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【アーヴァルザット ギルド協会へようこそ!】
やけにフレンドリーなでかい看板を掲げたレンガ造りの建物が、この国でのギルド元締め施設であった。
明るい建物は大きな入り口を常時解放しており、誰でも気軽にギルドが利用できるようになっている。一般人が使いやすいよう冒険者用の入り口は別にあるらしい。確かに荒くれものがたむろしているような場所に普通の人が訪れるなんて、無理だろう。別れているのは正解だ。
さくら達はその一般人用の入り口から入り、帰りはギルドメンバー(仮)として、実は隣にあった目立たない冒険者用の出入り口から出てきた所だった。
そう。
戦闘テストを楽々とクリアした3人は念願のギルドカードを手に入れたのだ!まあ、楽しみにしてたのはさくらだけなうえまだ仮免だが。
「あっさりだったね」
「当然だ」
「ウィルとサクラさんは、少し手加減と言うものを覚えてください……」
試験官の悲壮感漂う表情を思い出して、アレンはため息をつく。
刀と言う武器を持ち妖力は使わず戦うさくらは見た目は成人ギリギリなのにバカ強く、他に試験を受けに来た者達だけでなく試験官達の自信まで粉々に砕いてしまった。見た目か弱い女の子に片手であっさり渾身の一撃を受け止められれば、流石に泣きたくもなってくるだろう。同じくウィルも容赦なく相手を叩き伏せていた。
最終的には何故かさくら対ウィルの試合になっていて、試験会場はまさにカオスであった。何がどうしてそうなったのか、脇の方で至極真っ当に試験官と向かい合っていたアレンにはさっぱりわからなかったが、そのままにしておくわけにもいかなかったので2人をなんとか止めて場を収集したのだった。
因みにアレンはいきなり成長した体の扱いに流石に手間取っていて剣はまだ扱えないでいるのだが、きっちりと魔法を使いこなし難なくクリア出来ていた。
「ちょっと、私の名前は桜花だよ!」
「あ、すみません……」
名前は当然偽名を使用していて、さくらとウィルは姿を借りた本人の名を借りアレンはアオと名乗っている。アオと言う名はさくらの好きな色からだ。
「と、ともかく!余り目立つような真似は、少なくとも王都を出るまでは控えてください!」
「はぁい」
「申し訳ありません……」
心底反省しているウィルはともかく、適当に返事をしてくるさくらにかなり不安を覚えるがひとつため息をついてそれを無理やり飲み込む。
無茶をしでかしても実力主義なギルドでは最終的にはすごい兄妹だ、で済まされたのでこれ以上心配しても仕方がない。
そもそも、ギルドと言うのは完全に実力主義の集団である。入るのにテストを受ける必要はあるがそれまでの経歴は必要なく、入ってからの功績だけが全てな組織なのだ。なので運良く月に一度のテスト開始日に訪れることが出来たさくら達は、その場で試験参加を決め即受理されたのだった。
ただし、本日開催されたのは戦闘テストのみ。これに合格しても1ヶ月の試用期間があり、その間はギルド派遣の試験官と共に過ごして最終的な診断を受けるのだ。寧ろこの試用期間の方が重要な審査となっていたりする。今は多少実力が足りずとも将来有望であったり、何か特技を持っているような人物は力がなくとも合格でき、逆に実力はあっても素行に問題があれば落とされる。
だから戦闘テストを合格できたからと言ってそう安心はできないのだが、滅多なことでもない限り落とされる事はないだろう。
「今日の試験官とは違う人が明日から着くんだよね?面白い人だといいなあ」
「僕は色々とバレないかが心配です……」
「名前の呼び間違いさえなければ問題ありませんよ、アオ様」
「取り合えず様付けはやめよーよ、お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん……」
言われ慣れない響きに若干居心地悪そうにしているウィルを尻目にさくらは先程渡されたばかりのカードを空にかざす。
「はあ~、やあっと異世界に来たって実感が持てたよ」
「良かったですね」
「うんっ、明日からの試験期間も全力で頑張る!」
「いえ、できれば力を抜いてください……」
「えー、なんでよ!」
「大丈夫です、アオ。私がオウカの暴走を止めて見せます」
「む、今日は決着が着かなかったけど、再戦するなら今度こそ勝つよ!」
「望むところだ」
結局また暴れだしそうな2人を引き連れ、早くも胃の痛い思いをするアレンは今日から1ヶ月お世話になるギルドの宿舎へと足を進めた。