パーティー
ポンコツの神様 その3
『やっぱり、やめておけば良かったかな。』
ハルは慣れないヒールとスーツ、それに、人の多い会場ですでに逃げ出したかった。
新しく描いた数枚をものの見事にトウマは全て採用した。
あれから彼と会うことは無かったが、アキトを通してやり取りは行われた。
新曲を聞いて何枚も描いたことに感動したのだと教えてもらった。
そのお礼に、新作の発表パーティーに誘われた。
勿論、即断ろうと思ったのだが、
あの日もらった手紙とケーキのお礼もしておらず、
何より、自分に対する熱意と、
ハルの中にある想いがあり、
勇気を出した結果、参加することに決めた。
ナッちゃんや同僚は心底驚いていたし、
アキトも一瞬驚きはしたもののすぐに納得した。
流石に一人は心配だからとアキトが同行してくれた。
「せっかくなんだからスーツじゃなくてドレスにすれば良かったのに。」
「無理です、スカートか絶対こけたら大惨事です、自分も周りも。」
会場の隅のほうに席を設けてもらったのはアキトの機転である。
ステージのトウマも気づいているのかわからないほどの位置が、
ハルにとっては何とかその場にとどまって居られる理由である。
ステージの彼は生でピアノ演奏を披露し、
曲の合間合間に司会進行役と会話をしている。
食事をとりながらその光景を眺めているだけのハル。
「ハルちゃんは知っていると思うけど、
本当はトウマさん、こういうパーティ好きじゃないんだよね。」
アキトが何気に話し出した。
「今日も乗り気じゃなかったみたいだけど、
ハルちゃんがさ、曲聞いて一晩でいっぱい描いたって話聞いて、
自分も頑張らなきゃって思ったらしいよ。
それでハルちゃんにも来て欲しかったんだって。
来てくれるだけでも嬉しいってさ。」
アキトはハルの頭を優しく撫でて話を続けた。
「ねぇ、ハルちゃん。
ハルちゃんもトウマさんに伝えたいことあるんだよね?
だから、頑張ってここに来たんだよね?」
アキトの言葉に背筋が固まる。
彼には適わない。
いつも見透かされてしまうし、
扱い方も誰よりも心得ている。
「だから、もうちょっと頑張ってみようか。」
「え?」
ニコニコする彼の意図がわからず首を傾げる。
「今日はありがとうございます。」
その声にびくっとなってしまう。
ステージにいたはずのトウマが突然目の前に現れた。
「いっ、いえっ、あっ、あのっ、」
言わなければ
頑張らなければ
慌てて立ち上がった。
だが、うまく椅子が下がらなかった。
立ち上がったはずが気が付けば転んでいた。
大きな音が会場中の視線を集める。
『どうしよう、またやってしまった!』
慌てて立ち上がろうとした。慣れないヒールにまたこけそうになる。
だが、トウマがさっと彼女の腕を掴んで支えた。
「大丈夫ですか?」
「あ、あのっ、すみませんっ、」
色んな視線が突き刺さる。
どうしよう、頭がぐるぐるしだす。
手を擦ってしまったのかヒリヒリする。
「手当が必要ですね。行きましょう。」
「え?」
トウマはハルの肩に手を回して彼女を会場の出口へと案内する。
アキトは楽しそうに「お願いしまーす」と手を振っていた。
わけもわからず会場の外の廊下に連れ出され、
トウマにエスコートされるままどこかに連れていかれる。
だが、ここで再びアクシデント。
何もないところでなぜかハルが躓いた。
何事かと思えば今度はヒールが折れた。
『どうしていつもこんなことばっかり!』
悔しくて立ち上がれない。
そんな彼女にトウマは背中を向け屈みこんだ。
「どうぞ、そのままでは歩けないでしょう。」
「い、いえっ、それは、流石にっ、」
「休憩所までお連れ致します。裸足で歩かせるつもりはありません。」
このままではいけない。
結局トウマの背中に甘えることにした。