桜の木の下 前編
この世には時として不思議なことが起きる。それはいつ自分に起こるのか、どんなことが起きるのかはわからない。しかし、不思議な体験は人生という一つの物語の中で色濃く残り死ぬまで忘れられないだろう。
これはある春に起きた一つの不思議な物語。
俺の名前は越谷 冬樹。 これから私立 春日野高校に通う高校1年生だ。
最寄りの春日野駅から徒歩5分の場所にあり、サッカー部が強いことで有名なごく普通の高校。
改札を出て通学路を見渡す、綺麗な桜の木々が新入生の入学を歓迎しているように見えた。その中でも一つだけ目立つ桜があった。木が大きく花も綺麗に咲いていてほかの桜よりきれいに見えた。しかし、その桜の木の後ろには見るからに廃屋といった一軒家があった。桜の綺麗さとは反比例してボロボロでみすぼらしい建物だ。
その時はまだ少し綺麗な桜を見ながら入学式へと向かうだけだった。そう、まだこの時までは。
入学式が終わり新しいクラスの中で友達を作ろうにしても俺は会話が苦手なため友達が作れずにいた。
友達ができずに何もできないでいると一人の女の子が声をかけてきた。
「ねぇあなたも友達ができない感じ?わかるよ私も友達できなくてさー」
こういう風に声をかけられる人が友達が作れないはずがない、そう思いながら返事をする。
「そうだけど…だから何だよ」
「いやー友達いない同士仲良くしようよって思っただけだよー」
「まぁ仲良くしてくれる人がいるだけでも助かる。俺の名前は越谷 冬樹だ よろしく」
「越谷ね じゃあこっしーだ。 私、春野 華華でいいよ」
この出会いが俺の人生において最も記憶に残る体験をすることになる出会いになるとは思ってもいなかった。
入学式からある程度経ち、あるものは部活動へそしてあるものは友達と学校帰りに出かける何げない学生生活が始まった。新入生を歓迎していた桜も葉桜になっていった。授業が終わり帰る友達もいないので一人で駅へ向かうために通学路へと向かった。
帰り道の中でひときわ目立つ桜を通り過ぎたときに子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。小学生くらいの声だ。この時間帯に小学生が遊んでいるのだろうか、近くに小学校もない。どこか不気味に思いつつ速足で駅へと向かった。
ある日、華が「ねぇ一緒に帰らない?」と言ってきた。特に断る理由もないので了承し一緒に帰ることになった。
帰り道、あの桜の前を通ったときに華が話を始めた。
「この桜の木には都市伝説があってね木の下に人が埋められているんだって」
「そんなの都市伝説だろ」
「そうだったらいいよね、でもねこの桜の木ある日を境に大きくなったんだって」
どこか引っかかるところがありながらも当たり障りのない会話をしながらその日は帰った。
そして時間は過ぎていき、冬になったある日駅前で行方不明の子を探しているビラを配っている家族がいた。
「何か少しでも情報があれば教えてください」
ビラの内容は連続で小学生が行方不明になった事件のことだった。かなり前にニュースになった事件の事だ。ある日を境に連続で小学生の女の子が誘拐されて行方不明のまま見つかっていない。
そして、このビラが配られた時期に華が学校へと来なくなった。