12.赤髪の少女後編
入学式の次の日。今日は生活用品を買いに出かけようと思う。
金は親父からある程度渡されているので問題ないが、あまり無駄使いしすぎると、すぐになくなってしまいそうなので、節約していこうと思う。
最悪、無くなった時は冒険者として働けばいい。
昨日、突然倒れたシャルステナが心配だったので、朝保健室に見に行ったのだが、いなかった。
意識が戻り自室に帰ったそうだ。無事に目が覚めたようで安心した。
彼女と出会って、まだ10日もたっていないのだが、昨日のことで、彼女のことがわかってきた気がする。
要するに変な子なのだ、あの子は。
普通ではないので、普通の思考回路を持ってして、あの子のことは理解できない。だから、彼女の事は深く考えず、浅く考えていこう。
深読みはしてはいけない。決して女心がわからないから、逃げたわけではない。
学院を出て、ハクと共に大通りに向かう。
時刻は午前9時になったばかりだ。
この町ですでに2週間弱ほど生活しているので、大まかな地理は頭に入っている。
なので迷うことなく、大通りに出ることができた。
大通りは何百軒という店が立ち並び、朝早くから活気にあふれていた。店の種類は様々で、店と店の間には露店が立ち並び、いわゆる買い食いしながら、買い物を楽しめる空間になっている。
俺の目的は生活用品なので、それらしいものが置いていそうな店を中心に回っていく。
一応、今日は下見のつもりで来ているので、必要なものをメモしながら、店を回っていく。少しでも安く買いたいのだ。節約しないといけないからな。
時折、露店で購入した串に刺さった何かの肉などを食べながら、一件一件回っていった。
誤算だったのは店の多さだ。数が多すぎて、メモしたものが、どこに置いてあったかわからなくなってしまった。
とりあえず、今わかるところだけは、店の名前を横に書き込んでおいた。
夕方になっても店回りは終わらない。
どんだけあるんだ…
あまりの店の多さに、思わず溜息が漏れる。
ハクは珍しく疲れきった顔をしていた。いつもは能天気にピッピッ言ってるのに、全く口を開こうとしない。ちょっとお疲れみたいだな。俺も疲れたので、今日はここまでにしようか。
そうして、大通りを抜け出し、学院へと帰ることにした。
途中、本屋を見つけ中を物色したが、めぼしいものは何もなく、またマリスさんの本もなかった。
結局、何も買わずに店を出て、そのまま学院へと帰宅した。
〜〜
次の日、同じように大通りへと向かった。
昨日メモしたものを、片っ端から購入していき、そのあとは昨日と同じように店を回った。
昼を過ぎたあたりで、誰かにつけられているような感覚を覚え、眼を視線の感じる方向に向けると、赤髪が物陰に隠れたところが、バッチリ確認できた。
また変な子衝動が出ている彼女には、余り関わりになりたくないので、スキルを使って撒いてやった。
彼女は何がしたいのだろう。
一通り回り終えたので、ギルドに行ってみることにした。
7歳児である俺に、お決まりのイベントが発生するはずもなく、終始平和なギルド見学が行えた。
見学と言っても、どんな依頼書があるのか見たり、冒険者の装備を確認しただけで、施設自体を見て回ったわけではない。
ギルドを出ると日が落ちかけていた。
今日はそれほど疲れてはいないが、帰ることにしよう。
〜〜〜〜〜〜
次の日もまた、大通りに朝早くから出かけた。
正門の前に赤髪がいた気がしたので、裏口から出た。
赤髪イベントは一昨日でお腹いっぱいだ。授業が始まるまでは、食休めしたいのだ。
今日は残りの生活用品を買った後、まだ昼にもなっていなかったので、ギルドで依頼を受けることにした。
ギルドに行き、受付嬢に依頼書とギルドカードを手渡す。
依頼内容は薬草採取。
いきなり子供が魔物退治の依頼書を出しても、受け付け拒否されるに決まっているからだ。初めは大人しく薬草採取でも受けていよう。
受付嬢は、俺が依頼書とギルドカードを出してきたことに驚いていたが、すぐに思案顔になり、周りの冒険者に眼を向けた。
キョロキョロと何かを探すような動きをする彼女に、近くにいた冒険者が探し物かと聞いてきた。
「それが…この子が薬草採取の依頼書を提出してきたので、誰か一緒に行ってくれそうな冒険者はいないかなと…バジルさんは…今から依頼がありますものね」
「悪いな、今日は無理だ。シャラならどうだ?あいつは結構、子供に甘いし、引き受けてくれるんじゃねぇか?」
「え?シャラ姐?」
バジルと呼ばれた、いかにも冒険者といった風貌のおっさんが、聞き覚えのある名前を出してきたことに驚いた。
「なんだ、ボウズはシャラと知り合いだったのか。なら、問題ねぇ。さっき、武器屋に預けてる剣を取りに行ったところだから、もうすぐ戻ってくるさ。そしたら、あいつに頼めばいい。引き受けてくれるさ」
そう言って彼は去っていった。
なんだか親父に似てるというのが第一印象だった。あの人とは仲良くできそうだ。
「それじゃあ、シャラさんが来るまで、そこの椅子に座って待っててくれる?」
「はい」
俺は指指された椅子に腰掛けると、シャラ姐が来るまで大人しく座っていた。
薬草採取ぐらい一人でも問題ないのだが、俺を心配してのことなので、自分からどうこう言うつもりはない。
5分ほどでシャラ姐は戻ってきた。
戻ってくるとすぐ、受付嬢に手招きされ、不思議そうな顔をしながらも、手招きに応じていた。
「シャラさんの知り合いと言う子供が薬草採取の依頼を受けたいそうなのですが、小さいので一緒に行ってあげてもらえませんか?」
「知り合い?」
「シャラ姐、久しぶり」
軽く俺のことが出たところで話しかけた。
「レイちゃんじゃない!」
「うん、シャラ姐元気そうだね」
「うんうん、こんなに大きくなって〜、前に会った時はこんなに小さかったのに〜」
そう言って、俺の頭を撫でてくるシャラ姐は頬が緩々だ。
本当に子供が好きなようだ。俺も美人のお姉さんに撫でられるのは大好きだ。
特にシャラ姐のような巨乳のお姉さんに抱っこされるのは大好きだ。何故かって?わざわざ言う必要はないだろ。言わなくてもわかる筈だ。
「レイちゃんが薬草採取に行きたいって本当?」
「うん」
「そっか〜、魔物退治の依頼じゃなくていいの?」
「うん、やっぱり始めは簡単なものがいいかなって」
「えらいね〜、じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい」
そう言って、シャラ姐は俺を送り出そうとした。しかし、そこで待ったがかかる。
シャラ姐と俺のやり取りを黙って見ていた受付嬢だ。
「ちょ、ちょっと待って!」
「どうしたのミラ?」
「いや、私、シャラさんについて行って欲しいってお願いをしたんですけど…」
どうやら受付嬢の名前はミラと言うそうだ。
ミラさんは水色の髪の毛がよく似合う美人さんなので、今度ミラ姐と呼んで、撫でてもらおう。
「大丈夫よ、レイちゃんなら」
「えっと、何が…?」
シャラ姐は俺の実力を知っているから、薬草採取くらい問題ないと言っているようだが、ミラ姐はそのあたりの事は知らないので、心配のようだ。
いい人だな。
この世界の美人はいい人ばかりだな。
「だから、レイちゃんなら薬草採取くらいチョチョイのチョイって言ってるの」
「それはそうでしょうが、魔物が出てきたらどうするんですか、薬草がある場所にはゴブリンやオークが出るんですよ?」
「レイちゃんなら大丈夫よ」
「だから…」
このままでは喧嘩になりそうなので、止めに入ることにした。
「ミラおねぇさん、僕はゴブリンやオークになら負けないよ?」
「……ほら、シャラさん、この子こんなこと言ってますよ?絶対危険ですって」
あれ?
まったく信じてくれてない?
逆に不安にさせてる?
「ミラ、大丈夫よ。この子は3歳でゴブリンを倒したことがあるのよ?」
「3歳⁉︎」
「そうよ、だから問題ないわ。レイちゃん、もういいから行ってらっしゃい。くれぐれも油断しちゃダメよ?」
「う、うん」
シャラ姐に言われたので、俺はギルドを出て薬草採取に向かった。
ギルドを出て行く時、そんな馬鹿なと聞こえた気がしたが、後はシャラ姐にお任せしよう。
〜〜〜〜〜〜
目的の薬草は王都を出てすぐの森の中にある。
薬草の名前はポーション草。名前の通り、ポーションの原料となる素材だ。ポーション草一つでだいたいポーションが3つできるそうだ。
ポーションは体の傷を癒すのに使われる。
原理はよくわかっていないそうだが、効果は確かにあるそうだ。よくわからない物をよくみんな使うな、と初めて聞いた時には思ったものだ。まぁ、使ってる俺が言うのもなんだけどな。
ポーション草を探していると、ゴブリンが出てきたので燃やしておいた。ゴブリンは大した素材を落とす事はないが、一応金にはなるので、魔石と一緒に回収しておいた。
そうして、2時間ほどで必要数を集め終えたため、帰還することにした。
〜〜〜〜〜〜
「だから、そんなことあるわけないと言ってるんです!」
「だ、か、ら、それがあるって言ってるのよ!」
ギルドに戻ると、白熱した討論をするシャラ姐とミラ姐がいた。周りの冒険者たちは止めに入るどころか、近づこうとさえしてなかった。
「3歳でゴブリンを三体も同時に倒せるわけないでしょ‼︎」
「だって本当なんだから仕方ないじゃない!」
俺が出て行ってから、この2人はずっと言い争っていたのだろうか?
ミラ姐は仕事をしなくていいのか?
なんか、依頼書を持って、周りで待機してる人たちがチラホラいるような気もするのだが…
「えっと、ただいま戻りました?」
「嘘に決まってますよ!誰に聞いたんですかそんな話⁉︎」
「あの、ただいま戻り…」
「聞いたんじゃない!私がこの目で見たのよ!」
「えっと、ただい…」
「じゃあ、シャラさんが嘘をついてるんですね!」
「あの…」
「私は本当のことを言ってるだけだよ!」
「…」
「本当って何ですか⁉︎何が本当なんですか⁉︎」
グスッ。
全然構ってもらえない。
他の冒険者たちもこんな感じで、無視されたのだろうか?
それは遠巻きに見ることしかできないだろう。
あ、バジルさんが突撃した。
お、頑張ってる。結構存在感を出してアピールしにいってる。
いいぞ、その調子だ。
あと少…、あ、やられた。
これでこのギルドの中に、彼女たちを止めれそうなとても者はいなくなった。ギルマスは既に撃沈していたみたいだ。誰も近づこうとはしなかった。
依頼書を持っていた人たちも、次第にそれを掲示板に貼り直し、続々とギルドを出て行った。
さすがに放置したまま、俺は帰るわけには行かないので、遠巻きに言い争いの行方を見守る。
言い争いが終わったのは、それから3時間後のことだった。
「なら、どっちが正しいかレイちゃんに決めてもらいましょう!」
「いいでしょう!その勝負受けて立ちます!」
「え?おれ?」
いきなり俺に火の粉が飛んできた。
俺は巻き添えと精神的ダメージを喰らわないために、大人しく周りでジュースを飲んでいたのに、結局巻き込まれてしまった。
「レイちゃん!今から、ゴブリン狩りに行くわよ!三体と言わず、10体狩るよ!」
ガシッ
「え?」
「私も行きます!さあ、レイちゃん早く行くわよ!」
ガシッ
「え?え?ちょっと待っああああああ」
俺は2人に両腕を捕まれ、そのまま引きずられて行った。
バジルが哀れなものを見る目で俺を見ていた。
あの目を俺は忘れない。
大通りを2人に引きずられて通り過ぎ、門を過ぎても引きずられ、山についてやっと解放された。
気がつけば、いつの間にかハクがいなくなっていた。
自分だけ逃げやがったなあの野郎!
「レイちゃんやりなさい! ドカンでもバシュッでもいいから殺りなさい!」
「……はい」
「無理ならやめなさい! 怪我をしてもダメですよ!」
「……はい」
俺はもうすでにグロッキー状態だ。
もう決着なんてどうでもいいから、家に帰って寝たい。
早くこの二人から解放されたい一心で、俺はゴブリンを狩った。
それはもう戦いではない。
殲滅だ。俺は解放されてから一歩も動かなかった。
空間探索で魔物を見つけ、そこに魔法を放つ。
魔石を風魔法で回収して、10個集める。
これで終わりだ。
「そ、そんな⁉︎」
「さすがはレイちゃん!」
「……はい」
俺は魔石を手渡す。
もう家に帰らせてください。
「今のは何かの間違いよ! もう一回!」
そんな言葉が無情にも響いた。
俺は結局その日十回も同じことをするはめになった。
女ってこわい。
〜〜
眼が覚めると俺は金持ちになっていた。
また転生したわけではない。
ゴブリンの魔石を101個、ゴブリンの爪37個、ゴブリンの牙83個、オークの魔石24個、オークの鼻14個。
これは昨日の山の大掃除で手に入ったものだ。
それを全部金に換えところ、34万8千ルトになった。
ルトというのは、この世界の金の単位だ。世界共通のものとなっている。
いちいち換金する必要がないのは非常に便利だ。
1ルト=1円の価値があると思ってもらって問題ない。
つまり、俺は34万8千円もの大金を1日で稼いだということになる。
しかし、これだけでは終わらなかった。
薬草採取の依頼とゴブリン駆除依頼×10、オーク駆除依頼×2を達成してしまったことになり、14万5千ルトの報酬が手に入った。もうランク昇格も目の前だ。
こうして俺は現在約50万もの大金を持つ7歳児となった。
俺はどこのボンボンだ。
こんな大金を持ち歩くわけには行かないので、ギルドに預けた。
ギルドにはお金を預けることのできるシステムがある。
ギルドカードを持っていれば、誰でも利用可能だ。
世界中どこのギルドでも使える。
金額はギルドカードに記載されている。
防犯的に不安があるように思えるが、ギルドカードはステータスプレートと似たような機能を持ち、表示させたいものだけ表示させることのできる機能と、本人以外使用不可の機能が付いている。
なので、防犯的には特に問題はない。
昨日俺を見捨てて逃げたハクは、バジルと飲んでやがった。
とりあえず、ハクには苦い薬草を、バジルには激辛注意の薬草を食事にこっそり混ぜて、ギルドの酒場のマスターに頼んで出してもらった。
あの1人と一匹の苦しむ顔は、俺を少しだけ癒してくれたとだけ言っておこう。
シャラ姐とミラ姐のケンカは結局、俺が悪いことになった。
お前が異常なのが悪いと面を向かって言われれば、それなりにくるものがあった。グスッ
昨日でやらなければならないことは、一先ず終わった。
だから、今日を入れて、あと4日の休日はゆっくりと過ごそう。
ここ数日疲れることばかりだったので、そろそろお休みをいただきたいのだ。
勘違いに始まり、赤髪少女の不可思議行動を得て、女のケンカの恐ろしさを、身をもって体験させていただいた。
実は結構、俺は疲れているのだ。
主に精神的なもので。
なので、学校が始まるまでは精神の衛生面を考え、まったりのんびりスルーライフを送ろう。
〜〜〜〜〜〜
ゴンゴンゴンゴン!
「せっかく、せっかく、レイが話かけてきてくれたのに!私は!私は!」
寮の部屋で大声で、机に頭を打ち付けながら、後悔する私は、隣の部屋の人からすれば、かなり迷惑な隣人だろう。
しかし、私はそんなことに気がつかないほど、後悔をしていた。
「…とりあえず、謝らないと…うぅ、恥ずかしい…」
レイが抱き抱えて私を運んでくれたのは嬉しいけれど、やっぱり恥ずかしい。
けど、謝らないと。今度こそ、失敗せずに話す!
私はそう決めると、身支度を素早く済まし、部屋を飛び出した。
向かうはレイのいる男子寮だ。
「出かけた?」
「今日は大通りの方に行くと、外出届けを出してお出かけになりましたよ」
「そう、ですか…わかりました。ありがとうございます」
私は来た道を戻ると寮の管理人に外出届けを提出し、レイを探しに大通りに向かった。
しかし、その日はレイを見つけることができなかった。
次の日、昨日よりも早い時間に寮を訪ねたが、レイはすでにいなかった。
仕方なく、私は今日も大通りに向かうことにした。
今日はレイを見つけることができた。
しかし、話しかけようとすると、レイに抱き抱えられている光景が浮かび、結局話しかけることができなかった。
私が話しかけるか迷っている間に、レイは何処かに行ってしまったからだ。
次の日、まだ日が昇る前から正門で、レイを待っていた。
しかし、彼は何時になっても現れなかった。おかしいなと思った私は、今日も男子寮に向かった。ひょっしたら、今日は出かけていないのかもしれないと思ったのだ。
寮に着くと、すでに顔なじみになりかけている管理人さんに、レイはいるか聞いたが、もう出かけたと言われた。
ひょっしたらレイは正門からではなく、裏門から出ていたのかもしれない。
大通りは正門からの方が近いのだが、ひょっしたらまだ王都に来て日の浅いレイは、それがわかっていないのかもしれない。
今度教えてあげよう。
レイとの会話を妄想しながら、今日も私は大通りを探し回った。
結局見つけることはできなかったけど、レイと話すことを考えていたら、少し元気になった気がした。夕方、帰る前にレイの悲鳴が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
次の日、裏門で昨日と同じ時間ぐらいから、レイが来るのを待っていた。
今日もレイは現れなかった。
こうまでレイと会えないと、嫌われたのではないかと不安が湧いてくる。
私は弱る心に鞭をうち、男子寮に向かった。
今日もいないだろうとは思いながらも、レイがいるか寮の管理人さんに聞く。
「いるよ、今、呼んでくるからここにいて」
「本当ですか⁉︎」
「あ、ああ」
いないと思ったレイがいると聞いて、思わず大きな声を出してしまい、管理人さんを驚かせてしまった。
私は小さく謝り、管理人さんは苦笑いしながらもレイを呼びに行ってくれた。
そして、管理人さんがレイを呼びに行って5分ぐらいしてから、レイを連れた管理人さんが戻ってきた。
「よう、どうしたシャルステナ?」
「あ、あの…、その…」
「…立ち話もなんだし、向こうの広場でゆっくりはなさないか?」
言い淀んでいる私にレイが気を使ってくれたのか、広場でゆっくりと話そうと言ってくれた。
レイとゆっくり話…
私は鼓動が早くなるのを感じた。
広場は立ち並ぶ寮の建物を囲むように作られていて、円形になっている。
そこには、簡易的な訓練器具や、木で作られた椅子、机などが置いてある。
「それで?どうしたの?」
私が椅子に腰掛けたタイミングで、レイが聞いてきた。
「あ、えっと、その、こないだは、ご、ごめんない」
私が頭を下げるとレイは笑い声を漏らした。
「え?」
「ははは、悪い悪い。いや、お前こないだから謝ってばっかだからさ、なんかおかしくて」
突然笑い出したレイに、私が不思議そうにしていると、レイは笑いながらも説明してくれた。
レイの言う通り、確かに私はレイにあってから3度しか話したことがないのに、二度も謝るために話しかけている。
レイはそれがおかしかったのだと言う。
「そんないちいち謝んなくていいよ。別にこないだのことも、迷惑だなんて思ってないさ。びっくりはしたけど」
「うぅ…」
こないだのことと言われて、また思い出して顔が赤くなってしまった。
「それとさ、何に緊張してるのか知らないけど、もっと気楽に喋ったらどうだ?俺は別に口が悪いからとか、そんな理由でシャルステナを嫌いになったりしないさ」
嫌いになったりしない⁉︎
つまり、私のことが好き⁉︎
「お〜い、シャルステナさん?」
「あ、はい!」
私が妄想の中にトリップしていると、レイが私を呼び戻した。
「まーた、それだ。もっと気楽に、はい気を抜いて、肩の力を抜いて、大きく深呼吸して、そしてアホみたいな顔をして…」
「それはイヤ!」
私がレイの指示通り、体の力を抜いて大きく深呼吸したりしていると、アホな顔をしてみろと言ってきた。
そんな顔、レイの前で晒せるわけがない。
「話せるじゃないか」
レイがニヤッと笑い、言った。
「え?」
「さっき、詰まらずに話せたじゃないか」
「ほんとだ…」
話せる。
緊張してない。
思わず涙が出そうだ。
「おいおいおい、こんなところで泣くなよ。俺が泣かしたみたいじゃないか」
「ごめん、つい、嬉しくて」
「まぁ、俺も昔は人見知りだったからわかるが、人見知りを克服するには、やっぱり人と話すことが一番だ」
ん?
人見知り?誰が?…わたしか!
私を人見知りと勘違いしたまま、レイは話を続ける。
「初めて話す人に対して緊張し過ぎると、変な風に思われて、第一印象が悪くなる。人と人との関係は第一印象がとても大事だ。第一印象が悪いと、それから先関わろうとは思わなくなるからな。だから、人見知りを克服するのは大事なことだ。初めは挨拶だけでもいいから、できるだけ多くの人に話しかけてみたらいい。きっと、だんだん良くなる。時間がかかるかもしれないが、しばらくは俺で話す練習をしてみたらいいよ」
「えっと、うん、頑張ってみる」
結構、一生懸命説明してくれたレイに、勘違いとは言えず、私は人見知りということになってしまった。
だが、これを口実にレイとおしゃべりできるのなら、人見知りでもいいかな、と受け入れた。
それから、いろいろと話しをして、日が暮れる前に帰った。レイとの会話はとっても楽しかった。ずっと望んでた事だからか、何度か涙が出てきてしまった。
今度は泣かずに話せる様になりたいな。
〜〜〜〜〜〜
コンコン
「はい」
ガチャ
扉を開けるとそこには寮の管理人が立っていた。
「下に友達が呼びに来てるよ」
「わかりました。ちょっと待ってください」
友達?
誰だろう?友達と言えばディクだが、ここにいるはずがない。
となる、とたぶんシャルステナだな。
俺は一昨日買った新品の服に着替え、下に降りた。
そこにはやはり、シャルステナがいた。
「よう、どうしたシャルステナ?」
「あ、あの…、その…」
んー、これはまた一波乱ありそうだな。
今日はゆっくりしたいんだが。せめて、落ち着いて話をしたい。
そういえば、丁度いい場所があったな。
「立ち話もなんだし、向こうの広場でゆっくりはなさないか?」
シャルステナはコクリと頷くと、俺の後を追ってついてきた。
その表情は緊張と羞恥の色が見て取れた。
恥ずかしいのはたぶんこないだのことだろう。
緊張はどうしてだろうか?
とりあえず話を聞いてみようか。
「それで、どうしたの?」
「あ、えっと、その、こないだは、ご、ごめんない」
シャルステナは頭を下げて謝ってきた。そんなことで緊張してたのかと、おかしくて笑ってしまった。
どうやら深読みし過ぎたみたいだ。
「え?」
「ははは、悪い悪い。いや、お前こないだから謝ってばっかだからさ、なんかおかしくて」
俺が何で笑っているのかわからないと言う顔をして、こちらを見てきたシャルステナに、謝罪しながら説明をした。
大したことじゃないのに、真剣に思い詰めて謝罪してくるシャルステナ。
俺はもっと気楽にしたらいいと言ったが、それだけではダメなようだ。恥ずかしそに顔を赤らめている。
「それとさ、何に緊張してるのか知らないけど、もっと気楽に喋ったらどうだ?俺は別に口が悪いからとかそんな理由でシャルステナを嫌いになったりしないさ」
俺がこう言うと、彼女は何故か惚けた顔をして、意識ここにあらずとなってしまった。
「お〜い、シャルステナさん?」
「あ、はい!」
「まーた、それだ。もっと気楽に、はい気を抜いて、肩の力を抜いて、大きく深呼吸して、そしてアホみたいな顔をして…」
「それはイヤ!」
シャルステナを呼び戻すとまた緊張していたので、緊張をほぐそうと冗談を交えながら、緊張を解く方法をズラズラと上げていると、初めてシャルステナが詰まらずに喋った。
「話せるじゃないか」
思わず言葉にしてしまった。
「え?」
「さっき、詰まらずに話せたじゃないか」
「ほんとだ…」
彼女は自分の言葉を確かめるように呟くと、目に涙を浮かべた。
「おいおいおい、こんなところで泣くなよ。俺が泣かしたみたいじゃないか」
「ごめん、つい、嬉しくて」
そうか。涙が出るほど嬉しかったのか。
ん?ちょっとまてよ。
よくよく考えて見れば、俺は彼女が俺以外と話をしているのを見たことがない。
新入生代表の時や、自己紹介の時はスラスラと話していたので気が付かなかったが、彼女はひょっとして人見知りなのではないだろうか?
1人で発表するように話すことはできても、人の顔を見て話すとテンパってしまい、言葉が上手く話せない。
俺も昔似たような経験がある。俺の場合は発表もできなかったが、歳をとるにつれて、人と話すということに慣れてきて、改善されたものだ。
彼女はまだ7歳。
まだ、これを1人で解決するには幼すぎるかもしれない。
だから、人と上手く話せず、悩んでいたのかもしれない。それが、あの涙か。
ここはひとつ俺が力を貸してやるか。
ここでこの事実に気づいたのも、何かの縁だ。
それに女の子が泣いているのに、ほっとくわけにはいかない。
できる限り協力しよう。
「まぁ、俺も昔は人見知りだったからわかるが、人見知りを克服するにはやっぱり人と話すことが一番だ。
初めて話す人と緊張し過ぎると、変な風に思われて第一印象が悪くなる。人と人との関係は第一印象がとても大事だ。第一印象が悪いと、それから先関わろうとは思わなくなるからな。だから、人見知りを克服するのは大事なことだ。初めは挨拶だけでもいいから、できるだけ多くの人に話しかけてみたらいい。きっと、だんだん良くなる。時間がかかるかもしれないが、しばらくは俺で話す練習をしてみたらいいよ」
「えっと、うん、頑張ってみる」
よかった。前向きに考えてくれて。
これで彼女の人見知りは一歩前進だ。
それに、この後いろいろ話して思ったが、この子は別に変な子ではなかった。
それがわかっただけでも、今後の俺の生活がより一層、楽しいものになるはずだ。
もう、赤髪の女の子の扱いに、頭を悩ませる必要もないのだ。
これで今後は、ゆっくりと過ごしていけることだろう。
次は明日になると思います。




