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その聖女、魔力ゼロにつき。~騎士団長の一目惚れが斜め上すぎて、異世界が平和になりそうです~  作者: サハラ


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番外編:静寂の夜と、黄金の解放

台座から解放されたスウェットの話

 

 ―――アルベルトの屋敷の二階にある、真由専用の客間。


 アルベルトは、真由の膝元に恭しく跪いていた。その手には、戦場を共にしてきた愛剣ではなく、セドリックの工具箱からくすねてきた重厚な魔導レンチが握られている。


「……マユ殿。少々、不作法を許してほしい。この忌々しい『重り』、私の手で今すぐ解放してみせる」

 真由の膝には、スウェットの繊維をガッチリと挟み込み、純金製の仰々しいフレームで固定された「巨大な魔力増幅ダイヤモンド」が鎮座している。セドリックの「絶対に脱がせない」という執念が込められたそれは、物理的なボルトだけでなく、幾重もの吸着魔法で布地と一体化していた。


「あ、アルベルトさん、無理しないで……。これ、セドリックさんが『王家の結界と同じ強度』だって言ってたし……」


「フン……。王家の結界など、私の貴女への想いに比べれば、薄氷のようなものだ」


 アルベルトの碧眼が鋭く光る。

 彼は真由の膝に優しく手を添え、フレームの隙間にレンチを差し込んだ。だが、ボルトはピクリとも動かない。それどころか、魔法の障壁がアルベルトの手にパチパチと火花を散らす。


「……くっ、この魔力の粘り。セドリックめ、性格の悪さが術式に滲み出ているな」


 アルベルトは一度目を閉じ、深く呼吸した。

 次の瞬間、彼の全身から凄まじい闘気が溢れ出す。それは魔物を屠るための殺気ではなく、愛する女性を不自由な装飾から救い出すための、純粋な「意志」の輝きだった。


「――おおぉぉぉっ!!」


 アルベルトが渾身の力でレンチを回す。

 ギギギ……ッ!! と、金属同士が悲鳴を上げるような音が夜の静寂を切り裂いた。純金製のフレームが、彼の剛腕によって目に見えて歪んでいく。


「アルベルトさん、手が……! 手が焼けてるよ!」


「案ずるな! 貴女が毎日、この『重さ』に耐えていた痛みに比べれば、……こんな火傷、春の陽だまりのようなものだ!!」


 ガキィィィィィン!!


 ついに、一本目の黄金ボルトが、魔法の抵抗に打ち勝って弾け飛んだ。

 続いて二本、三本。アルベルトは滴る汗も拭わず、一心不乱に「聖女を縛る黄金」を解体していく。

 最後のボルトが外れた瞬間、スウェットの繊維を噛んでいた純金フレームが、断末魔のような音を立ててパカリと開いた。

 巨大なダイヤモンドが、重力に従ってゴロリと石床に転がる。


「……はぁ、はぁ……。終わった、マユ殿。……自由だ」


 アルベルトは肩で息をしながら、力なく笑った。

 真由は、数週間ぶりに「ただの布」に戻った自分の膝を抱きしめた。スウェットには、フレームが食い込んでいた無残なシワとボルトの跡が残っているが、驚くほど軽い。


「……軽い。……すごい、アルベルトさん。本当に外しちゃった」


「ああ。……これでもう、貴女を縛るものは何もない。……私の腕以外は、な」


 アルベルトは、赤く腫れ上がった両手で真由をそっと引き寄せ、その膝に額を預けた。

 転がった巨大なダイヤモンドは、もはや二人の間では「ただの光る石」に過ぎなかった。


 その後、アルベルトとバルコニーで語り合い、真由はすっかり軽くなったスウェットでベッドへ潜り込んだ。







「……あれ?」

 翌朝、アルベルト窓から差し込む陽光で目を覚ました真由は、昨夜アルベルトがダイヤを置いたはずの場所を見て首を傾げた。

 確かにそこに転がっていたはずの「純金フレーム」と「巨大ダイヤモンド」、そして「黄金のボルト」たちが、3点セットがどこにも見当たらない。


「アルベルトさん! 昨日のダイヤ、どこかに片付けた?」


 朝の訓練を終えて駆けつけてきたアルベルトが、客間の扉の前で目を丸くする。


「……いや、私は昨夜、マユ殿の部屋の隅に置いて退室したが……。掃除の者が入るにはまだ早い時間のはず」


 二人は客間の隅々まで探したが、そこにあるのは、アルベルトが力任せに破壊した際の金属の削りカスだけだった。


「ない。どこにもない……」


「……まさか、窓も閉まっていたというのに。あるいは、あまりの浄化エネルギーの凝縮に、空間が耐えきれずどこかへ転移したのか……?」


 アルベルトが眉間に皺を寄せ真剣な様子で呟く。


「……ま、いっか。重いのなくなったし!」


 真由は、能天気に身軽になった足取りでアルベルトを連れて、朝食の香りがする食堂へと駆け出した。




 まさかその失われた「黄金のセット」が、この直後、起動準備中だった次元の門の予備エネルギーに吸い込まれ、魔界の生活用水源へとワープしているなどとは、二人は知る由もなかったのである。


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