お星さまをさがす話。
ある町に二人のきょうだいが住んでいました。
上の子は女の子で、下の子は男の子です。二人は、優しいけれど怒るとちょっぴり怖いママと、毎日おそくまで仕事をしているパパとの四人でくらしています。
大好きなママのたんじょう日。二人はとびきりステキなプレゼントをしようと思いました。
おねえちゃんはママに聞きます。
「ママは今、なにかほしいものはあるの?」
ママは答えました。
「ママにとって、二人がいてくれることが一番うれしい幸せなことだから。気持ちだけで、とてもうれしいわ」
ママがそう言ってくれるのは、とてもうれしいことでしたが、ママが二人を大好きでいてくれるように、二人もママが大好きなのです。その気持ちをプレゼントしたいと考えました。
しっかり者の弟が良いことを思いつきました。
「お星さまをプレゼントしよう」
お星さまは願いごとを叶えてくれるものです。この間、パパといっしょに、たくさんたくさんお空に流れているのを見ながら、教えてもらいました。
いつかママにお願いごとが出来たとき、そばにお星さまがあれば、いつでも叶えることが出来るでしょう。とてもステキな思いつきでした。
「でも、お星さまどこに行ったらあるかなぁ?」
「きっとスーパーに売ってるよ」
弟がこまった顔をしたので、おねえちゃんはきっぱりと答えます。姉たるもの、弟の前では弱気な顔など見せられないのです。
二人は手をつないで、近所のスーパーに出かけて行きました。
「すみません、お星さまはどこにありますか」
おねえちゃんがスーパーの店員さんにたずねます。オレンジ色のエプロンを付けた店員さんは「いらっしゃいませ」と言った後で少しこまった顔になりました。
「ごめんなさいね。お星さまは売っていないのよ」
二人はびっくりして、顔を見合せます。スーパーならあると思ったのに!
「街の大きなデパートなら、贈答用のギフトセットに入っているのがあるのだけれど」
デパートは、バスと電車に乗らなければ行けません。二人だけで出かけるには少し遠すぎます。
「お星さま……」
がっかりした二人の様子に、店員さんも申し訳なさそうな顔をしていました。
近所のスーパーにないことがわかっても、二人はあきらめきれませんでした。お家への道の途中にある公園で、どうしようかと相談します。
公園でブランコでゆらゆら揺れている時に、おねえちゃんが「そうだ!」と顔を上げました。
「こまった時は、インターネットさんに聞いてみよう!」
その言葉に、弟もなるほどと思います。
インターネットさんなら世界中の色んなことを知っています。きっとお星さまを手に入れる良い方法もわかることでしょう。
二人は手をつないで、インターネットさんのところに向かいます。
インターネットさんのお家は、青い三角屋根のお家です。
お花のさいたプランターのとなりを抜けて、呼びりんを鳴らします。
ピリンポロンと、二人のお家とはちがう音のチャイムが鳴りました。
「おや、君たちは。どうしたのかな」
インターネットさんは物知りなので、もちろん二人のことも良く知っています。二人はまず、元気良くあいさつをしました。
「こんにちは、インターネットさん」
「こんにちは。ぼくたち、聞きたいことがあるんです」
「おやおや、こんにちは。いったいどうしたのかな?」
「わたしたち、お星さまがほしいんです」
「ママのおたんじょう日のプレゼントにしたいんです」
二人がかわりばんこに言いますと、インターネットさんは「ふぅむ」とアゴの下に手を置いて考えました。
「いなかに行けば、子どもでも、かんたんにつかまえることができるのだけれども。町の中ではむずかしいかな」
二人が、があん。と、ショックを受けたのを見て、インターネットさんはさらに考えます。
「君たちがつかまえるのはむずかしいけれど、プラネタリウムに行けば、お星さまが手に入るかもしれないね」
プラネタリウムなら、前に行ったことがあります。
たしかにあそこなら、たくさんのお星さまがあるにちがいありません。
「ありがとうございます。行ってみます」
「インターネットさん、ありがとう」
二人はお礼の言葉も忘れずに言ってから、手をつないでプラネタリウムに向かうことにしました。
町の真ん中あたりにプラネタリウムはあります。
二人は星座のもようの自動ドアから中に入りました。二人の姿に気づいた係員さんが、にっこり笑顔を向けました。
「あら、こんにちは。いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「こんにちは。ぼくたち、教えてほしいんです」
「あらあら、いったいどうしたの? 星座のお話が聞きたいの?」
「わたしたち、お星さまがほしいんです」
「ママのおたんじょう日のプレゼントにしたいんです」
二人がかわりばんこに言いますと、係員さんは一度後ろをふりむきました。
「たしかにここはプラネタリウムだから、お星さまはたくさんありますね」
二人がぱあっと、笑顔になります。やっぱりインターネットさんは物知りでした。
係員さんは二人を手まねきして、後ろにあった重いトビラの中に入りました。
はじめはまっくらで、おどろいたおねえちゃんは弟の手をぎゅっとにぎりました。これは自分がこわいからではありません。弟がびっくりしてこわがったらいけないので、そうするのです。
しだいに目がなれて、まっくらだと思ったそこには、数えることのできないほどに、たくさんのお星さまが光っていることがわかりました。
「うわあ」
「すごい。お星さまだらけだ」
「毎日新しいお星さまをほじゅうして、いつもしんせんなお星さまを入れているから、プラネタリウムのお星さまはとてもキラキラしているでしょう」
係員さんはそう言ってから、少しこまったように続けました。
「でもね、きまりでここのお星さまをあげることはできないの」
「ええっ」
「いっぱいあるのに?」
二人ががっかりしたのは声だけでもわかります。とてもくらいので、どんな顔をしているのかはわからなかったのです。
「ここに来る人は、みんなお星さまを持ってかえりたいって言うの。ほしい人みんなにあげてしまったら、プラネタリウムのお星さまは空っぽになってしまうの」
たしかにそうかもしれません。
こんなにキレイなお星さまを見たあとでは、みんなお星さまを持ってかえりたくなるでしょう。
お星さまがなくなったプラネタリウムでは、次に来た人が、がっかりしてしまいます。
「お星さま……」
「でもね、そろそろ業者の人が来るじかん。どうやってお星さまを手に入れたらいいか聞いてみましょう」
係員さんは二人をつれて外に出ました。キラキラ、キラキラお星さまがまたたきました。
係員さんが言ったように、業者さんはすぐに来ました。
台車をがらがらごろごろ押しています。台車の上にはダンボールばこがいくつも重ねてのっています。
ダンボールばこには、お星さまの絵がついていました。まちがいありませんお星さまの業者さんです。
二人はうれしくなって業者さんのところに行きました。
「こんにちは」
「こんにちは。お仕事中すみません」
「ふむ。どうしたんだい? 何か用事かな」
「わたしたち、お星さまがほしいんです」
「ママのおたんじょう日のプレゼントにしたいんです」
「ふむふむ。なるほど、お星さまがほしいのか」
業者さんは台車の上のダンボールばこを係員さんにわたします。お星さまの形の受けとりのハンコがおされました。
「お星さまはあつかいがむずかしいから、そのままもってかえるのはむずかしいかな」
業者さんは言いました。
「お店においで。お星さまを加工してあげよう」
業者さんは二人を連れて、大通りぞいのお店に行きました。
ガランカランとドアに付いたベルがなります。
「うわぁっ」
「お星さまだっ」
そこにはたくさんのお星さま。
ビンに入ったものや、ガラスのはこに入れられたもの。みんなキラキラとかがやいています。
「ここにあるものはイミテーション。本物のお星さまは奥にあるんだよ」
「こんなにキレイなのに?」
「お星さまはとてもデリケートだからね」
業者さんはお店の奥に二人を連れて入ります。
そこは倉庫になっていました。
二人は業者さんにたずねます。
「これはみんなお星さまなの?」
「どうして表に置かないの?」
業者さんは答えます。
「お星さまは明るいところに置くと、すぐにとけてしまうのだよ。プラネタリウムはとてもくらかっただろう」
たしかにプラネタリウムはまっくらでした。二人はなるほどと思います。
「だからそのまま持ってかえったら、お家につくまえに、とけてしまうかもしれないね」
それは大変です! せっかく手に入れることができても、ママにわたすまえにとけてしまったら、プレゼントにはなりません。
業者さんはてぶくろをはめて、そっと、はこを一つあけました。
ほんのりとやさしい光が、はこの中にみたされています。
二人は声を出すのももったいないように、そっとしずかにのぞきこみました。ぴかぴかつるつるの、キレイなキレイなお星さま。
業者さんがとりだすと、お星さまは倉庫の中のよわい光にキラキラかがやきます。
「さあて、ここからは急がないといけないね。早くしないと、とけてしまう」
業者さんは台の上に大きな紙をしいて、お星さまをおくと、ハンマーをもってきました。
ハンマーがお星さまの上にふりおろされると、カキンと高い音がひびきました。
カァキン。キィン。コキィン。カァン。
高い音がひびくたび、お星さまはどんどん小さくなっていきます。
二人はそのたびにあたりにとびちる、光のかけらに見とれていました。スノードームにとじこめられたら、どんなにキレイでしょう。
「さあて、できた」
業者さんはたくさんのこまかいつぶになったお星さまを、ようきの中に入れました。スイッチを入れると、ようきはぐるぐる回ります。
カラカラ、コロコロ、カラカラ、コロコロ。
「ここにお星さまがとけてしまわないように、朝もやを集めたシロップをかけるのだよ」
業者さんはそう言って、少し白い色のまじったシロップをとろりと中に注ぎます。
「少しじかんがかかるからね」
業者さんは紙の上にのこった、お星さまの粉を二人のまえに置いたグラスのお水に入れました。お水にお星さまの粉はすぐにとけて、シュワシュワと泡になりました。
できたのは、ふかい夜の空の色。るり色のソーダ水でした。
「のんでごらん」
業者さんがわたしてくれたストローで、二人はソーダ水をのみました。パチパチ口の中ではじけたお星さまに、二人はびっくりした顔を見合せます。
二人の顔に、業者さんはわらいました。
「ふむ。君たちには、まだすこしつよかったかな。しばらくそのままにしておきなさい」
つぎに業者さんはいくつかのビンを二人にわたします。
「すきな、かおりをえらんでごらん」
おねえちゃんは、あまいけれど、すうっとしたにおいのビンを指さします。
「冬の雪のけしきのこうりょうだね」
弟は、さわやかで元気が出るような、においのビンをえらびました。
「夏のお日さまのこうりょうか」
業者さんは二つのビンの中身をお星さまの入ったようきにすこしずつ入れると、もう一度シロップを注ぎました。
「おや。ソーダ水の色がかわったね。そろそろもう一度のんでごらん」
二人がグラスを見てみると、いつの間にか、ラベンダー色からオレンジ色にゆっくりかわるグラデーションのソーダ水になっています。
二人はおそるおそるストローをくわえました。
お星さまは、やさしくやわらかく口の中ではじけます。
「おいしい」
「とてもキレイだね」
「朝やけの色が終わってしまうと、お星さまは完全にとけてしまうからね」
二人がソーダ水を飲みおわるころ、業者さんはお星さまを入れたようきのスイッチを止めました。
きいろと白いうすい紙を重ねておいて、その上にようきをひっくり返します。
さらさらと、紙の上に広げられたお星さまは、コンペイトウににています。ほんのりミルク色のコンペイトウが一山できました。
「ほうら、見てごらん。お星さまはちゃんと中にとじこめられているよ」
二人が一つぶずつもちあげて、業者さんのまねをして光にすかして見てみると、コンペイトウの中で、キラキラがかやくお星さまのかけらを見つけることができました。
「うわぁっ」
「キレイだね」
二人のうれしそうな顔に業者さんはやさしくわらうと、手ぎわよく紙でくるりとコンペイトウを包みこみ、キレイなリボンを結んでくれました。
「ママはよろこんでくれるといいね」
「ありがとうございます」
「きっとママよろこぶよ」
二人は小さなおサイフからそれぞれおこずかいをとりだして、業者さんにわたします。業者さんは、えがおで小さなお客さまに言いました。
「まいどありがとうございます。またのおこしをおまちしております」
二人はならんで帰りみちを急ぎます。
手はつないでいません。
二人で大切なプレゼントの入った紙ぶくろの持ち手を片方ずつ持って歩いているのです。二人で見つけた大切なプレゼント。運ぶのも二人いっしょです。
「ママおたんじょう日おめでとう」
「ぼくたちママにプレゼントよういしたんだよ」
二人がさしだしたプレゼントに、ママはとてもうれしそうにわらいました。
「ありがとう二人とも。とてもうれしいわ」
ママがこんなによろこんでくれるなんて。やっぱりお星さまを探したのは正しかったのでしょう。二人はとくいそうな顔を見合せます。
「ママはね。二人がママのために、いっしょうけんめいプレゼントをさがしてくれたことがうれしいの」
ママはそう言って、二人をぎゅっとだきしめます。
二人は首をかしげます。プレゼントよりもうれしいってどういうことでしょう。
それでもママがうれしそうだから、二人もえがおになりました。
ママは、二人といっしょにお星さまのコンペイトウを食べました。
「ママのお願いごとは、二人のお願いごとがかなうことよ」
口の中でホロリとくずれたお星さまは、あまくてさわやかなかおりがした後で、ふわりとやさしくとけました。
初の童話となります。童話と絵本の境に右往左往した当方ですので、若干小さな子ども向けに寄せた気が致します。
拙い作品ではありますが、多少なりともほっこりして頂ければ幸いと存じます。お読み頂き、誠にありがとうございました。