『来なくてよかった4通目の手紙』
僕は手紙の配達員をしている。
毎日手紙を配達していると、不思議な手紙に出会うことがあるんだ。
そう、例えば……『重たい手紙』、とかね。
あれは、僕がまだこの仕事を始めて1年経ってない頃だったと思う。
あの頃の僕は、まだまだ仕事に慣れていなくて、先輩や上司に叱られてばかりだった。
「どうやったら3丁目1番地を5丁目3番地に間違えられるんだ! 黒い封筒に白文字ではっきりと書いてあっただろ!!」
「ははは……なんででしょう?」
「俺が聞いてるんだ!! あんな目立つ重たい封筒をどうやったら間違えられるんだ!!」
「ははは…………ですねー」
「俺が頭下げて代わりに配達したんだからな!!!!」
と、こんな毎日を過ごしていた。
そんな僕が『重たい手紙』に出会ったのは……この会話をした日より、少し前のことだったかな。
あの日は、いつものように上司に叱られて、逃げるように配達に出たんだ。
外は小雨が降っていて、僕は雨合羽姿で配達バイクを運転しながら「手紙を濡らしたらまた怒られちゃうかもなー」って、いつもより手紙に気を配っていたんだよね。
だからかも知れない。
僕があの手紙の違和感に気がついたのは。
「……あれ?」
その手紙は、横長のハガキぐらいの大きさの――『洋形2号』っていう規格の封筒だった。
色は淡いピンクのパステルカラーで、雨の中でもほのかに甘い香りが漂って来て、とても可愛らしい手紙に思えたんだ。
でも、その手触りの良い封筒を持っていると、何か違和感があって、とてもムズムズしたのを覚えている。
だから、そのときの僕は配達先の屋根付き駐車場にお邪魔して、何が僕の無意識をこんなにくすぐってくるのかを考えたんだ。
それで、他の手紙を持ってみたり、これまでの浅い配達経験を振り返ってみたりして、確証はないけど答えを出してみたんだよ。
そもそも、そんなに重要なことでもないし、自分が納得できて配達に集中できれば、間違っていてもいいからね。
それで、僕が出した結論は、この手紙は『封筒の分厚さに対して――たぶん少しだけ重たい』
ほんの僅か、それでも毎日手紙を手にしているから気がついた、重さの違い。
そのときの僕は、「ようやく僕の感覚も配達員にふさわしくなってきた、ってことなのかなっ!」って、配達バイクの隣で、満足げに雨合羽姿でポーズを決めたね。
それで、また別の日、その家に手紙を配達したんだ。
その日も雨が降っていて、前と同じように屋根付き駐車場で手紙を確認したんだよね。
でも、前の手紙と全然違った。
大きさだけは、前と同じ『洋形2号』
色は、前より少し妖艶で毒のありそうな、濃いピンクパープル。
匂いは……鼻の奥がツンと痛くて気分が悪くなったからよく嗅がなかった。
そして、封筒が弾けそうなほど中身が詰まっていて、持たなくても分かる重量感を漂わせていたよ。
「……気持ち悪い」
ザラザラとした『洋形2号』から指先に伝わる、得体のしれない異物感を今でも思い出せる……。
触れているだけで、すごく落ち着かない、嫌な封筒だったよ。
だから、すぐに配達先の郵便受けへ入れたんだけど……その封筒、郵便受けの中で「ゴトッ」って物音を立てたんだ。
……もしかしたら、あの封筒には紙じゃない何かが入っていたのかも知れないね。
それから、その家への配達は無理やり避けてたんだけど、気づいたら『売り家』の看板が立ってたんだ。
だから、僕はその家――『3丁目1番地』に、配達しなくて良くなったんだよ。
まだ買い手が見つかってないのか、今では庭や家屋が荒れ放題になってるんだけど……本当に良かった。
3通目の『黒い封筒』のときは、封筒を視界に入れたくもなくて、無理やり誤配送を装って先輩に配達してもらった。
でももし、その次――4通目の手紙があったら……我慢できずにこっそり捨ててたかもね。
配達物の破棄はお叱りどころじゃすまないから、本当に良かったよ。
……おかげで僕は、今も手紙の配達員を続けていられる。




