表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界の王女でした  作者: 猫熊かおり
1/32

第一話 おもちゃの変身ブローチ

初小説です。下手でもなんでも完結することを目標にしてます。毎日更新はなかなか出来ませんが、なるべく定期的に更新するようにします。

 

 先月から高校生になった私──生田さくらは通い慣れた道を少し浮かれた気分で歩いていた。

 小中高とエスカレーター式の学校の為通学路に目新しいものは無い。それでも高校の制服に身を包むと、自分が少し大人になれたような気がして、いつもの通学路もなんだか新鮮に感じる。

 「さーくーらー!!!」

 勢いよく走る音と声に振り返ろうとした瞬間、後ろから勢いよく抱きつかれた。

 「うっ!り、りっちゃん」

 「おはよう!さくら!んー、今日もさくらは抱き心地抜群!」

 りっちゃんこと北條律子は私の小学校からの親友で、胸元までまっすぐ伸びた黒髪に白く透き通った肌。大きな瞳は長い睫毛に縁取られていて、どこをどう見ても美少女だ。だがこの美少女の中身はオッサンだ。『かわいいは正義だ!』とわけの分からないことを良い、気に入った女の子にはセクハラまがいのこともしてしまう、とっても残念な美少女である。

 「おはようりっちゃん。お尻から手を離して」

 サワサワと自分のお尻の上で動く手を剥がしながら手の甲を少しつねる。

 「ええー、女同士なんだからいいじゃん」

 この朝の挨拶もいつからから恒例行事になっていて、年々手付きがイヤらしくなってきている。

 「りっちゃんの触り方はセクハラオヤジみたいなんだよ」

 「やだなぁ、セクハラだなんて。ちょっとしたスキンシップだよ」

 にへらっと笑いながらつねられた右手をさする律子に、ため息をつく。

 本当黙ってたら、泣く子も黙る美少女なのに。セクハラする美少女ってどうなのだ。りっちゃんを大和撫子だと言って憧れている隣町の男子高生が見たら泣くよ。きっと。


 教室に着くと後ろの席の机に数人の女子が集まって盛り上がっていた。

 「おはよう。朝から盛り上がってるね。どうしたの?」

 席についてカバンの中身を机にしまいながら尋ねる。

 「なーに、何かあったのー?」

 カバンを机に置いた律子も輪の中にやってくる。

 「あ、さくら、律子おはよう。みてみて!笹川さんのコンパクト、すっごい可愛いの!」

 振り向いた美佳子が人懐っこい笑顔で笹川を見る。

 笹川は外部入学で、まだあまり馴染んでないのか、控えめに微笑んでいた。大人しいと言うより、人見知りをするタイプなのだろう。

 「笹川さん、私も見て良い?」

 「どうぞ。子供っぽくてちょっと恥ずかしいんだけど」

 少しはにかみながら、コンパクトを差し出してくれた。

 普通のコンパクトミラーに比べてぷっくりと膨らんだデザインのそれは、幼稚園の頃に大流行したアニメの変身ブローチだった。

 「あ!にゃんスト戦士のブローチだ!」

 横で見ていた律子も一目見て分かったようだ。子供の頃に自分もおもちゃのにゃんスト変身ブローチを持っていたが、笹川のこれは中に白粉が入っており、忠実に再現しながらもおもちゃっぽくない。

 「わぁ!すごい、こんなのあったんだ!デザインはアニメと一緒だけど、これキラキラしてて綺麗だね!あ、中に白粉入ってるんだ!白粉の模様も凝ってる!かわいいね!」

 横から律子も覗き込んでいる。

 「私子供の頃変身シーンのマネっこしてたよ!鏡よ鏡よ鏡さん。にゃんにゃんメイクアップ!って」

 律子が右手を上にあげながら変身の呪文を唱える。

 「あはは。懐かしー!!」

 律子の完璧な再現に美佳子たちが吹き出す。

 「律子も子供の頃はアニメのマネっことかする普通の女の子だったんだ」

 「子供の頃はって、今でも普通の女の子だよ!」

 美佳子の暴言に律子は失礼だぞ!と抗議の声をあげる。

 「りっちゃん、普通の女の子はセクハラしたりしないんだよ」

 私も美佳子と同じ意見だったので、律子に普通の女の子とは、と説いてみる。

 「セクハラ?」

 私たちの会話に笹川は驚いた顔で律子を見ていた。

 「あぁ、笹川さんはまだりっちゃんのセクハラ現場を見たことなかったんだね」

 「ちょ、さくら、セクハラ現場って!あれはスキンシッ…」

 「あー、はいはい。律子はちょっと黙ってなさい」

 律子を抑える美佳子を横目に、笹川に説明する。

 「りっちゃん見た目こんなに可愛いのに、心にちっさいおじさんがいるみたいなの。気に入った女の子が近くにいるとお尻とか触るの」

 「えぇっ」

 「本人はスキンシップだって言い張るんだけど、年々触りかたがいやらしくなってるんだよね」

 笹川は学年一の美少女の実態に驚いているようだった。

 「ぷはっ。ち、違うよ、笹川さん。私だって本気で嫌がってる女の子を触ったりしないからね!触っても許してくれるだろうなぁ、って子にしか…」

 口元を抑えていた美佳子の手をくぐり抜けて、律子が焦ったように言い訳をする。

 りっちゃんってば確信犯だったのか。

 「ぷっ」

 あまりの律子の焦りように、唖然としていた笹川が吹き出す。

 「あはは、触るのは本当なんだ。北條さんって、意外と残念なタイプの美少女だったんだね」

 笑いながら言う笹川に、律子はえぇっと不服そうな声をあげる。

 「そうそう。律子は残念な美少女なの」

 「りっちゃん黙ってたら本当に美少女だから、隣町の男子校生には理想の大和撫子だって思われてるらしいんだよ」

 「わー、恋は盲目だよね」

 うんうん。と頷く美佳子たちに笹川はまた声をあげて笑った。

 さっきまで遠慮があるように見えた笹川も、律子をイジるさくらたちにだんだん打ち解けていき、みんなと名前で呼び合おうってことになった。

 りっちゃんは残念残念と言われて心外そうだったけど、私は笹川さん──千花ちゃんとも打ち解けることができて嬉しかった。



 






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ