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(第33話 最終回)  祈り

(亮ちゃん)

「それやけど」


亮ちゃんは、そこで言葉を切った。

私は不安で、つい

「それやけど、なによ?」と少し声が高くなった。


私の疑問を、小百合さんが引き継ぐ感じで

「そもそも、閻魔さんが弁財天さんへ

 頼んでくれたがやろ。

 いろんな神様も、こじゃんと協力しちゅう。

 ほんでも、いまだに見つかりゃ〜せん。

 ちっくと時間が、かかり過ぎや

 ないろうか」


(亮ちゃん)

「神様たちが見つけれん。何でか」


(小百合さん)

「ほんだら、おばあちゃんは、

 探せんぐれえ遠い所へ

 流さられて、しも〜た

 ちゅうことかえ」


亮ちゃんは、冷めかかったコーヒーを

不味そうに飲み、

「いや。例え

 アメリカに流されても、

 神様は見つけてくれます。

 見つける側じゃなく

 見つけられる側の問題かと思います」


(私)

「どういう事よ。おばあちゃんの問題か?」

声が、裏返りそうになった。

 

(小百合さん)

「怒っちゃ〜イカンぞね」


(私)

「なんちゃ〜、怒っちゃ〜せん」

小百合さんに、土佐弁で返していた。


(亮ちゃん)

「考えられるのは、ひょっとして

 おばあちゃんが何らかの理由で、

 魂が救われることを拒んでいるのかも?

 貝のように固く閉ざしている感じ。

 それが、何なのか。なぜなのか。

 まあ、

 おばあちゃんの子、つまりホテルSANZUの

 本田さんなら、ひょっとして何か

 知ってるかも。


(私)

「そやな。こりゃ〜

 本田さんに話してもらわんと、分からんなあ。

 しかし、

 かなり、デリケートな話しになりそうで

 気が重いな〜」


(小百合さん)

「どんなに気が重うても、

 あてらが、やらにゃ〜

 前に進みゃ〜せんぞね」



数日後、エンマ食堂の開店前に、

閻魔さん、本田さん、亮ちゃん、小百合さん、私の5人が揃った。


亮ちゃんが本田さんに、

おばあちゃんが、見つからん状況を話している。


(亮ちゃん)

「本田さん、失礼ですが、

 思い当たることは、何かあります?」


店の中に、沈黙が流れた。


本田さんは、片手で顔をグルグルと撫で、

少し微笑んだ。

そして、意外な言葉を口にした。

「おふくろは、

 たぶん遠慮しているんだと思います」


(小百合さん)

「何を遠慮しちゅうすることが、あるがよ」


本田さんが、ゆっくり話し出した。


「その昔、

 おふくろは、気仙沼の漁協で働いていました。

 私のオヤジは漁師。

 漁師と言っても網子です。

 網子というのは、網元さんの漁船に乗って

 漁をするのが仕事。

 家は古い借家でした。

 恥ずかしい話しですが、

 オヤジはいつも酒臭く

 おふくろを殴ることも、しょっちゅう。

 そして、借金して

 飲み屋で勤める女性と気仙沼から、

 いなくなった。

 

 ま〜 絵に描いたような不幸せの話しです。

 残されたのは借金のみ。

 私は小学3年生。

 借金は、漁協の理事長さんのお陰で、

 法律的に夫が勝手に借金した分は

 妻に支払いの義務は無いという事で、

 かなり減額してもらったそうです。

 残りは理事長が立て替えてくれ、

 給料から天引きの形で、

 少しづつ払っていったみたいです」


小百合さんは、閻魔さんが渡してくれた

タオルで、泣き声が漏れないよう目から下を

覆っていた。

我慢するから、かえって時々

噴火しちゃって

うぇっ〜とか、ばふぇっ〜とか奇声をあげる。


本田さんが続けました。


「漁協の朝は早いんです。その頃から私は、

外がまだ暗い時刻に、おふくろと漁協に通う毎日。

登校するまで、私は従業員の部屋でいました。

小学校が終わると家ではなく漁協に帰って

いました。宿題も漁協で。


従業員の皆さん、特におふくろと一緒に働いていた

おばちゃん達には、お世話になりました。

中学生になると下校後

漁協でアルバイトをしていました。

地元の高校の進学して、

登校前と下校後に、

アルバイトを増やしてもらいました。

それでも到底、世間並みには、

なりません。


昔から、おふくろの口癖は、

     すみません


オヤジに殴られても、借金取りが来ても、

理事長さんにも、同僚にも。


私は、おふくろが言う、

すみませんが、正直

大嫌いでした。

いつも謝っているような感じで」


小百合さんが、たまらず大号泣。

外まで聞こえたのか、

オダギリジョーに似てなくも無い、

天上界駐在所の駐在さん

自転車を止め、中に入ってきた。


(オダギリジョーチックな駐在さん)

「何か、ありました?」

目を晴らした小百合さんを見て、

マスターが、顔をコックリ、コックリしたので

敬礼しながら

「失礼しました」と出ていった。


本田さん、

「私は、おふくろが心配で

 地元のホテルに就職しました。

 あとは平々凡々。

 やっと落ち着いた生活が続くかなっと

 思っていたんですが、

 娘が高校生の時、女房が亡くなり

 おばあちゃんが親代わり。

 やはり、

 俺には、不幸が似合うなと感じました。


 ある日、おふくろが、

 『母ちゃんは、ホンマに貧乏神やの〜

母ちゃんが同居しとったから、雅子さんは

 私に気を使い過ぎて、

 体が、しんどいのに

 仕事も家事も手を抜けんかった。        病院にも行かんと、頑張っていたんやの。

 母ちゃんのせいで、

 病気の発見を遅らせてしも〜た。

 ごめんやで。ごめんやで』と

 息子に謝るんです。

 

 だから、津波で流されて、

 おふくろはこのまま、自分の存在を

 消そうとしたのか。

 助けを求めんのやと思います」

 

 (亮ちゃん)

「おばあちゃんの気持ちは、痛いほど分かります。

 だからこそ、今度こそ家族全員で

 幸せになってほしいんです」


(私)

「本田さんに、怒られそうやけど。

 私、羨ましいんです。

 本田さん一家が。

 みんなが、それぞれを思いやってる。

 

 私は、こちらへ来ても一人。

 もちろん私の父母も、とっくに天上界に

 来ています。

 父と母も一緒に住んでいません。

 地上界にいる時からバラバラでした。

 私からも父と母からも、一緒に住もうなんて

 思ってもない。

 ダメダメな家族?です。

 ま〜霊性が低いんでしょうね。


 だから本田さん一家には、

 幸せになって欲しいし、

 なる資格があると思うんです」


(本田さん)

「ありがとう。

 でも、どうしたものか?」


(小百合さん)

「このまま、神頼みしか、ないろうか?


(マスター)

「それっ!」


(小百合さん)

「どれっ?」


(マスター)

「神頼みだけでは、事態は好転せん。

 祈るだけでは、好転せん。

 自ら、みんなが大きな変化を起こすこと。

 自らが、幸せを掴もうとすること。

 みんな、

 人生で、一番大きなイベントなんやった?」


(小百合さん)

「う〜ん、ん、ん、

 あ〜結婚式やにゃ〜」


(マスター)

「正解。  越後製菓!」


(亮ちゃん)

「あ〜そうか。

 私たちは、ひとつの公式に縛られていたんかも。

 おばあちゃんを見つける→結婚式をする。

 反対やったんや。

 結婚式をする→おばあちゃんを見つけるやな」


(マスター)

「100%うまくいくか、自信はないけど。

 その方向で進めた方が格段にエエ。

 おばあちゃんも、

 日本一の花嫁姿、絶対に見てみたいと思うやろ。

 

 みんなが、全力で幸せになろうとする。

 そして、心を込めて祈る」


 (小百合さん)

 「本田さん、なんなら

  真美さんには、あてから

  何とのう、話そうかえ」


(本田さん)

「いや。私も目が覚めたというか、

 マスターの話しを聞いて、

 覚悟ができました。

 私の生い立ちは、ず〜っと自分の心に

 封印しておこうと決めていました。

 今こそ、その封印を解き

 女房と娘に話してみます」


(マスター)

「決まりやな」


その時、エンマ食堂の暖簾をくぐり

伝説?のお茶漬けシスター3人組が

入ってきた。

私たちを見て

「皆さん、お早い御出勤で」


「あ〜〜あ、疲れた〜

マスタ〜、私、タラコ。ミディアムレアで」


「私、シャケ」


「私、梅」


いつもの、エンマ食堂の雰囲気になってきた。


私たちは、抱えていた荷物を

やっと一旦下ろせた安堵感に浸っていた。


少しづつ、季節も歩みを進め、

桜の季節が近づいた頃

真美さんの挙式は6月吉日と決まった。

約束のジューンブライドだ。

 

それからも、おばあちゃんの吉報を待ち続けたが

進展は無かった。


6月に入り、

結婚当日、朝からの雨は、降り止まない。

結婚式の総合司会は、私だ。

世話になった本田さんの為、

少しは成長したホテルマン姿を見せ

恩返しをしたい。


大緊張の司会。

結婚式型通りの挨拶が終わった時、

装着しているイヤフォンから、

「水上さん。井上です。

 今から、すべて私の指示に従うこと。

 返事も質問も一切許可しません。

 これは副支配人としての業務命令です」

    井上副支配人だ。

「言葉も私が伝える通りに話して」


(井上副支配人)

「本田さんと奥さんを正面入り口に

 エスコートして。向こう向きに立たせて」


私は言われるまま、本田さんを正面入り口に。

その瞬間、館内の照明が暗くなっていく。


イヤフォンから

「皆様、正面入り口をご覧下さい」


(私)

「皆様、正面入り口をご覧下さい」

もう時間差腹話術である。


真っ暗な館内、正面入り口を

舞台の左右から、2つのスポットライトが照らす。


真っ白な手袋をした2人のホテルマンが、

中央の取っ手を手前に引き、全開に。


その瞬間、2つのスポットライトが

和服に着飾った女性のシルエットを写し出す。


館内一斉に、どよめきと歓声。


(井上副支配人)

「本田夫妻をお母様の方へ」


本田さん夫妻が、

おばあちゃんをゆっくりゆっくり

真美さんのもとへエスコートする。

万雷の拍手が鳴り止まない。


真美さんとおばあちゃんは、

抱き合い泣いている。


(井上副支配人)

「しばらくの間、司会は必要ないわね」

私、小さな声で

「了〜解」


式のあと、

亮ちゃんと小百合さんと私は

中庭にいた。


(小百合さん)

「泣けた〜、泣けた〜。泣きっぱなしやにゃ〜」


(亮ちゃん)

「ホンマ、ギリギリ、間に合った。よかった〜」


(私)

「井上副支配人には、やられた。

 ダメ元で、おばあちゃんの着付けとメイクさんを

 スタンバイさせてたんやと。

 

 でも流石、ブライダルコーディネートの

 資格持ってるから、美味しいところ

 全部持っていかれたわ」


(小百合さん)

「昔から、よ〜言われちゅ〜。 

 コーディネートは、こうでね〜と!」


(私)

「そんなん、聞いた事おまへん!」


 朝からの雨は、知らぬまに上がっていた。

 

 3人は無言で空を見上げていた。

 二重橋みたいな、

 大きな二つの虹が、空にかかっている。

 真ん中で重なり、ハートマークに見える。

 

 真美さんとおばあちゃんの願いが

 見事に重なった光景に見える。

 

    ダブルハートレインボーや!


        

        お わ り


 



皆さま、誠にありがとうございました。


恥ずかしながら、

71歳にして、初めてにして最後の小説。


あと何年かすれば、名も無い遺作?になります。

(アハハ)

これを持って、あの世とやらへ 

昇っていきたいと思います。


皆様の、ご健康ご多幸を祈念して、

筆を置くことにします。


             水木まさと






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