怪盗シグナル
怪盗って、物語の登場人物ってイメージがある。いつも、正義感のある良い事をするカッコイイ怪盗。
俺んちにも、親父の趣味で宝石や、高い絵なんかはそれなりにある。けどまさか、こんな事が起きるなんてまだ誰も想像してなかった。
夕食の時間。俺たちは無言で中華を食べていた。エビチリが美味い。
バタン。
「こんな物が玄関に!」
「栗林。珍しく落ち着きがないぞ。」
「カード?何かのお誘いかしら?」
「お母様はいつも呑気ですわね。」
【√!!!予告状!!!√
この屋敷のお宝を今宵頂きに参ります。
∴∴怪盗シグナル∴∴(ライオンのマーク)】
「どうせ悪戯でしょ?栗林早く捨てなさい。」
「えー。捨てるなら俺が貰う。」
悪戯にしては、紙が上質すぎる。カラフルな文字と間抜けなライオンのイラストも気に入った。これが本当なら、面白いのに。
親父は食事をすませていた。
「凛、明日までに提出しなければ一人暮らしは認めない。」
「…はい。」
それどころじゃないってか。俺は、デザートを残して部屋に戻った。
窓が全開に開いてる。
「寒ー。誰だよ開けっぱにしたの。」
「こんばんは。」
「こんばんはー。…って。窓に座ってたっけー?」
窓のフチに座っていたのは、かなり中性的な雰囲気漂うヤツだった。顔の上半分を黒い布で隠していてその上にカラフルなサングラスをかけている。気取らない服装なで、黒い繋ぎを着ていた。髪の色が黄金って言えるほど純粋な金色。まるでライオンのタテガミだ。
「貴方…悩んでるみたいだね。今から一緒に来ない?」
「怪盗シグナルって、君かー。今夜だけなら良いよ?」
シグナルの口元が弧を描いた。
「ようこそ、夜の街へ。」
手をひかれ、懐かしい感じがした。コイツ知ってる。
屋根の上を歩いた。今日は満月。不思議と力がわく気がする。
「どこ行くのー?竜ちゃん。」
「…はぁ。凛にはバレバレか。」
「ガキん時さー、怪盗シグナルが竜ちゃんでー俺が探偵だったよねー。」
竜ちゃんは、顔を隠していた布とサングラスを外した。少し坂の上で空が近くに感じる、空き家の屋根の上で座った。
「カツラ取り忘れてるよ?」
「ん。凛が一人暮らししたいなんて聞いて嬉しい反面、本当は柄になく寂しかった。」
まさか、あの堅実な竜ちゃんが屋根にいるなんて、ミスマッチすぎだ。
「はは…遊びに来ればいいじゃん。」
「助かってたんだ。凛が木に見えた時、結構落ち込んでる時期があったから、お前と話せて気が晴れてた。」
「分かってたよ。竜が落ちてんの。」
「あぁ。」
「俺たち兄弟みたいなもんだからなー!」
ガシリと肩を組んだ。
「オレは親友だと思ってる。」
「どうしたー?って竜ちゃん泣いてるし!」
「グスッ。これは汗だ。」
「ばーか。永遠の別れじゃあるまいし。」
空を見上げたら、星が滲んで見えた。いて当たり前の存在。お互い八つ当たりも喧嘩もした。
夜の街は、風が冷たくて、隣の竜ちゃんの有り難みが再確認できた。
「栗林には言ってある。」
「えー!?栗林のあれ芝居!?」
「普通に渡した。」
あんなに騒ぐ栗林を見たのは初めてだった。芝居だったか。
怪盗シグナルに、盗まれたモノ?
それは、不意打ちすぎる涙につられた俺の涙。
竜ちゃんの涙は、星の様に月明かりに照らされて綺麗だった。
「今度女装してみてよー。」
「断る!」
いてくれて良かった。そんな存在は、灯台元暗しなんだ。