第二十九話 褒めちぎり
「やーんっ!可愛いっ!!」
ママが用意されたドレスを見て声を上げる。
「でしょでしょ?このゴールドのレースリボンが、可愛らしいデザインを少し大人っぽく見せてるのよっ!子供じゃないけど大人でもないっていう、微妙な年頃の、今のさくらにしか着れない様なデザインでしょっ」
ママたち盛り上がってるなぁ…。
私はカーテンが引かれた着替え用のスペースで、パニエを履いて、ビスチェの背中の編み上げを結んで貰っている。
カイルは扉の外で待機だ。
元々していたブラジャーだとドレスに適していないから、と言って着せられた編み上げのビスチェは、私が着るには少しセクシーな感じがして、ちょっとドキドキしちゃう。
これって、下着ショップで見る、セクシーランジェリーってやつじゃないのかな…。何か、恥ずかしいような、嬉しいようなっ。
「はい、出来ました。ドレスを持って参りますね」
そう言って、お母様たちのところへドレスを取りに行ったのは、ニーナ・シス・トロイアというメイドさんだ。
ニーナさんはなんと、私付きのメイドらしい。
本当は王女には何人ものメイドが付くみたいなんだけど、私があまり大勢の人に囲まれる生活に慣れていないだろうと、今は彼女一人だけにしたんだって。
お母様曰く、ニーナさんは若いのに大変優秀な方だそうで、メイド長一押しだそうだ。
ニーナさん、私とそう変わらないくらいの年齢だよね?20歳くらいかな…?
「震えるほど可愛いわっ!!」
ドレスを着て出て行くと、お母様が叫んだ。
「ほんっと、私たちの娘は可愛いわねっ!!」
ママとお母様が、手を取り合って褒めちぎってくる。
「あ、ありがとう…」
嬉しいけど、ここまで褒められると親の欲目では?と思ってしまう。
薄いピンクのドレスは、贅沢にレースや刺繍があしらわれていて、繊細でいて可愛い。お母様が言っていたゴールドのリボンは、胸の下をグルッと通って脇腹あたりで大きく結ばれている。かなり大ぶりのリボンだけど、明るい金色なので下品にならず、上品に仕上がっている。
ドレスって言うから、中世のお姫様みたいな、ゴテゴテした感じのやつだったらどうしようって思ったけど、これは可愛さも動き易さもあって、とっても気に入った。
お母様のドレスもゴテゴテしてないから、タガリアのドレスは割とシンプルなものが多いのかも。
「では、カイル様も呼んで参りますね」
良い仕事をしたと言わんばかりのニーナさんが、扉の外のカイルを呼びに行く。
「すごいわね。さくら、髪の毛肩にかかるくらいの長さしかないのに、見事に編んであるわ。白い花飾りも…これ生花なのね」
ママが私の頭を見て、感嘆している。
ニーナさんがやってくれたんだけど、どうやってるのか分からないくらいの速さで纏められた髪は、もはや芸術ものだ。
あちこち引っ張られて痛いってことも無かったし、整髪料だってピンだって、そんなに使ってなかったはずなのに…。さすがメイド長一押し、スペシャリストだな。
「魔術が掛かっているから、萎れるなんてことはないのよ。やっぱりニーナにお願いして良かったわ」
お母様もご満悦だ。
カイルが部屋に入ってきた。
私を見て、少し眩しそうな顔をする。
「これは…理性を試されているのか…?」
少し離れたところで呟いた、カイルの言葉は聞き取れなかった。
「?カイル?」
「あ、いえ。良くお似合いですよ。とても可愛い」
トロンと蕩けたカイルの瞳に、少しドキッとする。
昨日私の前で跪いた時と、同じ瞳だ。この瞳で見られていると、お腹の奥が何故だか、きゅうっとする。
何だか恥ずかしくなって、カイルの瞳から目を逸らした。
「ど、どうも…」
床を見ながら言った私の声は、少し上擦っていて、余計に恥ずかしくなった。
「んふっ」
「ふふふっ」
ママとお母様が、変な声を出す。
「良いわねぇ」
「ええ、ほんとう。父親たちには見せられませんけど」
二人は、にこにこ…いや、ニヤニヤと笑いながらぼそぼそと話している。
「さくら、このまま城内を見て回りますか?それとも、一度夏樹さんたちにも可愛い姿をお見せしてから行きます?」
カイルに聞かれて、一応パパたちにもドレスを見せに行った。
「危険だっ!危険な程に可愛いっ!!!」
「まったくだっ!!!可愛すぎるっ!!!」
パパとお父様が叫ぶ。
「さくら、城の中を見て回るのは止した方が良いんじゃないかい?可愛すぎるよ」
「ああ。兄貴の言う通りだ。さくらの可愛さに犯罪者が出るぞっ」
ジークお兄様も、レイお兄様も、真顔だから怖い。
私の血縁者は、私のことちゃんと見えてるのかな。みんな揃って、視力が極端に弱いとか?
いや、パパとママは両目2.0だった…。
「そんな輩、私が許すはずも無いでしょう。こんなに可愛いさくらを他の男に見せるのも業腹ですが、そうするとさくらは一生外に出れなくなってしまうので、そこは我慢しますけどね」
あ、血縁者だけじゃなかった…。
ね、と笑顔で言ってくるカイルに、思わず数歩下がってしまった。
カイルは時々言うことが苛烈だよ……。