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その聖女、魔力ゼロにつき。~騎士団長の一目惚れが斜め上すぎて、異世界が平和になりそうです~  作者: サハラ


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番外編:聖女の休日と、魔王の「お返し」便

3点セットの行方

 

  スウェットを脱ぎ捨ててアルベルトの愛を選び、この世界に留まる決断をしてから数ヶ月。

 アルベルトの屋敷には、相変わらず「聖女」として祀り上げられた真由の、やる気のない溜息が響いていた。


「……重い。アルベルトさん、やっぱりこの『聖女用公式正装』、肩が凝って死んじゃうよ……」


 真由は、最高級のシルクと宝石が散りばめられた重厚なドレスに身を包み、豪華な長椅子に突っ伏していた。あの日、愛のために「1980円の安らぎ」を次元の門のエネルギーとして捧げた代償は大きく、今や彼女は公の場では、アルベルトが特注した(が、真由にとってはやはり重すぎる)ドレスを着る羽目になっていた。


「マユ殿、気を確かに! 今、セドリックに命じて『視覚的には公式ドレスだが、裏地はすべて極上の綿100%』という、聖女の威厳と着心地を両立させた新素材を開発させております!」


 アルベルトは、公務の合間を縫って真由のもとへ駆けつけ、彼女の肩を甲斐甲斐しく揉み解していた。アルベルトの手つきは日頃の訓練(?)の賜物により、最早熟練の域に達しており、真由専用の騎士兼執事になっている。


 アルベルトの指先が、ドレスの重みで強張った真由のうなじを、羽毛のように優しく撫でる。


「マユ殿……。貴女がこの世界に残る決断をしてくれたあの日から、私は毎日、神に感謝を捧げているのです。……たとえこの先、どのような困難が訪れようとも、私がこの命を賭して貴女の安らぎを守り抜くと誓いましょう」


 低く、慈しみに満ちた声が鼓膜を震わせ、真由の背中に心地よい微熱が走る。

 肩を揉む手が止まり、アルベルトが吸い込まれるような美しい碧眼を細めて、真由の顔を覗き込んだ。至近距離で見つめられる彼の瞳は、隠しきれない独占欲と熱を帯びており、真由の心臓はスウェットを脱ぎ捨てた時以上の速度で跳ねた。


「……アルベルトさん」


「……マユ」


 アルベルトの大きな手が、真由の頬にそっと添えられる。

 互いの吐息が触れ合うほどの距離。真由が抗うこともできず、そっと瞼を閉じようとしたその時――二人の唇が重なる、まさにその寸前。


 バリィィィィィィィン!!


 そんな二人の時間を切り裂いたのは、もはやお馴染みとなった、バルコニーのステンドグラスが粉砕される音だった。



「――貴様ら! 我をこれ以上、清潔の呪縛に落とすつもりか!!」


 漆黒の翼を広げ、窓から不法侵入してきたのは魔王ザルバドスだ。

 だが、今の彼には以前のような覇気がない。その顔面は驚くほどツヤツヤと輝き、肌のキメが整いすぎて神々しさすら放っている。


「…今か、なぜ、今なんだっ!…………魔王っ!!懲りずにまた窓を割りおって!……マユ殿との安らぎの時間を邪魔する者は、万死に値するぞ!!」


 アルベルトが据わった目で、近くに立て掛けておいた剣を抜こうとするのを、魔王は必死の形相で制した。


「待て! 斬る前にこれを受け取れ! 数ヶ月前、我が魔界の生活用水源に空から降ってきた、この『忌々しい呪物』を!!」


 魔王は、ボロボロになった(が、非常に清潔な)自分のマントを広げた。その中心には、スウェットの繊維をガッチリと噛み込んだままの「純金製フレーム」と「巨大ダイヤモンド」が、歪んだ形でこびりついていた。


「……あ、それ! アルベルトさんが外してくれた後、私の部屋からなくなってたやつ!」


「数ヶ月前、空に黄金の亀裂が走ったかと思えば、これが我が城の井戸へ直撃したのだ! 以来、魔界の川はすべて『高級導入液』と化し、毒の沼地はすべて『泥パック』へと変わった! 我が軍の猛者どもは、今や角質ケアに余念がなく、戦場よりもエステの予約を優先しておるわ!!」


「……えっ、あの重たいダイヤ、数ヶ月も魔界の入浴剤になってたの? 道理で魔王さん、前より肌がツヤツヤなわけだ……」


「笑い事ではない! さらに、このフレームに挟まったままだった貴様のスウェットの切れ端……それが数ヶ月かけて我がマントの繊維と完全に融合し、今や触れるだけで精神を安定させる『究極のダメになる毛布』と化してしまった! どうしてくれる!!」


 魔王は、あまりの「安らぎ」に支配され、もはや破壊衝動を忘れてしまった自分を奮い立たせるように叫んだ。


「これを見ろ! 貴様のスウェットの残留思念が、我がマントを……我を……こんなにも、ふわふわに……っ!」


 魔王が差し出したベルベットの布(元マント)を真由がひょいとそれを受け取り、肩に掛けた瞬間。


「……ああ、これ。あの懐かしいスウェットと同じ……ううん、熟成されてもっとダメになる感触……」


 真由は、魔王の(浄化された)ベルベットに包まれたまま、一瞬で深い眠りに落ちた。


「マ、マユ殿!? 貴様、魔王……! 紛失していたダイヤをようやく返してきたと思えば、マユ殿を眠り姫にするとは……! だが、そのスヤスヤと眠る顔も、あまりに尊い……っ!」


「アルベルト、感心している場合か! これを今すぐ引き取れ!! 二度と魔界に落とすなよ! 数ヶ月も我慢したのだからな!!」


 眠りこける聖女、黄金のダイヤを巡って憤慨する魔王、そして鼻血を出しながら真由の寝顔を拝む騎士団長。


 数ヶ月の時を経て戻ってきた「黄金の3点セット」は、かつてないほどの安らぎと清潔を魔界に刻みつけ、ようやく真由のもとへと帰還したのであった。

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