第十四話 帰ります
「ほんとに、ほんとに一緒に行くんですか?」
ソロリと後ろを見ると満面の笑みの面々。
「もっちろん行くわよ!さぁさぁ、ここに立って!」
張り切った声を上げるお母様に促されて、床に描かれた魔方陣の様な模様の上に立つ。
今いる部屋は、この世界にトリップした直後にいた最初の部屋だ。
令嬢の部屋っぽいと思っていたけど、この部屋、なんと私の部屋だった。
いつ娘が戻ってきても良いように、お母様が毎年家具やら洋服やらをリディシアの年齢に合わせて入れ替えていたんだって。
で、私たちが今何をしているかと言うと、家に帰ろうとしているのだ。地球にある、生田家へ。
こっちに来てから結構な時間が経っていたので、そろそろ帰ろうかと思ったら、お母様が着いていくと言い出した。
これから両方の世界を行き来するなら、私たちの存在も生田のご両親に話しておくべきだと言って…。
確かに、これから行き来するときに、毎回ママやパパに嘘をついて出かけるのは気が引けるけど、全てを話して信じてもらえるかなぁ。
突拍子もなさすぎて、私みたいにパニックになっちゃたりして。
「念のため、私の手を握っておいて下さい。魔力が暴走しないように調節しますから」
生田家へ着いてくるのは、お母様だけじゃない。カイルも一緒に行くことになった。
差し出された手におずおずと右手を乗せる。
優しく、だけどしっかりと握られて、意識するな意識するなっと胸の中で唱える。
「カイルも本当に、お仕事大丈夫なんですか?」
結局カイルのことは、押しきられるような形で、呼び捨てで呼ぶことになってしまった。
その代わり、カイルにも私を呼び捨てにしてもらうよう条件を出したけど。
本当は敬語も止めてもらおうと思ったけど、それは断られてしまった。
「大丈夫ですよ。近衛隊は王族の方を守るのが仕事ですから。もちろんそれにはさくらも含まれます。まぁ、私の場合は、近衛隊だからさくらに着いていく訳ではありませんが」
カイルさん…コメントに困ります……。
「さくら様はカイル殿がエスコートされるようですから、王妃様は私めのエスコートで我慢なさって下さい」
「あら、ダッツブルグ魔術師団長にエスコートして貰えるだなんて、光栄ですわ。ファンクラブの皆に自慢しちゃおうかしらっ。うふふ」
嬉しそうにダッツブルグ魔術師団長のエスコートを受けるお母様。
ファンクラブって、一体……。
お母様って、王妃様で容姿もすっごく上品なんだけど、なんだかもっと親しみやすいところがあるな。
全然お高く止まってないし、ミーハーみたいなとこもあるし……。こっちの貴族女性ってみんなこんな感じなのかな?
今度来るときにお兄様たちに聞いてみよっ。
私、カイル、お母様、ダッツブルグ魔術師団長で生田家へ向かう。
お父様とお兄様たちはお留守番だ。
三人ともすっごく行きたそうにしていたけど、さすがに人数が多いし、万が一ということもある。王族揃って異世界に行くわけにはいかないと、渋々諦めていた。
「ジュリ、生田家のご両親によろしく伝えてくれよ」
「ええ。あちらの都合もあるでしょうし、2時間ほどで戻ってくると思うわ」
「さくら、次はいつこっちへ来れるんだい?」
「うーん、今日が木曜日だから、土日かな?たぶん明後日来れると思います」
答えるとジークお兄様の顔がパァッと明るくなる。
「明後日は泊まったりできるのか?」
「泊まりは、パパとママに聞いてみないと何とも…」
「そうか。さくらはまだ成人前だから仕方ないな」
仕方ないと言いながらも、レイお兄様は残念そうだ。
泊まり…、私もまだまだ色んな話を聞きたいし、家族のみんなとももっと一緒に過ごしたいけど、こればっかりはパパたちのお許しが出ないとなぁ…。
それには、まずこの世界のこととか、私が王女様だったとかそういうことを信じてもらわないと。
「さ、それでは行きましょうか。さくら様、先ほど説明しました通り、お願いします」
ダッツブルグ魔術師団長に促される。
ゴクリ───。
「…っ鏡よ鏡よ鏡さんっ!にゃんにゃんメイクアップ!」
ピカッと強い光に包まれて、目を瞑る。
光が収まって目を開けると、パパの書斎に帰ってきていた。