表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

『来なくてよかった4通目の手紙』

作者: 醍醐乙兎
掲載日:2026/04/11

 僕は手紙の配達員をしている。

 毎日手紙を配達していると、不思議な手紙に出会うことがあるんだ。

 そう、例えば……『重たい手紙』、とかね。


 あれは、僕がまだこの仕事を始めて1年経ってない頃だったと思う。

 あの頃の僕は、まだまだ仕事に慣れていなくて、先輩や上司に叱られてばかりだった。


「どうやったら3丁目1番地を5丁目3番地に間違えられるんだ! 黒い封筒に白文字ではっきりと書いてあっただろ!!」

「ははは……なんででしょう?」

「俺が聞いてるんだ!! あんな目立つ重たい封筒をどうやったら間違えられるんだ!!」

「ははは…………ですねー」

「俺が頭下げて代わりに配達したんだからな!!!!」


 と、こんな毎日を過ごしていた。


 そんな僕が『重たい手紙』に出会ったのは……この会話をした日より、少し前のことだったかな。




 あの日は、いつものように上司に叱られて、逃げるように配達に出たんだ。


 外は小雨が降っていて、僕は雨合羽姿で配達バイクを運転しながら「手紙を濡らしたらまた怒られちゃうかもなー」って、いつもより手紙に気を配っていたんだよね。


 だからかも知れない。

 僕があの手紙の違和感に気がついたのは。


「……あれ?」


 その手紙は、横長のハガキぐらいの大きさの――『洋形2号』っていう規格の封筒だった。

 色は淡いピンクのパステルカラーで、雨の中でもほのかに甘い香りが漂って来て、とても可愛らしい手紙に思えたんだ。

 でも、その手触りの良い封筒を持っていると、何か違和感があって、とてもムズムズしたのを覚えている。

 だから、そのときの僕は配達先の屋根付き駐車場にお邪魔して、何が僕の無意識をこんなにくすぐってくるのかを考えたんだ。


 それで、他の手紙を持ってみたり、これまでの浅い配達経験を振り返ってみたりして、確証はないけど答えを出してみたんだよ。

 そもそも、そんなに重要なことでもないし、自分が納得できて配達に集中できれば、間違っていてもいいからね。


 それで、僕が出した結論は、この手紙は『封筒の分厚さに対して――たぶん少しだけ重たい』


 ほんの僅か、それでも毎日手紙を手にしているから気がついた、重さの違い。


 そのときの僕は、「ようやく僕の感覚も配達員にふさわしくなってきた、ってことなのかなっ!」って、配達バイクの隣で、満足げに雨合羽姿でポーズを決めたね。




 それで、また別の日、その家に手紙を配達したんだ。

 その日も雨が降っていて、前と同じように屋根付き駐車場で手紙を確認したんだよね。

 でも、前の手紙と全然違った。


 大きさだけは、前と同じ『洋形2号』

 色は、前より少し妖艶で毒のありそうな、濃いピンクパープル。

 匂いは……鼻の奥がツンと痛くて気分が悪くなったからよく嗅がなかった。

 そして、封筒が弾けそうなほど中身が詰まっていて、持たなくても分かる重量感を漂わせていたよ。


「……気持ち悪い」


 ザラザラとした『洋形2号』から指先に伝わる、得体のしれない異物感を今でも思い出せる……。

 触れているだけで、すごく落ち着かない、嫌な封筒だったよ。

 だから、すぐに配達先の郵便受けへ入れたんだけど……その封筒、郵便受けの中で「ゴトッ」って物音を立てたんだ。

 ……もしかしたら、あの封筒には紙じゃない何かが入っていたのかも知れないね。




 それから、その家への配達は無理やり避けてたんだけど、気づいたら『売り家』の看板が立ってたんだ。


 だから、僕はその家――『3丁目1番地』に、配達しなくて良くなったんだよ。

 まだ買い手が見つかってないのか、今では庭や家屋が荒れ放題になってるんだけど……本当に良かった。


 3通目の『黒い封筒』のときは、封筒を視界に入れたくもなくて、無理やり誤配送を装って先輩に配達してもらった。

 でももし、その次――4通目の手紙があったら……我慢できずにこっそり捨ててたかもね。


 配達物の破棄はお叱りどころじゃすまないから、本当に良かったよ。

 ……おかげで僕は、今も手紙の配達員を続けていられる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ