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65 参謀長クララ 4

 ネスカが第一軍団と第二軍団に拡声の魔道具で指示をする。


「みんな聞いてくれ!!指揮官はこのネスカが行う!!まず、相手はシーサーペントの変異種がいる可能性が高い。水際の戦闘になるから、リザードマン部隊は出動準備!!リザードマン部隊の援護で、魔導士部隊、弓兵隊それぞれ1個小隊も出動準備!!

 オーガ隊、残りの魔導士隊は待機だ!!」


「「「オオオー!!」」」


 雄叫びが上がる。

 ネスカは統率力とリーダーシップがあるなあ。どっかのマニュアル王子とは年季が違う。まあ30歳だからね。


 オルガ隊長も訓練場から戻って来た。


「クララ参謀長も行くのか?」


「はい、何もお役に立てないでしょうが、魔王軍の戦い方を学びたいので」


「いい心掛けだ。じゃあ、チャック!!お前もアタイと一緒にクララと出動するぞ」


 チャックさんは、困り顔で言う。


「第三軍団員の訓練は如何しましょうか?私がいないと・・・」


「そんなの自主練だ」


 堪らず、私は助け船を出す。


「報告によると、住民に多くの被害が出ていると思われます。シーサーペント討伐後、住民に対する支援が必要になりますので、支援物資を準備して、第三軍団も出動してはどうでしょうか?私の持ってきた缶詰や保存食は全部持ってきて構いませんので・・・・オルガ軍団長、よろしいでしょうか?」


「そうだな、そうしてくれ。チャック!!魚の缶詰を多めに持ってこい。フロッグ族は魚が好きだからな。旨い物でも食べさせて元気付けてやろう。それと味はトマト味を必ず入れておけよ」


 そこで缶詰の味を指定するところはどうかと思うが、少しズレているけど、優しいところはゴンザレスにそっくりだ。


 私はネスカとともに事務所で被害状況を把握し、大まかな必要物資のリストをチャックさんに手渡した。こんなときにボランティア活動の炊き出しの経験が生きるとは思わなかったけどね。

 チャックさんは驚いている。


「初めてだ・・・まともな指示をされるなんて・・・」



 ★★★


 移動は竜車と呼ばれる馬車みたいな乗り物で移動した。騎竜という比較的大人しい地竜に馬の代わりに引かせる。スピードは同じくらいだが、馬よりも知能が高く、パワーもある。なので、騎兵隊として運用すれば、それほど大差はないだろうが、竜車として運用すると馬車に比べて、3倍以上のスピードが出る。


 その竜車には私とオルガ軍団長、なぜかネスカも乗っている。


「ネスカ王子、一緒に私が乗る必要はありますでしょうか?」


「シーサーペント特別討伐隊を編成した。僕が隊長でクララは通信兵だ。これ以後、敬語は禁止、「ネスカ」と呼ぶように。軍規定にもそうなっているだろ?契約書にサインしたよね?」


 そう言われれば、言い返せない。特別隊を編成した場合は、普段の役職から離れて、その時の上官の指示に従うことになっている。それに契約書には「軍規を遵守すること」が記載されているので、ネスカに従わなくてはならない。


「分かったわ、ネスカ。この作戦が終わるまでは、貴方に従うわ」


「じゃあよろしく頼む、クララ」


 ネスカは嬉しそうだ。


 すぐに偵察に出ていた先行部隊から報告が入る。


「シーサーペントは約30、変異種は目視で3体確認、住民の被害は負傷者多数。本隊と合流するまでは住民の避難と遅滞戦闘を実施する」


「了解!!本隊到着までは近接戦は避けて、遠距離攻撃で凌ぐように」


 ネスカが言う。


「作戦を理解して、僕が指示する前に指示してくれる。流石はクララだ。僕が見込んだだけのことはある。ところで、この後なんだけど・・・・」


「無駄口は叩かないで、仕事以外の話はしなくていいから」


 ネスカは落ち込む。


 ★★★


 2時間くらいでフロッグ族の居住区に到着した。

 フロッグ族はカエル型の魔族で、戦闘力はあまりないが、水中活動が得意だ。主な産業は稲作とレーナ川やその支流で漁業を営んで生計を立てている。その居住区の被害は甚大で、死者こそ出ていないが、家や建物は破壊され、水田もめちゃくちゃ、本当に酷い有様だった。


「部隊展開!!速やかに攻撃開始!!」


 ネスカが号令を掛けると迅速に部隊が展開する。事前に指示した通り、リザードマン部隊が前面に配置され、その後方から、魔導士隊と弓兵隊が一斉に攻撃を開始する。こういったところは、流石は精鋭部隊だと感心する。


「オルガ姉さんは変異種を1体頼むよ。細かいことは指示しないからね。ただ、合図するまでは待機してよ」


「任せとけ!!新作の大剣を持ってきたからな」



 シーサーペントは、一言で言えば、巨大なウミヘビだ。ギルドの資料によると単体でCランク、群れでBランク、この部隊ならば、変異種がいなければそこまで恐れる敵ではない。瞬く間に遠距離攻撃で普通のシーサーペントは討伐されていく。

 配下のシーサーペントが討伐されたことで、怒り狂った変異種3体が川岸まで上がって来た。


「リザードマン部隊で1体を仕留めろ!!後の2体は僕とオルガ姉さんでやる!!」


 まずリザードマン部隊だが、巨大なロープの付いた銛をどんどんと変異種に投げ付け、その動きを止める。そして後は、数に任せて変異種に群がり、総攻撃を掛ける。すぐに変異種は動かなくなった。

 一方、オルガ団長とネスカは別格だった。あっという間にオルガ団長は自慢の大剣で一刀両断にし、ネスカは長剣で、切り刻んでいた。

 魔族は基本的に実力主義で、この強さこそが、統治の基本だと再認識させられた。


 後は簡単だった。群れのリーダーを失ったシーサーペントたちは、どんどん逃げていく。今後のためにできるだけ数を減らしにかかる。それから30分程で戦闘は終了した。

 残ったのは廃墟と化した居住区と大量のシーサーペントの死骸だった。


 戦闘が終了した2時間後に第三軍団が到着した。ここからが私の出番だ。

 住民の治療を部隊員に行わせ、私はシーサーペントの解体に取り掛かる。ゴブリン族を中心に解体を手伝ってくれた。


「せっかくなんで、私が料理を振る舞いますよ!!」


 から元気で声を張り上げた。

 シーサーペントは実は美味しい。ウナギに似た味だ。ウナギと言えばかば焼きだ。私が指定した調味料も届いた。チャックさんが質問をしてくる。


「クララ参謀長、米酒を持ってこいってどういうことですか?消毒に使うなら酒精の強い火酒のほうが・・・」


「見てたら分かりますよ」


 解体されたシーサーペントをタレに付けて焼いていく。このタレを作るのに米酒が必要だったのだ。味に深みが出るからね。しばらくして、あの特有の匂いが居住区に立ち込める。皆が群がって来る。


「いっぱいありますから、並んでください。手の空いた兵士の皆さんもどうぞ!!」


 ゴブリン族などの小型種に指導しながら焼いていく。大絶賛だった。


「旨いぞ!!こんなの食べたこともない」

「内臓も旨いなんて知らなかったな・・・」

「もっと寄越せ!!復興のためには食わないとな」


 打ちひしがれていた住民たちも、次第に笑顔になっていく。


 ここで思わぬ効果もあった。直接戦闘には参加しなかった第三軍団の団員たちだが、炊き出しや復興支援を頑張っていたので、住民たちに仕切りにお礼を言われていた。中でもこの居住区出身のフロッグ族の団員5名は英雄の如き扱いだった。


「お前たちはフロッグ族の誇りだ!!」

「ありがとう、ありがとう」

「僕も大きくなったら、第三軍団に入りたい!!」


 そんな団員たちは「俺たち、戦ってないんだけどな・・・」と言いつつも嬉しそうだった。チャックさんが呟く。


「我々が、住民から称賛され、感謝されたの初めてだ・・・」


 ボランティア活動はされる人よりも、する人のほうがメリットが大きいと言われている。達成感があり、自己肯定感も上がる。今回の活動で結果的にだが、団員たちにやりがいと使命感が芽生えたことは、本当に良かったと思う。


 まだ、始まったばかりだけどね。

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