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アーヴァルザット王国、それがさくらの呼ばれた国の名である。この世界では唯一の人間の王国にして最大の国家だ。その他は様々な種族の国がいくつか散らばっているだけの、地球より小さな世界であった。
この世界最大の都市でもある城下町は、さくらの予想通り中世ヨーロッパ的な世界観を醸し出している。勿論見慣れないものも多く、それらは十分に彼女の好奇心を満たしていた。
上機嫌で辺りを見渡しながら、姿と共に変えていた服装についても周りに合わせながら然り気無く修正していくのを忘れない。人に混じり違和感なく過ごすというのは、妖の本能でもあるのだ。勿論今回の場合は楽しいからやっているという一面もある。
「あ、おばさーん!それ一個ちょーだい!」
「あいよ!」
目についた屋台で売っていた、串焼きっぽい食べ物を取り合えず買ってみる。塩と胡椒の他に何かしらのスパイスがきいていてとっても美味しい。
「サクラさん、待ってください!」
「あれ、なんで着いてきてるの?」
はふはふと、何の肉だか分からないが美味しい串焼きを食べていると、城からずっと着いてきていた少年が声をかけてきた。
「貴女はこの国のお金をいつ手に入れたんですか!」
「え、こうやってだよ?」
さくらは自分の力を複雑なものでなければ何にでも変換できるという、かなりチートな能力を持っている。お金は先程から周りを見てある程度把握してから出していた。
そんなわけで、聞かれるがままに手のひらに数枚のコインを出して見せる。
「これは私の力で作り出した本物と同等の品だよ。私がこの世に存在する限り消えることはないから安心して」
そう言いながら、なにも言えないでいる少年に出したお金を渡す。
まあ、現代の日本じゃナンバーやらなんやらで管理されてるからちょっと厄介なのでお金を作ることは止められているが、この世界なら大丈夫だろう。
「お金の管理は国家の重要な役目のひとつです!勝手に増やさないでください!」
衝撃から直ぐに復活したらしい少年が至極全うな抗議をしてくるが、別に湯水のように使うつもりはないしいいじゃん、と、適当に聞き流す。
「そんな事より、オウジサマがこんな所にいていいの?暇なわけ?」
「僕は、貴女の召喚がうまくいった時点で継承権を返上しています。今回の案件は僕の一存。最後までお供します」
「え、いらないし」
「貴女に必要がなくとも、僕には最後までやり遂げる責務がある。何を言われても着いていきますよ」
「でも、正直足手まといなんだけど」
「それにまだ、報酬の話も、帰還についての話も出来ていません」
「報酬ねえ、別にいらないんだけど。面白そうだからやるだけだし。
てか、帰れるの?」
「それは…」
「ぶっちゃけ、現状では帰還の目処なんてたってないんでしょ?」
呼び出された状況を鑑見るに、救世主を呼び出すというよりは行き当たりばったりの賭け召還に思えた。だからこその、あの大勢の兵だ。
貴人の姿も少ないように感じたから危険なものが出てきたら討伐なりなんなりするつもりだったのだろう。
それはつまり追い返すことができないという事であり、少なくとも直ぐには帰還出来ないという事を表す。
「ま、別に帰れなくても問題はないよ。どうしても帰りたくなれば自分で方法探すし」
「…僕を責めないのですね」
「責める所か、すっごく感謝してる!」
力一杯の感謝を表現すれば、一瞬泣きそうな表情を浮かべ、少年は俯いてしまった。
「アレン様!」
それに少し離れた所で様子を伺っていた騎士が慌てて近づいてきた。雑踏から脇に避けただけの場所だったので、会話の内容までは聞こえていなかったらしくこちらを睨んでくる。
それを見て、少しだけさくらは考えを改めた。こちらの人間は魔法が使えるらしいし、役に立つかもしれないと。それにこの騎士は結構実力者なようなので、敵意がとても心地よくほんの少し興味が沸いてくる。
一回くらい手合わせしてみるのもいいかもしれない。
「そうと決まれば、宿をとって少し王都に滞在しようか!」
騎士と何やら話していた少年が、弾けるように顔を上げ目を真ん丸にしているのを横目に、さっさと宿を見つけるべくさくらは足を進めた。
スマホから書いているせいか、短くなってしまってすみません。
なるべく毎日更新を心掛けます。