迷子のこ猫
目が覚めて時計を確認するとすでに、午前10時すぎ。
「あれー!竜ちゃんは!?」
リビングのドアを開けると、目玉焼きに生ハムサラダ。と、竜ちゃんの代わりに書き置きが。
【朝練がある為、先に家を出る。軽い食事を作っといた。朝食を食べないと力がつかないぞ。…】
途中から長々と朝食についての解説になってるし。ここまで来たら、ゆっくり準備して出るか。
「もぐもぐ。へぇ、美味いじゃん。いー感じの半熟だし。」
しんとする部屋。防音の部屋が鳥のさえずりさえ遮断する。
制服に腕を通して、軽く跳ねた髪をワックスで誤魔化した。
「よし、行くかー。」
ガチャ。
出ようと右足をあげたら、何かが足に絡み付いた。
「にーたん。」
…三毛猫の着ぐるみを着たメスガキ。
「迷子センターに電話…。」
ズボンの裾をヨダレだらけの手で握っている。さすがにガキ嫌いの俺も泣き出しそうなその子頭を撫でた。
「今から、お母さんのところに連れてくからな。」
「うー。」
「んー?」
「おちっこ。」
「ちょっと待てー!」
抱き上げた瞬間、俺の腕を生温かい液体がつたった。
「…すっきりした顔だなー?」
「きゃはは!」
はぁ。制服ビチョビョー。俺はある人物に電話した。
5分後。色々な買い物袋を持って栗林が来た。
「坊っちゃん。むやみに捨て猫を拾わないでとあれ程言いましたよね。まず、二人でお風呂に入ってもらいますよ。」
「俺が洗うの?」
「はい。もちろんです。」
ミーちゃん(名付けたの俺)を抱っこしたまま、お風呂場に押し込まられた。
ファスナーを下ろしてあげると、豪快に脱ぎだした。すると、パンツの下から男の子のシンボルが飛び出て来た。
「にーたんもはーやーーくー!」
「分かってるよー。」
「にーたんのこ」
「はーい。お風呂のお湯をかけてようねー?」
びびったー。無邪気に触られるところだった。どこをってー?まぁ、あえて言うならシンボル?
チャポン。
「いーち、にー、よーん、はーち…」
「数字とんでるー。」
ミーちゃんがザバーンと勢いよく飛び出した。それから動き回るミーちゃんを洗って、自分も洗いながらミーちゃんが転ばないように見ていた。
それから、栗林が用意してくれたミーちゃんの洋服を着せた。俺は、制服が用意されてたからしぶしぶ着た。
リビングには、栗林と純粋そうな水色のワンピースを着た若い女の人がいた。
「おたーたん!」
「ミコトー!」
へぇ。結局ミーちゃんなんだ。
「ごめんなさい。隣の置田なんですけど、立川さんを気に入ったみたいで。」
「にーたん。またあそぼーね!」
母親に抱きついたと思ったら、俺にまた抱きついて来た。
「…んー。いきなりは駄目だよー?アメあげるから今日はおとなしく帰ってねー。」
「あーい!おたーたんかえゆよー。」
「ほんと、ご迷惑かけてすみません。」
パタン。嵐は去った。
「坊っちゃん。学校に行きましょう。」
チャリっと車の鍵をちらつかせた栗林。
「てか今、3時なんだけどー!」
「サボりを旦那様に報告していいんですね?」
こうして、学校に大遅刻した俺。多忙すぎる一日が過ぎた。その日以来時々、隣のミーちゃんちから夕御飯のお裾分けをもらったりした。