95.邪魔者
「何で無理なんだよ⁉︎」
青々とした空に、蒼い輝きを放つ海。日光の暖かさと塩の香りを含んだ清々しい海風が、激しく髪を搔き上げる。風は海から街へと吹き抜け、そこら中にある赤い旗がバタバタと音を立てて風になびく。赤い旗は、風見鶏のようなものだろう。街中で赤い旗がなびく様は、この街の名物かもしれない。
そんなバタバタと鳥が飛んでいるような風音を打ち消すようにあげた叫び声は、風に乗って海遊都市カールスに響き渡った。
俺は今、カールスの街の港で、ユーロリア大陸行きの船を探していた。だが、どれがその船でいつ出るのかなどがわからなかった。その時、助かったのは目的の船に案内してくれるという案内所。
そこで、ユーロリア大陸行きの船に乗りたいのだと伝えたのだが、即答で無理と返ってきたのだ。
そうして、冒頭の叫びに戻るわけである。
「落ち着いて下せぇ、お客さん。今ユーロリア大陸行きの運行はやってないんでさ」
「なんでだよ! その為にこの街に来たんだぞ?」
俺はバンバンと机を叩き、船舶案内所のおっさんに詰め寄った。赤字で運行が取り止めになっただけなら、俺の金でどうにかなる。
だから、訳を聞き出そうと俺は強気でおっさんを問い詰めた。
「そう言われましても……あっしらも困ってんでさ。ユーロリア大陸との間の海にクラーケンなんて化け物が出て……」
「クラーケン⁉︎ くそっ、何でこんな時に……」
俺は机に乗り出していた身を引いた。船が出ない理由はわかった。クラーケンなんて化け物が出れば一時運行の取りやめは仕方ない。
何せ、クラーケンは俺が今まで戦った魔物とはわけが違う。
「こんな所でSS級と会う事になるとはな……」
運がないとしか言えない。
クラーケンはギルドでSS級指定されている魔物だ。それは船の上で戦うしかないという、非常に不利な条件を含めてSS指定されているわけではない。そんなものが考慮されるのは、S級までだ。
クラーケンは何本もの長い足を使い、船ごと人を飲み込む一種の災害だ。長く足、そしてその大きさに見合った強い力で船を沈める巨大イカ。クラーケンが足を振るう度に、強烈な荒波が巻き起こり船を襲うという。人よりも船が先に限界を迎えるらしい。その後は、海の藻屑か、クラーケンの腹の中だ。
しかし、その厄介な点はその攻撃性ではなく、再生力にあるという。資料には切っても切ってもすぐに足が生えてくると書かれてあった。クラーケンは、超再生の如き、回復力があるらしい。俗に言う超再生。これこそが、SS級認定される所以であり、クラーケンの最も厄介な点だ。
軍隊レベルの集中放火。もしくは、一撃必殺でないと倒せないという。厄介極まりない能力だ。
しかも、タチの悪い事にこのクラーケン、結構頻繁に現れるのだ。
実は強い魔物の発見数は陸より海の方が多い。理由は簡単で、海は広く、また人がいないからだ。海の魔物は、人知れずブクブクと成長しているのだ。そして、人前に現れる頃には強くなってると。
まぁ、そんな雑学的情報は置いといてだ。
「流石に一人ではまだ勝てないだろうな」
一瞬一人でやるかなどと考えたが、船を守る人も援護もなしでは、俺が海の藻屑となる事は想像に難くない。
ーーいやけど、案外いけるんじゃないか?
出会い頭にコントリクションさえ当てれば……いやダメだ。余波で間違いなく船が沈む。
「ははっ、小さいのに無茶は良くないですぜ、坊っちゃん」
「…………」
俺はおっさんの物言いにイラっとして、無言でギルドカードを見せた。
「……ッ! B級⁉︎ こりゃ驚いた……その年でもうB級かい。けど、それでも無茶ですぜ。相手が悪い。今ギルドの方に討伐依頼が出てるでさ。優秀な冒険者が集まってくるまで待つ他ないですぜ」
待つ他ないか……
海じゃなきゃ、俺とシャルステナ、ハクで行けば何とか出来るかもしれないが、海だもんな。どこにいるのかもわかんないし、何より船が修学旅行の時に使った浮くか怪しいものしか残ってない。
「その依頼俺も受けれたりするの?」
「おおっ、受けてくれるんで? そりゃ助かりやす。何せ相手が相手でせ。数を集めてるんが大変なんでさ。B級以上なら文句なしですぜ」
なら、ギルドに行ってシャルステナと二人で受けるか。今はそれぐらいしか出来る事はないか……
〜〜
「……って事らしい」
「そっか……いつ討伐に向かえるかもわかんないんだ」
「ああ。いっそ大陸橋まで移動するのもアリかもしれない」
俺はギルドに向かう前に宿へと戻りシャルステナと二人だけで話し合いをしていた。不安を募らせて体調が悪化する可能性を考え、セーラはハクと街に遊びに行かせた。最強種の護衛が付いているから、万が一もないだろう。
「大陸橋かぁ…………それだと間に合わないよね」
「いや、道中急げばロスは少なくて済むかもしれない」
世界樹の森がある大陸はユーロリア大陸という、現在俺たちのいるヤンバルク帝国とライクベルク王国のあるカルマン大陸の隣に位置する大陸だ。
この二つの大陸の間には一本だけ大きな橋が架かっている。それは二つの大陸を繋げるという意味で大陸橋という名で呼ばれ、海の魔物に襲われないというメリットがあるため商人や冒険者がよく利用している。
では何故俺たちは大陸橋ではなく、カールスから船でユーロリア大陸に行こうとしているのかというと、大陸橋が非常に遠いからに他ならない。大陸橋は帝国の領土にある。それも西の端だ。
カルマン大陸は王国と帝国に二分されていて、武闘大会が開催されたのは王国領土内西方に位置するガルサム。そこから大陸橋となると、半年はかかるかもしれないという距離だ。そんな道を辿ってなどいられない。
そうして出た打開策として、ガルサムから一番近い海遊都市カールスから船でユーロリア大陸に向かうという案。
そこからは永遠と徒歩となるが、かなりの時間短縮が望める。
しかし、ここでまさかの足止め。
この世界では魔物が出たからと道が通行止めになるのはよくある事だ。しかし、海でも同じ状況になるとは考えてはいなかった。初めての遠い地への旅という事もあって、その辺の考えはまだ足りないらしい。まぁ、こんな予想外の事態考えが回らなかったのも仕方ないけどな。
「けど、それなら船が動くのを待つのと変わらない気がするよ。違う街から船で向かうのは無理なのかな?」
「いや、聞いた所によるとクラーケンが出るのはユーロリア大陸の手前らしい。どこの街から出る船もその近くを通るらしいし、余り移動する意味はないな」
この辺りの航路はどれも似たような道を辿るし、まったく別の港を目指すには船のスペックや、それに伴う積み込む食料の問題、また未知の航路故に様々な危険が伴う。出す側からしたら、船を出すメリットがないだろう。
結局のところ、街を移動しても意味はないという事だ。
「という事は、ここで運行が再開されるのを待つ以外方法はないって事なんだね」
「そうなるな」
こっちは急いでるってのに、中々上手くはいかないもんだ。俺の邪魔をしやがって。
「レイ」
「うん?」
「これはレイの考えが甘かったせいだよ」
「はぁ?」
俺は突拍子もないシャルステナの物言いに、思わずそんな風に声を漏らした。
いきなり何を言いだすんだシャルステナは。どう考えてもこれは俺のせいではなく、クラーケンのせいだ。
確かに俺はこの事態を考えてなかったが、邪魔立てしてるのはクラーケンであって、俺じゃない。悪いのは全てクラーケンだ。
「私は止めたよ。セーラを助けるのなら武闘大会に出るのは止めるべきだって」
「そんな事言ったって、あの時にはもう出る事になってたし、それにディクとの約束を果たさなきゃいけなかったんだ。今更言っても仕方ないだろ」
邪魔さえ入らなければ、何も問題はなかった。計算上ではギリギリ間に合う予定だったんだ。
「うん、今更言っても仕方ないよ。だけど、ちゃんとその事を考えないと」
「考えてるさ。だから、俺の邪魔をするクラーケンをどうしてやろうかと考えてるんじゃないか」
俺は少し苛立ちを覚えたが、声を荒げる事はなかった。
「もうこの話は終わりだ。俺はギルドに行ってくる」
そして、俺はシャルステナとの会話を強制的に終わらせ、逃げるようにギルドに向かった。
〜〜〜〜〜〜
次の日。
クラーケン討伐への参加はまだ決めてはいない。昨日、シャルステナと少し口論になったせいで、その辺が有耶無耶になってしまった。
まぁ、クラーケン討伐に向かうのはまだ先だろうから、急ぐ必要はないだろう。そんな風に軽く考え、俺は街を一人で歩いていた。
時は昼を少し過ぎた頃。刺身が食べたいと思った俺は、市を彷徨う。自分で作ろうと思ったのだ。その為に必要な魚と醤油を求め、市を物色していた。
この世界で俺は未だ醤油に出会った事がない。確か大豆から作るんだよなと朧げな知識を持ってはいるが、その製法は知らない。
だから、醤油を探すしかないのだが、先日食べた煮付け風の魚料理。あれは醤油の味がした。それを求め俺は市を彷徨っていたのだ。
「おっちゃん、これどんな味がするか舐めてもいい?」
「構わねぇよ。だが、それならこれを使ってくれ。そっちは商品だからな」
「ありがとう」
ようやく見つけた黒い液体。俺は味見用の容器を受け取り舐める。
これは……ソースだ。買っておこう。
「おっちゃん、こっちもいい?」
「あいよ、これを使いな」
ペロッ。
これは…………なんだ? 辛っ!
これはいらないな。
そんな風に色々と味見をしながら、醤油を探す。そして、ようやく正解を見つけた時、
「あっ!貴方は!」
聞き覚えのある声が聞こえた。誰だっけと思いながらも振り向くと、そこには一昨日魔物に襲われていた三人がいた。
「あっ、確か可哀想な人がいた……」
「それは私の事か‼︎ 貴様、私をおちょくるのもいい加減にしろ‼︎ 不敬罪で捕らえられたいか!」
不敬罪で捕まるのは面白くないな。確か国境のお兄さん(顔も優しそうな方)が貴族と揉め事は起こすなって言ってたっけか。
「からかうなんてとんでもない。心の底から同情しているだけですよ。なんなら知り合いを紹介しましょうか?」
「それは誠か⁉︎ 男を紹介してくれのか⁉︎ 貴様中々いい奴ではないか! よし、今までの事は水に流そう」
チョロ。
チョロいなぁこの女騎士。三十路前の女の人ってみんなこんな感じなのかな?
貴族がみんなこんな感じだと楽なんだけどなぁ。
「レーナさんまた騙されてますよ。絶対嘘ですって」
「なにぃ⁉︎」
「そういえば昨日ギルドに行った時、女騎士っていいよなぁと言ってる冒険者がいたような」
「是非私をっ! 私を紹介してくれッ!」
やはりチョロい。
「機会があれば紹介しますよ。俺はまだその人と話した事もないので、そのうちね?」
「ありがとう! 感謝するぞ、少年」
チョロい女騎士とそんな口約束を交わした後、俺は後ろにいるドレス姿の女性を見た。綺麗なドレスには引っ掻き傷が目立ち、足は泥に汚れていて痛々しい。
「それで何か俺に用でも? こないだの礼なら、気紛れでやった事なんで気にしなくてもいいですよ」
そうお嬢様に顔を向けて言った。
「いえ、それについてはキチンとお礼を差し上げたいと考えています。失礼ですが、貴方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「俺の名前はレイです。お礼は本当にいらないんで」
これ以上行き先のない金はいらない。最近は自分の金銭感覚を取り戻そうと努力しているのだ。これ以上お金が増えたらその努力が水の泡になる。俺は今、貧乏冒険者を志しているのだ。
そんな誰得の目標を掲げる俺に対して、お嬢様は首を小さく振ると。
「それはなりません。命を助けて頂き、お礼もしなかったとあればヒュールキャス家の恥です」
「じゃあ、お礼は恥をかいて貰うということで」
そんな事を冗談めかして言うと、横に控えていた可哀想でない方の女騎士騎士が激怒して剣を抜いた。
「貴様ッーー‼︎ さっきから聞いておれば、マーレシア様に対してなんだその口の利き方はッ‼︎ もう我慢ならん、ここで斬り伏せてやろう!」
おいおい、この国の貴族はこんな感じなのか?
思ったよりも関わりたくない感じなんだけど……
「控えなさい、リミア。命の恩人に剣を向けるものではありません」
「しかし、マーレシア様。この無礼な少年は……」
訂正。面倒なのはこの黄髪の女騎士の方だ。このお嬢様はまともだ。
「剣を下ろせ、リミア。マーレシア様の命だぞ。それにこの少年を切ってしまったら紹介がなくなってしまうではないか」
「サラッと自分の欲で見逃そうとしないでください! もういい加減諦めたらいいじゃないですか! いっつもそう言われて紹介して貰えないんですから!」
止めに入った可哀想な人へ、黄髪が不満をぶちまけた。普段からこうなのかな。
「レイ殿、護衛の無礼をお許しください」
そう言ってお嬢様は深く頭を下げた。ここまでされたら俺も少しやり過ぎたかなと反省した。
ここは違う国なんだ。ライクベルク王国のように王子が面白担当なんて事許されるわけではないのだ。王子を燃やしたり、溺れさせたり、地面に突き落としたり、空に飛ばしたり、爆発させたりしてはいけないのだ。貴族にさえそんな事をすれば首が飛ぶのだ。
王子でも貴族でも皆平等の価値観はこの国では改めないといけない。郷に入っては郷に従え。
俺も先人達の言葉に従おう。
「こちらこそご無礼をはたらきました。深くお詫びいたします」
と言って俺も頭を下げる。
「そんなっ、頭をお上げください。冒険者の方々がそう言った礼儀に疎いのは存じております。私はその様な事を咎めたりは致しませんので、どうぞいつも通りでいらしてください」
「ははぁ」
もう役に入ってしまった俺はノリノリで、跪く。それを横に控える女騎士は満足気に頷くが、逆におちょくってる事を察したお嬢様はひどく微妙な笑みを見せた。
「あの、取り敢えず立って頂けますか? お話したい事があります」
「いえいえ、とんでもない。高貴な貴族様と、私のような下賎な冒険者が同じ目線で語るなど……どうぞこのままで」
一度こんなセリフ言ってみたかったんだと、俺は役に入る。それを困ったように顔を引きつらせてお嬢様は諦めたように言葉を続ける。
「で、では改めまして、私は帝国貴族マーレシア・ヒュールキャス。クラーケン討伐の為にこの街にやって参りました」
「ヒュールキャス? 最近聞いた気が……」
さっきは聞き流してしまったが、改めて聞くと何処かで聞いた事のある名前だ。どこで聞いたっけ?
「ああ! 思い出した! 確かルーシィの名前も同じだった。ってことは、マーレシアさんてルーシィの姉?」
「えっ? ルーシィを知ってるんですか?」
「ええまぁ。武闘大会でちょっと」
驚いた。こんな所でルーシィの姉と会うとは……世界は広いようで狭いなぁ。
「そう、ですか。ルーシィは元気にしていましたか? 最近顔を合わせていなくて……」
そう少し寂しげに呟いたマーレシア。
「元気でしたよ。というか、元気過ぎですよ」
「よかった。元気にやってましたか。それで元気過ぎとは?」
顔を綻ばせ、そう聞いてきたマーレシアに俺はルーシィの迷惑行為を暴露した。後で姉から叱ってもらおうと。
「俺を勇者に勧誘しようと、それもう何度も追いかけ回されましたよ。時には、処女をもらって下さいなんか叫びながら。お姉さんの方から、後で叱っといて下さいよ」
「そ、それはご迷惑をおかけ致しました……あの子は昔から、一直線な所がありまして。周りを顧みないといいますか……」
マーレシアは妹の処女もらって下さい発言に顔を引きつらせていた。流石の女騎士達もこれには絶句していた。不敬だとか間違っても言えない程に。
これは後でこっ酷く叱られる事だろう。地味に仕返しが出来て俺は満足だ。
「まぁ、もう終わった事なので。処女は大事にしなさいとでも言っておいて下さい」
「はい……」
お嬢様は妹の失態に恥ずかしそうに頬を染め下を向いた。そして、しばらくして顔を上げると、気を取り直してと話を戻す。
「クラーケンは海の災害とも呼ばれる脅威ですが、この街を始めこの辺りの街はユーロリア大陸との交易が取れず、大打撃を受けております。一刻も早い解決が望まれているのです。レイ殿、私共に力を貸して頂けませんか? どうぞその魔物大群を瞬殺する実力をクラーケン討伐に貸して頂けませんでしょうか?」
マーレシアは懇願する様にお願いしてきた。それに対し俺は一言。
「いいですよ」
「本当ですか⁉︎ 助かります」
「俺も船が出なくて困ってたし、討伐に参加するのはこっちとしても助かるんで」
まぁ、文句というか、問題は他の集まり具合だな。
「俺の仲間も参加して構いません? 一人は俺と同じぐらい強いし、もう一人というか一匹は竜の子供だから、かなり強いですよ」
「それは心強い! ……今なんて言いました? 竜の子供って言いました? えっ? えっ?」
マーレシアは頭の処理が追いつかず、混乱し始めた。
「俺テイマーなんですよ。で、テイムしてるのが竜の子供」
「て、テイマーでしたか……竜をテイムするなんて聞いた事がないですが、嘘を吐く理由なんてありませんものね。信じましょう」
やはり竜をテイムするのは珍しい事らしい。だが、俺からすれば竜はいい竜ばかりで、他の魔獣よりも交友を深めやすいと思うんだ。話せるし。
「それとは別にもう一人。戦力にはならないけど子供一人連れて行きたいんですよ。俺たちは世界樹を目指しているんだけど、かなり急ぐ旅でクラーケン撃破後はそのまま向こうの大陸へ連れて行ってほしいんです。さっきお礼がしたいって言ってたけど、できればこのワガママを聞いてもらえると助かります」
討伐依頼を引き受けた俺はワガママをお願いした。討伐するのは構わない。だが、出来れば時間は無駄にしたくない。クラーケンを討伐してまたここに戻って来ていては、時間が勿体無い。討伐して、そのまま向こうの大陸に渡るのが、最も堅実な方法に思えた。
「安全は保障できませんが、それぐらいならば構いません。船には私も乗り込みますし、非戦闘員も少なからずいます」
このお嬢様も行くのか? 何のために?
まぁ、好きにさせたらいいか。そこまで俺が口を出す道理はない。俺は依頼主の指示に従い、クラーケンを倒せばいいんだ。
「それでは、契約成立という事で。依頼はギルドを通してくれると助かります」
SS級の依頼は貴重だからな。俺のランク上げに協力してもらおう。
「承りました。あの、お連れの方は……」
「あっ、まだその子は冒険者登録してないんですよ。それはまた会った時にでも」
「はい、わかりました。クラーケン討伐には明日の朝の出発になります。明日の朝、港でお待ちしております」
「了解です。それじゃあ、俺は調味料の選別に戻るんで、また明日」
そう言って醤油の味見に戻った俺をマーレシア達は微妙な笑顔で見てから、三人は去っていた。貴族を無視して食品選別に戻った時に店のおっちゃんが酷い汗を流していたが、この国ではそんなに貴族は怖いものなのだろうか?
貴族を蹴ったり、燃やしたりしないように気を付けないと……
〜〜
「っていう話があって、明日出る事になった」
「そっか。うん、わかった。けど、セーラを連れて行って大丈夫なの?」
「どっちみちここに残しても俺たちが負ければ、セーラを助けられない。確かにリスクはあるが、メリットの方が大きいと俺は思うんだ。護衛にハクをつけなくてもいいしな」
それが一番大きい。船上の戦いでは、相手に近づく事が非常に困難だと思われる。だが、俺とハクならば空を飛べるから、苦労する事なく近づける。
だから、今回の戦いではハクの役割は大きい。
「そうだね。いざとなったら、飛んで逃げれるしね」
「まぁな。そういう訳だから、シャルの冒険者登録しないといけないんだけど、今から行こうか?」
「大丈夫だよ。私、登録だけは王都を出る前にしてきたから」
おおっ、さすがはシャル。準備万端だな。それなら、さっき依頼を回してもらえばよかった。
「じゃあ、俺はクラーケン戦に備えて金の力を補充してくる」
「その技名はどうかと思うよ……」




