(32)2025年8月10日 天空の剣とぶっつけ本番
◇
『その天空の剣……! お前、オレが落としたモノを拾いやがったのか……!』
ロックゴレムの中から男の声が聞こえてくる。
どうやらロックゴレム中にいるヤツは、こないだ俺達を襲って来たヤツ──茶髪の男性らしい。
それを把握しながら、俺は俯せの体勢で地面に伏せるロックゴレムを睨みつける。
そして、片手剣── 天空の剣の柄を握り締めると、息を短く吐き出した。
(天空の剣のクリティカルヒットだったら、一撃でロックゴレム脚を圧し折る事ができるみたいだな)
だが、クリティカルヒットは狙って出せるモノじゃない。
恐らくクリティカルヒット無しでロックゴレムの脚を圧し折る場合、高い攻撃力を秘めた天空の剣 でも3〜4撃くらいは必要になるだろう。
(ロックゴレムの勝利条件は、腕と脚を全て圧し折る事……! あと7本の手脚を圧し折れば、ヤツのHPを削り切る事ができる……!)
『雌如きがオレのコレクションを拾いやがって……! 返せ、それはオレのもんだ!』
ロックゴレムの身体が『起き上がる』。
敵は残った片足と腕2本で上半身を起き上がらせるとら残った4本の腕で攻撃を開始した。
4本の腕の掌から放たれる無数の飛礫。
それらがロックゴレムの近くにいる俺目掛けて射出される。
それを目視するや否や、俺は『ジャスト回避』を繰り出した。
直撃寸前の所で、回避コマンドを入力する。
その瞬間、俺の身体はバク宙を披露すると、押し迫る無数の飛礫を全て回避した。
「時間がねぇ。ガンガンいくぞ」
口を閉じる。
息を止める。
目を閉じる。
一瞬、ほんの一瞬だけ、全ての感覚を断ち切る。
そして、
目を開け、
口を開け、
呼吸を再開すると、
片手剣を握り直し、
神経を尖らせる。
その瞬間、身体に空気が纏わりつき、息がし辛くなった。
「……っ!」
前に向かって駆け出す。
速度を追い求める。
より速く、より正確に敵を倒すためだけに、俺は速さを追い求める。
その結果、肺の中にある酸素が脳に流れ込み、脳が酸素を浪費し始めた。
息がし辛い。
前頭葉が熱を帯び始める。
『雌が生意気な目でオレを見つめてんじゃねぇよ!』
ロックゴレムの中にいるヤツの声が遠ざかる。
脳が敵の声をノイズとして処理してしまう。
不思議な感覚だ。
風邪の時みたいに頭が熱い。
空気が身体に纏わりつく感覚に不快感を抱いている。
にも関わらず、得体の知れない万能感が俺を突き動かしている。
今なら何でもできそうな気がする。
「ユウさんっ!」
ルナの声が上から聞こえてくる。
ロックゴレムの4本の腕が迫り来る。
敵の4本の腕は拳をギュッと握り締めると、腕をゴムのように伸ばし、俺の身体に拳を叩き込もうとする。
ゲームとは違う挙動。
ゲームの時にはなかった攻撃。
それらの要素が俺に知らせる。
『ジャスト回避』も『リフレクトアタック』も不可能である事を。
だが、
「──っ!」
敵の攻撃は俺にとって脅威でも何でもなかった。
上空に跳ぶ事で迫り来る大きな拳を避ける。
敵の拳が地面に突き刺さる。
同時に、地面に突き刺さった敵の拳の上に跳び乗る。
敵の拳の上に跳び乗るや否や、今度は後方に跳ぶ。
後方に跳ぶ事で、残り3つの拳を避け切る。
敵の4本の拳が地面に突き刺さる。
それを目視しながら、俺は地面の上に着地。
着地するや否や、俺は体勢を整える。
『ちっ……! ちょこまかと……! 雌如きがオレの手を煩わせてんじゃねぇよ!』
敵の地面に突き刺さった4本の拳が引き抜かれる。
その瞬間、俺は前に向かって駆け出す。
敵の足──まだ砕いていない方──に向かって突き進む。
『なら、これはどう……』
「遅えよ」
敵の足下に辿り着く。
そして、残った敵の足目掛けて斬撃を繰り出す。
袈裟斬り、横薙ぎ、逆袈裟斬り。
たった3撃繰り出しただけで、敵の足は発泡スチロールみたいに粉砕される。
たった3度斬撃を浴びせただけで、敵の足は粉々に打ち砕かれる。
『ぐぅ……!』
脚を失った敵の背中が地面に叩きつけられる。
敵の身体が仰向けの体勢で地面に倒れ込む。
『オ、オレの脚が……!』
脚は全て圧し折った。
あと6本。
6本の腕を圧し折れば、俺の勝ち。
だが、此処からロックゴレムの2段階目が始まる。
『脚を奪われた……! が、勝負は此処からだ……!』
人型だったロックゴレムの形が変形し始める。
人の形から掛け離れる。
ゲームの時と同じように、昆虫の如く6本の脚を地に着けるフォルムに変形──しなかった。
『どうした、ゲームと違うから戸惑っているのか!?』
ゲームの時と違う形に変形する。
2本足と4本の腕をつけた姿──さっきとあまり大差ない姿に変形してしまう。
それを見ながら、俺は敵との距離を詰め──
『さあ、第2ラウンド開幕だ……! 無駄なものがなくなったからな! さっきよりも動きが速くなって……』
「さっきから遅えって言ってるだろうが」
──変形が終わるや、敵の右脚目掛けて斬撃を繰り出した。
クリティカルヒット。
眩い光と共に2度目のクリティカルヒットを繰り出してしまう。
その瞬間、敵の右脚は一撃で圧し折られた。
『ぬおっ!?』
敵の身体が尻餅を着く。
その隙を狙い、俺は敵の左脚を攻撃。
持っている片手剣── 天空の剣で敵の左脚を執拗に攻撃する。
右薙、逆袈裟斬り、斬り下ろし、左薙。
数秒の間に4撃繰り出す。
4撃目が敵の左脚関節に減り込んだ瞬間、敵の左脚が粉砕してしまった。
たった1分。
たった1分未満で敵は両脚を失ってしまった。
「──あんた、ぶっつけ本番でロックゴレムの力を使っているだろ」
敵の巨体が仰向けの体勢で倒れ込む。
それを見下ろしながら、俺は淡々と敵──ロックゴレムの中にいる者に事実を突きつける。
「ロックゴレムを動かすには習熟度が足りな過ぎる。攻撃もワンパターンな上、人の形に固執し続けている」
敵の身体が変形を始める。
2本足、そして、2本腕──人の形に変形し始める。
「その所為で、ロックゴレムの強みを潰している。ロックゴレム戦で1番厄介なのは、2段階目以降の姿──虫のような姿だ。あの虫のように地を這う姿こそが、……人の形を捨てたフォルムこそが、ロックゴレムにとってベストな形だったんだ」
『何が言いたい……!?』
「あんたの実力じゃ、俺の遊び相手にならないって言っているんだよ」
そう言って、俺は片手剣を構える。
また人の形に変形してしまった敵を心の底から見下す。
それに苛立ちを抱いたんだろう。
ロックゴレムの中にいるヤツは悪意を俺にぶつけると、声を震わせた。
『雌が、……! オレを、オレを見下してんじゃねぇよっ!』
そう言って、ロックゴレムは2本脚で立ち上がる。
俺は溜息を吐き出すと、再びロックゴレムの足目掛けて駆け出した。




