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第2話 セレブな生徒達

結婚を決めてからの数ヶ月は忙しさであっと言う間に過ぎ、もう12月だ。


冷え込みも厳しくなったけど、

教室はもちろん、廊下も体育館も全て冷暖房完備の堀西高校の中は温かい。


ちなみに、建物は違うけど、初等部(小学校ね)では、

「小さなお子様方は敏感だから!」という訳で加湿・除湿にも抜かりがない。


私のうちなんかより、よっぽど居心地がいいわ。



私はぬくぬくの職員室を出て、ぬくぬくの廊下を歩き、ぬくぬくの3年C組に向かった。

明日の朝配るプリントを準備するためだ。

って、この学校、エコって言葉を知らないのか。



「あれ?」


C組の教室から明かりが漏れている。

もう夜の8時だから残っている生徒はいないと思ったのに。


・・・もしかして。


嫌な予感がして、窓からこっそり教室を覗いてみる。

教師の私がこんなことしてる時点で、この学校での教師の立場がわかるというもの。



やっぱり。


私はため息をついた。


教室の中で、4,5人の男女が机の上に座ってたむろしている。

瞼の上に目玉がある和田君を初め、C組の中心的メンバーだ。

同時に、私の苦手な生徒達でもある。


その中の1人の女の子が、長くて綺麗な足を短いスカートからこれ見よがしに出し、

隣の男の子にしなだれかかった。


「ねぇ、真弥ぁ。クリスマス、どこ連れてってくれるの?」


目が潤んでいて、女の私から見ても色っぽい。

本当に18歳か?


彼女は、石黒さくら。

パチンコ会社社長の一人娘で、それこそ目に入れても痛くないほど可愛がられている。

そして期待を裏切らず、絵に描いたようなワガママなお嬢様だ。


一方、しなだれかかられた方の男の子は、石黒さんより遥かに長い足を組み、

気のない様子で、「別にどこでもいい」とか言ってる。


彼は本城真弥ほんじょうしんや。おうちは・・・何してるんだっけ?

まあ、どっかの金持ちだ。それは間違いない。


本城君の家の情報が私の頭に入ってないのには理由がある。

そんなことどうでもいいくらい、彼は問題児だからだ。


その理由はいくつかあるけど、一つは女性関係。

とにかくモデル顔負けの物凄いイケメン、加えて堀西高校の生徒、という訳で、

言い寄る女は星の数ほどいると言っても過言じゃない。

しょっちゅう女をとっかえひっかえしていて、1ヶ月持てばいい方じゃないだろうか。

でも当の本人はあまり恋愛に興味がないらしく、

「言い寄られるから適当に付き合って、飽きたら別れる」という典型的な遊び人。


どうやら今は石黒さんと付き合っているらしい。



彼らの話題は目下、来週のクリスマスの過ごし方のようだ。

私はもちろん祐樹と過ごすけど、いつもよりちょっとお高めのバーに行くくらい。

結婚費用も貯めないといけないし、そもそもここの生徒みたいにお金持ちじゃないし。


でも、和田君たちは「私は家族でモルディブ」とか、

「俺は彼女とヒルトンのスイートに泊まる」とか、とんでもないこと言ってる。


お祝儀をくれ、お祝儀を。






「マリッジブルー?」

「いや。日本の経済格差について悩んでるだけ」

「?」


職員室の席でため息をついていると、佳苗が近寄ってきた。


「ねえねえ、結婚式はいつ?」

「1月末。彼の転勤はお正月明けだから本当は12月中にしたかったんだけど、式場が空いてなくって」

「クリスマスシーズンだもんねー」

「そうなのよ。だから先に彼だけ引越して、結婚式の日だけ東京に戻ってくるの。

私はどちらにしろ卒業式が1月末だからそれまでは東京にいるわ」

「じゃあ琴美も生徒と一緒に卒業だね。校長には話したの?」

「うん。『残念だけど仕方ありませんね。神谷先生は女の人ですからね』なんて、

旧石器時代な発言された」

「あははは!式には呼んでよね!」

「うん、絶対来てね!」



忙しい祐樹とはなかなか時間が合わないけど、それでもなんとか郊外の一軒家風のレストランで、

結婚式をすることが決まった。

式まで後1ヶ月ほどしかないので、すごくタイトなスケジュールだけど、

結納も終わったし、お母さんと一緒にドレスも決めた。

どんなドレスにしたか、祐樹には当日まで内緒だ。


後は、使う音楽や飾る花、細かい演出なんかを考えないといけない。

ブライダルエステも行きたいし、2次会の準備も・・・


ああ、やることがありすぎる!!


「新居の準備は?」

「取り合えず、祐樹の会社の社宅に入るわ。福岡まで探しに行く時間ないし」


でも、家電とか家具は買わなきゃ。

そういえば祐樹が「車もいる」とか言ってたな。


貯金、足りるかなあ。


「生徒にお祝儀もらいなよ」

「・・・それ、さっき本気で考えた」

「じゃあ今のうちに、『結婚します!』って宣伝しとかなきゃ」

「そうねー」


もちろん、生徒にそんなものもらえるとは思ってないけど、

子供を堀西に通わせるくらいの家だったら、お祝儀ってどれくらい包むんだろう?

なーんて無意味なことを考えながら、

私は期末テストの採点をすべく、ペンを取った。





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