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3/6

森にて、葉は目を覚ます

ラグスたちに追放されてから、数日。

僕は、ある依頼を受け地図にも載っていないような地方の村にいた。


依頼理由は農作物を荒らす魔物のせいで、村人たちが困っているらしい。

討伐の報酬は、銀貨数枚と昼食付き。……まあ、誰もやりたがらないような地味な依頼だ。


 きっかけは、あの夜だった。

追放され、宿を出た帰り道。

森のそばを一人で歩いていたとき風もないのに、枝葉が揺れて、一瞬だけ僕に草木が反応したような気がした。


地面の根が、呼吸でもするみたいに、かすかに動いたような。


……あれは、気のせいだったんだろうか。


 でも、もしかしたら。

自分の“祝福”には、まだ何かが隠されているんじゃないか。


そう思った僕は、その感覚を確かめる目的を持って、この依頼を受けた。


「……ここが、“黒梢の小森”か」

鬱蒼と茂る木々。湿った地面。風の音もしない、静かな森。

気を抜けば、何かに呑まれてしまいそうなほどの圧迫感がある。

少しだけ肩に力を入れながら、僕は森の奥へと足を踏み入れた。

すると、すぐに──目の前に討伐対象である《森鼠》が現れた。

体長は子猫くらいで素早く動き回るけれど、単体ならそこまで手強い相手ではない。


僕は、手を前に出し森鼠へ向け祝福を発動させた――《落葉リーフグラッセ》!


ふわりと、足元の葉が浮かび上がり、森鼠の視界をかすめる。

森鼠は一瞬だけ足を止めたが、すぐに頭を振って葉を振り払い、再び突進してきた。


やっぱり、僕の祝福は……ただの役立たずなのか。


──そのときだった。


枯葉の下。地面の奥深くから、ぐぐっ、と何かが持ち上がるような感覚。


「……えっ……?」


視線を落とすと、地面の下にあった根が、僕の手の動きに呼応したようにわずかに揺れていた。

……今の、偶然か? いや、違う。

もう一度、葉に集中してみる。

──《落葉リーフグラッセ》!


 ふわり、と葉が舞う。

ただそれだけ──のはずなのに。


「……動いてる……?」


 


 土の中の根が、ざわざわと……うごめいている。


 僕が何か命令を下したわけじゃない。けど、意識が通じたような……そんな不思議な感覚があった。


 まるで、僕が“根を操っている”ような──そんな、ありえない感覚。


 森鼠が、再び突っ込んでくる。

 もう、考えている時間なんてない。


 僕は、地面に手を当てた。


「お願いだ……! 動いてくれ……!」


 その瞬間。

──根が、地面を破って飛び出した。


根は森鼠に巻きつき、ぐるぐると締め上げる。

魔物がキィーーッと鋭い声を上げて暴れる。けれど、根の力は思った以上に強く、そのまま宙へと持ち上げその勢いのまま叩きつけ殺した。


……倒した。

僕が、一人で、倒したんだ。


「これが……本当の、“僕の祝福”……?」

今のは、明らかにシスターの説明にはなかった能力だ。


いや、葉を舞わせたことが“きっかけ”にはなった。

けれど、それだけじゃない。

あのとき僕は──“意志”で、根を導いた。


つまり、僕の祝福は──

**“植物全体と繋がる能力”**なんじゃないか……?


僕は立ち上がり、森の中をぐるりと見渡す。


あちこちに生えている木々。

絡まる蔦。落ち葉。根。枝。芽吹いたばかりの草。

それらすべてが、もし──“僕の味方”だったとしたら。


「これなら……ミリアとの約束を、果たせるかもしれない」


小さな声でそう呟いた僕の胸には、確かな熱があった。


まだ知らない力が、目を覚まし始めている。

ずっと“舞わせるだけ”だと笑われた祝福が、ようやく……意味を持ち始めた気がした。

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