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SEASONS  作者: COLOR
一学期
3/18

#三 告白

 朝倉に連れられて、着いた場所は住宅街にある小さな公園だった。

 ブランコとすべり台、それに砂場があるだけの本当に小さな公園。俺達はその二台一組になっている、一人用のブランコに一台ずつ座った。

「まだ…家に帰りたくないの…」

 言いながら朝倉は俯いて軽くブランコを揺らした。

 その言葉の真意を図りかねる俺。

「迷惑…じゃなかったら、少し話…しない?」

 一瞬、家に帰りたくない何かの事情があるのか?と憶測をたてたが、まだ話がしたかっただけなんだと、その口調で悟った。その朝倉の申し出に俺は笑顔で頷いた。

「ありがとう…あのね」

 朝倉は噛み締める様にゆっくりと話し始めた。

 俺も朝倉の言葉に合わせる様にゆっくりとブランコを揺らしながらしばらく話しをした。

 内容は先刻さっきの話の続きのようなもの、学校の事や休日の過ごし方等たわいもない事だった。

 気が付くと周囲はすっかり暗くなっていた。公園の真ん中に一つだけポツンとある外灯が、うっすらと公園内を照らしているが、俺と朝倉の居るブランコまでは光が届いていないため、公園の外から見ると、俺達の姿は捉えにくくなっているだろう。

「…もう、結構遅くなったなぁ」

 俺は朝倉の事を思って会話を終わらせようとした。

「うん…」

 俺の言葉に寂しそうな顔をする朝倉。放課後の教室で出会ってから、笑顔の中にも時折覗かせていたこの寂しそうな表情…。

 そんな朝倉に俺はもう一度あの質問を投げ掛けた。

「先刻…あんな時間まで教室で何してたんだ?」

「えっ!」

 俯いていた朝倉が驚きの表情で俺を見た。俺の質問に明らかに彼女は焦っている。

「調べ物してたって言ってたけど…?」

 俺はただの興味本位から、畳み掛ける様に問いただした。

 すると次の瞬間、思いもかけない光景を目の前にした!

「だって…」

 かすれた声でそう言うと彼女の目から大粒の涙がこぼれていた。

「あっ…」

 俺は思わず声を出してしまった。心ならずも大切にしていたグラスを割ってしまった様な体の芯が冷気に晒された、身震いする感覚を覚えた。

「ご、ごめんっそんなつもりで訊いたんじゃ!」

 慌てて言い訳をする…そんなつもりとはどんなつもりなのか?ともかく自分でも意味が解からないほど焦っていた!ただの興味本位の質問がまさかこんな結果を生むとは思っていなかったため、俺も激しく動揺する!

「ごめんなさい…泣くつもりはなかったの…」

 そう言って朝倉はしばらく黙った。

 本当にどうして良いのか?どうすべきなのか?ただただ答えの出ない自問自答を繰り返していた。とにかく今は朝倉が落着くのを待つ事にした。というより、ただ待つ事しか出来なかった。

 唯一の救いは、俺が彼女を落着かせるためにベンチへの移動を促がしたのを彼女が抵抗なく受け容れてくれた事。

 二人でベンチへ移動してから何時間過ぎただろう…。

 実際には十分間くらいのものだろうが、こんな状態だったのでそういう時間の感覚になったのだろう。

 ブランコのあった位置より、若干外灯の光が届くので、朝倉の表情がよく見える。

 眼鏡を外し、ハンカチで目頭を拭っている。

「あのね…」

 沈黙を破ったのは朝倉だった。

 先刻より幾分落ち着いたトーンのその第一声が「あのね…」だった事に安堵感を覚えた。

「ここのところ三日間くらい、私はあの教室に暗くなるまで居たの…」

 朝倉は細々と話し始めた…。

「こんな事聞くと多分軽蔑するでしょうね…」

 不安そうに喋る彼女に、俺は沈黙という行為しか出来なかった。

 そんな俺に彼女の話は続いた。

「私、誰も居ない教室で、ずっと…あなたの事を考えてたの…」

 !

 その言葉を聞いた瞬間から俺の鼓動が早くなっていくが判った。

 驚く俺を尻目に朝倉はさらに続ける。

「私、中学の時から…あなたが好きなの…」

 その前の言葉で何となく頭の片隅で予測出来た言葉が朝倉が発せられた。予測はしていたが、朝倉があまりにあっさり言い放ったので身構える事の出来なかった。

 まるで不用意に言ってしまったかの様なその言葉に、俺は心臓を撃ち抜かれる思いがした!

「きっかけは、中二の時…一緒のクラスになった時から。気付いたら好きになってたの…」

 必死に今の状況を把握しようとしている俺の事など全く意に介さない様に、朝倉の話が続く。

 数分前までは思いもしなかった事態に胸の鼓動は頂点に達していた。

 何か言葉を発しなければならないと解かっていた。でも何も言えなかった…。俗にプレイボーイと言われる男なら何か巧い事を言うのだろうが、生憎俺にはチャラ男の素質は無い様だ…。

「あの時、素直に告白していれば…」

 様々な考えが頭の中を駆け巡る。それらを処理しながら、必死に朝倉の言葉を脳に焼き付ける。

「あれ以来ずっとあなたの事を見ていたわ…テニスの試合も必ず見に行ったの…」

 テニスの試合…その言葉で俺は少し理性を取り戻せた。

「今年、三年生になって、また同じクラスになれてとてもうれしかった…。今度こそ自分の想いを伝えようと決めたの…」

 朝倉の気持ちを知ってしまったが、今の俺は素直にそれを受け入れる事は出来なかった…。

 理由は一ヶ月前に窓から見たあの一年生…。

 今まで気付かなかったが、今はっきり解かった。あれは一目惚れだと…。

 あの事がなければこの朝倉の告白は素直に嬉しかっただろう。

「ごめんね、勝手に私の想いをぶつけちゃって」

 相当な覚悟で告白してくれたであろう朝倉に、俺はちゃんと応えなければならない。

「朝倉…」

 俺はゆっくり喋り出した。

「ありがとう…軽蔑なんかしないよ。そういう事、好きな相手になら、俺もするだろうから…」

 どこに居るかも解らない、一年生の女子を追いかけ、一年の校舎に押し掛けたのだ、その素質は十分あるだろう…。

 朝倉はそれを聞いて俯いて恥かしがる。

 俺は意を決して次の言葉を口にする…。

「でも…ごめん…」

 朝倉は『どうして!』という表情で俺を見た。

 構わず俺は続けた。

「今、俺…、好きな子がいるんだ…。…好きな子がいるっていっても、付き合ってるとかじゃなくて、好きだって事を告白もしていない状態なんだけど。ってか、その子の名前も知らないし、…ただ一目見た瞬間、その子を好きになってた…」

 俺は一呼吸置いて続けた、

「その気持ちを隠して君の気持ちに応えるのは簡単だ…、でも、それをしてしまうと、結果、君をもっと傷つけてしまう事になると思うから、今の俺は君の気持ちに応えられない…いや、こんな俺に応える権利なんてないと思う…」

 俺は自分の想いを告げた。

「やさしいのね…」

 彼女から返ってきた言葉は思いがけない一言だった!さらに、

「名前も知らない…告白もしてないっていう事は、その人とはまだ恋人関係じゃないって事よね?」

 朝倉が訊いてくる。その口調はいつしかしっかりとしたものになっていた。

「え!…うん」

 俺が答えるとすかさずに、

「じゃあ、その人と恋人同士になるまでで良いから、私を恋人にして!」

 朝倉はとんでもない事を言い出した!

「こんな事を言うとおかしな女だと思うでしょ?そう思われても良い…自分でもおかしいと思うもの…でも、もう自分でも抑える事が出来ないほどあなたが好き!…愛してるの」

「・・・・・・・」

 俺は呆気にとられた。

 最高のルックスを持ち、全男子生徒に崇拝される学校一の美女は、愛する人に対して、自我を抑えられないほど一途になってしまう情熱を内に秘めていたのだと知った。

 そしてその情熱は今、他の誰でもない俺に向けられている!

 そう考えると無意識に、

「あ、朝倉は…それで良いのか?」

 問いかけていた。

「うん」

 言って、彼女は俺の胸に寄りかかった!

 俺も思わず彼女を抱きしめてしまった…。彼女の切ない想いを考えると咄嗟にそうしてしまった。

「あなたには迷惑を掛けません…これは私の問題。…あなたの恋人であると自分に暗示を掛けさせて…」

 そんな事まで考えているとは…何故そこまで俺なんかの事を…。

「わかった…それで後悔しないね?」

「うん」

 朝倉は俺の腕の中で嬉しそうに答えた。

 俺は朝倉の提案を、朝倉自身を受け容れてしまった…。これで彼女のこれからを台無しにしてしまうかもしれない…。最悪の結果を招いてしまうかもしれないと解かっていたが、俺は彼女を拒めなかった。

「もう少し…このまま…」

 彼女の希望に応え、しばらく朝倉を腕の中に抱いたままでいた。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

『ピーピリリ〜』

 少し経った頃、突然朝倉の携帯が鳴り出した!着信画面を確認し、慌てて電話に出る。

「ごめん!うん、ちょっと友達と話し込んでて…、うん、あと少しで帰るから。ハイ、じゃあ」

 忙々と電話を切る。おそらく親からだろう。

「遅くなったな…家まで送るよ」

「ありがと」

 俺が先にベンチを立って、そっと差し出した手を朝倉が握った。その手を取って、彼女をベンチから起こし、俺達は公園を後にした。

 途中、彼女と会話しながら歩いた…公園に付く前に話していた様な事を。この会話の内容に俺は安堵した。公園での出来事で変わってしまってもおかしくない数十分前までの関係が、この会話でまだ保たれている気がしたから。

 公園から少し離れた所に彼女の家はあった…。豪勢な門の前で、

「今日は本当にありがとう」

 朝倉は笑顔で言った。さらに、

「…良かったら上がっていかない?一緒に夕飯でも…」

 いきなり彼女の家に誘われた!そんないきなり彼女の行くわけには!というより俺の心の準備が出来ていない!

 つい数分前に告白されて、いきなり家にお邪魔して、両親に挨拶する度胸は持ち合わせていない!

「い、いや、今日はもう遅いし…帰るよ」

 俺が臆病な答えを返すと、

「そう…また明日学校で…ね」

 寂しそうに彼女が言った。

「ああ…」

 そう言って俺は朝倉の家を後にした。

 いきなり家に招待される度胸は無いくせに、何となく俺も名残惜しいというか、少し寂しい気持ちを抱えながら…。

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