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裏庭でのデキゴト

いつもの登校中。俺の従兄弟はいきなり口を開いた。



「わかれた。」



「んー?いつも前髪わかれてんじゃん。」



「椿と別れた。」



スタスタと前を速足で歩く竜ちゃん。ちょいキレてるしー。忍耐強い竜ちゃんが…。



「短かったねー。」



「お試し期間の2週間だったからな。やはり女心は秋の空とは本当なようだ。」



俺は軽く走って、竜ちゃんの顔を見上げた。っつっても数センチの差だからー。



「んじゃー。なんでそんな辛そうな顔してんのー?」



俺はせっかく、にやついてんのに竜ちゃんに目をそらされたまま。


「邪魔だ。朝練遅れるぞ!」



「今頃、椿泣いてるかもよー?」


「椿って呼ぶな!」



「ほーらね。まだ好きなんじゃーん。」



竜ちゃんが珍しく傷ついた顔をした。空手の試合で負けた時の顔だ。それからは少し後ろから、歩く事にした。


鳥の声がいつもよりうるさく感じる。心地よいはずの風の音が、耳障りだ。学校まで、昨日までより長くて嫌になった。



「はぁー。」





「よっ。立川がため息なんて天変地位じゃねーか?」



「内っち。慰めてー。」



「うげー。お前ら朝からホモぷれいすんなよな。」



俺の後ろから来たのは、野球部の愉快な仲間たち。お調子者な内田くんと比較的冷めキャラの咲枝くん。学校のヤツらとは、適当に接すれば良い。竜ちゃんはもう前には見えなくなっていた。



「んで?これかぁ!」


「お前は親父か。小指立てんな。」



「だったりしてー。」


「立川にはねぇな。」


「だよな。」



今、バカにされた?顔を見合わせる内っちと咲っち。



「そんな立川にはコレだ!」



「だから親父キャラかよ。」



冷めた目で内っちにツッコミを入れる咲っち。内っちが俺に見せつけたのは、栄養ドリンクだった。



「内っちいつも持ってんのー?」



内っちは俺にくれると思ってたら、ごくごくと自分で一気に飲んだ。



「ぷっはぁー!ガソリン満タン!元気モリモリー!ビボビダンー」


「はいそこまで。」



「スゲー。コントにまた磨きがかかってるー。」



「違うから。」



「だろ?内田と息が合うんだよ!」



氷の様な相方をヨソに、内っちはイキイキとした顔を俺に向けた。モンチッチみたいな茶髪で坊主頭の可愛い系の内っちと、狼みたいなクールな顔立ちの咲っち。お笑い芸人に良さげだ。今度、書いてみようかなー二人のコント。



「あれ。東と美女はっけーん!」



「またお前いい加減な事…マジだ。」



「…朱楽。」



二人が俺に振り返った。



「知り合い?紹介して!」



「さすがバカ田。盛ってんな。」



「名前しか知らないからムリー。」



内田と咲枝と話しながら二人を通り過ぎた。校門で仲直りとはごちそうさま。



「うげげー。雨振って来た!」



「しゃべってないで走れ。」



俺は、一人裏庭に向かっていた。







濡れるところだった。


一昨日の雷で木が半分割れてしまった。丁度、隣に鳥の巣がある。倒れた木が巣にとっては、雨の日に傘がわりになっていた木だったから、朝練の前に様子を見に来た。だから、俺の傘をくくりつけてみた。それが鳥にとって良いのか悪いのかは分からないけど。



それなりに傘に葉っぱとか付けたし。鳥にとって怖くないと良いな。


角度とか、見ていると、足音が近づいて来た。



「その葉っぱ、自分で付けたの?」



「制服違うよねー?朱楽っち。」



「あはっ。ちょっと東を困らせたくって走ってたら、迷っちゃった。」



「…透けてる。」



「あ、本当だ。私ってハズい人だね。」



朱楽は隠す様に体を丸めて校舎の微妙な屋根の下に体育座りをした。



「私が勝手に2週間だけ試しに付き合って欲しいって言ったの。」


「聞いたー。フラれるの怖かったんだろー?」



「そうだよ。私は、竜と正反対なの。弱虫だし。ずるいし。」



「そうでもないんでねーの?」



「え?」



パチャパチャと水溜まりの跳ねる音がした。


「椿!おっと。」



しかも、あの竜ちゃんが段差でコケそうになっていた。かなり、焦ってんねー。



「探したぞ!」



「なんで?」



「なんでだと!?それはだな、つまりー、あれだ。」



見てられない。退散しよー。



「嬉しい!」



竜ちゃんにだきつく朱楽っち。そのタイミングー?俺は目を見張った。竜ちゃんが消えろと俺に目で合図した。


ってか、ここ俺のお気に入りな場所なんだけど。今日はいっかー。


いいな…って思ってないから!



ドラマと違うんだな。


恋をした事ない。いや、したくないんだ。



ただ、君の声は誰よりもキレイだった。



放課後になり、家に帰って開き戸を開けた。


「お坊っちゃま!」



「アヒルちゃーん。心臓に悪いよー、」



「アヒルですか!?どこにいますか?私が捕まえます!」



「んじゃー、よろしくー。」



俺は、お手伝いの顔を見ずに部屋に戻った。親父に出す資料が残ってる。ノートにまとめていた。



トルルル…



内線がかかって来た。


「はい。今忙し」



《アヒル…いませんでした。》



「…は?」



《私辞めます。》



「そ。じゃー、今までお疲れ様ー。」



《ありがとうございました。》



まただ。心に隙間風が吹いた感覚に陥る。なんで会いに来ないんだろ。あんだけ酷い事言ったらそうだよな。



青柳…霞。



名前を呼ばなかったのも、意地悪言ったのも気に入ってるから。俺なりの愛情表現。



これで21人目か。



夜は晴れて星が瞬くのがよく見えていた。

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