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星の降る夜に

作者: ほーらい

とある曲を聴いていたら発作的に書きたくなった作品です。

曲のフレーズをいくつか使わせてもらっているので、元の曲を知っている方はピンと来るかもしれません。

ただし、その曲が使われているアニメの本編は知らないので、二次創作というつもりで書いているわけではありませんし、曲の本題から逸れていってしまっているかもしれません。

でも、これはこれで解釈の一つなんだな、という感じで受け取ってもらえたら幸いです。


 ――あれは何年前の出来事だっただろうか。

この手紙が届くまでは忘れかけていた―――けれども胸に秘めていた想い。

いっそのこと忘れられたらどんなに楽だったろうか。でも、逆に忘れなくてよかったと思う自分がいる。

私の想いは数年前のあの日に飛躍する。

あの、星の降る夜に。



『星の降る夜に』



いつも通りのある日のこと、彼は突然立ち上がって言った。

「今夜、星を見に行こう」

あまりにも突然過ぎて、私達は呆然として彼――黒井トシヤ(くろい としや)を見つめる。

「トシヤ、いきなりどうしたの?」

そう言って訪ねるのは私達の仲間の一人の上条サリナ(かみじょう さりな)。

「星なんか見てどうすんだよ」

と非難するのは佐藤コウヘイ(さとう こうへい)。

「今日は確かに快晴だけど……でもなんで突然?」

と、尋ねるのは私、今井ミサト(いまい みさと)。

「ほら、せっかく夏休みになるんだし、何かメモリーを残しておきたいじゃん」

今日から私達四人が通うの近藤高校は夏休み。終業式も終えて、今日は半日で学校が終わるからどうしようか、と話をしていた矢先だった。

「夏休みのメモリーなんかこれからいくらでも作れるじゃねえか」

「今日がいいんだ。今日が…ね」

やけに"今日"という言葉にこだわる彼にもう少しきちんと話を聞いていればよかったと後悔したのは後々になってからだった。

「いいじゃん、星見に行こうよ」

私は肯定的に捉える。夏の星座を楽しむのも悪くはないだろう。

「まー、俺はいいけどよ。サリナは?」

「あたしは……まあ予定ないけどさ」

「よし、じゃあ決まり。今夜七時に校門前に集合。それでいいね」

こうして私達は今夜、星を見に行くことになった。



学校帰り、家の方向が同じトシヤと一緒に私は下校する。

家が近いせいもあって、小学校の頃からの付き合いだ。自然と仲も深まる。

一時期男女の意識の差で離れたこともあったけど、再び高校が同じになり、そして二年連続で同じクラスになったこともあって、再び私達は仲良くなった。

それに先程の二人の仲間を加えて四人でいつの間にか集まるようになった。

そうしてトシヤと過ごしているうちに私達は色々と馬鹿なことをやったものだ。 そんな中でもトシヤは異彩を放っていた。

彼はとても優しい。今回のように突然変な提案をすることもあるけれども、根はいい人間だ。仲間の間でいざこざがあったときに一番に仲裁役を買って出るのも彼だし、みんなを引っ張ってイベントを企画するのも彼だった。

私はトシヤの真意が知りたくて尋ねてみる。どうして突然星なんか見に行こうなどと言ったのだろうか。

「なんとなく……かな」

彼はそうやって肝心の時、いつも逃げに入る。正直、少しズルい。

「ちぇ、私には何にも教えてくれないんだね」

「今夜全部話すさ」

彼はそう言うとカバン片手にスキップを踏む。今夜の天体観測がそんなにも楽しみなのだろうか。

「何があるの?」

「まだ秘密。今夜きちんと説明するよ」

そう言って彼ははぐらかす。

私はまだこのとき気付いていなかった。

日常、だなんて儚いものは簡単に崩れ去ってしまうということを……。



コウヘイが少し遅れてきた以外にはほとんど何事も問題なく事態は進行した。

まだこの頃は天体望遠鏡なんてものはなかったので天体観測といっても肉眼だ。

けれども、私達の通っていた高校があるこの町は相当田舎に分類される。ここまでくるのだって、星明かりを頼りにやってきたようなものだ。街灯だなんて洒落たものは百メートルに一本立っていればいい方だ。

「ほら、見える?」

トシヤは広い空を指差して三角形を作る。夏の大三角形だ。

アルタイル、デネブ、ベガ。織姫星と彦星、そしてその二つの橋渡しをする白鳥座の首星。一年間に一度だけ会えるというロマンチックな童話の登場人物達だ。

それを思ったとき、心がチクりと痛んだ。一年間に一度だけしか会えないだなんて……いくら童話のお話とはいえ少し悲しくないだろうか。

じゃあ私は――。

ちらりとトシヤの方を見る。博識な彼はみんなに夏の星座とそれにまつわる色々な寓話を聞かせていた。

織姫星を見上げながら私は気付いていた。それは本当に淡い気持ち。吹けば消えてしまうようなほどに脆くて、ほんの少しのことでなくなってしまうほどに切ない想い。

そう、結論から言うと私は恋をしていた。

それが本気だったのか、それとも表面だけの薄っぺらいものだったのかはわからない。けれど――。

彼は聞いたら驚くだろうか。それとも笑って受け入れてくれるだろうか。

どこかでわかっていた。私は彼のことをいつの間にか好いていたということに。

「あの……!」

それを今言ってしまうべきなのか。それとも、まだ心の底に秘めているべきなのか。

「あー、ちょっと先いい? 少し重要な話があるんだ」

トシヤは私の言葉を遮るように――いや、まるで聞きたくないかのように言った。

「僕、来学期から転校するんだ」

「え……?」

まさに開いた口が塞がらない、という言葉が正しかった。

私がこれから想いを告げようとしている人は来学期からいない。そのことが信じられなかった。

「父の転勤でね。家族みんなでアメリカにひっこすことになった。本当に突然のことだったんだ。だから、なかなか言い出せなくって……」

なんで彼はいなくなってしまうの?

どうして真実はこんなにも残酷なのだろうか。彼の清々しいまでの笑顔がなんだか寂しく見えた。

「だから作りたかったんだ。みんなとの最後の、最高の思い出をさ」

コウヘイの肩が震えているのがわかった。サリナも突然のことに泣きじゃくっている。私は何も言えないまま呆然としていた。

「ごめん、ちゃんと言えなくて」

「ま、まあ仕方ないよな。親父さんの仕事の事情じゃあな」

「そ、そうよね。今思えば長いようで短い付き合いだったわね」

二人は早速別れの言葉を口に出す。けれども私は何も言えないまま呆然として立ち尽くしていた。

「こっちに戻ってくるのはいつになるかわからない。でも、きっといつか戻って来れるよ」

「いつかって……いつ?」

「みんなが成人する頃には戻れるんじゃないかな」

成人する頃……そんなのもう何年も先の話だ。

私は何も言えなかった。来月には……早ければ明日にでも彼はいなくなってしまう。

私は言わなかった。いや、言えなかった。

彼の笑った顔が大好きだった。きっと泣いている顔も、怒っている顔も――想像はできないが、好きなんだろう。

そんな簡単なことすら言葉にできない。

いつからだったんだろう。彼のことを意識し始めたのは。

本当はずっと前から好きだったのかもしれない。それはいつからだったかわからないけど……。

言ってごらん、と心の声が聞こえてくる。今言わずにいつ言うと言うのだろうか。

けれども、その最後の一歩を踏み出すことができなかった。

代わりに別の言葉が口をついて出てくる。

「いつから行くの?」

「明日の飛行機のチケットで出るつもり。急すぎてごめん……」

胸を刺す痛みは増していく。


結局、私達は大した話もしないで解散となった。トシヤと二人きりの下校路を歩く。

どうしたい? 心の声が語りかけてくる。これが最後のチャンスだ。

私の想いを伝える最後にして最高のチャンス。これを逃したら最後、二度と彼と会うことはないかもしれない。

「あの!」

ついに一言目を口に出す。彼は寂しい笑顔を浮かべたまま私の方に振り返る。

「今までずっと一緒だったけど……いきなりいなくなっちゃうの?」

「ごめん……」

彼は相変わらず微笑を浮かべたまま謝った。

私が聞きたいのはそんな言葉じゃない。そんな言葉じゃなくて――。

「私! トシヤのことが好きだった!」

真実は残酷だ。たとえこの想いが彼に届いたとしても――。

けれども、私は想いを伝えずにはいられなかった。

彼が私の手の届かないところに行ってしまう前に――。

「いつからこんなこと想ってたか知らないけど、でも私はトシヤのことが好き!」

気付いた。ああ、好きになるってこういうことなんだなって。

いつの間にか好きになっていて、その想いに気付かないまま時を過ごし、そして失うときに初めて気付く。

こんなにも寂しいことがあるだろうか。

「僕がその想いに答えられたらとしても、僕はもういないんだよ? 次に会えるのもいつかわからない。それでも――僕のことを好き、だなんて言えるの?」

ズルい。トシヤは本当にズルい。

こんなことを聞かれたら、諦めるしかないじゃないか。

でも、諦めるわけにはいかない。届いてほしかった。彼の心を動かしたかった。

彼は満天の空を見上げる。

「僕達だけで二次会、始めようか」

「え……?」

「もう一度君と星が見たい」

彼が何を考えているのかわからなかった。けれども、あともう少しだけ彼と一緒にいられるということが嬉しかった。

「うん……トシヤともっと一緒にいたい」

私は素直に心の中に詰まった想いを告げる。さっきとは違った、嬉しそうな笑顔が彼の顔に広がる。 

「じゃあ行こうか」

私達は二人だけでもう一度学校に戻る。開けた校庭から空を見上げると、まるで空から星が降ってくるように思えた。

「こと座はね、ギリシア神話のオルフェウスの竪琴をイメージしてるんだよ」

「織姫様じゃないの?」

「それは日本のお話。星座は日本での捉え方と外国での捉え方が全然違うんだ。たとえば白鳥座はね……」

彼の星座講義が始まる。それはとても幻想的で、不思議なお話。

そんな彼の言葉に長いこと耳を傾けていた。

そうしてどれだけの時間が経過しただろうか。月の昇らない空はどこまでも星々に彩られていて、そして彼の話は面白くて飽きることはなかった。

私は幸せな気持ちに包まれていた。

「ところで――」

突然、饒舌だった彼の口が動きを止める。

何かを言いたげでいて、けれどもなかなか言い出せない、そんな感じだった。

「どうしたの……?」

「僕もさ、好きなんだよ」

主語のない言葉に私は首を傾げる。

「ミサトのこと……好きなんだ」

突然の告白に、私はさっきの質問の答えをまだもらっていないことを思い出しながらも、慌てふためいた。

「え、え!?」

「ミサトに好きって言われて僕は驚いた。もう僕らは離れてしまうけれども、実は両想いだったなんて思いもよらなかった。こんなことならもっと早く想いを伝えていればよかったよ」

彼はそう言って、またあの寂しそうな笑顔を浮かべた。

「ごめん……」

「あ、謝らないでよ……私だってもっと早く言っていれば……」

早く言っていればどうなったのだろうか?

結局こうして離れ離れになるくらいだったら、いっそのこと想いを伝えない方が幸せだったのではないだろうか。

「でも僕はよかったと思うよ」

「え……?」

「ミサトの想いを知れたこと」

「で、でも、離れ離れになっちゃうんだよ? それだったらいっそのこと知らなかった方が――」

その瞬間、世界が止まる。

彼はゆっくりと両手を広げて私の体を包み込んだ。

それはとても優しい抱擁。温かくて、気持ちのいい抱擁。

「想いを知らなかったら……こういうこともできないでしょ?」

「あ……え……」

私は何も言葉を発することができなかった。彼に抱きしめられている。ただその事実だけが頭の中を満たしていた。

「好きだよ、ミサト」

彼はそっと私のポケットに手を差し入れる。

「僕の新しい家の住所と電話番号。ミサトだけには教えておくよ」

ゆっくりと私達は離れる。二人で見つめ合って、にっこり笑う。

「さ、帰ろう。もう十時だよ」

私は腕時計を見て驚いた。そんなにも時間が経っていたのだろうか。

「……うん」

私はそっと彼の指に自分の指を絡めた。彼はすぐに手を握ってくれた。

私達は歩く。星の降るような満天の空の下を。

彼の隣に寄り添って、ゆっくりと至福の時間を過ごした。



 しばらくの間、頻繁に電話や手紙のやりとりをしていた。だが、国際便は高いし、国際電話も高いので、すぐに親に怒られてしまった。そうして私達は少しずつ、接する機会が減っていった。

 年の瀬に年賀状をやり取りする以外に彼との連絡が途絶えた頃、私の元に一通の手紙が届いた。

 私はすでに大学を卒業していて、親元から通ってはいるが、とある中小企業に勤めている。

 大学時代を含めて何度か男の子と付き合ったことがあったが、結局長続きしないで終わってしまった。

 そのたびに彼のことが頭をよぎった。

 そんな私のことだから、彼から手紙が届いたときは大変驚いたし、喜んだ。

 たった一通の手紙で喜べるのだから、なんとまあ幸せな性格をしているものだ。

 手紙の内容はこういうものだった。


『また二人で星を見に行きたい』


 そう、彼は親元を離れて一人日本へ帰国してきたのだった。

 私はうきうきとした気持ちで支度をする。何年ぶりだろうか。二十歳を過ぎて、一年、また一年と数えながら待った待望の時だ。

 今夜は見えるだろうか。あの星の降る夜の時と変わらない満天の夜空が。

 ううん、見えなくたっていい。また彼と一緒に過ごすことができるのなら。

 もうすぐ時間だ。そろそろ家を出なければ。

 彼が数年ぶりに帰ってくる。彼は私のことを何と言うだろうか。綺麗になったと言ってくれるだろうか。

 ドキドキが止まらない。


 fin.

お疲れ様でした。

楽しんでいただけたでしょうか?

元ネタになった曲、ピンと来た方は何人かいらっしゃると思います。

この曲はそういう意味じゃねえ! などの苦情を受け付けません(ぉ

受験生の身分故、アニメを見ている時間がそこまでないのです。

え、小説を書く時間はあるのに何を言っているんだですって?

小説は・・・僕のライフワークですからw

たとえ死ぬほど忙しくても、ほんのちょこっとの時間を見つけてはちょこちょこ書いて、少しずつ書き溜めていきます。

それを公開するかどうかはまた別の話ですが・・・。


読んでいただいてありがとうございました。


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