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店員
警察が聞く。
あの人が財布を
届けに来た事はあるか。
何故今更それを聞く。
心の声は心底叫ぶ。
あれからほぼ一年。
人間の記憶は曖昧だ。
昨日の晩御飯も覚えていないのに
一年前の出来事を聞かれる。
もっと早く聞くべきではないか。
心の声がうるさい。
脳内に残る記憶は少ない。
でもうるさい中には残っている。
そっとボリュームを下げると
うっすらと映像が浮かんでくる。
あの人はよく財布を見付けた。
特技なのかもしれないと思う程だ。
だからよく覚えている。
またですか、
いつもありがとうございます。
笑顔で帰って行く彼は
財布を見付けるプロなのだ。
後ろ姿に心が温まる気がした。
だから繰り返し問う。
何故今更それを聞く。
警察だけじゃなく
新聞を読んだ何人もが
犯人だと決めつけた後に。
犯人なわけないのに。