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狐が異世界に召喚されました  作者:
第2章:狐の邂逅
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6

『森』の外へと作られた道は、問題なく使用できた。と言うよりも、歩み始めて少したてばいつの間にか外へと出ることが出来ていたのだ、問題が起きる間もなかった。外へと戻る一行に加わっていたアイザックは面食らいつつ隣を歩いていたさくらへと視線を向けた。


「本来の距離は鍛えられた騎士が歩いて半日って所だったはずだが」

「そんなにちんたら歩いてたいの?」

「いや、そう言うわけではないが……」

「道って言っても、私の力で出来ているものだからね。本来の物理的な空間とは違うんだよ。最も、この『森』だってもう普通の空間とは言いがたいけど」

「現状の『森』を突っ切らないでいいのは正直ありがたいです。渡るのに護衛をつける必要はあるでしょうが、使用に関しては問題ないでしょう」


横で2人の会話を聞いていたアレンに扮した式がそう言うと、アイザックが渋い顔をしつつも是を唱えた。問題がないからいいと言うよりも、これしか手がないと言うのが実情だ。


「特に『森』からの拒絶反応もないみたいだから、安心して」


アイザックの渋面を見て、さくらはそう付け加えた。『森』からは絶えずさくらを気にするような気配を感じてはいたが、場を割り込ませたことに対する怒りは感じなかった。

取り合えず問題なく道は使えるようだし、暫くは暫定対策として同じく飲まれた集落に道を作っていけば良いだろう。その後に、問題解決を図っていけばよい。

直ぐに問題を排除したいのは山々だが、折角捉えた意思ある気配は『森』に紛れてしまい今は感じることが出来ない。警戒されてしまったのならば、見つけ出すのは少々苦労するかもしれなかった。

だが、確固たる意思の存在は見失ってしまったが至る所からの視線は感じるので、さくらの他とは違う気配に気付いてはいるのだろう。

どうやって接していいのか様子見と言ったところか。


「まあ、これで当面の心配事はクリアされるでしょ?」

「……そうだな、アレン達の到着を待って次の場所へ移動するか」

「移動先なんだけど、強力な魔物が住み着いたって場所に先に行っちゃダメ?」


因みに今は騎士団は村人を連れカリヤナの街へと向かって行ったので、『森』への入り口にはさくらとアイザック、そしてアレンに扮した式しかいない。交代の騎士団を待たずにひと足先に戻る事になっていたので、その前に作戦会議となった訳である。

式を眺めながらのアイザックの発言に、さくらは自分の希望を伝えてみた。冒険にモンスターとの戦いは必須、と言うことでそろそろ本格的な戦いもしてみたくなったのだ。


「そこにはもう住民はいないから、急ぎで討伐する必要はない。それよりも中に取り残されている他の街や村の住民を助けてほしい」

「そっか。それなら仕方ないね」

「アレン達は1週間もあれば着くだろう」

「へえ、早いね。ここまで来るのに人としてはかなり急いだけど、1ヶ月近く掛かったよ?」

「飛竜で連れてこさせている。ああ、ギルドカードは無事に取得できたそうだ」

「飛竜!乗ってみたい!」

「……ギルドカードはどうでもいいのか」

「いや、もうとれて当然な感じだったからさ。それより飛竜だよ!」

「まあいい。次の目的地へは飛竜を使え、ウィルが扱えるから1匹はお前たちに渡そう。俺は一度城へ戻る」

「3人で乗れるの?」

「お前とアレンは小さいから何とかなるだろ」

「……あ」

「何か問題でもあるのか?」

「えーと」

「どうした?」


そう言えばアイザックにアレンが今は大きいと言うことまでは話して無かった。まあ戻せばいいかと思い、さくらは首を降った。


「ううん、なんでもない。じゃあ次からは当初の予定通り3人で行けばいいのね」

「危険も無いようだしな。ただし魔物の所へ行く前にはお前たちも一度城へ戻ってくれ」

「めんどくさいなあ」

「美味い酒を用意しておくから」

「うーん、それならまあ、いいよ」

「わるいな。

ああ、残りは3ヶ所だ。飛竜で回ればそんなに時間も掛からないだろう」

「んじゃ、ちゃっちゃとやりますかね」

「……なるべく自分を傷付けるなよ」

「はいはい、アレンには見せないよ」

「そう言うことを言ってるんじゃない」


憮然としてしまったアイザックに笑いかけながら、さくらはそっとため息をついた。そうは言ってもアイザックは今は仕方がないと腹をくくったようだったが、アレンにはまた言われるんだろうなと思うとほんの少し億劫になる。


「もっと私の強さを信用して欲しいなあ」

「言っておくが、信用するしないの問題ではないからな?」

「痛みは無視できるけど?」

「って事は、痛みを感じないわけじゃないんだな?」

「そりゃあ、妖にとっても痛みは体の不調を知るシグナルだしねえ」

「……この計画を容認した時点で、俺にとやかく言う資格はない。

ってのは建前だ。良い言葉が思い浮かぶまで待ってろ」

「……っはは、そうきたか。いいよ、アイザックの言葉を待っててあげる」


そう告げたさくらは、柔らかい微笑みを浮かべながら村に戻るために『森』へと踏み出した。




ほんの数時間で戻って来たさくら達に始めは問題が起きたのかとざわめいていたのも、アレンの問題なく使えると言う一言で歓声に変わっていった。

細かい話は今から詰めると言う事になって漸く村に平穏が訪れる。問題なく穏やかに過ごせていたとは言っても、全く不安がなかったと言う事はないのだろう。当然の事ではあるので、村人と一緒になって喜んでいる騎士たちの事も苦笑して眺めるだけに止めておく。なんと言っても彼等の逗留は取り残されていた間の村人の1つの心の拠り所であったのだ。それが住民の表情でよくわかったので寧ろアイザックは彼等に深く感謝していた。


「いいの?あれ」

「ああ、あいつらはよくやってくれた。今位は多少浮かれてもいいだろうよ」

「そう言うときに足を掬われるんだよ」

「はっ!我が国の騎士たちを舐めるなよ」


だからさくらにそう言われても腹もたてずに胸を張り、彼等を信用する。実際、今ははしゃいでいるように見えるが、上の者達は警戒を怠ってはおらず下位の騎士も事が起これば直ぐさま切り換えるだけの器量を持っている。

只一国の人間の国として長い間存在してきたアーヴァルザットはその分結束が固い。勿論、権力者に有りがちな派閥などは存在するが誰もが国を想っていると言うことにかけては獣人達の比ではない。一個人ではこの世界のどの種族よりもか弱い人間は、永い時を経て結束と言う何にも変えがたい力を得たのだ。そして国を想う気持ちは何よりも国を守るべき彼らにこそ根深く息ずいている。

村人達と共に喜びあうのを見ていればそれがよく分かった。


「さて、アレン達が着くまでに下準備は整えておくか」


そう告げると、アイザックはさくらと共にアレンの側へと近付いていった。

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