五月晴れ
五月だというのに、雨ばかり。窓に張り付くように流れる雨を眺めていた。
「こら、立川の黒板は窓に変わったのか?黒板の問題を解け。」
先生の丸めた教科書で軽く頭を叩かれた。
無言で黒板に向かった。
カッカッ…。
この教師は厳しい、とかで昼過ぎの睡魔に負けじとクラスの奴等は必死で起きてる。おかげで黒板への視線が痛い。
「はい正解。授業態度も成績に入るからな。」
また頭を叩かれた。
何事も無かったように俺はのんびりと一番後ろの自分の席に戻った。すると、ちょうどチャイムが鳴った。
先生が教室から出てから、竜ちゃんが近づいて来た。
「あんな態度良くないぞ。」
「無視したのがー?」
「分かってるなら聞くな。ほら、次体育だぞ急げ。」
いったんオヤスミでも、竜ちゃんは椿の彼女なんだ。今俺は違う角度から観察してる。
「凛くん。アンケート集めたよ。」
体育館に向かってる途中、緑川に頼んだアンケートを渡された。
「ごくろーさん。でも今から、体育なんだよねー。」
緑川にギュッと腕を掴まれた。
「サボろ?」
「んー。最近真面目なのよ俺。」
「今さら東の真似しても無駄なんじゃない?」
緑川はサボり仲間とまで行かないけど、たまにサボってる時遭遇する。唯一学校で絡む女だ。
「じゃん。これ以外の質問も勝手に聞いたりしたんだよね。」
無印のメモ帳を目の前に見せびらかして来た。
「あーあ。せっかくジャージに着替えたのにー。」
「今の時間だと、化学室誰もいないから。行こっか?」
緑川は化学室の鍵を得意気にくるくる回した。
「まーた、からかったわけー?」
「化学の米山は、新米教師だからスキだらけってだけよ。」
俺ら特有の話をしながら、先生に会わないルートで3階の化学室に向かった。
ガ…チャ。
「なんだよその開け方ー。」
「しー。マスターキーあるから米山がいるかもしんないじゃん。」
ガラガラと、中の様子を見ながら緑川は化学室に入った。後に続いた俺は入る前に後ろから腕を掴まれた。
「やっぱり緑川が盗んだんだな。」
「米山…。」
そのまま米山は化学室に入り、結局俺は閉め出された。ちょっとヤバめの雰囲気な二人。
…ま。自業自得じゃね?
アンケートを持って誰もいない教室で、あらゆる統計を取る事にした。
「…男も女もイメージ変わんねーのかー。」
女から見た竜ちゃんの魅力が知りたかったけど、意見はどれもぱっとしない。
【誠実。堅実。でも、肉食系っぽい。】
「でも、肉食系!?ギャップか。それもいいな。」
椿と付き合いたい。
ただそれだけだ。
俺は放課後にいつものコンビニで、椿と待ち合わせした。
ガー。
「凛っ。待った?」
「ん。待った。」
「普通『今来たとこ』って言うよね。」
「俺、普通嫌いなの。お菓子一つ選んでいいよー。」
「私は小さい子か!でも選んじゃお。」
嬉しそうにお菓子コーナーに行った椿。
「…ヤバいな。」
無邪気な彼女があまりにも可愛くて、口に出してた。
「え。子供っぽいかな?」
「んーん。一人事だから気にしないでいーよ。」
「これとこれ!」
「一個って言ったでしょー?」
「自分で買うからいーもん。」
新商品をどうしても食べたいらしい。
「はいはい。ついでだからいいよ。」
「なんか悪いよ。」
「女の子は甘えなきゃ可愛くないよー?」
「…ありがと。」
レジに並んでいると、椿も隣に並んでくれた。
「立ち読みしたら?」
「私が落とした雑誌買ってくれたでしょ?私のどこがいいの?」
「教えなーい。」
「じゃ、私も言わないからね。」
ちょっと気になるけど、今はまだ言わない。焦らしてあげる。
お金を払って、コンビニから出た。
「どこ行くの?」
「送るよ。」
「コンビニだけ?」
「あれー?期待しちゃったー?」
椿はいきなり走りだした。すぐに、腕を掴んだ。
「どーした?」
「期待しちゃ悪い?私は真剣に竜か凛か悩んでるの!」
「…やめろよ。」
「凛?」
「送りたくなくなった。これあげる。」
お菓子を椿につきつけた。椿の家はここから近いはず。
「なんで怒るの?」
「今の椿は可愛いくないからいらない。」
椿の腕から手をはなした。
こうでもしないと、竜ちゃんには勝てない。
そう。これは椿を手に入れる為だから。今は厳しくいくからね。