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さくらは人間ではない。
母は人間、父は妖怪というハーフっ子であった。
九尾の妖狐、って言えば結構有名な妖怪なんじゃなかろうか。
そんな両親から、さくらは父親の力を受け継いだ妖狐として誕生した。
まあ、尻尾は一本しかないのだが、別に尻尾の本数で強さが決まるわけではないらしい。
そんな訳で父譲りの力を持つ少女は、好戦的な妖怪から勝負を挑まれては返り討ちにする日々を送っていた。
その日も学校からの帰りに唐突に光に囲まれ、いつもの襲撃かと咄嗟に本来の姿に戻ってしまったのだ。
銀の毛色に金の瞳、ふさふさの耳と尻尾で佇んでいれば周りは呆然としたような、多くの人間。
人に正体がバレ、ヤバイと思ったが、どうも様子がおかしい。
そこで、暫くじっと観察していたのだ。
「えーっと、落ち着いて話し合おうよ?」
にこにこ笑顔で話し掛けても、ちっとも話を聞いてもらえない。
「あの!」
そろそろ最終手段に出ようかなーとか考えていたら、遠くで押し問答していたちびっこがいつの間にか包囲網の最前線に出てきていた。
周りの騎士とか魔法使いっぽい人達が、あわてている。
やっと話が聞けると思い、少年に近寄ろうとするが、瞬く間に人波が押し寄せ再び距離を取られそうになり、仕方無しにさくらは力を使ってみた。
ばっしゃーん
頭冷したれ、と思って放った水が辺りを濡らす。
細かい力の調整が若干苦手なため自分自身もずぶ濡れになるが、妖怪だから風邪引かないしとさくらは気にしない。
まさか魔法を使うなんて、とか言ってるのがいるが、これは魔法じゃなくて妖術だ。
とは言っても、魔法と妖術のちがいなんてさくらには分からないのだけど。
「取り合えず、自己紹介と私を呼んだ目的を教えてくれないかな?」
ずぶ濡れになり呆然としてやっと静かになった観衆へ上機嫌に微笑みかけながら、漸く見つけた楽しそうな暇潰しにさくらの心は弾んでいた。