第十六話 異世界の方々です
バタバタバタバタと足音も気にせず、玄関にダッシュした。
とにかく、あの場から、カイルの前から逃げ出してしまいたかったから。
怖かった。
カイルの本気が怖かった。
どうして、カイルは私をそこまで…。
もはや勘違いなんかじゃなくて、カイルは私を想っているようだ。それもシャレにならないほど。
カイルの言葉に何も返せず、固まっていたところに響いたママの声は、本気で天の助けだと思った。
だって、いきなりあんなこと言われたら、怖いよっ。
私の理想の男女交際は、まず交換日記からだよっ。古いって言われても、子供の頃からの憧れだったんだよっ!?
それなのに、初めての告白?で、重たいほどの気持ちをぶつけられて…、どうしていいかわかんないしっ。
「あらさくら、あんたまだ着替えてなかったの?」
ママが私の制服を見て言う。
「あ、そのっ」
ママたちに、お母様たちのこと説明しなきゃいけないんだった。
「お、さくら。ただいま」
パパが遅れて帰ってきた。
車から下ろした荷物をたくさん両手にぶら下げている。
「お、おかえりなさいっ」
「今日はさくらの好きな、モンタロスのチーズケーキ買ってきたぞ」
パパがお土産の洋菓子店の紙袋を私に寄越した。
その横を、ママがヒールをシューズクローゼットに閉まってから通ろうとする。
「ありがと──あっ、ママ待って!!」
「え?なあに?」
先にリビングに行かれると困るのだ。
奇抜なファッションの三人がソファに座って待っているから。
取りあえず、お客さんがいることを説明しないと……。
「おっ、お客さんが、来て、ましてっ」
「お客さん?」
ママが不思議そうに私を見て、玄関に目をやる。
「そうっ、今リビングで待って貰ってるんだけど──」
「雪菜、さくらと二人でここにいて」
私が説明しようとするのをパパが遮る。
手に持っていた荷物を全部その場に置いて、パパが慎重な足取りでリビングに向かおうとする。
「パッ、パパ!」
慌てて止めるも、パパはシッ、と唇に人差し指を当てて、私を黙らせる。
いや、ちょっと待って!先に行かれると困るんだってばっ。
追いかけようにも、今度はママが私を包み込むように抱きしめて、離さない。
ちょっ、ちょっ、あーーっ。
バンッ──。
パパが勢いよくリビングのドアを開けて、中に入る。
そして──。
「はあっ?!」
素っ頓狂なパパの叫びが響いた。
「いや、だから待ってって言ったのに…あー…」
パパの声で、ママも危険がないと分かったのか、二人でリビングに入った。
「さくら、こちらは…?学園祭の…準備か…?」
パパがお母様たち三人を前に、唖然としている。
無理もない。きらびやかな装いの、明らかに日本人でない、年齢も様々な、異様な雰囲気を纏った人々が、自分の家のリビングのソファで紅茶を啜っているのだから。
「あらー。これはまた、ビックリね…」
ママも驚いて目を丸くしている。
「はじめまして。お邪魔しております。私、タガリア王妃、ジュリアス・アン・フィノホエート・ガルフェインと申します」
「私は、タガリア魔術師団団長、ヨハセン・サン・ダッツブルグと申します」
「私は、タガリア騎士団第一近衛隊隊長、カイル・ドゥ・セルシュタインと申します」
三人が立ち上がって、名乗り、パパとママに礼をする。
あー……。何から説明すりゃいいんだ。
案の定、パパもママも、目が点だ。
「パ、パパ、ママ、これは…えーっと、んーっと、信じられない話なんだけど、こちら、異世界の方々です……」