表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編大作選

割引シンデレラ

やっと、家に来てくれた。

焼き肉が好き、という情報。

それをもとに、誘った。


『焼き肉食べに来ない?』

それで、すんなり来てくれた。


「家が近いから、良かったよ」

「うん。すぐに来られるからね」

「そうだね」


家に彼女が来たのは、午後5時。

夜は、用事があるらしい。

来てくれた、それだけでいい。





「あー、食べた食べた」

「どうだった?」

「美味しかったよ。特製のタレが絶品で」

「良かった」


「あんな焼き方もあるんだね」

「うん。次は、別の料理も作るからさ」

「ありがとう」


「次は、何食べたい?」

「あっ、ちょっと待って。今何時?」

「6時53分だけど」


「えっあっ、はっほっ」

「どうしたの?」


彼女は、散乱していたミニ扇風機やミニタオルなどを、デカリュックにぶちこんだ。リズムいい声を、出しながら。


「あっ、じゃまた」

「何かあるの?」

「あ、あるよ」


彼女は、財布の小銭を確認しながら、そう言った。『あるよ』の語尾はロケットだった。急激に上へ上へと、向かっていたから。


廊下は走らない。そんな学校での決まりを、この家でも守る彼女。真面目だ。彼女は玄関に、早歩きで向かっていた。


「気を付けてね」

僕は彼女に、そう言った。だけど、耳には何も、入らないみたいだった。


彼女は、一度振り返った。そして、こちらに手を振った。その手には、スマホが握られていた。


彼女のスマホの画面は、ぶれていた。でも、しっかりと分かった。あれは、スーパーのチラシアプリ『スパチラ』だ。色々なスーパーの割引情報が、幅広く見られる。そんなアプリだ。


"キーンバタン"


色々考えている間に、彼女は玄関からいなくなっていた。はやすぎる。


僕に興味ない。ファッションにも、興味ない。食以外、興味ない。そんなの、だいぶ前から、分かっていたことだ。


でも、手を振るとき、僕の目を見てほしかった。スーパーの割引に、僕は負けたのだ。


ボロボロの靴が、玄関に残っていた。カカト部分が、剥がれかかっている靴。薄汚れたピンクの靴。しかも、右だけ。


僕は王子様ではない。だけど、彼女をすぐに、追いかけていた。猫を抱くように、両手で靴をやさしく抱きながら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ