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「地味でつまらない」と婚約破棄された25歳の誕生日。実はその裏で、私に執着する完璧エリート専務の壮大な『私を取り戻す計画』が始まっていた  作者: 久遠翠


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第11話「最高のざまあ、最低の二人」

 祝賀会の翌週、社内に一枚の辞令が掲示された。

 それは、高坂翔太くんと姫川莉奈ちゃんの、子会社への出向を命じるものだ。

 出向先は、地方にある小さな物流倉庫を管理する会社。本社とは比べ物にならない、いわゆる「島流し」だ。

 懲罰委員会の結果、二人は解雇こそ免れたものの、今回の重大なコンプライアンス違反と会社に与えた損害を鑑み、最も重い処分が下されたのだった。


 その辞令が出た日、営業三課は一日中重苦しい空気に包まれていた。

 翔太くんと莉奈ちゃんのデスクはすでに私物がまとめられ、空っぽになっている。二人は他の社員たちに挨拶をすることもなく、まるで夜逃げでもするようにひっそりと会社を去っていったと聞いた。


「まあ、自業自得よね」

「会社にあれだけの損害を与えたんだから、当然の報いだわ」


 給湯室では、同僚の女性社員たちが声を潜めながらも、あからさまに二人を非難していた。

 あれほど社内の人気者だった莉奈ちゃんも翔太くんも、今や完全に孤立無援の状態だった。誰も彼らを庇おうとはしない。


(これが、彼らが選んだ道の結果……)


 私は静かにその事実を受け止めていた。

 不思議と、彼らに対して「可哀想だ」という気持ちは湧いてこなかった。かといって、心の底から「いい気味だ」と笑うような意地の悪い気持ちにもなれない。

 ただ空っぽになった二人のデスクを眺めていると、一抹の虚しさを感じるだけだった。


 その日の夕方、会社の近くのカフェで私は蓮さんと会っていた。

 私たちの関係は、あの日の屋上で結ばれてからまだ誰にも知られていない。二人きりで会う時は、こうしていつも人目を忍んでいた。


「……聞いたよ。彼らのこと」


 私がそう切り出すと、蓮さんはコーヒーカップを置き、静かにうなずいた。


「ああ。会社としての当然の判断だ」


「そう、ですよね……」


「まだ、彼らのことが気になるか?」


 蓮さんの声には、少しだけ嫉妬の色が混じっているように聞こえた。

 私は慌てて首を横に振った。


「ううん、全然。そうじゃなくて……。ただ、なんて言うか……。あんなにキラキラして見えた二人が、こんなにあっけなく落ちていくなんて、なんだか信じられないなって」


「メッキはいつか剥がれるものだ。彼らは自分たちを実力以上に見せることばかりに必死で、足元にある本当に大切なものを見失っていた。それだけのことだよ」


 蓮さんの言葉は、いつも的確で物事の本質を突いている。


「本当に大切なもの……」


「そうだ。例えば、日々の地道な努力や、他人への誠実さ。そして……」


 彼は、テーブルの下でそっと私の手を握った。


「君のような、かけがえのない存在と真摯に向き合うことだ」


「蓮さん……」


 彼の温かい手に、心が満たされていく。

 そうだ。私が本当に手に入れたかったのは見せかけの幸せじゃない。こうして心から信頼できる人と、穏やかに手を繋いでいられる確かな温もりだ。


「君を傷つけた罰だ。彼らには、これから自分たちの犯した過ちの大きさを骨の髄まで味わってもらうことになる」


 蓮さんの目は、冷たく鋭い光を放っていた。

 彼の言葉通り、翔太くんたちの受難はまだ始まったばかりだった。


 数週間後、私は元同僚から彼らのその後の噂を耳にした。

 出向先の子会社で、二人は全く仕事に馴染めず周囲から完全に浮いた存在になっているらしい。

 プライドの高い翔太くんは単純な倉庫作業ばかりの毎日に耐えられず、上司に反発しては怒鳴られる日々。

 莉奈ちゃんも自慢のぶりっ子は何の役にも立たず、年配の女性パートたちから「仕事もできないくせに、色目ばっかり使って」と、きつく当たられているという。

 そして、あれほど仲が良かったはずの二人は今ではすっかり破局し、お互いのことを罵り合っているそうだ。


「翔太が、もっとしっかりしてればこんなことにならなかったのに!」

「お前こそ、俺をそそのかした元凶だろうが!」


 そんな醜い言い争いを毎日のように繰り広げていると聞いた。


(最高の『ざまあ』……)


 誰かがそうつぶやいた。

 確かに、客観的に見ればこれ以上ないほどの完璧な「ざまあ」展開なのかもしれない。

 でも、私はもう彼らのことなどどうでもよくなっていた。

 私の隣には、蓮さんがいる。

 彼の深い愛情に包まれて、私は今、最高に幸せなのだから。

 過去を振り返っている暇なんて、一秒もない。

 私の視線は、輝かしい未来へとまっすぐに向いていた。

 最低だった二人への最高の復讐。それは、私が彼らのことなど忘れて世界で一番幸せになることなのだから。

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