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私、異世界の王女でした  作者: 猫熊かおり
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第五話 異世界タガリア

 結論から言うと、リディシア王女というのは、私のことだった。

 

 

 騎士っぽい人に縋った後、私は気を失って倒れたらしい。

 その間に部屋を移されて、目が覚めたときは豪華なソファの上に寝ていて、たくさんの人に囲まれていた。

 向かいのソファには陛下と呼ばれていた私を抱き締めた男性と、その隣に上品なドレスを纏った妙齢の女性、その二人と明らかに血縁であるであろう顔立ちの青年二人が座っていた。

 向かいあったソファの横に、ダッツブルグと呼ばれたおじいさんと眼鏡のおじさんが立っている。

 そしてなんと私の頭は、騎士っぽい彼の膝の上だった。

「うわぁっ!」

 思いのほか近くにあった彼の顔に、ギョッとして、すぐに飛びのいた。

 私が彼の制服をギュッと掴んだまま気を失ったせいで、この様な状態になったらしい。

 思わず飛びのくと彼はソファから立ち上がり、心配そうに瞳を揺らしてこちらをうかがった。

「大丈夫ですか」

 低くて落ち着いた声に何故だか胸が波打つ。

「だ、だだ大丈夫…です…」

 錯乱していたとはいえ、さっき彼に抱きついたことを思い出して顔が熱くなる。

 どうやら、この人たちは私を害そうとしている訳ではなさそうだ。みんな私が目覚めたことに安堵していた。 

「先程は、いきなり抱き締めたりして、すまなかったね」

 陛下と呼ばれていた、私に抱きついた男性が私に謝る。

「気分が悪かったりしない?」

 頬を赤くしていたせいか、男性の隣に座っている女性に体調を尋ねられた。

「大丈夫です。さっきは驚いてしまっただけで…」

「無理もないわ。わけのわからない状況で、初対面のおじさんにいきなり抱き着かれたんだもの。私だったら急所蹴り上げて、ぶっ飛ばしてるわ」

 男性はすでにこの女性説教された後のようで、項垂れている。

 でも急所って…。この女性、上品な出で立ちなのに過激だ。

「ジュリアス王妃」

 眼鏡のおじさんが、女性に諌めるように声をかける。

「わかっています。でも、今日ぐらいかまわないでしょ」

 女性が眼鏡のおじさんに微笑むと、おじさんは諦めたようにため息をついた。

『陛下』に『王妃』。先程から聞きなれない呼称がいき交っている。

 気にはなるが、「あなた方、どこかの国のお偉い方なんですか?」とは聞きづらい。

 取りあえず、立っているのも何なので、さっきまで横になっていたソファに座った。 

 騎士っぽい彼は、私が座ったソファの後ろに立った。

「さて、君の事も色々と聞きたいが、まずは君にこの状況を説明することからだな」

 抱き着いてきた男性が、話し出す。

「私の名前は、セリム・アン・フィノホエート・タガリア。ここタガリアの国王だ」

 やっぱり王様だった。着ている服も金の刺繍がいっぱい入っていたり、装飾もたくさん付いている。それに陛下って呼ばれてたし。

 でも、タガリアなんて国、あったかな?

「隣にいるのが王妃だ」

「ジュリアス・アン・フィノホエート・ガルフェインです」

 王妃は、テレビで見る女優さんより何倍も美しく、薄桃色の髪に宝石のような紫色の瞳をしていた。

 先程の発言から、中身は見た目通りではないと思うが…。

「僕は王太子のジークフェル・アン・フィノホエート・タガリアだよ。隣は弟の…」

「レイキャルド・アン・フィノホエート・タガリアだ」

 一通り、自己紹介してくれるみたいだ。

 やはり二人の青年は、国王たちの息子だった。

 王太子のジークフェルは白に近い金髪に王に似た灰色の瞳で、穏やかに笑う姿が王妃に似ている。背は高いが、中性的な容姿で、絵に描いたような王子様だった。

 隣のレイキャルドは兄よりも少し背が高く、茶に近い金髪に藍色の瞳を瞳をしていた。王に似て彫りの深い、ワイルドな青年だった。

「サイラス・トワ・ジェノドエルと申します。タガリアの宰相を務めております」

 ダッツブルグの横に立っていた、眼鏡のおじさんは宰相だった。

 サイラスはノンフレームの眼鏡もあいまって、一見気難しそうだが、こちらを見つめる瞳は優しかった。

「ヨハセン・サン・ダッツブルグと申します。魔術師団団長を務めております」

 唯一名前が分かっていたダッツブルグは、その長いおヒゲからも、映画で見た魔法使いのおじいさんに似ていると思っていたが、魔術師だったのか。

 しかも団長と言うからには、さぞかし凄い魔法、いや魔術が使えるんだろうな…って、魔術ぅ!?

 一旦ヨハセンから外した視線を、勢いよく戻す。

 ヨハセンは目を見開いているさくらに、にこにこと微笑んでいた。

「カイル・ドゥ・セルシュタインと申します。騎士団第一近衛隊隊長を務めております」

 後ろから聞こえた声で、ヨハセンから視線を外す。

 騎士っぽい彼は、本当に騎士だった。

 近衛隊って確か王族の人を守る騎士のことだよね。隊長ってことは、この人強いのかな。

 余裕がなく気付かなかったが、カイルは腰の左右に一本ずつ剣を携えている。

 侍の国日本育ちだが、現代社会で育った私は、本物の剣をぶら下げた人を見るのは初めてだ。

 ここで私が国王たちに粗相をしたら、カイルにバッサリいかれちゃたりするのかな…?

 なぜだかゴクリと喉が鳴る。

「先ほども名乗ってくれていたが…、もう一度君の…君の名前を教えてくれるかい?」

 わけの分からない緊張感に固まっていた私に、セリムが尋ねてきた。

「あ、わ、私は生田さくらです。日本人です」

 私は慌てて名乗る。

「さくら…不思議な響きの名前ですね。でも、とっても素敵」

 ジュリアスが私の名前を口にして、瞳を潤ませていた。私には何故私の名前で涙ぐむのか、分からなかった。

「さくら、落ち着いて聞いてほしい」

 涙ぐむジュリアスを見て困惑していた私に、セリムが言った。

「ここは、君の知る世界ではない」

「………」 

 言葉の意味が理解出来なくて、とっさに反応を返せない。

「この世界に、君の住んでいた日本は存在しない。君にとってここは、異世界だ」

「……え…」

 たった一言出た声は、小さく、掠れていた。


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