第二十五話 パパVSカイル再び?
部屋で部屋着に着替えていると、階段の下からママの声がする。
扉を閉めてしまっていたので、よく聞き取れず、制服をハンガーに掛けてから部屋を出た。
「ママ今なんてー?」
ワンピースの前ボタンを留めながら階段を降りていくと、ママはお玉を握ったままだった。
「あらごめん、着替え途中だったのね。明日の用意はもうすんだの?」
「うん。着替えとかは、昨日のうちに用意しておいたけど、あと何がいるかなぁ?」
実は私、明日タガリアに一泊することになったのだ。
「そうねぇ。一応洗顔セット持っていく?ジュリアスさんは全部用意してくれるって言ってらしたけど、肌に合うか分からないものねぇ」
「そうだよね。じゃあ、洗顔セットと、あ、ママ今日お母様たちへのお土産買っといてくれた?」
「もちろんっ。ジュリアスさんたちには個別で用意したんだけど、後の方々は好みも人数も分からないし、無難にお菓子にしておいたわ」
「ありがとうっ」
もう一度タガリアへ行くのは、楽しみなような、緊張するような、なんとも言えない高揚感がある。
「ママたち、どんな服で行ったら良いのかしら。これもジュリアスさんに聞いておけば良かったわ」
ママは掌を頬にあてて、悩んでいる。
そう、明日タガリアに行くのは私だけじゃなくて、パパとママも一緒なのだ。まぁ、二人は日帰りだけど。
昨日お母様が是非とも、って二人を誘って、パパたちもタガリアを一度見ておきたいって言ったから、一緒に行くことになった。
「別に色んな人に会う訳じゃないから、ちょっと綺麗目なワンピースとかで良いんじゃない?」
「そうねぇ。そうしようかな」
「あ、でもスカート長めの方が良いと思うよ。あっちじゃ女性はみんな足を隠してるみたいだし」
ママも短いスカートを履いたりするわけじゃない。けど私の制服のスカートでも短いと思われていたみたいだし、気を付けるにこしたこと無いと思うんだよね。
「そうなの?じゃあ長めにして、タイツも履いておこうかしら」
「うん。それで良いと思う」
「なんだか楽しみだけど、緊張しちゃうわねぇ」
ママはお玉をブンブン振りながら、キッチンへ戻って行った。
「なんで、お前がいるんだっ」
歯をギリギリ言わせながら、パパが向かいに座るカイルを睨む。
「雪菜さんが、誘ってくださったんです」
カイルはしれっと答えながら、肉じゃがに手をつける。
「これも美味しいですね」
「ゆ、雪菜さんだとっ!?」
「あーなーたっ。食事中よ?カイルさん、ありがとう。おかわりもあるからね」
パパはママに注意されても、カイルを睨むのを止めなかった。
今日の食卓は、やけに緊張感に溢れているな。
いや、ママとカイルは気にしてないようだけど…。
カイルの座った席も悪かったのかもしれない。私の隣の席に座っているのが、パパの怒りを大きくしたみたい。
かと言って、パパと並んでもママと並んでも変だし、これが一番自然な並び方だとは思うんだけど…。
「お義母さん、とお呼びした方が良かったですか?」
カイルッ、なんで、火に油を注ぐようなこと言うのかなっ!?
カイルの方に、空気を読めと視線を投げつけるけど、カイルは気にせず食事を続けている。
パパはというと…、案の定鬼の形相でカイルを睨みつけている。
「もうっ。呼び方くらい良いでしょ?私は雪菜さん、あなたは夏樹さんって呼んでもらうから」
ママはパパに少し呆れた目線を寄越してから、また食事に戻る。
「パパ、落ち着いてよ。あんまり怒って食べてたら、ご飯の味分かんないよ?…今日はパパの好きな、ママ特製ハンバーグだよ?」
少しでも食卓の空気を良くしようと、パパにおずおずと声をかける。
すると、パパは今気づいたかのように、お皿に目を向けた。
「そうようっ、せっかく夏樹さんのだけ、ハート型にしてあげたのに」
ママは不服そうに、唇を尖らせている。
パパのお皿のハンバーグは、既に手を付けていたので、ハート型が歪になっていた。
パパはそれを見て反省したのか、しょんぼりと肩を落としてママに謝った。
「ごめん、雪菜…」
いつもはママに美味しいよって言いながら、ラブラブで食事をしているパパなので、ママも少しショックだったのだろう。少し拗ねている。
「…じゃあ、ちゃんと味わって食べて」
ぶっきらぼうに言うママに頷いて、パパは大人しく食事を続けた。