お騒がせ凛くん
《キャー!あんなトコロに人が!》
《ヤバいぞ!自殺!?》
クラスの窓に人が群がっている。うるさい。後ろの方にいた城多に聞いてみることにした。
「何があったんだ?」
「おー東か。何かあの一番高い杉の木に登ってるヤツがいるんだと。」
「まさか。あの高い木に」
言い終わる前に窓から木を見上げると、オレの従兄弟が木を登っていた。よく見ると雛鳥を巣に返そうとしているようだ。
「東どこ行くんだ?」
「決まってるだろう。職員室だ。」
この前も、裏庭の木に傘をくくりつけて怒られていた。凛は、バカ正直に傘の取っ手に名前をフルネームで書いていたのだ。ほんと凛らしい。
職員室に入り、生徒指導の尾崎先生に木登りをチクった。先生はもの凄い形相で校庭に走って行った。
「あら、また立川君をチクりに来たの?」
「はい。」
ほのかにコロンの香りが漂う清楚な飛澤先生。時々、ドキリとさせる目をする。またあの目をした。水の中のビー玉のような湿り気のある潤いの瞳。
「お互い変わり者の従兄弟を持つと大変ね。」
「先生にもいるんですか?」
「ふふっ。とっても近くにね。」
先生は窓の外を見た。オレも見ると、必死に凛を木から下ろそうとして、脚立をたてたり自分も登ろうとする生徒指導の尾崎生徒の姿。
隣の飛澤先生は、嬉しそうだった。他の先生は、消防署を呼ぶか、木登り名人(?)を呼ぶのかとか凄い騒ぎになってる。
「あ、雛鳥を巣に戻せたみたいだ。」
するするーと、凛は木から登り棒から滑り降りるように降りた。その場に正座で説教されてたのは言うまでもない。
移動教室のために渡り廊下を歩いていたら、足を引っかけられそうになって飛び退いた。
「チクったの竜ちゃんでしょー?」
「動物に夢中になったら、オレの意見を何も聞き入れないだろうが。」
「まーねー。」
「植物の気持ちを考えて無いだろ。」
オレの後をふらーんふらんと、歩いて来るのは物事ついた時からだからもう慣れた。
「次の授業実験ー?」
「これからは、教科書自分で取りに戻るんだ。」
「ケチー。」
そのまま凛は階段の手すりを跨いでその下の階段を降りてった。まったく、面倒臭がりにも程がある。
「委員長ー!この問題教えて?」
「自分で考えたか?もう一度ゆっくり考えてから聞け。」
「無理だしー。」
腕にやたらに絡みつく女。はっきり言って不愉快だ。早くすませよう。数式のポイントだけ教えた。
「さすがだよねー。」
「私でも分かったし!サンキューね。」
「ああ。」
「委員長はいいよなー!モテモテだし?」
「ギャハハ!オメーが委員長でも無理だし!」
オレを不快に思うクラスメート。最初は、否定していた。からかわれるのはスキじゃない。ムキになったら負けだ。
「おい。クールぶってんなよ?」
「…。」
「お!シカトすか!?」
「ありりー?何楽しんでんのー?」
「よっ!木登り名人!」
次の言葉で空気が凍りついた。
「強カン名人に言われたくないなー。竜ちゃん行こうかー。」
教室は目の前だった。
「有り難う。」
「んー?聞こえないなー。」
凛は前の席で振り向きもしないで、鼻歌まじりに机に落書きをしている。お礼を言われるのは照れ臭いらしい。
オレの幼なじみは、動物の事となると周りが見えない。観察ばかりしで道を真っ直ぐ歩けない。だらしない。
たまに、オレよりも頼りになる親友だ。
そして放課後。
「俺一人暮らしするかもー。」
「意味分かっているのか!?炊事洗濯するんだぞ!」
「スイジセンタクって誰ー?」
帰り道、酷く頭が痛くなったのだった。