表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐が異世界に召喚されました  作者:
第1章:狐の旅立ち
5/18

2

大きすぎず小さくもない。程々の大ききさの宿に到着したのは、あれからこ一時間程経った頃だった。

さくらとしては個室を一室だけでも用意してくれる所なら最底辺の宿でも構わないのだが、女性をそのような所に泊められないの一点張りな2人の主張をしぶしぶ聞き入れ、余り派手ではないが評判はそこそこだという宿で妥協した。


「すみませーん!泊まりたいんだけど、部屋空いてる?」

「2人部屋なら1室空いてるよ!」

「じゃ、そこでよろしく」


1泊分の料金を払い指示された部屋へと上がっていくさくらを、慌てて2人が追いかける。


「お金!増やさないでくださいって言ったでしょう!」

「はいはい。これからはおーじさまに頼るから今回は見逃して」

「それもですが、若い女性とひとつの部屋など、ダメです!」


さっきまで仏頂面を浮かべまくっていた騎士も慌てて止めに入ってくるが、それには肩を竦めるにとどめる。


「それは大丈夫だから、取り合えず部屋にいこ。ここじゃ誰かに話を聞かれるよ」


1階は食堂として機能しているこの宿は、既に夕方を迎えた今からが稼ぎ時なのだろう。ざわめきが響いてきている。だからひとつ階を上がっただけでもこちらの会話の内容を誰かに聞かれる心配はなくなるだろうが、単純に寛ぎたかったのでさくらは2人を促した。

そして目的の部屋につくと鍵をさし、一度捻るとそばを離れる。


「ほら、開けてみて」

「私が開けます」


何故か鍵まで挿しておいて扉を開けるのを譲った事に怪訝な表情を浮かべるも素直に開けようとしたアレンを騎士が止める。

別にどちらが開けても構わないさくらは、ただニヤニヤと人の悪い笑顔を浮かべて待っていた。


「これは…!」

「城の応接室、か?」


目論見通り2人が驚いたのを見て、満面の笑顔を浮かべながらさくらは2人を部屋に押し込んだ。


「ほらほら、座って!」


そう言いながら、1人でさっさとソファーに腰掛け、テーブルにいつの間にか用意されていた紅茶を片手に寛ぐさくら。

思えば召還されてから、自分が驚くことよりも相手を驚かせることの方が多い気がする。とは言えいたずらも大好きだし、考えてみればもとの世界では自分を偽って生きていたから、有りのままをさらけ出せるこの状況は思った以上に楽しい。これなら譲歩して当分はアレンの言う通りにしててもいいかもしれない。

そう思いながら、部屋を歩き回って色々と確かめている2人を眺める。


「あれ、本の中身は空白なんですね」

「私の知らない物までは、再現できないんだよね」


故に、最後まで読みたかった連載漫画は諦めなければならない。ああ、最後まで読みたかったのになーと、こっちに来て初めて向こうを懐かしんでいると、恐る恐る紅茶に口を着けた騎士が感嘆のため息を漏らしている。


「美味しい…」

「気に入ってくれたならよかった」


「それでここは、何処なのですか?」


一通り部屋を眺めて満足したらしいアレンが好奇心を押さえきれない、といった表情で尋ねてくる。そうしてるとちゃんと子供に見えるな、とか思いながらさくらは適当に説明した。


「ここは世界の狭間。私の力で作り出した、私だけの空間だよ」


自分でもどういう仕組みだか分からないが、力の及ぶ限りどんなに広い豪邸でも作成可能だ。

ただし、自分の想像力とセンスの問題なのでさくらは見たことがあるものしか作り出せない。

奥には3室寝室を作ってあるが、家族で旅行した際のホテルの部屋がベースになっているのであまりファンタジーっぽくも、妖怪らしく和風なわけでもない。

そして空間の維持には継続的な力の供給が必要なので、他のことに極端に力を使ってしまうと持続することができなくなる。

それでも普通に暮らしていれば、この空間が壊れるような事態はないだろう。日本では父の作り出した家で暮らしていたが、その空間がほんの少しでも揺らいだという話は聞いたことがない。

最も、これからは未知の敵と戦いながら旅をしていくので、注意するに越したことはないが。


「ここは私の許可したものか、私より強いものしか入ってこれないから一先ず安心していいよ。

宿を出る時は消すから、忘れ物はしないように気を付けてね。忘れると部屋と一緒に消滅するから」

「…本当に1人で、なんでも出来てしまいそうですね」

「そう言うものを、召還したんでしょう?本当に思いきりがいいよね~

敵を呼び出したかもしれないのにさ」


他人事といった様子で気楽に言ってくるさくらの視線を静かに受け、ポツポツとアレンは話始める。


「成功しても、強大な力を持った存在がはたして我々の願いを聞き入れてくれるかーー

…全てが賭けなのは承知していました」

「よく許されたね」

「許されていませんよ」

「だから監視がついてるのかな?」

「ウィルは善意で着いてきてくれてるんです!」

「ん?ウィルって誰?」

「…彼の名前です。ウィリアム・フェルザーと言います。

因みに、僕の名前はアレンです」


若干疲れたようにそう言ってくるアレンに曖昧に笑いかけごまかし、騎士の方に顔を向ける。


「えーっと、ウィルだっけ?貴方も着いてくるの?」

「勿論です」

「じゃー、その態度は改めようね。

アレンももう王子様じゃないんだし」


さっきまで名前を忘れて王子様呼ばわりしていた自分は棚に上げてそう言うと、アレンも大きくうなずいている。


「そもそも、ウィルまで僕につきあう事はない。

それにお前は騎士団でもかなりの腕前。兄上の側にいるべきだ」

「我が剣を捧げる相手はアレン様のみ、3年前の誓いを破ることはできません!」

「ウィル…」


困ったような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべるアレンとその前に膝まずく騎士を見つめ、騎士と主かっこいい!と感動していたのは永遠の秘密である。

取り合えずこの2人を見てると、映画のワンシーンを生で見ている気分にさせられる。非常に面白い。

やっぱりこの判断は正解だと、さくらはこっそり微笑んだ。


「じゃあ、このメンバーで頑張って行くってことで!これからもよろしくね?」


未だ困ったような表情でいるアレンにそう強引に告げる。


「それと、監視って言うのは二人のことじゃないよ。

お城を出てから2人着いてきてる人がいるね」

「それは本当ですか!?」

「うん。1人はお城の応接室にいたおじさんの臭いがついた人で、もう1人はわからないなあ」

「おじさん…」

「なんか1番えらそーにしてた人」

「…あれは、我が国の宰相です」

「へえ、そんなに偉い人だったんだ。それにしても、あの場にいた大人は誰も喋んなかったね」

「僕が責任者だったので、皆には口出し無用と言い渡していました」

「ふーん」


本当は別に理由があるのだろう、少し決まり悪げに話すアレンを一瞥し、でも別にどうでもいいからそれならそれでいいかと話を切り上げる。邪魔になれば排除すればいいだけの話だ。


「宰相からの監視は知らされていました。僕たちの状況を伝える役目としてつけられています。

邪魔になるようなことはないと思うのでこのままにしてもらえるとありがたいのですが…」

「却下。まあ、百歩譲って王都にいる間は泳がせておいてもいいけど、もう1人も含めてここを出る時は巻いていくよ」

「分かりました」

「あれ、ホントにいいの?」

「僕たちに人も時間もかける余裕なんて本来はありませんから」

「それなら遠慮なく逃げよう。

あ、そうそう!逃げるとなれば国に頼れないし、旅の資金稼ぎも重要だよね!

明日はギルドに登録しにいこー♪」


これも異世界の醍醐味だ、絶対にはずせないことである。あるんだろうなーと予想はしていたが、町を歩く中でこの単語を聞いた瞬間にさくらの中では決定事項になっていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ