第十九話 パパVSカイル
「私は現在26歳なので、年の頃はさくら様と丁度良いと思いますが」
パパの激昂など無かったかの様に、カイルが淡々と答える。
「は!?年齢差がありすぎだろうっ。さくらはまだ子供なんだぞっ」
パパはまだ冷静さを取り戻せてないようで、こめかみに青筋が立っている。
「ああ、私たちの世界ではこれくらいの年齢差が、婚姻に丁度良いとされているもので」
「こっ婚姻っ」
パパは実際にカイルの口から婚姻という言葉を聞いて、言葉を失う。
「あと、さくら様とは今日初めてお会いした訳ではないんですよ。お産まれになった時に、お会いしています」
「その時、さくらはまだ赤ちゃんだろうがっ!!………おいっ、まさかお前っ」
パパは何か恐ろしいことを考えたようで、ワナワナと震えだした。
「ええ。その時にこの方だ、と思いましたよ」
「お前、幼児趣味かっ!?!?!?」
はっ?
「っえええええええええーーーーーーっ!?」
これには私も声を上げてしまった。
幼児趣味って、ロッ、ロリコ──。
「違いますよ」
えっ?違うのっ??
「どこが違うんだっ!赤ちゃんのさくらを見て、さくらに惚れたってことは、そういうことだろうっ」
「あー、お父君、カイル様はちょっと特殊でして…」
見かねたダッツブルグ魔術師団長が、カイルのフォローに回る。
「特殊っ!?性癖がですかっ!?」
「ぶぷっ」
パパの一言に、お母様が吹き出した。
「くっくくくくくくくっ!!!性癖が特殊ってっ…ぷっ…っ…くくっ」
「これ、ジュリアス様っ。淑女がはしたないですぞっ」
ダッツブルグ魔術師団長に窘められるも、お母様の笑いは中々治まらない。
カイルはそれを不機嫌そうな顔で見ていた。
「あなた、いくら何でも、それは無いわよ」
パパもママに窘められて、自分がいかに冷静さを欠いていたのかに、気付いたようだ。
「あ、ああ、すまん」
「私は幼女趣味でも、特殊な性癖でもありません。さくら様を愛していますが、今すぐどうこうしようだなんて考えていませんよ」
カイルはやれやれといった風に、パパを見た。
「そんなこと、信じられんっ」
「まぁ、確かに護衛の最中に口説かない、と言ったら嘘になりますが、実際に手を出したりはしませんよ。今はまだ、ね」
まだ…?『まだ』って…言ったよっ…?
チロッとカイルを見れば、妖しげにニヤリと笑われた。
っっ。
カイルと出会って、まだほんの数時間。どんどんぶつけられる、その想いに戸惑わされっぱなしだ。
いちいち反応してしまう私の心臓は、今日一日で、普段の何倍も動いた気がする。
「お前っやっぱり───」
「あらー、夏樹さんの若い頃にそっくり」
カイルの態度に、パパがまた声を荒げてカイルを非難しようとするのを、ママが遮った。
「は?」
パパはママの発言に耳を疑っている。
「だから、夏樹さんの若い頃に似てるなーって」
「どこがっ!?」
「えー?だって、あなたも似たようなこと言って、私のこと困らせてたじゃない」
全然似てないと主張するパパにママが笑いながら答える。
「あら、そうなんですか?」
お母様が興味津々な顔で、話に入ってきた。
「ええ。私、主人とお付き合いするまで、男性に免疫なんて無かったものだから、本当に困ったんですよ。初対面でプロポーズしてくるわ、断っても諦めてくれないし…」
知らなかった…。パパとママの馴れ初めは、聞いたことがあったけど、初対面でプロポーズって…。
「まあっ。情熱的っ」
お母様は素敵ーっなんて騒いでいる。
パパはその横で苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「あの時はっ、雪菜はもう成人していたしっ」
「あなた、初めて会った時、私のこと高校生だと思ってたじゃない」
「ぐっ…」
ママはかなりの童顔だ。40歳を超えているのに、未だに20代と間違われてたまにナンパされている。
パパと出会ったのは23歳の時って言ってたから、その当時は高校生か下手したら中学生にだって見えてたかもしれない。
パパってば、そんなママに、会ってすぐプロポーズしちゃったんだ……。
「とにかく、私は護衛をカイルさんに任せるのは賛成よ」
「ゆっ雪菜っ!?」
「カイルさんってさくらのこと、とても大切に想ってくれてるみたいだし、そういう人の方が、万が一何かがあった時安心だもの。カイルさん、確実にさくらのこと護って下さるでしょう?」
「もちろんです。この命に代えても護ります」
うぅっ。なんで、そんなことサラリと言っちゃうかなぁっ…。
「ね。だから、カイルさんにお任せしましょう?」
「………」
パパは渋い顔で、まだ考えあぐねている。
「あーなーたっ!」
「…絶対に、さくらを傷付けるな」
絞り出したような声で、パパがカイルに告げる。
「はい」
カイルの返事を聞いて、パパは顔を下に向けた。
「あなた…。大丈夫よ、そんな悲しい顔しないで。カイルさんには護衛をお願いしただけなのよ?さくらがお嫁に行っちゃう訳じゃないんだから。おおげさねぇ」
「……わかってる…」
ママが慰めているけど、パパはまだしょんぼりとしたままだった。