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(39)2025年8月11日 打つ手と『アレ』


「いったーい! 何するんですかぁ!?」


「お前が変な事を言うからだろ!」


 洞窟の最深部──の中にある小屋の中。

 俺──神永悠は魔女ルナの脳天にチョップを叩き込む。

 彼女は『こーん!』と鳴くと、頭頂部に生えた狐耳をピコンピコン動かしながら、抗議の意を示した。


「変な事は言っておりません! 私は自らの願望を馬鹿正直に述べただけです!」


「それが変な事だって言ってんだよ!」


「いいじゃないですか、処女の1つや2つくらい捧げても! どうせ男に戻るのだから!」


「童貞よりも先に処女卒業するの嫌過ぎるって言ってるだろうが!」


 どうでもいい事でギャーギャー言い争う俺とルナ。

 そんな俺達を見ていられなくなったのだろう。

 ルナの上司であるウルさんは、『はぁ』と溜息を吐くと、こう言った。


「ルナール。お前の言いたい事はよく分かった。つまり、お前は話すつもりがないんだな」


「ええ。今の段階で根拠なき推測を述べたとしても、不安を煽るだけですから」


「『上官命令だ、話せ』と私が言ったら?」


「そんな事をする人じゃないでしょう、貴女は」


「はっ、それもそうか。じゃあ、この話はこれまでだ」


 軽く笑い飛ばした後、ウルさんは椅子の背もたれに寄りかかる。

 そして、勝気な笑みを浮かべると、こんな事を言い出した。


「ルナール、そして、プレイヤーネーム『ユウ』。これだけは伝えておこう──魔女(わたし)達は失敗した」


 溜息混じりに呟きながら、堂々とした様子でウルさんは言い切る。

 彼女の顔には自嘲の2文字が張り付いていた。


「魔女の殆どがモンスターに負け、木に変えられてしまった。他の大魔女とも連絡がつかないから、恐らく返討ちに遭ったのだろう。それに加えて、私の調査も芳しくない。八方塞がりだ。魔女の力だけでは、この騒動を収拾できないと言っても過言じゃない。正直な話、お前らだけが頼りだ」


「他の大魔女とも連絡がつかないって、……もしや管理者を名乗る陰キャ女に返り討ちに遭ったのですか?」


「連絡がないから、知らん。だが、大魔女(あいつら)の事だ。無事だったら、私の知恵を借りに来るに違いない。借りに来ないという事は、つまり、そういう事なんだろう」


「……じゃあ、私達……いえ、ユウさんが負けたら、」


「打つ手がなくなるだろうな」


 魔女(かのじょ)達の視線が俺に集まる。

 突然、注目の的になってしまったので、ほんの少しだけ戸惑ってしまった。


「私達の魔法及び魔術は『この世界』で生まれた生き物及び静物に通用しない代物だ。『この世界』で生まれたものにダメージを与えるには、『この世界』で生まれたものでダメージを与えなければならない。それが私達に課せられたルールだ」


「つまり、アレか? ウチも『この世界』で生まれた武器を使えば、モンスターを傷つける事ができるんか?」


 エリザさんがウルさんに疑問を投げかける。

 ウルさんは気怠そうに表情を歪ませると、エリザさんの疑問に答えた。


「理論上では。しかし、魔女(わたし)達の大半は魔法及び魔術のスペシャリスト。剣術や武術のスペシャリストじゃない。魔女(わたし)達が『この世界』の武器を携帯したとしても、焼け石に水程度にしかならないだろう」


「となると、ボスを倒すとなると、ユウさんの力を借りるしかないという訳ですね」


 そう言って、俺の方に視線を投げかけるルナ。

 ウルさんは『ああ、そういう事だ』と呟くと、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「本来、一般人の力を借りる訳にはいかないが、事情が事情だ。この騒動を迅速に収拾させるため、我々魔女はプレイヤーネーム『ユウ』を全面的に支援する。だから、プレイヤーネーム『ユウ』、教えてくれないか? どうしたら、我々は君の役に立てる?」


「は、はぁ……」


 ウルさんの視線が俺の方に向けられる。

 魔女達の力を借りられると思っていなかったので、つい言葉を詰まらせてしまった。

 

「ユウさん、チャンスです。上手く言葉巧みに騙せば、魔女全員を顎で使う事ができますよ」


「言い方」


 俺の隣で『ぐへへ』と笑うルナにツッコミを入れつつ、俺は考える。

 魔女達の力を有効的に使う方法を。

 だが、ちょっと考えた程度では有効的に使う方法を思いつく事ができなかった。


「うーん、思いつかないなぁ。今の時点で困って、……あ」


「ユウさん、何か思いつきましたか?」


「なぁ、ウルさん。今、動かせる魔女はどれくらいいるんだ?」


「私含めて26人程度だ」


「魔女はみんな箒に乗って移動できるのか?」


 疑問を口遊みながら、俺は思い出す。

 箒に乗って移動するルナの姿を。

 箒に乗ってリュドラから逃げるルナの姿を、俺は思い出す。

 

「ああ、みんな箒に乗って移動する事ができる。それがどうした?」


「だったらさ、素材とか集めてくれないか?」



◇side:管理者


「ボスは残り2体……、ですか」


 『はぁ』と重苦しい溜息を吐き出しながら、私は椅子に寄りかかり、管理室の天井を仰ぐ。

 私以外に誰もいない管理室は、しんと静まり返っていた。


『………』


 私の中にいる『アレ』が不満げな様子で唸り声を上げる。

 私はもう一度溜息を吐き出すと、『分かっていますよ』と呟いた。


「もう負けるつもりは毛頭ないです。次はより確実な方法でプレイヤーネーム『ユウ』を排除しますから」


 そう言って、私は私の中にいる『アレ』を黙らせる。

 『アレ』は再び唸り声を上げると、もう一度眠りについた。

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