待ち伏せは似合わない
椿に言われたから?なわけない。
ただ、気が向いた。そんだけ。
俺は朝から竜ちゃんちの門の前で、門柱に持たれていた。
「はよっす!」
「わーびびったー。キヨっちが何でいるのー?」
「その言い方だとびびってないすよね?ロードワークすよ。」
近くに来たキヨから、シャレたローズの香りが漂う。
「朝帰りがロードワークねー?うらやましい限りだよ。」
「それより!一緒にガッコ行きましょ?」
「何そのゆーわくー。つか、腕に捕まるなって。ったくー。キヨっちは変な魅力があるから癖になりそー。」
キィー。
キヨとだへってたら、竜ちゃんちの門の前だとスッカリ忘れてた。門から出てきたのは、ムスッとした竜ちゃんだった。
「…通行の邪魔だ。どけ。」
「言い方ひどくない?ねーキヨっち。」
「はい!」
竜ちゃんは、眉を潜め下唇を噛んだ。そして、俺の肩にわざと体をぶつけてから、通学路に出た。歩くのが速い竜ちゃんが更に、速く歩いた。
「オレらも朝練間に合わないんで、行きましょ。」
「んー。先に行ってて?」
「かと思いました。部長なんで遅れないようにして下さいよ!」
キヨは近道の方向へ軽く走って行った。
「さーてと。行きますかー。」
軽く伸びをして、屈伸をした。そして、久しぶりに本気で走る。
約2分後、だいぶ先まで行ってた竜ちゃんがやっと視界に入った。
ラストスパートだ。信号待ちしてる竜ちゃんを追いかけた。
「竜ちゃん!」
ちょうど歩行者信号が青に変わる。もし、竜ちゃんがこのまま俺を避けたら?急に自信がなくなり俺は下を向いてスピードを落とした。
すると、白と黒のデザインのスニーカーが俺の足の先に見えた。顔を上げると竜ちゃんが罰の悪そうな顔をして立っていた。
「道路を走ると危ないだろうが。」
「挑発しといてよく言うよ。」
「凛が来たの二階の窓から見えてたんだ。どういう顔して会えば良いか分からなくて、後輩と楽しそうな凛を見て思わず意地悪した。」
また信号が赤になる。
「不器用すぎだよ。」
「お互いな。」
心地よい空間。椿を奪いたい俺と、まるで一心同体な竜と一緒にいたい俺が自分の中で闘っていた。でも、決めた。
信号が青に変わる。
「竜ちゃん。椿にちょっかい出してごめん。もう二度と手を出さない。」
「そんな約束していいのか?」
横断歩道を渡る俺たち。竜ちゃんの返事が『お前は手を出すだろ?』と聞こえてしまって、何も言い返せない。
「オレは、守れない約束はしない主義だ。それに、椿が凛に体を許すなら何も言わない。もしも、無理矢理襲ったりしたら…」
ちょうど横を電車が通り過ぎた。でもはっきり聞こえた。
『オマエヲコロス』
自分から手を出さないのは、竜の椿への愛。浮気さえ受け止める気だ。つまり、『お前にはオレを越えられない。』と言う絶対的な自信が伝わってくる。
「へー。今の言葉忘れないでよ。」
諦めるように必死に閉じ込めてた心が、恋敵に開放された。
「凛には素直でいて欲しいんだ。」
「普通好きでいる事許す?」
「生憎だがオレは変わり者だ。」
「まー同類だけどねー?」
こんなにわくわくした朝は、久しぶりだった。