第十一話 不思議な感覚
脱線してしまった話を戻して、私の魔力について話す。
私としては、カイルさんが言った『婚約』の話が、ものすごーく気になるけど、一旦置いておくことになった。
カイルさんはとても不服そうにしていたけど、セリムの指示にしたがって、また私の後ろに控えている。
話している途中で、宰相であるサイラスさんを部下の人が呼びに来た。
私が突然この世界に来たことで、みんなは今日の予定や仕事をキャンセルしたらしい。
この国のトップ二人までもが仕事を中断している今、宰相が長時間席を空けていることは出来ず、渋々といった表情でサイラスさんは戻っていった。
「女神…ですか」
「そう。この世界の創世主、女神エスクード」
異世界、魔法、の次は女神……。出てくる言葉言葉が、現実なのにすごくファンタジーだ。
夢じゃないことはわかっているけど、自然と自分の頬っぺたを抓っていた。
「さくら様、おやめ下さい。赤くなっていますよ」
スッと抓っていた手を取られ、カイルに咎められる。
「や、むしろ本当に痛いか確認を……。…続けて下さい…」
ジーンジーンと痛む頬が、現実であることを証明している。
この世界には、夢かどうかの確認に頬を抓る習慣(?)がないのか、行動の意味が理解できないカイルは訝しそうに私の顔を見ていたが、私に自傷するつもりがないとわかると、握っていた私の手を離してくれた。
「17年前の事件の時、女神エスクードがさくらを救うために力を貸してくれたの」
「女神が…ですか」
「ええ。それは私たちが扱うことの出来る魔術とは違い、異世界間を繋ぐ奇跡とも言える力」
神話的な神様ではなく、実在する、女神様…。
今日この世界に来てから、驚きの連続だったけど、もはや何を言われてもすんなりと受け入れ始めてる自分がいる。
「さくらの飛ばされた世界がどの世界なのかは、女神エスクードにもわからなかった。だからさくらの魔力が目覚めた時、さくらの世界とこの世界が繋がるように細工をしたの」
異世界って、私の世界とこの世界の他にもあるの…?
まさか、自分のいた世界の他に、いくつもの世界があったなんて…。
宇宙人がいるかどうか気になったことはあったけど、異世界があるかなんて気にしたことも無かったや…。
「…今も両方の世界は繋がったままなんですか?」
「ああ。世界間の道は固定されたままだ」
「あ、じゃあ他の人が間違ってこっちの世界に来ちゃったりしませんか?」
もし巻き込まれちゃった人とかいたら大変だ。
異世界トリップなんて、マンガの世界なら良いけど、現実に起こったら大変なんてものじゃないし。
私だってパニックだったし…。
でも、私は元々ここの人間だったらしいし、この世界の家族にも会えたから危険は無いってわかったけど、いきなり文化も世界も何もかも違う『異世界』なんて、絶対信じられないし、それに危険だとも思う。
「大丈夫だ。道は繋がったままだが、誰も彼もが通れる訳ではない。さくらの世界の住人がこちらへ紛れ込んでしまうことはないから、安心しなさい」
「よかったぁー!巻き込んじゃってたらどうしようかと思いました…」
「異世界間の道を通れる者は限られています。タガリア王家直系の血を引く者と、さくら様が許可を与えた者だけが通れます」
「私が許可を…!?」
ヨハセンに思わぬことを言われ、驚く。
「女神エスクードが繋いだ道は、さくら様をこの世界に帰すために創られた道ですからな。異世界間の座標として、王家直系の血が目印になっているので、名にタガリアの国名を持つ方は通れます。ですから、国王陛下、ジークフェル王子、レイキャルド王子、王弟殿下はさくら様の許可無く通ることが出来ます」
それって、ほぼ私専用の異世界道路ってこと…?なんか、すごくない…?
「あ…じゃあ、この世界の人も王家直系の人以外は、私の世界に紛れ込んじゃうってこともないんですね」
「はい」
よかった。文化が違いすぎるもんね。互いにどっちにトリップしちゃっても大変なことになっちゃうもん…。
「その道って私が元の世界に帰っちゃうと、消えてしまったりするんですか?」
「いや。基本的には女神エスクードが道を消滅させない限り、半永久的に存在する」
「じゃあ、一度帰っちゃっても、またここに来れるんですね?よかったぁ!」
二度と来れない、とかだったらどうしようかと思った。
「…良かったですな。陛下」
「ああ…。ありがとう…さくら」
「?」
「私たち、さくらに、ここへはもう来たくないって言われるのを覚悟していたから…」
「えっ…?どうして…」
「先ほどの部屋でさくらに会った時、お前はとても混乱していたし、さくらにとっては得体の知れない人間ばかりの、それも異世界に進んで来たがるとは思えなくてな…」
「そんなことないですよ!そりゃあ、最初はパニックになっちゃって、信じられないことばかりで、早く自分の世界に帰りたいって思いましたけど…。でも、今はこの世界をきちんと受け入れて、自分でも不思議なくらい、国王様たちとの繋がりを感じてるんです」
うまく言えないけど、ほんと不思議なくらいこの人たちを家族だと思える。
その気持ちは、元の世界の両親を想うのと同じようで、少しだけ違う。
パパとママは、当たり前に両親だと思っている。
でも国王様たちは…、何ていうか、変に確信があるっていうか…。見えない糸で繋がってる…みたいな感覚がある…。
「さくら様は魔力の繋がりを感じておられるのでしょう。血縁の魔力は似ていますから」
魔力の繋がり…。
カイルの言う通りだとしたら、この不思議な感覚も納得できた。