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98.言葉にする事

 今、わかった。

 ここ最近何故俺がイラついていたのか。それは俺の思い通りにいかない世界の不条理に対して怒っていたのだ。

 だが、仕方ない。俺は特別なんだ。邪魔者は向こうからやってくる。だから、イラつく必要などない。邪魔者は全て蹴散らし、踏み倒せばいい。

 その先にこそ自由があるんだ。


 そう、これはプロセスだ。俺が世界一自由な冒険者となるための。俺の自由を邪魔する奴を全部消せば、自然と俺が世界で一番自由な冒険者になれるんだ。

 そう考えれば、クラーケンの事も、昨日の事も、この牛の事も不思議と怒りが湧いてこない。


「レイ殿、お見事です!」


 ほら、やっぱり俺は凄い。冒険者ならSランク認定されてもいてもおかしくない実力を持っているレーナさんが俺の実力を認めている。

 それに、生まれる前から俺は特別なんだ。ノルドにこの世界へ何度も連れてきてもらい、転生もさせてもらった。同じく転生したアーシュも相手にならなかった。


 俺がこの世界で一番特別なんだ。


「ピィィ」(ハクもやりたかった)

「ははっ、悪い悪い。次はハクにもやらせてやるさ」


 ハクは俺一人でやってしまった事が不満だったようだ。次に魔物が出たらハクに相手させてやろう。


「レイ無茶し過ぎだよ。わざわざ攻撃をそれで受ける必要なんてなかったのに……」

「この方が早くて楽なんだからいいじゃないか。たかがS級ごときに俺が負けるわけがない」

「えっ……?」


 シャルステナは口を小さく開けたまま、驚いたように固まった。


「……? どうした?」

「う、ううん、何でもない……」


 段々と声音を落としたシャルステナ。

 どうかしたのだろうか? 何か俺はおかしな事を言ったか?

 いや、変な事は何も言ってないはず……


「レイ、セーラが寝ちゃったから早く次の街にいこ? 出来れば宿で休ませてあげたいから」

「えっ? もう寝ちゃったのか? 昨日夜更かしでもしたのかな」


 まだ朝なんだけど……

 二度寝か?


「まぁそうだな。レーナさん悪いけど、俺たちは急ぐからもう行くよ」

「そうですか。お気を付けて。その子が助かるといいですね」


 そうして、俺たちはレーナさんと別れた。牛の魔石と素材はレーナさんにあげた。討伐した証拠も必要になるだろうし、金には困ってはいるが、足りないわけではないので、遠慮して受け取らないレーナさんの足元に置いてきた。そのまま放置はしないだろう。


「レーナさん、セーラの病気に気付いてたんだね」

「昨日世界樹の雫が欲しいって言ったからじゃないか?」

「あ、なるほど」


 俺がおぶるセーラにつられ寝始めたハクも頭に乗せながら、俺とシャルステナは二人で時折口を交わして、街を目指した。



 〜〜〜〜〜〜


 この大陸に来て一ヶ月が過ぎようとしていた。属牛の一件以来実に平和な毎日が続いていた。朝起き、世界樹を目指す。街や村があれば宿で休み、シャルステナの意見もあって野営となった時は魔法で簡易の家を作りそこで寝る。

 魔物は全てハクとセーラに任せ、俺は手を出さなかった。雑魚をわざわざ俺が相手する必要はないからな。


 そんな風に順調に旅を続けていた俺たちだが、最近セーラの寝坊助具合が酷い。甘やかし過ぎたのか、ハクと同じでほとんど一日中寝るようになった。ハクの悪影響が出ているのかもしれない。

 その辺の生活習慣とかにうるさいシャルステナが何も言わないから黙っているが、そろそろ甘やかすのはやめなければならないかもしれない。


「最近暑くなってきたね」

「そうだなぁ、夏が近いからだろうな。そろそろ梅雨かな?」


 最近歩いていると汗ばむようになっきた。基本草原に近いところを歩いているので、日光が直に降り注ぐのも理由の一つだろうが、気温自体が上がっている気がする。

 季節もそろそろ変わる頃だ。梅雨入りも間近に迫っている。


「雨の日は大変だよね。セーラを濡らすわけにはいかないし……」


 そうなのだ。セーラが風邪を引いたら一大事。そうならない為に、シャルステナと交代で雨を魔法で避けなければならない。地味に疲れるのだ。


「梅雨が明けたら今度は日光に気を使わないといけないしな」

「そうだね。あんまり黒くはなりたくないよ」


 そんな風に取り留めのない会話をしながら、適当な宿を探し夕暮れ時の街を歩いていた。

 すると突然、男が目の前に飛び出してきた。俺はぶつかる寸前で躱したが、男は何かに躓いた様に転けた。そして、肩を押さえわざとらしく大声で痛がった。


「いてぇぇぇ‼︎」

「だ、大丈夫ですか⁉︎」


 優しいシャルステナはすぐに男を心配し、駆け寄った。一方、俺はその男を冷めた目で見つめていた。

 地面に倒れる前に手をついたくせに、ぶつけてもいない肩が痛いのか。


「おいコラにいちゃんよぉ! 俺の相棒がお前のせいで怪我したじゃねぇか! どう落とし前つけてくれやがんだ⁉︎あぁん⁉︎」


 男に続いて路地から出てきたガラの悪い男はガンを垂れるように俺を睨んだ。


「そこの男が勝手に転けただけだろ。俺は避けたから何もしちゃいない」


 どうせ無駄だろうと思ったが、一応事実を伝えてみた。


「そんな事はかんけぇねぇんだよ! お前のせいで相棒は怪我した! それが事実なんだよ! 俺が聞きてぇのはどう落とし前つけてくれんだって事だよ⁉︎」


 思った通り無意味だった。けど、これではっきりした。

 こいつらは俺の邪魔をする敵。敵はーー


「何とか言えやコラッ‼︎」


 そう言って胸ぐらを掴み上げてきた男。それを見てシャルステナが止めに入ろうとする。


「やめて! レイは何もしてないよ! この人が怪我をしたのなら私が直すからやめて!」

「あぁん? 女は黙って……」


 止めに入ったシャルステナを見て男は瞼を吊り上げ、ニヤリと笑う。下卑な笑みだった。男が何を考えているか筒抜けの笑みだったが、男はそれを崩さぬままシャルステナに詰め寄った。


「そうだなぁ、このにいちゃんは相棒に怪我をさせておいて落とし前をつけてくれないみたいだからなぁ。お前に落とし前をつけてもらおうか」


 そう言って、男がシャルステナに汚い手を伸ばそうとする。俺は冷めた視線で男を睨み、その手を掴み取った。


「あぁ⁉︎ テメェ邪魔してん『ゴキッ』うぎゃぁぁあ‼︎」


 鈍い音がした。男は俺に掴まれていた手を抑え悲鳴をあげる。そんな中、肩を抑え怪我をしたフリをしていた男が怒声をあげて立ち上がる。


「テメェ何しやがった‼︎」


 そう言って、間髪おかず殴り掛かってきた男の拳を片手でバシッと受け止める。


「怪我は治ったのか? なぁ?」

「ウルセェ‼︎ テメェは黙って金と女をおいていきゃいいんだよ‼︎ そうすりゃ痛い目見ずに済んだのによぉ、もうおせぇ! 相棒に怪我させた分その体に『ゴキッ』ぐぁぁぁぁぁあ⁉︎」


 大声で魂胆を白状した男にもう用済みと、その腕をへし折った。口上が無駄になげぇ。

 大した実力もないのに、そんな無駄口を叩くからだ。この程度の奴らじゃ、俺の自由の足しにもならない。


 ……いや、違う。

 これでいいんだ。ゴミはゴミでもこいつらは資源ゴミだ。使いようによっちゃまだ活かせる。


「ほらくれてやる。百万ルトだ」


 シャルステナに手は出させないが、そんなに金が欲しいのならくれてやろう。


「ぐっぅぅ」


 男達はそれぞれ折れた腕を抑えながらも、俺の出した金に手を伸ばす。俺は袋に入ったそれを男達の足元に放り投た。そして、


「だが、慰謝料としてはまだ高すぎるな。100万もやるんだ。もう少しお前らの体で遊んでも文句はないよな?」

「ひっ、ひぃぃ」

「や、やめてくれぇ」


 二人は伸ばした手を引っ込め、震えながら命乞いをするように頭を下げた。だが、それはなんら俺が止める理由にはならない。

 俺はつかつかとわざと音がなるように歩き、男達の頭の前まで移動すると、見せつけるように足を大きくあげた。


 ーー見せしめだ。


「れ、レイ⁉︎」


 それを見てシャルステナは慌てた様に声をあげた。しかし、俺はそれを無視して男の頭を思いっきり踏み付けた。


「……ぁぁ」

「ひっ!」


 片方の男の頭が地面にめり込み、呻き声を上げる。それを見て、もう片方の男は小さく悲鳴をあげて腰を引きずり後ずさる。


「だ、ダメェーー‼︎」


 俺を止めようと伸ばしたシャルステナの手が届く前に男の腹を蹴り上げた。男はくの字曲がったまま民家の壁に激突し、血を吐いて倒れる。

 二人ともビクビクと痙攣し、意識が残っているかは定かではない。


「雑魚が」


 それは酷く冷たい声だった。チンピラ二人を見る目もまた、ゴミを見るように冷たかった。


 俺は振り返り、シャルステナに何事もなかったように告げる。


「行こう、シャル」

「ま、待って! あの二人を……」

「必要ないさ。あいつらは怪我したフリをして金を脅し取ろうとしてたんだ。それが本当に怪我して金をもらう事になったってだけの話だ。放っておけばいい」


 金はやったんだ。後はその金で治療でもなんでもすればいい。殺しちゃいないんだから。


「ほ、本気で言ってるの……?」

「本気さ。どうせ碌な奴らじゃないんだ。こいつらは俺たち以外にも同じ事をして金を脅し取ったに決まってる。逆にやり返されたからと言って、同情する必要はない」


 それでは筋が通らない。やるならやり返される覚悟を持つべきだ。何より俺の邪魔をしたんだ。報いを受けるのは当然だ。


「……そうだね。レイの言ってる事は間違ってないんだろうね。だけど、私には無理だよ。せめて、治療ぐらいさせて」


 シャルステナは俺の言い分に納得はしてくれたようだった。だけど、それでも彼女はこの二人を放ってはおけないらしい。


「シャルはほんと優しいな。いいよ。やりたいようにやればいいさ」

「……ありがとう」


 〜〜


 どうすればいいかわからない。


 私はいつもそう。あの人のように正しい道を選び続けられない。いつも迷って、迷って、迷い抜いた上で、選択している。

 だから、手遅れになってしまうのだ。いつも……


 今も迷っている。

 どうしたら一番、彼にとっていいのか、私にはわからない。間違った道を選んでしまうのが怖い。

 だけど、何かしないと。

 それだけはわかる。何かがおかしい。


 以前ならこんな仕打ちはしなかった。二度とそんな事をしないように脅しはしただろう。

 だけど、怯える相手に手をあげる事なんて絶対しなかった。ここまで徹底的に人を傷つけて、何とも思わないような人じゃなかった。


 レイが変だ。まるで別人みたいに。

 何かレイが間違った方向に進もうとしてる気がする。


 思い返せば、違和感は何度もあった。最近ではレイがS級ごときと言ったあの時。以前のレイならもっと上に見ていたはずなのだ。だから、私は違和感を覚えた。だが、もうレイにとってはそうなのかもしれないと思い直し納得した。


 その直前にはレイが怒りやすくなっていた。反抗期というものかと思い、深くは考えなかったが、あれは前兆だったのかもしれない。あの時もっと深く考えていれば、防げたかもしれないと思うと悔やまれる。


 どうしちゃったの、レイ……


 〜〜


 レイの暴走が止まらない。


 基本大きな都市から離れる程治安が悪くなるこの世界では、秘境とも呼ばれる世界樹に近づく程に治安が悪化していった。

 その分ガラの悪い人に絡まれたりする事が増えてきて、その度にレイはやり過ぎる。

 この間の男達二人のような相手ならまだいい。だが、少し強かったり、集団であった時は大変な事になる。


 前に盗賊に襲われた。その結果山が一つ消えてしまった。魔物も動植物も、盗賊が根城にしていたからという理由だけでレイは全てを焼き尽くした。

 他にも街で少し強いガラの悪い者達に絡まれた時、レイは相手の手を切り落とし、痛みで泣き叫ぶ相手を容赦なくボコボコにした。


 そんな時レイはとても冷たい目をしている。虫けらを見るような、彼らをゴミとしか見ていないそんな目をしている。


 もう完全に別人だ。どうしてレイがこうなってしまったのか私にはわからない。


 普段は何も変わらないのだ。私達には前のように優しく接してくれるし、会話をしていてもおかしいと感じる事はほとんどない。

 だが、一度レイの前に誰かが立ち塞がると途端に冷たくなる。正直その時のレイは怖い。


 私は何度も止めようとした。やり過ぎだとレイに意見した。だけど、その度にレイは正当性を主張する。

 確かにレイの言ってる事は間違いではない。間違っているのは相手で、レイも私達も被害者だ。


 だけど、私はレイにそんな冷たい目をして欲しくなかった。

 いつものように楽しそうにしていて欲しかった。

 以前のように戦いながら笑って欲しかった。


 止めないといけない。

 レイが道を誤ったのなら、私が元の道に引き戻さないといけない。

 彼が私にしてくれたように、今度は私がレイを導く。そう決めたじゃない。

 例え嫌われたとしても、絶対に止めないと。



 〜〜


「レイお願い! もうやめて!」


 腹を抑え悶絶する男の前に私は覚悟を決め立ち塞がった。


「シャル、どいてくれ」

「どかない。これ以上はやり過ぎだよ。ここまでする必要なんてないよ」


 もう相手に戦意も、悪意もない。あるのは恐怖だけ。

 これ以上やる必要なんてどこにもない。

 だけど、レイは止まらない。まるで見せつけるように自分の力を使う。その事に何か快楽を覚えているようにも見える。


「シャルも俺の邪魔をするのか?」


 そういったレイの目は冷たくて、悲しそうだった。


「じゃ、邪魔したいんじゃないよ。ただ、やり過ぎないで欲しいだけ。このままだといつかレイは人を殺しちゃう」


 こんな世界だ。いつかレイも人を殺すだろう。だけど、無闇に殺して欲しくない。それをしたら、私達はただの人殺しになる。

 そんな風になって欲しくはなかった。

 だけど、レイは冷め切った視線を変える事はなく……


「邪魔する奴を殺して何が悪いんだ?」


 私は唖然とした。それがレイの口から出た言葉だとは思えなくて。そんな考えを持つ程変わってしまった事に驚いた。


「…………私は殺して欲しくないよ」


 そんな精神論に訴える以外にレイを説得する手段がなかった事が、情けなくて悔しかった。もう私にはレイをどうやって止めたらいいのか、わからなかった。


「うぅん……あれぇ? 街に着いたの?」


 私とレイを心配そうに見詰めるハクの背で寝ていたセーラが目を覚ました。そして、キョロキョロと辺りを見回し、街の外ではない事を確認していた。


「ん? 目が覚めたかセーラ。今日もよく寝てたな」

「うん。眠くて。レイ兄とシャル姐は何やってるの?」

「ちょっとな。悪い奴らがいたんで懲らしめてたんだ」


 レイはセーラの言葉を深く考えずに受け取っていた。


 日々悪化していくセーラの体調。レイはただの寝坊助だとか言っていたが、それは違う。セーラはもう普通に起きているだけでも辛いのだ。


 レイの話ではセーラと出会った日から余命は一年から2年。だから、レイは一年以内に世界樹へ行こうとしてる。だけど、私は最近それでは間に合わない気がしてならない。

 余命一年とは、一年後に死ぬという事。だから、それまでに体は時間をかけて死に近づいている。それなのに旅なんかさせて、余命が短くならない方が疑わしい。


 セーラはそれを子供ながらに必死に隠そうとしてる。ちゃんと彼女を見れば気がつくはずなのだ。なのにレイは全く気が付かない。まるで彼女を見ていない。

 本当は気が付いていないなら言うべきなのはわかってる。だけど、今のレイにそれを伝えていいのか、この時の私にはわからなかった。


 結局私は彼のように上手くはやれないのかと、情けなくて情けなくて仕方がなかった。


 それから一週間が経った日。とうとう私の心配は現実となった。


 その日、私たちは今日の行程を終え、街で食事をとっていた。余り綺麗なお店ではなかったが、料理はとても美味しかった。そこにはいつも通りのレイがいて、ハクと料理を取り合ったり、私がそれを止めて自分の分を分けてあげたりと、賑やかな食事を楽しんでいた。


 世界樹まであと少しでたどり着くとなって、少し気が抜けたのかもしれない。この一ヶ月私は日に日に顔色が悪くなっていくセーラを心配し、その傍レイの暴走をどうやって止めたらいいか考えていた。

 だから、世界樹に近ずくにつれ気が緩んでしまっていたのかもしれない。


 その日、セーラの体調が過去最悪である事に私は気が付かなかった。


 バタンッ!


「せ、セーラ⁉︎」


 突然、セーラが椅子から崩れ落ちるようにして床に倒れた。余りにも突然の事で、私もレイも、そしてハクも反応が遅れた。


「おいっ、どうしたセーラ⁉︎」

「診せて!」


 慌ててセーラを抱え起こしたレイ。その横から私は魔法でセーラの体を診た。


 これは……


「レイ早く宿にセーラをッ!」

「わかった!」


 レイがセーラを背負い、私たちは急いで宿へと戻る。そして、すぐに宿のベットに寝かせると、私は魔法で応急措置をする。

 だけど、ほとんど意味はないだろう。病は怪我とは違う。魔法で治療出来ない深い所までセーラの体は侵されていた。


「シャルどうなんだ? もう大丈夫か?」

「……ううん。もう限界よ。治癒術師として判断するなら……もうこのベットから動かすのも危険」

「ちょっと待て、シャル。竜神が言った余命まであと一ヶ月はあるんだぞ? 何かの間違いだろ」


 レイは何もわかってない。怪我と病気は全くの別物なのだ。

 話そう。

 今、話さないときっとレイは間違いに気が付かない。気付こうとしてくれない。


「……病気で人は突然死なないんだよ。だんだん死に近づいていくの。それにここまでセーラには無理な旅をさせてしまった。余命が短くなる事だってあり得るよ」

「…………そんなはずない。竜神が嘘を言ってたんだ。こんなタチの悪い嘘付きやがってッ」


 そんな嘘をつく意味などどこにもないのに、レイは竜神が全て悪いとでも言うように、壁に八つ当たりする。


「違うよ。レイは間違えたんだよ」


 間違えたのはレイだけじゃない。私も、いやハクもギルク達も悪い。

 連れ出した責任を軽んじたレイの判断が、彼女を苦しめた。それは間違いじゃない。

 けど、私達は誰もレイを止められなかった。レイが何か突拍子もない方法を思い付いて、彼女を助けてしまうんじゃないかと何処かで期待してたのかもしれない。

 誰も強く言えなかったんだ。


 確かにレイの考えた旅路は、普通のものより遥かに速く効率的であった。だから、ここまで半年も経たずに来ることが出来た。

 けど、それだけだった。

 もっと早くにレイの考えを聞いていたら、強く言えたかもしれない。他に方法を考えられたかもしれない。

 けど、それはもう遅い。

 私達は、誰も止められなかった。だから、これは私達のせいでもある。


 けど、私はそれをわかってる。反省して、次に活かせる。


 ……口にしないといけないんだ。間違ってると思ったら、強く言わないといけないんだ。


 それが、私の学んだこと。だから、もう引かない。たとえ、嫌われても、それが何より恐ろしいと感じていても、はっきりと口にしないと、中途半端では伝わらないんだ。


「俺が? そんな訳ない。俺が動かなかったらセーラは助からなかった。今こうしてあと少しで助かる所まで来る事なんてできなかった」


 しかし、それだけではレイは理解してはくれなかった。私の声は届いていないのか、ただ自身の正当性だけを主張する。

 私はそれが悲しくもあり、不安でもあった。


「確かにレイの言う通り、レイがいなければ、セーラがここまで来れるわけがなかった。だけどね、レイが武闘大会出場をやめていれば、セーラはこんなに苦しむ事なく助かった。これはレイの判断が招いた事だよ」


「……確かにそうかもしれない。だけど、セーラは必ず助ける。この程度の失敗どうにでもなる。俺がいてセーラが助からないはずがない」


 少しだけ私の気持ちが届いたと感じた。けど、それは本当にほんの少しで、深い部分には至っていないそんなものだった。


「よし、今ここでセーラを進化させよう」


 淡々と次策へと移るレイからは、反省の色を微塵も感じなかった。私は少しだけそんなレイに憤りを覚えた。


「……どうやってよ、そんな事」


 だが、それを表には出さず、レイの案を否定した。これ以上彼女が魔物と戦うなんて出来るはずがない。それなのに無茶をさせようとするなら、私は本気でレイを叱りつける。

 そのつもりだった。

 だが、レイはそれよりももっと酷く最低な案を口にした。


 口角を吊り上げ、どこか自慢気に話し始めるレイ。まるで、その案を思い付いた自分に酔いしれているかのようだった。


「出来るさ。俺の持ってる邪神の結晶を使うんだ」


 耳がおかしくなったのかと思った。けど、おかしくなっていたのは、目の前でそれがどういう事なのか深く考えもせずに口を動かすレイだった


「それで邪神の加護をセーラに与え……『バチン‼︎』」


 私は気が付けば、レイの顔を叩いていた。ジンと掌が熱を持つ。


「……えっ?」


 赤くなった頰に手を当てるレイ。呆然と、ただ信じられないといった様子で、こちらへと顔を戻す。


 怒り任せにレイを叩いた手は小刻みに震えていた。それを隠すようにグッと手を握り締め、絞り出すように声を出した。


「最低……最低だよ、レイ」


 それだけは、その方法だけは、許せなかった。我慢出来ず手が出てしまう程に……


 何が起きるか、私は知っていたから。たとえ軽い冗談でも許せない言葉だった。


 何より許せなかったのは、あの人の生まれ変わりであるレイが、それを口にした事だった。


 彼は、その悲劇を止めるために命を捧げたというのに……


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