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傾国の美尻の「言っちゃった」シリーズ

婚約強要!?初対面ですよね?嫁にしてやるって言われても

作者: 佐伯帆由
掲載日:2025/05/21

 新しい週の始まりは、学園全体の集会からという決まりがある。隣国からの留学生である私、ナーデレイ・ジルバは、親しくなった友人数人と、講堂で席に座り集会の始まりを待っていた。

 ふと影がさしたので見上げると、傍には見知らぬ男性の姿が。友人たちの知り合いかな?と、思って彼女たちを振り返ると、友人らは慌てていた。

 おや?と思う間もなく男性は私を見下ろして叫んだ。


「ナーデレイ・ジルバだな」


 ……いきなり呼び捨てするような輩は無視してやろうかと思ったのだが、友人たちがこの無礼な男に頭を下げている。失礼なヤツだが、どうやら友人たちの反応を見るにこの男は身分のある人物らしいので、私は一応、黙って頭を下げた。

 すると男は、胸を反らすと周囲にとどろく大声で言い放ったのだ。


「名誉を与えてやろう。お前を俺の妃にしてやる」


 ……え?


 あまりの衝撃に私が一言も発することもできず、口を大きく開けたまま男を見つめていると、男は満足そうに笑った。

 ちょっと待て。聞き間違えたのかな?この国の言葉も、ずいぶんできるようになったつもりだったけど。


「大変申し訳ございませんが、仰る意味がよくわからなくて……」


 私が言うと、男はみるみる不機嫌になった。


「お前を俺の嫁にして、この国の王妃にしてやろうと言っているのだ、わからん女だな」


 わかりませんとも!


 私は叫びそうになった。

 私の袖をそっと引いて囁いてくれた友人によると、目の前に立ちトンデモ発言をしているこの男、なんとこの国の第三王子殿下なのだそうだ。

 はあ、さようですか。

 この国、大丈夫か?




 私、ナーデレイ・ジルバは、愛しの婚約者、ミールことミルザール・ハリージャ様と共に、隣の祖国からこの国に留学してきた。この国で医学を学びたいという彼を、一人で行かせるわけはないじゃないですか。で、二人でこの国に留学し、寮暮らしをしながら彼は医学を、私は言葉や習慣を学んでいる。

 そう、異国にくっついてくるぐらい、婚約者にゾッコンの私である。うふ。


 それなのに、殿下、そんな私にいきなり初対面でプロポーズですか?

 しかもなんですかその言い草は。

 大体アナタ、第三王子でしょ?なんでしょうか「王妃にしてやる」って。王妃とは、王様の奥様なんだろ?この国の王太子殿下、つまり目の前の男の兄君には、正妃様との間に嫡男も複数おいでで、この男の次兄の第二王子殿下にも先日、嫡男がご誕生されたと聞いている。どう考えてもこの目の前の無礼な輩……、いや第三王子に王位が回ってくるはずもない。それなのに「この国の王に、俺はなる!」ってか?

 この国、大丈夫か?(二度目)


 そもそも私には、ミールという心から愛する恋人がいるから。たとえこの王子様が、人品卑しからぬ聡明な王位継承者だったとしても、私はミールがいいんだもん!


 周囲を見回すと、騒がしかった講堂が静まり返っている。でも、慌てる雰囲気はない。むしろ「やれやれ」とか「またか」といった様子だ。ははーん、殿下、前にもやらかしておいでだな?

 そういうことなら、誰か殿下を止めるなり助け舟を出すなりしてきそうなものなのに、誰も動かない。友人たちも体をギュッと縮めひたすら頭を下げている。小刻みに震えている者までいて、こりゃダメだと周りを見回した。

 ちょっと皆様、遠巻きに見てないで助けてください!


「トロい女だな。聞いているのか!?」


 こちらの王族と揉め事になりたくなくて黙っていたが、そろそろ我慢も限界だった。


「大変光栄ですが、私は既に、心から愛する婚約者のいる身。謹んで辞退申し上げます」


 光栄でもなんでもないが、国際情勢の為そう言っておいた。

 ところが殿下は、私の謙遜も鼻で笑いやがった。


「俺にも愛人くらいいる。貴族ならば普通のことだろう。そんなことは問題ではない」


 私が呆気に取られて黙っていると、殿下はさらに言い募った。


「俺とてお前のような派手な女は好みではないが、お前は政治上、価値ある女だから、仕方なく俺が娶ってやると言っているのだ。何度も言わせるとは不敬な奴だな」


 派手な女で悪かったな。これでも祖国じゃ、「傾国の美尻」と呼ばれて人気だったんだぞ。私はついに立ち上がった。立ち上がってみると、殿下は私より背が小さかった。私は長身の上にヒールを履いているからね。見下ろしてやったら、殿下が明らかに怯むのがわかった。


「私にはとても務まりません。私は外国人ですし、この国の政治的価値とやらもさっぱりわかりませんし、いずれは祖国に帰ります。それに、婚約者を心の底から愛しているのです。他の方など考えられません。婚姻式を指折り数えているのです」


 私はできるだけ美しい発音を心がけながらよく通る声で周囲に聞かせるように言った。この際だからできるだけ多くの人に聞いてもらおう。


「婚約者も私を大切にして、思いを返してくれています。彼は誠実で思慮深く、国の代表となるほど聡明で、希代の天才と名高いのに驕ることもなく、心根は優しい人格者でもあり……」


 あれ?なんだか楽しくなってきたぞ。大好きなミールのことなら、いくらでも話せるんだ。私は調子に乗って我が愛しの婚約者について喋りまくった。周りがだんだんと辟易してきているのはわかったが、この機会に思いつく限り訴えておきたい。


「とにかく、私は婚約者にゾッコンなのです。おわかりいただけましたでしょうか?」

「……」


 無礼者の殿下もさすがにうんざりしたのか、口を開けたり閉めたりしながらも何も言わずに私を見上げている。


「どうか、もうその辺で」

「ミール!」


 顔の下半分を片手で覆ったミールが現れた。真っ赤だ。あらいやだ、聞かれちゃったのね。私のノロケを本人に。まあ、どこかにいるだろうと思ってたけど。専門課程の学生も全員、集まる集会だからね。

 ミールは咳払いをすると、私と殿下の間に立ち、私よりもさらに高い位置から殿下を見下ろした。


「第三王子殿下とお見受けいたします。留学生のミルザール・ハリージャと申します。このナーデレイ・ジルバの婚約者でもあります。どうぞお見知り置きを。

 殿下、まさかと思いますが、我々に関する国際協定をご存知ない、もしくはお忘れなどということはございませんでしょうね?もしくは、誤解があるのか。もしくはご理解が及んでいらっしゃらないのか」


 わかってねーな、この野郎、という意味のイヤミだ。素敵。


「万が一そのような事態であるならば、二国間に望まない悪影響を及ぼすことになるでしょう。そのようなことになれば、両国ともに無傷ではすみませんし、となれば原因となった人物は厳しく糾弾されることとなるやもしれません。一刻も早く王宮にご確認されることを、強くお勧めいたします。一刻も早く」


 さっさと消えやがれこの野郎、の意味である。最高。

 希代の天才ミールは、若くして祖国の研究機関で重要なポジションにいたので、彼の出入国には一悶着あり、祖国とこの国にいくつも協定が結ばれてようやく留学してきた経緯がある。こう見えても、私たち外交上の重要人物なんですの。おほほ。

 それを思い出したのか、殿下は私たちをひと睨みすると、何も言わずに踵を返して講堂から出て行った。めでたしめでたし。


「お騒がせしました。我々も退出しますので、どうぞ集会を始めてください」


 そう言うとミールは私の手を取った。私は祖国式の礼を教授陣に対して行い、ミールのエスコートでしずしずと講堂を後にした。先生方でさえ、誰も止めなかった。それどころか、拍手が沸き起こったのだ。やれやれ、あの王子、相当鼻つまみなんだな。

 





「このまま在外公館へ行こう」


 ミールの言葉に私は驚いたが、彼の言うことに間違いはないので(贔屓目じゃないぞ、ホントにそうなんだから!)、素直に頷いた。在外公館とは祖国の出先機関で、外交を担う役人や護衛の軍人などが駐留している館だ。私もミールも、しばしば訪れては祖国からの手紙などをやりとりしてもらっている。

 ミールは真っ直ぐに彼の移動車へと向かった。


 ミールによると、この国の移動機関は祖国のものより遅れているらしい。祖国でミールが開発した新しい個用車(モービル)とかいうキテレツな形の移動機関は機密保持のため持ち出せなかったので、今の彼が使用しているのは、この国でさえ古い形の移動車だ。それに対するミールの不満を述べさせたら、先ほどの私のノロケよりも長くなるかもしれない。


「貴重品は持っている?」


 ミールは運転席に落ち着くと言った。私は頷いた。


「ええ、言いつけ通り、肌身離さず持っているわ」


 私は制服の胸元のボタンを外し、身分証である印章にもなる指輪(リング)と旅券を取り出して見せた。

 ミールを振り返ると、真っ赤になって慌てて目を逸らしている。相変わらず野暮天な人。祖国では胸元を大きく開けて谷間を強調するファッションが普通だったから、こんなボタンの一つや二つや三つや四つ(多すぎかな?)、外したところでどうってことはないのだが、ミールにとっては違うらしい。好き。


「……誰かに見られる前に隠してくれ。少なくともそれがあれば、後はなんとかなるだろう」


 そう言って彼は移動車を出した。なにを隠せばいいのかしら?なーんちゃって。ゴメン。




「俺のことを、あんな風に言ってくれて嬉しかった」


 しばらくしてミールがぽつりと言った。

 あんな風?ああ、ノロケたことか。


「あら、とっても楽しかったのよ。あなたのことを堂々と自慢できるチャンスなんて、たくさんあるわけじゃないもの。もっと語ってみましょうか?」


 ミールは黙ったまま前を見ていたが、ふとため息をつくと車を脇に寄せて停めた。


「本当に君には敵わないな」


 ん?どう言う意味だろう?と首を傾げる私を優しい眼差しで見ていたミールだったけど、私をそっと引き寄せると口付けた。


「俺も指折り数えている」


 ミールが耳元で言った。私が婚姻式を楽しみにしているって言ったことか。いつから聞いてたんだ?もう。好き。




 在外公館では職員たちが、突然訪れた私たちを歓迎してくれた。私も驚いたが、ミールはしばらく滞在するつもりなのだそう。持ち物は何もかも寮に置いたままなんだけど大丈夫かな?と心配したけど、職員さんたちは、あれよあれよという間に二人分、部屋を整えてくれた。手品のようだった。


「ずっといてくださってもいいのですよ。むしろその方が我々も安心です」


 外交のトップ、この在外公館のリーダーの方は私たちみたいな若輩者たちにも丁寧な態度で、私は大いに恐縮したのだが、ミールは眉根を寄せたまま頓着せず学園での経緯を説明していた。いや、ミール、あの方とっても偉い人だから!ちなみにこのリーダー様は、フミード様という。


「これはどうにも、ただの第三王子殿下のやらかしではなさそうだ」


 ミールが眉根に皺を寄せたまま言った。フミード様が頷く。


「そうですな、どうにも、ハリージャ殿を祖国へ帰したくない輩がいるようで、御息女や縁のある令嬢たちを後押ししてハリージャ殿にアプローチさせているようですな。満更でもない令嬢も少なくないようで」


 私は顔をしかめた。ミールがしばしば、可愛いお嬢様方に囲まれているのを見かけるからだ。


「ところがハリージャ殿は歯牙にも掛けない。まあ当然ですな、ジルバ嬢は我が国の独身男どもの憧れ。その「傾国の美尻」を婚約者にしておきながら、他に目移りなんぞしようものなら、怒り狂った我が国の「美尻鑑賞紳士協定」の連中から刺されるでしょうからなあ」


 フミード様はそう言って笑った。

 そう、私の尻は「傾国の美尻」と呼ばれ、「紳士協定」とかいうわけのわからないファンクラブもあったのだ。


「俺は目移りしたりしない」


 ミールがムッとして言った。ふふ、可愛い。


「フミード様は、からかっていらっしゃるのよ。そんなことは起こり得ないとわかっておいでたからこそだわ」


 私の言葉にも、ミールはまだ不機嫌そうだった。


「失礼、つい。とにかく、ハリージャ殿が陥落不可能と悟った連中は、矛先をジルバ嬢に向けてきたわけですな」


 フミード様は爆笑を噛み殺しているようだ。ミールはさらに不機嫌になった。やれやれ。


「あなたと私を引き離そうとする輩がいるってことね。あなたに群がる女性たちの中にも、そんな意図で近付く子がいるんでしょうね。とすれば、そのうちその子たち、私にいじめられたとか、私は成績を不正しているとか物を盗んでいるとか言い出して、あなたの関心を引こうとするのではないかしら」


 話を逸らせるつもりでそう言うと、ミールは曖昧に頷いた。あれ?


「そんな顔して、さてはもう言われたのね?」


 私が彼を覗き込みながら言うと、ミールは大きく目を見開いた。


「君には敵わないな、俺はそんなにわかりやすいか?」


 私は胸を反らせた。


「私にはわかるの。心が通じ合っているからね」


 そういうことにしておきましょう。






「ところで、エンシャーモ嬢を覚えているか?」


 ミールは以前、私たちに関わりのあった、この国のやんごとなきお方の名前を出してきた。

 忘れはしませんとも、彼女は以前、私のミールに縁談を持ち込みやがった(失礼、つい言葉が乱れてしまいましたわ)方だもの!詳しくお知りになりたい方は、これまでの経緯(前作)をご確認いただけると嬉しいです!(便乗宣伝)


 私はみるみる不機嫌になった。ミールからあの方の名前なんて、聞きたくないんです!私、蟻も通れないほどの狭ーーい心の持ち主なんです、ミールに関しては!


「……あの方がなにか?」

「第三王子が以前、一方的に婚約破棄した相手っていうのは実は彼女なんだ。二人は実はいとこで、前王が三年前に亡くなるまで、それはそれは溺愛されて育ったらしい。傍迷惑で我儘なところもよく似ているな。間違った方向に甘やかされたのだろう……、って、ナーダ?俺はまた、何か失言したんだろうか?」


 私の態度がおかしいことに気付くようになったのは、ミールにしてみれば大進歩だけど、面白くないものは面白くない。私は口を尖らせてみせた。


「あの方、以前、ミールに縁談を申し込んだ方じゃない。私にとっては恋敵になるもの。そんな方の名前がミール本人から出てくるなんて、面白くないのよ」


 ミールは顔の下半分を片手で隠しながら天を見上げた。なんでちょっとニヤけてるのよ。もう。


「恋敵だなんてそんなものは存在し得ない。それにエンシャ……、いや、あの方は、俺だけじゃなくて手当たり次第に申し込んでいたじゃないか。なんと言っても、俺は即刻、断った」


 ミールが困っている。この希代の天才を困らせるのはなかなかできないことだ。この辺にしておいてあげようか。


「ねえ、念の為に言っておくけど、いくら私がやきもち焼きだからって、あなたに群がる女の子たちに意地悪したりしないわ。あなたのこと信頼してるもの」


 私が言うとミールは目を見張った。この世の不思議を発見したとでも言う表情だ。


「当たり前じゃないか、君がそんなことをするなんて疑ったこともない。俺だって、君がその、王子殿下にプロポーズされたのは、正直面白くなかったが、君が断るのはわかっていた。君を信頼しているからな。俺が君に夢中なことは知っているだろう!」


 ミールの言葉に、私は全身真っ赤になった。ミールは私を大切にしてくれて愛してくれているのはわかっているけど、この野暮天、そうそうこんな直接的な言葉をくれることはない。あっという間に上気してしまった。し、心臓が!心臓に負荷がかかりすぎるから!


「えっと、えっと、私だってあなたに夢中よ」


 在外公館の職員さんたちが、忍び足で部屋の外へ退散していくのが見えた。察しが良くて助かります。





 ちょっとした甘い時間を満喫した後、ミールは言った。


「まあ、俺たちが何もせずとも、向こうから接触してくるだろう。ここのところずっと忙しかったからな。二、三日、ゆっくりしてやるさ」


 ミールの予言はいつだって当たる。だから私は安心している。さーて、向こうがどう出るか。楽しみに待っておくことにして、それまでは二人で「ゆっくり」することにします。続報を待たれたし。







最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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