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話がなかなか進まず、申し訳ありません(-_-;)
「うーん……」
アレンの身支度を待ちながら、さくらは昨日のうちに予め手に入れていたわら半紙を纏めたような、少しごわごわした小冊子を見つめてソファーで唸っていた。
「どうかしたのですか?」
「あ、支度終わった?」
「はい、お待たせしてしまいすみません」
そう言いながら応接室に入ってきたアレンの出で立ちを見て、さくらは密かにほっとしていた。
何せ昨日は一目で一般人じゃないって分かるような良いとこのぼっちゃん風な衣装だったのだ。まあ、さくらが制止を聞かずに城を飛び出ていったせいなのだろうが。
今日は普通のご家庭の少年風にまでランクダウンしてある。立ち居振舞いはどうしようもないが、服装が変わっただけでも案外人間は騙されてくれるものだし、多分大丈夫だろう。いかにもな貴族の少年を連れての旅なんて、面倒しかなさそうだしギルドで登録してもらえるかも微妙だ。
そんな事を思いつつ、さくらは眺めていた冊子をアレンに渡した。
「ギルドの案内書?」
「うん、昨日街で貰ったんだけどね」
手渡された冊子にアレンは目を通す。
「別に、おかしな所は無いように思いますが」
「いやー、それがさあ」
「どうしたんですか?」
珍しく本気で困ったような表情を浮かべるさくらにアレンは不安を募らせるが、続いた言葉に思わずきょとんとしてしまった。
「文字が読めない………?」
「あはは、実はそうなんだよねー」
どこか決まり悪げに答えるさくらに、思わずアレンは笑ってしまう。
「ちょっとー、もう、酷いなあ」
「す、すみません。貴女にも出来ないことがあるんですね」
「そりゃ、あるよ」
「初めから言葉が通じていたので、失念していました。これを身に付けてください」
「ブレスレット?」
渡されたものを見て、それに込められている力を感じさくらは目を細める。
「これ、アレンの力を感じる」
「はい、意志疎通が図れるようにと僕が事前に用意しておいたものです」
促されるがまま、さくらは腕に装備してから試しにもう一度ギルドの案内書を手にとってみる。
「ホントだ、読める!」
「良かった、1つでもサクラさんのお役に立てて」
ニコニコしているアレンにはもう目も向けず、さくらは夢中でギルドの案内書を読破した。
「って、短っ」
「まあ、そんなに規律があるような組織じゃないので。逆に騎士団にはたくさんの規律がありますよ」
「そうなんだ、私は絶対ギルド派だね」
そうだろうと同意もできないので、アレンは曖昧に微笑むと今更ながらに気付いて尋ねた。
「所で、ウィルは何処へ行ったのですか?」
「ああ、部屋で食べれるような朝食を朝市に買い出しに行って貰ってる」
「そうですか」
面白いものを見つけるとそれに夢中になって周りが疎かになるのはいつもの事で、アレンの支度が済んだら直ぐにでもギルドへと飛び出していこうとしていたさくらに食事を思い出させたのはウィルだった。
アレンはまだまだ成長途中だ。人としての営みを忘れてはならない。
「所で、アレンって歳いくつ?」
「今年で12になります」
「って事は、ギルドに入るのにまだ4年足りないのかあ」
この国の成人は16歳である。別にアレンがギルドに登録しなくてもギルド活動に問題はないのだが、自分達は身分を隠して旅立たなければならない。そうなると、アレンの身分の証明が出来なくなるのだ。
ギルドメンバーでいる事は、それなりの身分保証になる。
彼をウィルの弟として連れて行ってもいいのだが……
「旅をするにあたっての提案があるんだけど」
「提案、ですか」
「アレン、大人になってみない?」
*****
「ただいま戻りました」
「おっかえりー」
「おかえり、ウィル」
ひらひらと手を振りながら迎え入れたさくらの隣にいる見慣れない青年に、ウィルの眉が潜んだのは一瞬。
「アレン様……!?」
「やっぱり、ウィルには直ぐにばれてしまいましたね」
「つまんないの」
照れているのだろう、少しはにかんでいるアレンの姿は、ウィルとそう歳が変わらないように見える。その横ではアレンと気付かずに無礼なことしちゃって焦るウィル、というこれまたベタな展開を望んでいたさくらがやや仏頂面になってウィルを睨んでいたが、それ所ではない。
「これは一体、どういう事ですか!」
「だって、アレンだけギルド登録出来ないの可哀想じゃん」
「あの、別に僕は冒険者になりたい訳では……」
「可哀想とかいう問題じゃない!殿下の体に何をしたんだ!」
「んー、別に歳を変化させただけだよ。これだけじゃ体に害はないから大丈夫」
例えば性別を変えてしまう等、そのものの本質まで変えてしまうのは負荷が掛かってしまうが、少し歳を変える程度では問題はない。
因みにさくら自身が変化するのであれば、本質まで変えても大丈夫なので今は完璧に人間の姿をとっている。だから耳も尻尾も触っても感触は全くない。さくらの力は幻術程度の術ではないのだ。
「そんなにアレンを変えちゃうのが嫌なら、私とウィルの子供として着いてくる、って言うのもあり。家族でギルド活動って普通にあるみたいだし」
ギルドは成人前の実の子であれば、家族として身分保証をしてくれるのだ。なので、ほんの少しさくらとウィルの年齢を変化させればいい。
「どうせウィルの姿も変えないとだし、私としてはどっちでもいいけどね」
まだ少し拗ねたような様子のさくらが、もうどうでもいいやと投げやりな感じで提案してくる。
「いえ、このままでお願いします」
「ですが」
「僕は早く大人になりたかったので、実はとても嬉しいです」
子供時代はとても大切なものだ。様々なものを吸収していく過程をすっぽかす行為はアレンの為になるとは思えないが、既に子供でいる事をやめた少年にとって、旅の間だけ大人の姿でいることは必要なことなのかもしれないと思い直す。
その姿でいれば子供と侮られることなくアレンの力を振るう事が出来るだろう。
「……わかりました」
「ありがとう、ウィル」
いつもとは違う低く、でも代わりなく優しい声音にウィルは思わず膝を着く。
「ですが、決して無理は為さらぬようお気をつけください」
「分かってるよ」
改めて臣下の礼をとり自分を案じてくれるウィルを、少し困った表情でアレンは眺めた。