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(15)2025年8月1日 木の小屋と1日の終わり


 『囚人の花嫁衣装』を身に纏った状態──半裸じゃない姿で、光り輝く泉から出る。

 泉から出た瞬間、水浸しになっていた衣服も髪も一瞬で渇いてしまった。

 どうやら『この世界』は水浸しになっても、一瞬で衣服等は渇くものらしい。

 改めて『この世界』が現実世界とは違う法則で機能している事を痛感する。

 

「………」


 顔を真っ赤にしたまま、俺は両手で顔を覆い尽くす。

 なんか、……その、さっきのワンミスで、男として大事なものを失ったような気がする。

 というか、何であんなミスをしてしまったのだろうか。

 あんな痴女みたいな下着つけている姿、誰にも見られたくないと思っていたのに。

 蓄積された精神的な疲労、緊張の緩み、眠気、それらが俺の選択ミスを招いたのだろうか。

 そんな事を考えながら、俺は深い深い溜息を吐き出す。

 すると、魔女ルナが俺の方に近づくと、俺の肩に手を置きながら、感謝の言葉を述べ始めた。


「ありがとうございます、ユウさん。いいもの見せてもらいました」


「追加攻撃やめてくれる!?」


 魔女ルナの感謝の言葉が俺の羞恥心にトドメを刺したところで閑話休題。

 彼女の水浴びが終わるまで待った後、俺は尋ねる。

 『今晩はどうやって越すつもりか』、と。


「片方が寝ている間、もう片方は起きているやり方はどうだ。これなら敵襲が来ても、対応できる筈だ」


「ふふ、先程言いましたよねユウさん。野宿対策はバッチリだと」


 そう言って、魔女ルナは得意げな表情を浮かべると、札のようなものを放り投げる。札のようなものがピカッと光ったかと思いきや、そこそこ大きめの木の小屋が俺達の前に現れた。


「さあさあ、中にどうぞ。大したものはねぇですけど、寝袋と備蓄食くらいならありますから」


 そう言いつつ、魔女ルナは木の小屋の中に俺を誘導する。

 彼女に促されるがまま、中に入る。

 木の扉を開けると、6畳程の部屋が俺の前に立ちはだかった。

 ゆっくり木の小屋の中を見渡す。

 先ず目に入ったのは、床に置かれた寝袋6つ。

 次に目に入ったのは、床に置かれた2リットルサイズのペットボトル。

 ペットボトルの中には水が沢山入っていた。

 最後に目にしたのは、リュックサック。

 多分、あの中に備蓄食が入っているのだろう。

 部屋の中を改めて見渡す。

 何度見渡しても、部屋の中には寝袋とペットボトルとリュックサックだけ。

 それら以外に置いてなかった。


「仕事柄、野宿は何回もやってますからね。こちとら野宿のベテランですよ」


 『どや、すごいでしょ』と言わんばかりに表情を浮かべる魔女ルナ。

 

「一応、この小屋には簡易的な防御結界が施されています。仮に敵が現れても、数分は保つでしょう」


「うお、すげえ……マジ助かる。お陰で今夜はグッスリ寝れそうだ」


 土の上で寝る事を覚悟していたので、魔女ルナの準備の良さは正直ありがたいものだった。

 これなら何も心配せずに夜を越せそうだ。


「さあさあ、備蓄食を食べて、寝ましょう。今日、私、朝ごはん以外食べていないんで、腹減っているんですよねー」


 そう言いつつ、魔女ルナはリュックサックから取り出す。

 彼女がリュックサックから取り出したのは、缶詰だった。

 イワシの味噌煮缶、ツナ缶、やりとり缶詰、コーン缶詰、などなど。

 多種多様な缶詰がリュックサックから沢山出てきた。

 それを見て、俺は今更ながら思い出す。

 

(そういや、俺、今日の朝から何も食べてねぇ)


 この状況下で混乱しているのか、それとも緊張し続けていたのか、或いは熱中し続けていたのか。

 飲食を忘れる程、この状況下に振り回されている事を今更ながら自覚する。

 自覚した途端、腹が食い物を要求し始めた。


「……あの、それ、貰っていいか」


「どうぞどうぞ、遠慮なく。割箸もちゃーんと用意していますよ」


「サンキュー、この恩はいつか必ず。というか、明日にでも返す」


「いえいえ、さっきいいものを見せてくれたお礼です♪ ほんと、……えっちでした」


 さっきの俺の醜態を思い出したのだろう。

 うっとりしたような声色を発しながら、魔女ルナは真っ赤に染まった両頬に手を添え、目を閉じる。


「ブラに食い込むおっぱい、スベスベで何処を触ってもモチモチしそうな肌、一見細そうに見えるけれど、意外な太さを有している太腿、そして、『これが勝負下着だ』と言わんばかりにエロチックな黒パンティー! どれも眼福でした。ありがとうございます」


「頼むから、さっきの醜態忘れてくれないかなぁ!?」


「もう無理です。目蓋の裏に焼きついてしまいました」


 幸せそうに頬を緩めながら、『これを糧に明日も頑張っていきます』と告げる魔女ルナ。

 そんな彼女を見て、俺は固く誓う。

 『早く四天王を倒し、男に戻ろう』、と。

 心の中で固く誓いながら、俺は彼女から缶詰と割り箸を受け取る。

 そして、『いただきます』と言った後、彼女と共に飯を食べ始めた。

 


◇side:管理者


「あなたも私を裏切るのですか」


 深夜。

 ニシノハテ村から南東部にあるダンジョン──地下水殿の最奥。

 そこに現れた金髪の男性に私は話しかける。


「ああ。せっかく、リバクエの世界に来たんだ。四天王に挑めるんだったら、挑んでおきたい」


 そう言って、金髪の男性──プレイヤーネーム『ダイ』は笑みを浮かべます。

 倒せる自信があるのでしょう。

 事前知識があるのでしょう。

 倒せるだけの腕があるのでしょう。

 彼は自信ありげに私の顔を見つめると、神地下水殿の奥の奥──水の四天王『ヒュードラ』の下に向かう。

 私は深い溜息を吐き出すと、忠告の言葉を彼に投げかけました。


「いいのですか? 四天王を倒したら、あなたが大好きな『この世界』、なくなっちゃいますよ?」


 多分、彼も『ゲーマー』という人種なんだろう。 

 案の定と言うべきでしょうか。

 彼は私の言葉に耳を貸すどころか、聞こうともしなかった。

 

「──やめておいた方がいいですよ」


 最後の忠告を投げかける。

 それさえも無視して、金髪の男性は水殿の奥へ。

 水の四天王──『ヒュードラ』の下へ。

 

「もう『それ』は、あなた達が知っているものじゃありませんから」


 数分後、金髪の男性の断末魔が水殿の奥の奥から聞こえてくる。

 それと同時に、勝利を謳う『ヒュードラ』の鳴き声が聞こえてきた。


「あらら。だから、言ったのに」


 水殿の奥の奥。

 『ヒュードラ』がいる場所に向かう。

 そこにいたのは、勿論、『ヒュードラ』と、


「私の忠告を聞いていれば、そんな姿にならずに済んだのに」


 『ヒュードラ』に返り討ちに遭い、『この世界』の糧になってしまった金髪の男性──プレイヤーネーム『ダイ』。

 そして、──


「本当、ゲーマーって人種は理解し難いです。『この世界』の囚人(じゅうにん)になれば、自由だけは担保されるというのに」


 ──プレイヤー『ダイ』と同じように、『この世界』の糧になった元プレイヤー十数名の姿が、私の視界に映し出された。

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