの助けてくれた冒険者について教えてくれよ」

「えっ?あ、うん。僕が小さい頃、近くの山で遊んでた時に竜に襲われたんだ」

「竜なんかでる山で遊んでたとか、やるな」


 ゴルド君はそういう悪ガキのような行動をとる子には見えなかったので、結構以外だ。


「いや、違うんだよ。普段は竜どころか、魔物さえほとんどでないところなんだ」

「へぇ〜、じゃあ運悪くってやつだな。しかも、竜か」


 おそらくは、たまたま竜がその山に飛んでやってきたところに、居合わせてしまったのだろう。


「うん、その時はもうダメだと思ったんだけど、ちょうど近くにいた冒険者の人が助けてくれたんだ」

「その冒険者の人は強い人だったんだな」

「うん、けど、竜も強くてその人はボロボロになりながら、僕を逃がしてくれたんだ。後で街の人たちと助けに向かったんだけど、その時にはどっちも地面に倒れていたんだ。ギリギリで勝てたみたい」

「そりゃA級の化け物だからな。平均的な冒険者一人でどうこうなる相手じゃない」


 平均的な冒険者ランクはB。ここまでは誰でもやればなれると言われているランクだ。

 これより上は才能がないと無理だと言われている。

 つまり、俺の両親やシャラ姐は才能があったと言うことだ。


 話に出てきた冒険者もA級、しかもその上位に位置する竜を一人で倒したのなら、今頃は確実にAランク以上になっていることだろう。かなりの強さだ。


「うん。だから、命をかけて僕を助けてくれたその人みたいな冒険者になりたいんだ。魔物に襲われてる人達を助けられるような強い冒険者に」

「いい夢だと思うぞ。俺は自分の目標を叶えるのが第一だけど、そういうのは嫌いじゃない。かっこいい夢だ」


 俺は秘境を回るという目標があるから、積極的に魔物から人々を守ろうとは思わないが、だからと言って、目の前で襲われている人を見捨てようとも思わない。

 だから、積極的に人々を守りたいと言っているゴルドの夢には、共感できるところもある。


「ねえ、秘境について教えてよ。僕はその話あんまり聞いたことがないんだ」

「もちろんだ」


 俺は愛読書を持ってきて、手に持ちながら秘境について語った。

 ゴルドは話を聞くうちに興味がより一層出てきたようで、本を貸してくれと言ってきた。

 もちろん俺はオーケーした。


 秘境仲間が増えることはいいことだ。

 ひょっとしたら将来共に秘境を旅してくれるかもしれないし、情報の提供は惜しむまい。



 〜〜〜〜〜〜


 冒険者仲間ができたところで、次の授業が始まった。

 魔法の授業だ。


 魔法の授業は前半と後半に分かれている。

 まずは魔法の座学。座学と言っても一つの魔法のイメージの仕方と使い方の説明がなされるだけだ。


 はっきり言って、マリスさんの本を読んだ俺にとっては低レベルすぎる内容である。

 しかも、習っている魔法がすでに習得してしまっているものなので、まったく意味がない。

 というわけで、俺は後半の実技が始まるまで睡眠学習に励むことなった。


 気配を消していたので、チョークが飛んでくるようなこともなく、後半の実技が始まった。


 シャルステナは自信に満ちた顔で一発で魔法を成功させると、ドヤ顔でこちらを見てきた。

 俺はそれを鼻で笑いながら、ドヤ顔で返してやった。ハクもドヤ顔だ。お前は何もしてないだろ。


 キーとハンカチを噛んで悔しがるようなシャルステナを期待して、シャルステナを見ていたのだが、惚けた顔をしてトリップしていた。

 シャルステナがわからない。

 あの子は他にどんな病気を抱えているんだ。


 ゴルドは余り魔法が得意ではないようで、少し苦戦していた。

 俺はゴルドにマリスさん魔法講座を開いてやることにした。それで少しは良くなることいいが…。


 俺とシャルステナは一発で成功させたので、今は先生と同じく指導者になっている。

 魔法の先生はリナリー先生ではなく、ハリスという男だ。逆のような気がするが、わざわざそれを言うようなこともない。


 人見知りのシャルステナにとって、これは地獄の時間だろうと心配していたが、予想を裏切りペラペラと説明しながら指導していた。

 俺のお陰で、完治したのかもしれない。今日1日見ていて、そう思った。


 俺とシャルステナの頑張りもあり、全員時間内にマスターすることができた。


 〜〜〜〜〜〜


 授業が終わった後は自由時間だ。

 この学院には部活動があるそうなので、それに入るのもよし。大通りに出て遊ぶのもよし。好きにしていい。


 俺はシャルステナとゴルド、シャルステナの友達という危険人物Aと共に広場で喋ってから帰った。


 シャルステナの友達、危険人物Aは名前をアンナという。

 何故危険人物かというと、発言が危ないのだ。

 自分の夢を語る時、兄を寝取るのが夢だと言い、俺をドン引きさせた。

 これにはリナリー先生も苦笑いしながら聞いていた。


 何故7歳児が寝取るなんて言葉を知っているなど、いろいろ言いたいことはあるが、修羅場に巻き込まれそうなので、余り関わらないでおこうと思っていた。


 しかし、気がつけばシャルステナと友達になっているではないか。エロ魔女とブラコン女、何か共感するものがあったのかもしれない。


 まぁ、話してみるとそこまでおかしな子ではなかった。普通だ。

 シャルステナの方がおかしい気がする。

 いや、シャルステナはおかしいんだった。


 日が暮れるまで話し込み、夕食をみんなで食べてから寮に帰った。


 こうして学院での1日は過ぎていくのだった。


明日……は無理かもしれないので、明後日投稿したいと思います。


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