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第10話 お祝い

本城君の家から事務所へ送ってもらった時の車より、

遥かに高級な車の後部座席に私はちょこんと座っていた。


もちろん運転しているのはお手伝いさんじゃなく、れっきとした運転手だ。


それもそのはず。

私の横には、あの本城君のお祖父さん・・・本城弁護士事務所の所長が座っているのだから。



「先ほどは息子が失礼をしました」


お祖父さんが私を見て、にこやかに話しかける。

私は慌てて首を振った。


「いえ!こちらこそ、失礼な態度を・・・」

「いや、あれは息子が悪い。息子はどうも事務所のことを考えすぎる。

何が何でも本城家の人間が所長をしないといけないという訳でもないのに、

次の所長は自分で、その次は息子の真弥だと決め付けているのです。真弥の希望も聞かずに」

「はあ。あの・・・」


私は姿勢を正した。


「真弥君が、教師を希望しているというのは本当でしょうか?」

「ええ。恐らくあなたに憧れてのことでしょう」

「・・・は?」

「真弥のやつも、そうとは言いませんがね。わしにしょっちゅう、あなたのことを話してくる。

『面白い先生がいる』と」


お、面白い?


「『堀西の教師なんてみんなやる気ないのに、一人で勝手に燃えて空回りしてる』だそうです」

「・・・」

「でも、あなたのことを話す時の真弥はとても楽しそうです。だから、この前真弥がわしに、

『教師になりたい。家は継がない』と言ってきた時も、わしは驚きませんでした」

「・・・」


お祖父さんは、「失礼ですが」と前置きして訊ねてきた。


「神谷先生。真弥から何か貰いませんでしたか?」


何かどころか!


私は口をパクパクしながらそれを鞄から取り出した。

本城君が「賄賂だ」と言って私に渡した物だ。


お祖父さんはそれを見て、「やっぱり」と言って笑った。


「お、お返しします!これ、本物ですよね・・・」


無造作に紙袋に入れられていたのは、なんとダイヤのネックレスだった。

それも、0.01カラットの・・・とかじゃない。

かなり大振りの立派なダイヤが中央にあしらわれ、その周りにも、

色んな宝石で細かい飾りが施されている。


最初はイミテーションかと思ったけど、もしやと不安になり宝石店で鑑定してもらったら、

間違いなく本物だと言うことだった。

宝石商の人にかなりしつこく「大変貴重な物なので、買い取らせてください」と粘られたが、

なんとか振り切った。

もし売れば、かなり立派な車が買える。


とんでもない「賄賂」だ。



でも、どう考えても本城君が買ったとは思えない。

という事は、お家の物、ということになる。

当然このお祖父さんに返すべきだ。


とこどが、お祖父さんは受け取ろうとはしなかった。



「これは、私が妻に買った物なんです」

「え?それじゃ、ますます頂く訳にはいきません!」


私はネックレスをお祖父さんの手に渡そうとしたが、またも拒まれてしまう。


「妻が・・・真弥の祖母が亡くなった時、形見分けということでこれを真弥にやったんです。

だからこれは真弥の物だ。真弥がどうしようと、真弥の自由です」

「でも・・・」

「それでも、真弥もさすがに気が咎めたのか、一応わしに了解を取りにきましたよ。

『これを人にあげたいんだけどいいかな』と。すぐにあなたにあげるんだと分かりました」

「・・・」

「わしが好きにしていいと言うと真弥はわしに礼を言って、こう言ったんです。

『その人、今度結婚するんだ。だからお祝いにあげたいんだ』」


お祝い?

・・・私に?


「さすがにそう言った時の真弥は寂しそうでしたな。あいつは、失恋とは縁のない人生を歩んできましたから」

「・・・そんな・・・あの、やっぱり頂けません・・・」


高価な物だからというのもあるけど、

そんな気持ちのこもった物、もらっちゃいけない気がする。


「もらってやってください。真弥なりに悩んで、あなたのために自分ができる精一杯をしたんだと思います」

「・・・」

「まあ、もうちょっと他にやりようもあるとは思いますが」


お祖父さんはそう言ってニヤッと笑った。


「わしが真弥なら、強引に婚約者から奪い取るとこですな、あなたを」

「なっ」


私は真っ赤になった。


「これで真弥も勉強したことでしょう。そのネックレス、真弥からのお祝いとしては受け取れないのなら、わしからの授業料として受け取ってください」

「・・・ありがとうございます。でも高すぎます。こんな・・・車ほどもするネックレス。

真弥君にとってもお婆様の大事な思い出の品ですし、財産でもありますし」

「そうですな。では、頑張って『授業』を受けた真弥には、わしから何かご褒美をやっておきますよ。

そうだな・・・教師になれた時に、それこそ車でも買ってやりますか」



お祖父さんはとても楽しそうに、大きな声で笑った。






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