(第21話)魅せる!
リバーサイドホテルSANZUの初出勤。
意気揚々というか
井上副支配人に、おだてられた私。
鼻が天狗のように伸びていた。
数時間後には、
その天狗の鼻は、へし折られ、残った部分は
「社長〜ありがとう〜」でお馴染みの
なんとかグループの通販で売ってるような
電動カッターで切られ、ノミで掘られ、
カンナで削られ、跡形も残っていない。
少しボケ〜っとしていたら、
「水上さん。披露宴でのヘルプを
してもらいます。更衣室に行きましょう」
披露宴用?の制服に着替える。
ホストみたい。
本田さんは、蝶ネクタイに燕尾服。
ぽっちゃり体型なので、
太鼓でも抱えたら昔懐かしい、
ちんどん屋さんの出来上がりである。
私は、
これぞ、ザ・ホストみたいな長身の人と
マンツーマンで見習いホスト修行。
歩き方から言葉遣い、表情に至るまで、
ひとつひとつ感心させられる。
宴も竹縄、火縄銃となった頃、
舞台ではカラオケが始まる。
館内の照明が少し落とされ、
舞台がクッキリ浮かび上がる。
ソデから満面の笑みで、
現れたのは燕尾服の本田さん。
こちら向きで歩き続け、
前を向いた途端
スタンドマイクに、おでこをゴツン。
すでに館内はクスクス笑い。
わざとらしくマイクをトントン。
「あ〜あ〜あ〜 エヌ ・ エイチ・ ケー」
大爆笑。
館内は、もう完全に本田ワールドに。
私としては、このまま続けて欲しいぐらい
おもしろい。
「本日は皆様、誠におめでとうございます。
わたくし、本日
司会の玉置か無い宏
(たまおかないひろし)です」
これは、かなり説明が必要です。
その昔、テレビの歌番組で、一世を風靡した
玉置宏という名司会者がおりました。
歌が始まる前奏の時、
曲にピッタリのナレーションで有名でした。
その玉置宏を、もじって玉置か無い宏。
館内は、さらにヒートアップ、大盛り上がり。
花嫁の母親が、小林幸子の雪椿を歌う。
チャチャチャチャ〜〜ン
チャチャチャチャ〜〜ン
前奏が始まると、
本田さん。
「浮世舞台の花道は、表もあれば裏もある。
花と咲く身に歌あれば、咲かぬ花にも歌ひとつ。
さあ〜唄っていただきましょう。
花嫁のお母様が、心を込めて歌います。
歌は、雪....椿 」
素晴らしいナレーション。しかし、これは
昔あった、演歌の花道のナレーションの
パクリ。
(お母様)
「や〜さしさと、かいしょの無さが〜」
館内は、お笑いモードから見事にお涙モードに
切り替わる。
お母様も
ハンカチで目をぬぐいながらの熱唱。
拍手が鳴り止まない中
本田さんが、お母様の手を取り
舞台から階段を降りるまで支える。
魅せてくれるなあ。
本田さんは、感動的なシーンを演出してる。
私は、本田さんの一連の高度な能力に
惚れ惚れしてしまった。
宴の後は、
またまた お片付け。
またまた どんでん。
本田さんは、燕尾服を脱ぎ、蝶ネクタイを外し
何事も無かったかのように、手伝っている。
凄すぎる。
その日、
リバーサイドホテルSANZUを退社したのは、
もう夕闇が迫っていた頃である。
振り返ると、ホテルの上にある
リバーサイドホテルSANZUのネオンが
輝いていた。
リバーサイドホテル SANZU の文字が
リバーサイドホテル JIGOKU に見える。
つづく
次回(22話)悲しい記憶!
をお楽しみに




