(62)2025年8月26日 絶対悪と無敵ギミック
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敵──管理者を名乗る女性の髪が真っ白に染まる。
瞳が金色に染まる。
小麦色の肌が真っ白に染まり、着ている衣服が白を基調にした着物へと変わる。
管理者を名乗る女性の頭上に濁った色をした球体が現れる。
敵の頭上に球状の何かが出た途端、濁った色が辺り一面を照らし始めた。
それを眺めながら、俺は確信する。
ヤバイものが現れた事実を。
「……大魔女様、アレは何ですか?」
頭上に生えた狐耳を少しばかり動かしながら、魔女ルナが疑問の言葉を口にする。
それを聞いた大魔女ウルさんは額に脂汗を滲ませると、『アレ』の正体を口にし始めた。
「アレは絶対悪だ」
「絶対悪……!? アレが……!?」
「あの、絶対悪って何ですか」
驚くルナを眺めながら、俺は疑問の言葉を口にする。
すると、ウルさんは恐る恐る口を開くと、俺の疑問に答え始めた。
「絶対悪。人類の発展・進化を阻害する存在。そこに存在するだけで、人類の文明を破壊し、人類の存続を否定する存在。人類にとっての悪。そこに在るだけで人類に害を及ぼす存在。それが絶対悪だ」
俺の疑問に答えながら、ウルさんは警戒する。
敵の頭上──濁った色をした球状の何かを。
「……大魔女様、本当にアレが絶対悪なんですか」
「間違いなく、ヤツは絶対悪だ。凶々しい魔力、刺々しい圧力。そして、ヤツの身体に纏わりつく絶対性。アレらは絶対悪にしかない特徴……いや、特性だ。それをヤツは持ち合わせている」
ゴクリと唾を呑みながら、ウルさんとルナは敵──絶対悪と呼ばれる何かを恐れる。
「私が銘を知らないという事は、平行世界……いや、異世界から来たのだろう。アレは、この世界のものじゃない。魔女達が扱う魔法や魔術とは違う異能を使えると考えてもいいだろう」
「つまり、未知の攻撃を繰り出す可能性が高い……と」
「ああ、多分な」
そう言いながら、ウルさんとルナは敵を睨みつける。
敵はというと、呆然と立ち尽くしたまま、俺達の事を凝視し続けていた。
『………』
無言で立ち尽くす敵の姿を見る。
濁った光に照らされながら、立ち続ける敵の姿は神々しさと禍々しさを保持していた。
一眼見ただけで理解してしまう。
アレがヤバイ存在である事を。
「で、大魔女さん。これからどうするつもりなんや」
今の今まで口を閉じていた黒髪ツインテールの女の子──エリザさんが口を開く。
「どーやって、アレを倒すつもりなんや」
「……先ずヤツが纏っている絶対性を剥がす。そうしなければ、ヤツに攻撃は通らない」
「どうやったら、アブなんたらを剥がせるんや」
「さあ。私も絶対悪と闘うのは、これが初めてだ。故に、どうすればいいのか皆目見当つかない」
身構えながら、魔女達は言葉を交わ──している時だった。
『……』
敵が右腕を動かす。
敵はゆっくり右腕を動かすと、右掌を俺達の方に向けた。
「……っ! くるぞ!」
ウルさんが俺達に注意を呼びかける。
同時に敵は攻撃を繰り出した。
「……っ!?」
銀色に輝く光弾が敵の右掌から射出される。
高速で飛翔する銀色の光弾を見た瞬間、咄嗟の判断で俺は片手剣を握り締めた。
「舞え、我が魔力よ。我は銀を制する者」
「呪法『氷律』、我が障害を跳ね除けたまえ」
「いけ、風よ。ウチは風を制する者」
だが、俺が動くよりも先に魔女達が動く。
先ず全長10メートル程の銀の盾が俺の前に現れた。
次に全長5メートル程の氷の盾が、最後に緑の竜巻が、俺達の前に躍り出る。
銀の盾、氷の盾、そして、緑の竜巻。
それらは魔女達が生み出したものだった。
魔女達が生み出した魔法が、迫り来る光弾を防ごうとする。
だが、敵の攻撃を防ぐには魔女達の魔法では脆弱過ぎた。
「なっ……!?」
光弾が大きな銀の盾を粉々に砕く。
氷の盾を瞬時に溶かす。
緑の竜巻を弾き飛ばす。
それらは一瞬だった。
一瞬の内に起きた破壊だった。
それを眺めながら、俺は一歩前に踏み出す。
魔女達の前に躍り出る。
「……っ!」
迫り来る光弾。
俺達の命を奪うに値する敵の攻撃。
それを持っている片手剣で弾き飛ばそうとする。
『リフレクト・アタック』を繰り出そうとする。
タイミングがドンピシャだったのだろう。
運良く『リフレクト・アタック』が発動する。
そのお陰で、迫り来る光弾を弾き飛ばす事に成功した。
「よし……!」
敵の攻撃を跳ね返す。
敵が繰り出した光弾は真っ直ぐ飛翔すると、敵の身体に直撃──せず、敵の身体を覆う不可視の何かに阻まれてしまった。
「なっ……!?」
つい驚きの声を発してしまう。
それと同時に思い出す。
先程、ウルさんが言っていた言葉を。
『……先ずヤツが纏っている絶対性を剥がす。そうしなければ、ヤツに攻撃は通らない』
(そうか……! 光弾が直撃しなかったのは、絶対性ってヤツの所為か……!)
敵の身体が不可視の何か──絶対性という名のバリアに覆われている事に気づかされる。
「イフリト戦に続き、また無敵ギミックか……! 本当、厄介だな……!」
そう言って、俺は片手剣を握り直す。
敵は俺達の焦る姿を見ると、愉しそうに頬の筋肉を緩めた。




