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短編大作選

割引シンデレラ

掲載日:2023/08/06

やっと、家に来てくれた。

焼き肉が好き、という情報。

それをもとに、誘った。


『焼き肉食べに来ない?』

それで、すんなり来てくれた。


「家が近いから、良かったよ」

「うん。すぐに来られるからね」

「そうだね」


家に彼女が来たのは、午後5時。

夜は、用事があるらしい。

来てくれた、それだけでいい。





「あー、食べた食べた」

「どうだった?」

「美味しかったよ。特製のタレが絶品で」

「良かった」


「あんな焼き方もあるんだね」

「うん。次は、別の料理も作るからさ」

「ありがとう」


「次は、何食べたい?」

「あっ、ちょっと待って。今何時?」

「6時53分だけど」


「えっあっ、はっほっ」

「どうしたの?」


彼女は、散乱していたミニ扇風機やミニタオルなどを、デカリュックにぶちこんだ。リズムいい声を、出しながら。


「あっ、じゃまた」

「何かあるの?」

「あ、あるよ」


彼女は、財布の小銭を確認しながら、そう言った。『あるよ』の語尾はロケットだった。急激に上へ上へと、向かっていたから。


廊下は走らない。そんな学校での決まりを、この家でも守る彼女。真面目だ。彼女は玄関に、早歩きで向かっていた。


「気を付けてね」

僕は彼女に、そう言った。だけど、耳には何も、入らないみたいだった。


彼女は、一度振り返った。そして、こちらに手を振った。その手には、スマホが握られていた。


彼女のスマホの画面は、ぶれていた。でも、しっかりと分かった。あれは、スーパーのチラシアプリ『スパチラ』だ。色々なスーパーの割引情報が、幅広く見られる。そんなアプリだ。


"キーンバタン"


色々考えている間に、彼女は玄関からいなくなっていた。はやすぎる。


僕に興味ない。ファッションにも、興味ない。食以外、興味ない。そんなの、だいぶ前から、分かっていたことだ。


でも、手を振るとき、僕の目を見てほしかった。スーパーの割引に、僕は負けたのだ。


ボロボロの靴が、玄関に残っていた。カカト部分が、剥がれかかっている靴。薄汚れたピンクの靴。しかも、右だけ。


僕は王子様ではない。だけど、彼女をすぐに、追いかけていた。猫を抱くように、両手で靴をやさしく抱きながら。

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