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105.アジト

 アフロト大陸にはローランス砂漠と呼ばれる広大な砂漠が広がっている。ローランス砂漠は4つの国が出来るほど広大な砂漠だ。しかし、そんな所だから国境を越える事は容易で、また隠れ蓑となる場所もまた多い。

 それが、この大きな盗賊団が未だ存続し続けている理由だろうか。


 ふと、空を見上げれば薄い砂煙の向こうに赤々とした太陽が見える。

 ジリジリとした暑さ。白い砂からの照り返し。砂面近くは熱でユラユラと視界が揺れている。

 まるでフライパンの上に立っているかのような気分だ。上からバーナーで炙られながら、こんがりと焼かれる魚気分だ。


 しかし、今は魚の炙り焼き状態だとしても、砂漠の夜は冷凍庫に入れられた食品の気分を味わなければならない。


 これだから、砂漠での暮らしは厳しい。日中は肌を焼くよなうだる暑さ、夜は氷に触れているような凍えるような寒さ。

 その寒暖差の大きさから、岩肌は風化し砂へと変わり、それがまた砂漠を形作る一要因になる。自らがその一要因にならぬ事を祈るばかりだ。


 しかし、全ての岩が風化して消えてしまったわけではない。風化とな長い年月をかけて起こる自然現象。すぐに砂と変わるわけではない。

 未だ砂漠には幾つもの大きな岩がその姿を残している。


「ここが私達のアジトだ」


 俺は今、ルクセリアに『蛇の毒』の本拠地ーーアジトに案内されていた。そこは大きな岩をくり抜いて出来た洞窟のような所だった。

 アジトの周りには盗賊達が見張りに立ち、常に警戒を怠っていないようだ。銃ではないが、武器を手に持つ見張りと、砂漠の上でドンと構える岩の存在感。一目見た印象として、要塞という言葉が浮かぶ。


 アジトの周辺は他に遠々と砂地が繋がり、まるで陸と切り離された孤島のように、他とは切り離された砂漠の海に浮かぶ孤立無縁の場所だった。

 例え船が来ても、すぐに迎撃される事になるのだろう。

 ここは世間から秘匿されたアジトとというわけだ。


「いいのか? 血契約しなくて?」


 アジトの中を案内されながら、俺はルクセリアにそう問い掛けた。というのも、俺はまだルクセリアと血契約を結んでいなかったからだ。

 今この場で俺が逃げれば、アジトの場所が晒されるとは思ってないのだろうか? それとも逃さない自信があるのか?

 どちらでも構わないが、血契約の話を持ち掛けた俺としては、するのかしないのかハッキリして欲しいところだった。


「構わない。レイ……旦那がそういう事はしないと確信している」

「おい、何で言い直した?」


 旦那? むず痒い。そんな呼び方されるほど、年は取ってないぞ。


「取り引き相手なのだ。子供だからと呼び捨てにするのも忍びない」

「そこはレイさんでいいんじゃない?」

「そこは盗賊風にテイストしたのだ」


 そんなテイストいらないんだけど……

 まぁ、俺より遥かに年上の人にレイさんと言われるのも気持ち悪いし、ここは妥協しておこうか。

 名前というのは慣れだからな。そのうち気にならなくなるだろう。


「旦那、ここが旦那の部屋だ。ここでは旦那の事を客人として扱う事にする。基本は旦那の好きにしてもらっていい」

「お前旦那、旦那言いたいだけじゃないのか?」


 あまりにも『旦那』が多いので呆れたような目で見ると、ルクセリアは親指と人指し指でを少し開けて認めた。


「……少しな」

「はぁ……別にそう呼ぶのは構わないけど、次からは抑えてくれよ?」


 ちょっと躊躇ったように小さめの声で白状したルクセリアに俺は短くため息を吐いた。暫くはこのむず痒い気持ちに耐えないといけないようだ。


「善処しよう。それでは、私は手下達の報告を聞かなければならないので、失礼する」


 俺は去っていくルクセリアの背を見ながら、彼の事を考えた。


 服装やボサボサの頭でカモフラージュしているが、彼はとても普通の盗賊とは思えない。どこか盗賊ごっこをしているようにも感じるし、何より粗暴な他の盗賊達とは雰囲気が違った。

 だから、とても彼の事が気になった。


 建前は子供達の今後を見守りたいというもの。だけど、本音は彼に興味が湧いたから付いてきた。

 ルクセリアはとても強い。それは精神的にも肉体的にも。

 だから、彼を見たかった。彼が何故盗賊をやっているのか。そして、何の為に剣を振るうのかが知りたいと思った。俺の意思を決めるために。


「だがまぁ、建前も大事だよなぁ」


 そんな事を呟きながら、俺は部屋を後にするのだった。



 〜〜


「おっす、どうだ? ここでやって行けそうか?」


 俺はできるだけ明るく、俺と一緒に連れてこられた子供達に話し掛けた。


 この子達のうち男の子達は俺と同じくユーロリア大陸から連れてこられたらしい。残り2人の女の子は帝国から。彼らを捕らえた盗賊達から、何処で攫ってきたのか道すがら聞いたが、皆バラバラだった。

 今頃親御さん達は血眼になって探しているのだろう。そう考えると、悪い事をしている気になった。


 シャルステナならなんて言うだろう?


 きっと送ってあげようと言うに違いない。

 だけど、いいのか? それで……


 やはり俺はこの子達を連れて帰る気にはなれなかった。それと同時にその事を申し訳なく思った。


「わからないよ」


 俺の問いかけに、盗賊になるかの選択の時に真っ先に答えた少年が代表して答えた。

 この少年の名前はグールと言う。将来、ゾンビ化しそうな名前だが、金髪の活発な男の子でイメージ的には真逆だ。


 他の三人の名前もここに来る途中で聞いた。三人のうち男の子の名前はキース。キースは目元を黒い髪の毛で隠し、暗そうな感じだ。俺の魔法に手を伸ばしたのも彼が最後で、少しオドオドしている少年だ。


 残り2人の少女は姉妹らしい。姉妹仲良く攫われてしまったようだ。親御さん達は気が気でなかろう。

 この姉妹の名前はそれぞれ、ソラとノルル。ソラが姉でノルルが妹らしい。見た目的には逆だが、お姉さんとしての立場もあるだろう。身長でイジるのはやめてあげよう。


「まぁ、初日だけじゃわかんないよな」


 ルクセリアはこの子達をどうするつもりなのだろうか?

 いきなり盗賊稼業を手伝わせるような無茶を言うタイプではないだろうけど、いずれはそうするつもりなのだろう。

 それまでどうするつもりなのだろうか?


「……直接聞くしかないわな。じゃあ、俺はまた時々様子見に来るから、盗賊のおっさん達に何かされたら言うんだぞ。俺が取り引き相手として地味に効く嫌がらせしてやるから」

「うん、わかったよ」


 早くもこの小さな集団のリーダーになりかけているグールは頷くと、またねと笑顔で手を振ってきた。

 俺はそれに手を振り返すと、ルクセリアを探してアジトの中を彷徨った。


 〜〜


 アジトの中は非常に入り組んだ形をしていた。まるでアリの巣の中の様に、上下左右に広がっていた。無闇やたらに歩いていたら、迷子になりそうだ。


「よくもまぁ、これだけ穴を広げたもんだ」


 穴掘りのスキル持ちでもいるのだろうか?

 とてもじゃないが、一朝一夕になる仕事ではない。子供達の最初に覚える事はこの穴の構造かもしれないな。

 それは俺もだけど……


「地図でも作るか」


 俺は紙とペンを片手にアジト内を歩き回る。やはりこういう場所は空間が使いにくい。岩に邪魔され全体像が掴みにくいのだ。

 ルクセリアを探さねばならないし、俺は自分の足で地図を作る事にした。


 そうして歩く事1時間。かなり地図は完成に近づいてきた。あとは……


「旦那、ここにいたのか。部屋にいないのでな、探したぞ」

「ルクセリアか。丁度良かった。俺も探してたんだ」


 ルクセリアもまた俺を探していたようだ。何か用があったのかもしれない。

 取り引きの話だろうか?


「これを返そうと思ってな。取り引き相手の物を盗ったままのなのは、申し訳なくてな」

「そんなの気にしなくていいのに。だけどまぁ、ありがとう」


 俺はオーガの剣を受け取わり、鞘から出してその刀身を覗いてみた。

 鍛冶屋でこいつを見た時は薄青く光ったていた光沢も今では、薄暗くなってしまっている。刀身自体に小さな傷が幾つも重なり、光を散乱させてしまっているようだ。軽く指で撫でてみるとよくわかる。


 やはりこの剣は俺に合わない。


 時間の問題であろう。この剣が折れるのも。また、代わりの剣を探さなければならない。いや、今度は頑丈でそう簡単には折れない剣を作ろう。

 今度から出会うS級の素材を取っておけば、良い剣が作れるに違いない。ある程度集まったら世界一の鍛冶屋師を探してみよう。


 俺は刀身を鞘の中にしまうと、ルクセリアにお礼を言った。


「ありがとう。いつも身に付けてた重みがないのも寂しいものだったから」

「いや、構わない。見たところ中々良い剣のようだ。何を核に使っているのだ?」

「オーガのツノらしいよ。まぁ、俺が手に入れた素材じゃないんだけどね」


 この剣は元々武闘大会の開催地ガルサムの鍛冶屋で売っていたものだ。おそらくギルドから仕入れたツノで打った剣だろう。あの最後まで俺をヒモ男だと勘違いしていた鍛冶屋のおっちゃんがオーガを倒せる程強いようには思えないし。


「オーガのツノか。出回りやすく、それでいて貧弱でないいい素材だな」

「まぁ、あいつらは硬いだけがアインデンティティだからね」


 ある意味硬さ特価の木偶の坊。あれで動きが速ければS級指定は間違いなかろう。実際更に硬さを増して、速くなったキングオーガはS級だしな。

 ある意味厄介な相手だが、その硬さを破る事が出来る者からすればお手軽なS級だとも言える。俺としては属牛のイリュージョン状態の方が遥かに厄介。属性無効化はほぼ魔法を無効化してしまう。下手したらシャルステナでは勝てない可能性もあるのだ。


 いやだが、あの天使化状態ならば不可能ではないかもしれない。チートも良いところのあのスキルならば、限界突破以外の強化をフルで使ったディクに並びそうだ。

 ちょっと待てよ?

 やはり俺たちの中で一番チートなのは彼女じゃなかろうか?

 あれで限界突破を使えたら……俺は負けるな。確実に。


 あの精霊魔法でも正直しんどいのに、天使化と限界突破のコラボまでされたら、剣でも魔法でもおれはボコボコだ。

 俺は将来尻に敷かれる事になるかもしれない。物理的には柔らかそうだからありだが、精神的にはなしの方向でいきたいものだ。


 そんな風にシャルステナとの将来について考えていると、ルクセリアの言葉で現実に引き戻された。


「ほぉ、まるで戦った事があるような口ぶりだな」

「何度かね。俺の住んでたところだと珍しくなかったからさ。大概どこの山にも一体は必ずいたかな」


 一時期大発生してたからな。嫌という程戦った。正直、もう慣れた相手だ。


「そうか、まぁそうだな。こんな砂漠でなければ珍しくもない魔物だ。私は出会った事はないが……」

「そうなのか? アフロト大陸の下に行けば、かなり豊かな土地もあるって聞いたぞ?」


 オーガは山を好む。山があれば勝手に住み着く。だから、緑のある所ならどこにでもいそうなものだが……


「あまり大陸の下には近づきたくないのでな。私自身あまり砂漠を出る事はないのだ。一応、頭領としてアジトをあまり離れるわけにもいかないしな」

「ふーん」


 俺は鼻で返事をした。

 今の口ぶりだと大陸の下にも手を伸ばしているように聞こえる。しかも、頭領がアジトを長く離れるわけにはいかないか……

 ひょっとして……


「『蛇の毒』ってかなり大きい盗賊団なのか? ここには200人もいないように見えるけど……」

「だいたい1500人程だろうか。ここにいない者は大陸各地に向かわせている。砂漠は身を隠すには申し分ないが、ここで得られる収入には限度があるのでな」


 1500……⁉︎

 大盗賊団じゃないか……!

 うおぉっ、ルクセリアはその頭領?

 俺は今結構ヤバい集団の中にいるんじゃないのか?


「そう警戒しないでくれ。旦那は取り引き相手。無理矢理奪う事はしない。それもこちらが何か差し出す事はない、最高の取り引き相手だ。旦那が満足するまで、安全は私が保証しよう」

「お、おう」


 俺がビビったのはギルドにこの事がバレたらどうしようという事なのだが、ルクセリアは少し勘違いしたらしい。ビビっている理由を話すのも恥ずかしいので、このままにしておこう。

 どうか、神様、竜神様、妖精神様、俺の行いがバレませんようにッ……!


「ところで、俺もルクセリアに用があったんだが……」

「聞こう。取り引きの話か?」


 ルクセリアは目に光を灯らせた。何が貰えるのかと、期待している子供のような目だ。

 しかし、取り引きの話はまた今度。今は先に聞いておきたい事がある。


「いや、あの俺と一緒に連れてこられた子供達はどうなるのかなと」

「なんだ、そちらの話か。無論無下には扱わない。彼らはもう私たちの仲間、家族だ。大きくなるまでは、私の元で修行させ、知識を身に付けてもらう」


 ルクセリアは明からさまに残念な顔をした。だが、子供達の扱いについてはしっかりと教えてくれた。俺もその回答に安心できた。

 ルクセリアならば任せても間違いは起こらないだろう。他はあまり信用出来ないが、この男ならば大丈夫だろう。


「そうか。なら、俺からは特に言う事はないよ。暇になったら、俺が彼らに何か教える事もあるかもしれないけど、それは構わないだろ?」

「ああ。子供同士、仕事がない時は遊んでくれて構わない。私は余り友と遊んだ事がないのでな。そういう事は教えられない」

「ルクセリアって結構可哀想な子供時代を送ってきた人? いじめられたりしてのか?」

「そうだな……碌な子供時代ではなかったと私自身思うところだ」


 ルクセリアは余り思い出したくないものをその曇った両目に移しているかのようだった。


 〜〜


 俺が盗賊の取り引き相手となってから、1週間が経過した。その間に何度か取り引きという名の寄付を行った。最初に渡した剣の他に食料、防具、生活用品などを提供した。


 この際だ、正直に言おう。


 もう収納空間の中はカラッカラだ。この辺り一面の砂漠と同じく乾ききっている。

 残るは無駄にでかい我が城と、魔石と素材が少々。あとは最低限の食料と飲み物だけだ。

 そして、今の俺は無一文。


 これはよろしくない。働かなければ……


 という事で俺は一旦街に戻る事にした。その事をルクセリアに伝えると、


「では、必要な物を買ってきてほしい」


 との事。金も渡された。多分奪ったものだろうけど……


 行きはルクセリアに送ってもらい、帰りも迎えに来てくれとお願いした。砂漠は目印がなく、慣れない者にとってはどこにいるのかもわからなくなる。

 そんな中をアジトを探して彷徨い歩いていたら干からびるか、凍死するかのどちらかだ。

 そこは取り引き相手としての立場にかこつけて、しっかりと要求を通させてもらった。


 そうして俺は港町に戻ってきた。街に着くと早速ギルドへと向かう。そして、小金を先に手に入れようと、依頼より先に魔石と素材を売った。

 すると……


「これが買い取り金額の18万6千ルトになります。お確かめ下さい」

「はい、確かに」


 俺は金を受け取ってその場を去ろうとした。しかし、ギルド職員のお姉さんに片手を掴まれ止められた。


「少しお待ちを!」

「えっ? なんですか?」


 まさか……バレたのか?

 盗賊と取り引きしてる事が。


「お名前はレイ様でお間違いありませんね?」

「は、はい」

「ギルドマスターがお会いになります。どうぞこちらへ」


 おいおいおい、嫌な予感がしてきたぞ。逃げるか?

 いや、それでは自ら冒険者をやめてしまうようなものだ。

 何か、いい手はないものか?


 トントントントン…………チーン!


 そうだ‼︎


 俺は閃いた。完璧な言い訳を。


 俺は盗賊に捕まった。奴隷として売られそうになっていた時、別の盗賊に襲われた。だが、その盗賊団は何故か俺たちを解放し仲間になれと要求。俺以外にも捕まっていた可哀想な子供達はその要求に首を振る。

 俺も逃げたしたかったが、多勢に無勢。勝てないと踏んで、子供達をいつか連れて逃げる事を決め、要求をのんだ。

 そして、冒険者だという事がバレ、俺は1人魔石を金に帰るためにギルドにきた。


 ……という事にしよう。


 アジトの場所を聞かれたら、血契約を結ばれ、話せない。跡をついてこられても死ぬ。俺が子供達を奪還するまで盗賊になる事を黙認してほしい、と言い訳しよう。


 さぁ、頼むぜ俳優さん。全ては君にかかってる。


 俺は覚悟を決め、ギルドマスターの部屋に入った。


「そちがレイなる者か?」

「はい」


 ギルドマスターは年老いた老婆だった。ヨボヨボの肌でとてもではないが強そうには見えない。だが、ギルドマスターはかつて冒険者として名を馳せた者にしかなれないものだ。この人もかなりやり手と見て間違いないだろう。


「わたしゃ、ここでギルドマスターをやっとるラムシェルじゃ。ラム婆と呼ばれとる」

「レイです」

「知っとる」


 わかっとるわッ!

 一応名乗る場面かなと思って言っただけだろ。この婆さん嫌いだ。


「早速本題に入るとしようかの。お前さんには……」


 ごくっ。

 俳優さん、お願いしやす……!


「帝国貴族マーレシア・ヒュールキャスより褒賞が送られてきておる」

「あの日、俺は寝ていました。ええ、油断して……今なんて?」

「お前さんこそ、何を言っておる?」


 ……………………


「なるほど! マーレシアからお礼が届いたのか! え? なんで?」


 俺は流した。この重っ苦しい沈黙を。


「お前さん、ユーロリア大陸で変異種を倒したそうじゃないか。子供ながら、よくもまぁ倒せたもんだ」

「あー、あのイリュージョンね」


 お礼はいいって言ったのにな。律儀なもんだ。しかし、今は感謝しよう。すぐにでも金はほしいところなのだ。


「して、報酬はお幾ら?」

「変異種討伐の報酬は2000万じゃ」


 おぉ? また金持ちに逆戻りですか?


「それと、お前さんが加わったクラーケン討伐の報酬と貢献度からさらに報酬が上乗せされておる」


 思いっきり忘れてた。そういや報酬貰ってなかった。最近、ギルドに寄ってなかったからな。


「その報酬が2500万。さらにマーレシア・ヒュールキャスの命を救った事に関して、その父親から1500万の報酬が出ておる。しめて6000万じゃ」


 どうやら俺は貧乏ではいられない運命にあるようだ。


「それと、マーレシア様とその妹君のルーシィ様からの伝言がある」


 聞きたくねぇ……ていうか、何故にルーシィからも?


「『私たち二人とい・い・こ・と、しませんかぁ? 帝都で待ってますよ♡』」

「やめて‼︎ もうそれ以上は言わないで‼︎ いやほんとマジで勘弁して下さい‼︎」


 ヨボヨボのお婆さんがそんな事は言わないでッ‼︎ シュールすぎる……ッ!


 そんな俺の悲痛な叫びの横で、職員さんが吐き気を催してた。


「オエッ」

「お前さん今月給料抜きにするよ?」

「あぁー! 私急ぎの仕事が! マスター、失礼します!」


 職員さんは慌てて部屋から出て行った。

 気持ちはわかる。痛いほど。いや、吐きそうなほど。


「して、これで報酬の話は終わりじゃ。報酬はお主のカードに入れとくでの」

「ああ…………オエッ」

「お前さんも報酬減引きするよ?」


 ラム婆は話を戻そうとしたが、そう簡単に切り替えられなかった俺は、吐き気を催した。すると、先程の職員さんと同じくラム婆の細められた視線が突き刺さった。


「はは……急用が出来たので俺も失礼します」


 丁度要件も終わった事だし、俺は足早に退散する事にした。こういう時は逃げるが勝ち。座右の銘に加えよう。しかし、ラム婆は今度は逃がしてくれなかった。


「待ちな」

「な、なんでしょう?」


 俺は返した踵を、ビビりながらまた返す。

 報酬削るのは構わないから、ギルマス権限で除名とかは勘弁して頂きたい。ランクも下げないで欲しい。


 そんなビビり君状態の俺にラム婆はニヤリと口角を上げて、持ち掛けた。


「お前さんに引き受けて貰いたい仕事がある」


 ーー指名依頼を。


 ギルマスからの指名依頼。それは難易度不明、ランク無関係の超実力派依頼。


 それを冒険者達は俗にこう呼ぶ。


 マスターズクエストと。


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