第十三話 自意識過剰?
ぺしぺしぺしぺしっ!!!!
目を回すほどにテンパった私は、カイルの胸板をひたすた両手で叩く。
ただでさえ力の入っていない攻撃は、カイルに全くダメージを与えなかったが、動きを止めることには成功した。
「…さくら様…?」
力強い腕とか、固い胸板とか、香水なのかわかんないけどスッとするような男性っぽい香りと微かな汗の香りとか、っっっっっっうわぁーーーんっっ!!
顔を覗き込もうとしないでーっ!こんなのっ、こんなのっ近すぎるっ!!息がかかるくらい近くにカイルさんの顔がっ!
「カーイールーッ!だから、離れてあげなさいって言ってるでしょう。可哀想に…もう顔真っ赤よっ。あっ、涙目になってるじゃない!」
カイルが私の瞳に溜まった涙を見て、私をそっとソファに下ろし腕を離してくれる。
はふっはふっはふっ。
あまりのテンパり具合に息も絶え絶えになっていた私は、ソファの上でぐったりとする。
「大丈夫か、さくらっ」
気遣わしげなジークフェルの言葉に、なんとか頷いてかえす。
「…私に触れられるのは、お嫌ですか…?」
固く、沈んだカイルの声に顔を上げる。
カイルは、痛みに耐えるかのように唇を引き締めていた。
「はぁーっ。カイル…あなたって、乙女心が全くわからないのね」
私がこたえる前に、ジュリアスがカイルに声をかける。
「…どういう意味ですか」
「そのまんまよ。さくらの顔を見てみなさい。熱が出たんじゃなくて、恥じらっているのよ」
「恥じらう…?」
「あなたが『虜』だなんて情熱的なこと言ったからでしょ。その上お姫様抱っこ。あなた自分が魅力的な男性だって自覚ないの?あなたにかかったら、優しくされただけでも年頃の女の子はみんなドッキドキよ!そりゃ赤面だってしちゃうわよっ。大体、さくらはまだまだウブなんだから、あなたの態度は刺激が強すぎるの。大人の女を口説いてるんじゃ無いんだから、あんまりグイグイいかないであげてよ。優しいお兄さんを印象づけるところから始めるくらいが丁度いいわよ。全く…セルシュタイン家は揃って強引過ぎなんだからっ」
ジュリアスはまくし立てるように言い、鼻息を荒くしている。
「あの…」
私はやっと落ち着いてきて、カイルに声をかけた。
「…さくら様…」
「私っお、男の人にそんなこと言われたことなくてっ…、手だってまだパパ以外の男の人と繋いだことないしっ…そのっ、だからっ…」
「…では、私が嫌な訳では無いんですか…?」
念を押されるように聞かれて、コクリと頷く。
私の返事に、カイルが固かった表情を緩めた。
…本当に?カイルさんって本当に私のこと…っそのっ…。
でも…、あったばかりで…。
確認したいけど…、『私のこと好きなんですか』なんて聞けないよっ。
やっぱり勘違いで、どんだけ自意識過剰なんだって思われたくないしっ。
それに、自慢じゃないけど、男の子から告白されたことなんて一回もないんだもんっ!
「……ジュ、ジュリッ……さ、さくらはまさかもうっ…?」
涙目でうろたえたセリムが震える声でジュリアスに問う。
「やあだ、さくらは困惑しているだけじゃない。あれはまだ恋する瞳じゃないわ」
ケラケラと笑いながら、心配性ねとセリムを宥めている。
「よっ、よかったっ…。おいっカイル!お前ちょっとは娘を持つ父親の気持ちを考えんかっ!」
ジュリアスの慰めで少し復活したセリムが文句を言う。
「まあまあ、落ち着いて。こればっかりはセルシュタインの習性みたいなもんだものね。見つけたら最後、相手に逃げる間も考える間も与えず、すぐさま手に入れる…」
「さっ、さくらはまだ嫁にやらんっ!やっと再会出来たとこなんだぞっ!?」
「そうよね。さすがに私もまだお嫁に行かせたくないわ。でも、さくらの気持ちが一番大切だから…。それに、あちらの世界のご両親のお許しも得ないといけないし、そんなにすぐに結婚になんてならないわよ」
セリムとジュリアスが私の結婚について真剣に話している間、私は学習したのか、さっきよりは距離をとったカイルに呼び捨てで呼ぶことを再び強要(?)され続けていた。