94.国を超えて
お盆忙しい……
来週も更新が遅くなるかも
小高い丘の上に建つ人工物。それは岩を基調とした横に長い石造物で、いわゆる関所というやつだ。
こちらから向こうへ、向こうからこちらへ行きたい人々の邪魔をするように建つそれは、入口と出口に異なる集団を配置していた。
「見えてきたな」
「うん。あの向こうは違う国なんだね」
シャルステナはそう感慨深そうに呟いた。その横で、セーラは関所を見上げて、パーと顔を綻ばせていた。
「でっかーい! 竜みたいーー!」
「ピピッ」(照れる)
「いや何でだよ」
セーラが言ってるのは、ウェアリーゼ達の事だ。年がら年中ちっこいお前が何を言ってんだ。
「そろそろハクから降りてくれるか? セーラ」
「うん!」
「ハクは小さくなーれ」
『ドロン』
ノリのいいうちの愛竜はわざわざ魔法で煙まで炊いて小さくなった。こういうネタ方面にばかり成長している気がする。将来、大道芸竜にでもなるつもりなのか、聞いてみたい気もする。
ガルサムを出発して10日。俺たちは国境に差し掛かっていた。これまでの移動は始まりこそ俺の顔が腫れ上がったりした事もあったが、他には何も語る事もないような平穏そのもの。偶に出てくる魔物を俺たちのサポートのもと、セーラの経験値に変えてここまで平穏無事にやって来た。
移動する間、ハクに大きくなって貰い、セーラを運んで貰った。少しでもセーラの体の負担を抑えるためだ。
無理をさせない為にと考えてのことだが、関所にハクが大きいまま突入すると警戒されそうなので、少し手前で降りて貰ったのだ。
そして、小さくなったハクは定位置に居座り、セーラは丘を駆け上る。
「セーラ、あんまり先に行くなよー!」
「うんーー!」
そんな風にはしゃぐ子供を追いかけ、関所の順番待ちの列に並ぶ。其れ程長い行列ではないが、1人1人に時間がかかるためチマチマと中々進まない。
結局、俺たちの順番が回ってきたのは、セーラが疲れて俺の背で寝始めてからだった。
「お待たせ。あれ? 君達子供だけで旅してるのかい?」
「一応、俺と彼女は13になったんで成人ですよ」
「あはは、そうかい。それは悪かった。じゃあ、ここに名前とその他必要事項を書いてくれるか?」
優しそうな顔をしている騎士に手渡された用紙に俺とシャルステナは書き込んでいく。
内容は名前、年齢、職業など基本的な事から、国を超える目的は何かなどがあった。寝ているセーラの分は俺が代わりに書き込んでおいた。
それらをすべて記入し終えると、今度は身分証明。それから、国を超える注意事項などを聞いた。
「それでは、行ってらしゃい。その子の命が助かる事を祈ってます」
「ありがとうございます」
俺とシャルステナは軽く会釈して、いい人オーラ滲み出る騎士にお礼を言った。
そして、関所を超え、帝国へと入国する。
「次」
「はい」
次は入国審査だ。先の出国審査を終え、国を超えると今度はその審査が待っている。
面倒極まりないが、国としてはおかしな人間を入れるわけにはいかないのだろう。それはもう怖いお兄さん達が目を光らせていた。セーラが寝ていて良かったかもしれない。
「ここに必要事項を記入しろ。それから、この国に入る目的について詳しく話してもらう」
出国審査と殆ど変わらない内容だが、目的に関してはさっきより詳しく聞かれた。意外だったのは、顔が傷だらけのイカツイおっさんにもかかわらず、先の騎士に負けない程いい人だった事か。
別れ際に食べさせてやってくれとお菓子まで頂いた。
そんなある意味ホッコリする関所越えを果たし、俺たちは帝国領土に入った。目指す世界樹はまだその鱗片も見えぬ程遠いが、初の国越えというイベントを果たし俺は興奮覚めやらぬ様子で道を進むのだった。
くぅー、冒険してる気がする〜。
〜〜
関所を超えて3日目。俺たちは旅の最初の難関に差し当たっていた。
「山だな」
「山だね」
俺たちの目の前には山が聳え立っていた。雲を突き抜け白い霧を纏わりつかせる山。地球で例えるなら、富士山級の山がずらずら立ち並んでいる山脈地帯。富士アルプスとでも呼ぼうか。
「上が見えないよー」
『飛んでく?』
ハクの『いっとく?』みたいな軽いお誘いに俺は頷く。そりゃもう飛びますとも。
何せ、この山脈地帯を直進する方が遥かに近道なのだ。飛ばないわけがない。
「セーラ、ハクの体をしっかり掴んでるんだぞ。落ちたら大変だからな」
「うん、わかった!」
「シャルはお姫様抱っこで俺が運ぶよ」
「なんかその手つきが嫌なんだけど……」
くいくいと指を曲げてカモンと準備していると、シャルステナに嫌悪感を示された。
「よし空の旅へレッツゴー!」
「ゴーー!」
勢い良くシャルステナを抱いた俺と、背にセーラを乗せたハクが飛び上がった。グングン高度を上げていき、山へと迫る。
すると、シャルステナがギュッと俺の服を掴んだ。見れば下を見て怖くなったらしい。ほんと可愛いな。
「たかーい! 速いね、ハク!」
『お嬢、はしゃぎすぎでせ』
お前は一体何なんだ。どんなキャラになろうとしてるんだ。ひょっとして今はお試し期間みたいなものなのか?
そんな事をハクの発言に対して考えながら、俺たちは富士アルプスの峰の低い地点を目指す。
「レイ、あれ!」
峰に差し掛かった時、シャルステナは何かに気が付いたらしく、声をあげた。その方向を見ると、魔物とパーティを組んで戦う集団の姿があった。
「冒険者……って感じじゃないな。どっかの貴族の護衛が戦ってるのか?」
「助けた方がいいかな?」
「うーん、そうだなぁ」
少しの間空中で停止し、戦況を見守った。見たところ戦っているのは2人。どれも女性だ。激しく動く彼女達の顔は見えないが、青と黄色の髪が目まぐるしく眼下で交差する。
そして、その2人に庇われているのも女性。
遠くからでもわかる綺麗なハイライトの目をした貴族風の女性だった。山越えにも関わらずヒールで、動きにくそうなドレス。あれでは相当疲れるだろう。
そんな足手まといの女性を必死に守る2人が戦っているのは、数十はいる魔物の群れ。中でもそれらを従えるA級のエレファントナイツには苦戦を強いられているようだ。
「なんかあの背後に庇っている子に気を使い過ぎて苦戦してるみたいだな」
「だね。数が多いのも苦戦してる理由みたいだね」
「このままだと、あの女騎士達はともかくあの子が死ぬかもしれないな」
このまま見過ごすのも目覚めが悪い。俺は騎士達に助太刀する事にした。
ハクとセーラにはこのまま上空で待機してもらい、俺とシャルステナだけが、その3人のいる所へと降りる。
「くそっ、急いでいるというのにッ」
「レーナさん、このままではまずいです。一度引きましょう」
青髪の女騎士が黄髪の女性、レーナに進言していた。しかし、退路も魔物で埋め尽くされている。二人とも中々の実力者だが、大群相手に人を庇いながらだと実力が発揮できないようだ。
「レーナ、リミア、引く事は出来ません。早急にカールスの街へ行かなければならないのです」
「しかし、マーレシア様! この状況では……」
「私も戦います。何とか切り抜けますよ」
なるほど、なるほど。
黄髪がレーナで、青髪がリミア、そして、あの足手まといのお嬢様がマーレシアと。
近ずいて聞こえてきた声で、名前を判断した。そして……
「お嬢さん方、助太刀はいるか?」
と空から声をかけた。
「⁉︎ 一体何だ今の声は! どこからだ⁉︎」
空から声をかけらたと思わなかったのか、姿の見えない助っ人の姿を探し、黄髪が声をあげた。
「どこのどなたかは存じませんが、助太刀お願い致します‼︎」
ひとしきり見渡して姿を見つけられなかったマーレシアお嬢様は大声で助けを求めた。
「じゃあ、やるか。シャル、離すけどいいか?」
「離しちゃ嫌! ……冗談。ふふっ、大丈夫よ」
可愛らしいボケを放ったシャルステナに思わずこのままキスしてしまいそうになったが、楽しそうに笑う笑顔を見て思い留まる。先に邪魔者を始末しないとな。
「なんだ、この姿は見えないのに腹立たしい声は!」
と青髪の女騎士リーナが嫉妬の声をあげた。今の言葉で俺は彼女の人となりがわかった気がした。寂しい人生を歩んできたのだろうと。
「万年独り身のお姉さんがここで死ぬのは可哀想だから、助けてあげるよ」
「万年独り身じゃないし! 出会っていきなり結婚しようって言われた事だってあるし!」
「リーナ、それはお金を渡して逃げられた時の話じゃ……」
おっと、思ったよりも可哀想な人だった。結婚詐欺に簡単に引っかかる程飢えてたのか。
俺がそんな風に同情していると、シャルステナが彼女達の前に綺麗に着地した。
「お前か! 私の傷口を抉ったのは!」
「ええっ⁉︎」
突然濡れ衣を着せられて焦るシャルステナ。そんな彼女はすぐに俺を見上げ、
「レイです! レイが言いました!」
とリーナの鬼気迫る剣幕に気圧され、あっさり白状した。俺はヒラヒラと手を振り、満面の笑みでそれを迎え入れた。
「貴様かぁ‼︎」
「ちょ、リーナさん落ち着いて下さい、まだ戦闘中ですよ」
戦闘を放棄して、俺に恨み言を言おうとするリーナを彼女より見た感じ年若い黄髪の女騎士リミアが止める。
「シャルはそこの可哀想な女の人達守っててくれ」
「貴様ーー‼︎」
「れ、レイ煽らないで! 被害があるの私なんだよ⁉︎」
とシャルステナは青髪に掴みかかられながら抗議してきた。今のは煽ったつもりはなく、単純に可哀想な人だなと思ったまでなのだが……
「まずは、お前からだな」
そう言って狙いに定めたのはエレファントナイツ。鎧を纏ったかのように隆起した筋肉と長い鼻が特徴の象のような魔物だ。
隆起した筋肉から放たれる一撃はかなり強力。まぁ、A級の中ではだが。
俺は階段から降りるように踏み出すと、固定された空間を蹴って、エレファントナイツに迫る。それを長い鼻で蹴落とそうとするエレファントナイツの動きに合わせ、反射空間を作り出し、自分はそのまま象へと突っ込む。
バォォ!
そんな声をあげて鼻を弾かれたエレファントナイツに抜き掛けの一撃を入れる。スパッとその巨大な足が切り離され、崩れる。
「魔装」
腕に魔装を纏い、崩れ落ちてきた象の顔に右ストレートを決める。
バォォ……
弱々しい声をあげてエレファントナイツは反対側に倒れた。
ドシン‼︎
巨大が倒れる衝撃で地面が少し揺れる。それに伴い木がワサワサ音を立て、葉が舞い落ちる。
「ほら、もう一発だ!」
もがくエレファントナイツの顔面にもう一発強烈な打撃を加える。まるで地面を殴りつけるように膝を曲げて、勢いよく殴りつけた一撃でボキッと象の骨が折れる音が響いた。
「次」
エレファントナイツにトドメを刺した事を確認した俺は、4人に群がる魔物達を見た。数が多いな、一掃するか。
「鳳凰」
俺は魔工でエアリアルファイアを剣を介さず、直接鳳凰の姿へと変えた。それを右手で操るようにして、シャルステナ達の周りにいた魔物を一掃する。
そして、役目を終えた鳳凰を空に打ち上げ、花火の様に散らす。
「お疲れ様レイ」
「おう」
戦闘が終わってすぐ、俺たちはお互いを労いハイタッチする。
しかし、それに付いてこれない者がこの場には3人いた。唖然と口を開け固まる三人。俺は、シャルを抱き直すと……
「じゃあ、気を付けて」
そう言い残し、シャルステナを抱えて飛び去った。背後から『ええっ⁉︎』とやっと状況に頭が追い付いた女性達の叫びが聞こえたが、無視して先を急ぐ事にした。
〜〜
日が沈みかけ、夕焼け色の空が美しい。そのオレンジに染まる空を俺たちは飛行していた。
もうすぐ日が沈み、暗くなる。その前に街に着きたいところだなと思い、俺は海辺に目を向けた。
夕日が海面に映し出されまん丸を描き、時折波で揺ら揺らと円が揺れていた。そんな海と繋がるように突き出した大地の上に立つ街。
「おおっ、やっと見えた」
「えっ? どこどこ?」
俺は指差し、シャルステナにも教えてやる。
「わぁ、綺麗だね〜」
「ああ」
夕焼けに染まる一際目立つ灯台。街はレンガのようなもので出来ており、ここから見える街並みは西洋の雰囲気が強い。
それらが夕日と海をバックに携える光景は圧巻だ。突き出した土地が、まるでオレンジ色の海の上に街が浮かんでいる様な情景を作り出していた。
これは空から街を見れる俺たちの特権だろう。地面から街を見てもきっとこんな風に見える事はしないだろう。
しばし、その美しい光景を飛行しながら楽しむ。
そして、街が近ずいて来る頃にはすっかり街は闇に沈み、灯台の光が海を照らしていた。初めて灯台を見たが、かなり遠くまで光が飛んでいくんだな。
そんな感想を浮かべながら地面に立つと、今度は歩いて街を目指す。
「ふぁ〜」
そんな中、疲れが出たのかセーラは大きく欠伸した。
「セーラ、街までもう少しかかるから、寝てていいぞ。また背負ってやるから」
「うん……」
セーラは眠そうに目を擦りながら、俺の背中にもたれかかる。そして、首に手を回したセーラを背負って街まで歩いた。
街に着く頃には、ハクまで俺の頭の上で眠り出すものだから、俺とシャルステナは起こさないようにと静かに歩を進めた。
なんだか父親になった気分だ。
「やっと着いたか。起きろ、セーラ、ハク。街に着いたぞ」
「うう〜ん」
『後1刻』
「いやなげーよ」
そんなツッコミを入れつつも2人を起こし街の中に入った。
「宿屋空いてるかな?」
「どうだろ?空いてるといいね。最近野宿ばっかりだったから、久しぶりにベットで寝たいなぁ」
「ベットで寝たかったら、俺が出すのに」
遠慮せず言ってくれと俺は言ったのだが、シャルステナはいらないと即答した。野ざらしの大地にぽつんとあるベットの上で寝るなんて恥ずかしいと言って。
確かに……何というか場違い感が半端じゃない。
「取り敢えず先に飯にしよう。みんなお腹減ってるだろ?」
「そうだね。ここは海が近いから魚料理とか美味しそう」
「魚〜?」
まだ若干眠たげな表情のセーラは寝ぼけた様に聞いてきた。
「魚食べた事ないのか?」
「うん。見た事もないよ〜」
「そっか。じゃあ、魚のスペシャリストの俺が食べ方を教えてやろう」
「いつからスペシャリストになったのよ……王都には滅多に魚なんて入ってこないじゃない」
確かに、王都では食べた事はない。だが、前世で何度も食べた魚料理。この世界でなら俺はスペシャリストを名乗れるのではないかと思ってる。
何故なら、周りが殆ど食べた事ない奴らばかりだからだ。
人の往来が少ないこの世界ではその土地で作れる、あるいは獲れる物しか口に出来ない。王都はその例外と言っていいほど、外からも色んな食材が入って来ていたが、流石に日持ちしない魚は中々入って来なかった。入って来ても川の魚が精々。種類も旨味も海と比べると一歩引くしかない。
そう考えると、海の魚料理を食べるのは久しぶりだ。早く食べたい。特に刺身が。
「よし、あそこににしよう。いかにも魚専門店って感じの店だ。きっと美味いに違いない」
「す、凄い店だね。魚の形してる」
「すごーい! これが魚なんだ! 大きーい!」
セーラの勘違いを正しつつ、俺たちは店内へと足を入れる。魚を焼く香ばしい匂いにつられつつ、空いた席に座ると、それぞれ思い思いの品を注文する。
「あぁ、楽しみだなぁ。魚料理なんて久しぶりだからなぁ。刺身がないのが残念だが、焼き魚と煮付けみたいな料理があったのが、高ポイントだな」
俺は心の中のタベログを更新しつつ、まだかまだかと料理が運ばれてくるのを待つ。
待つ事10分。
やっと運ばれてきた魚料理。セーラは初めて見る魚に興味津々だ。この旅の間に生きた魚を見せてやりたいな。
「この味……塩だけのシンプルな味付けが堪らない……」
俺は舌鼓を打ちつつ、焼き魚全種と煮付けらしきものをたいらげる。
「あぁ〜、最高……暫くこの街に住みたいぐらいだ」
「レイが言うと冗談に聞こえないからやめてよ。早く世界樹に行かないといけないんでしょ?」
そんな風にシャルステナは俺を諭してきた。
「誰も今住むなんて言ってないよ。帰りにでもちょっと居座ろうかなと思っただけだ」
「本当に暫く住む気だったんだ……」
シャルステナは呆れ顔だった。
「むぅ〜、私魚嫌い。骨とるのが面倒くさいよ」
「こら、好き嫌いするな。ちゃんと骨の取り方のコツ教えたろ?」
「だって難しんだもん」
「どれ、貸してみろ」
俺はセーラの皿を取り上げ食べる……のではなく骨抜きをやってあげた。一瞬食欲に負けそうになったのは俺だけの秘密だ。
「まだ残ってるかもだから、気を付けて食べろよ?」
「ありがとう、キッチック兄!」
「どういたしまして。それとレイ兄だから」
もう何度目かの訂正を半分諦めながらも入れつつ、食事を終えた俺は、皆が食べ終わるのを待つ間に情報を集める事にした。
「なぁ、そこのお兄さん。この辺でいい宿屋とかない? 一杯奢るから教えてくれないかな?」
俺はすぐ近くの席に座っていた冒険者風の男性に話しかけた。男は、短髪でそこそこ強そうな風貌の青年であった。
「おおっ、そりゃありがてぇ。宿屋か、宿屋な。うーん、高いとこなら空いてるらしいんだが、安い宿屋となるとなぁ」
「別に高くてもいいよ?」
男性は親切に色々と考えてくれているようで、俺はこの人に聞いて正解だったと心の中で自分にグッドサインを送った。
「そうか? なら、ここを出た通りを左にまっすぐ進めば、ちょっと高めの宿屋があるぜ。名前は、なんつったかな? 忘れたが、船のデカイマークがついた宿屋だ。行ってみればわかるはずだ」
「ありがとう。助かったよ。これで何か好きなもの飲んで」
「へへっ、ありがとよ坊主」
俺は二杯は飲める量のお金を手渡し、シャルステナ達に向き直った。少し多めにしたのは、親切に考えてくれた彼への感謝料だ。
シャルステナ達の食事の様子を何気なしに見つつ、俺は先程の情報を整理する。
宿屋は通りを出て左に直進。大きな船の看板。
これはまぁいい。
気になるのは、安宿が空いてない理由。いつもこうなのだろうか?
それとも偶々?
少し部屋が余る程度にはあるものだと思っていたが……
俺のちょっとした疑問は店の喧騒の中に飲み込まれていった。




